上 下
207 / 221
第八章

第206話8-30ソウマ

しおりを挟む
 
 「ガレント流剣技一の型、牙突!!」


 左手にショートソードの腹を乗せ、切っ先を鬼神に向けて一気に貫く。
 魔力操作で瞬間的に肉体強化する「操魔剣」も駆使して僕は弾丸の様に突っこむ。


 どんっ!


 「悪くはない。だがあまりにも素直過ぎる剣だ」

 
 きんっ!


 鬼神の軽く振ったなぎなたソードで僕の牙突は簡単に軌道をずらされ外される。
 しかしそんなのは予測済み。
 僕は浮いた剣をそのまま振り下ろしながら二の型、二重の刃を打ち込む。

 「ガレント流剣技二の型、二重の刃!!」

 無理な体制でも今の僕にはエルハイミねーちゃんからもらった心臓が有る。
 一気に「同調」もして魔力を心臓から引き出し、「操魔剣」をまた駆使して剣を振るう腕の筋力を高める。

 すると振るい降ろす剣がまるで二本に分かれたかのように見える。
 その剣を僕は同じ所にほぼ同時にしか見えない速度で叩き付ける。


 が、ががんっ!!


 「そんな! 確実に決まったはずなのに!!」

 鬼神の肩の部分にあるライトプロテクターに吸い込まれた僕の二重の刃は完全に決まったと思った瞬間弾かれ剣ごと腕をおおきく持っていかれる。

 しかし今の僕は普通じゃない。
 その勢いを利用してつま先に力を入れてバク転しながら鬼神と距離を取る。


 ヒュン!


 「ほう、あの体勢から避けるか? 若いのに見事なものだ」


 つぅうぅ~


 僕の頬に浅い線傷が出来ていてそこから血が垂れ流れ出した。
 さっき避ける時に鬼神が一閃したなぎなたソードのせいだ。
 僕はそれを軽く腕で拭ってまたショートソードを構える。


 でも参ったな、いくら同調して鬼神の魔力やマナの動きが見えてもそれに付いてくる肉体の差がほとんどない。
 おかげで動きの予測が全くできない。
 さっきのバク転だってほとんどカンだった。
 攻撃が防がれたら必ず反撃が有る、カウンターの場合だってあるって姉さん言ってたもんな。

 姉さんに教え込まれたことを思い出しながら僕は剣を鞘にしまう。

 そして鬼神の一挙一動を見てそのひずみを探す。


 「ほぉ、良い魔力の練りだ。とても濃くそれでいて針ほど鋭い。これは次の攻撃が楽しみだな」


 鬼神はそう言ってなぎなたソードの他に腰からもう一本ショートソードを引き抜く。
 そして両の手に剣を構える。

 「久しいぞ、セブンソードを使うのはな」

 「セブンソードだって!?」

 「ああ、なぎなたソードの他にこのプロテクターには六本のショートソードが仕込まれている。俺はそれを自在に操る。少年、名前をもう一度聞かせてくれ」

 そう言って腰を落とし身構える鬼神。
 僕はショートソードを構え直して名乗りを上げる。


 「僕はソウマ! 世界最強の師匠であるフェンリル姉さんの弟! 行きます、僕の全てを込めて!!」


 じりっ!


 僕は両の脚に力を籠め鞘と剣のつばの間に隙間を開く。


 「ガレント流剣技五の型、雷光!!」


 僕に出来る最大最高の技。
 以前はそれを使っただけで全身から血が噴き出す程だったけど、今ならできる。
 

 どんっ!
 
 カッ!!

  
 床を蹴り割り全身のばねを使い踏み込む。
 そして鞘に剣の刃を走らせ引き抜くと同時に鞘も引き抜刀の速度を極限にまで上げる。
 剣が鞘から抜け出るころには僕は既に鬼神の懐に入っている。
 最速まで速度の上がった剣を鬼神目掛け振り抜く!

 
 「ふむ、良い剣だ。しかし剣士は戦士と相性が悪いものなんだ」


 言いながら鬼神はいつの間にかセブンソードのショートソードとなぎなたソードを十字に重ね僕が撃ち込んだ雷光の抜刀された刃にそれをぶつける。


 がぎぃいいいいいぃぃぃんッ!!   

 
 あり得なかった。
 十字に重ねられたそのショートソードとなぎなたソードは僕の振ったショートソードと寸分違わずぶつかりその動きを止める。

 その瞬間が「同調」をしている為かまるでスローモーションのように見える。

 飛び散る火花に驚く僕の目の前に更に驚かされる光景が広がる。
 何と鬼神はその両手に持つセブンソードを手放し瞬時に腰と肩に手を回し別々のショートソードを引き抜いた。


 駄目だ、僕が間に合わない!!


 「手加減はする!」


 言いながらその鬼神のショートソードが僕に迫る。


 「くぅっ!!」

 「ソウマ君っ! いやーっ!!」


 エマ―ジェリアさんの悲鳴を聞きながら僕はここで更に心臓から魔力を引き出し「操魔剣」を使って迫りくるショートソードに逆に飛び込む!!


 「何っ!?」


 セブンソードのショートソードが周辺の魔力を吸って切断能力をあげても振り抜かなければ切り裂けはしない。
 僕は肩と左腕にそのショートソードを受けながらも更に踏み込んで鬼神に体当たりをする。

 でもそのおかげで肩に食い込んだショートソードも、左腕の傷もそれほど深くは喰い込まなかった。


 どんっ!


 しかしそこまでで僕は鬼神の胸に体当たりをしたもののそこまでで止まってしまった。


 「見事だな。死への恐怖を克服してさらに一歩踏み込み剣の威力を落としダメージを最小限にするとはな。しかし、その後が悪い。これでは俺の次の攻撃を避けられないぞ?」

 鬼神に言われ思わず顔を上げると異形の兜に異形のお面をしたその顔が有った。
 なんか先生に稽古をつけてもらっているような感じさえする。
 でもここで止まるわけにはいかない。


 「アイミっ!」

 ぴこっ!


 僕はアイミの名を叫ぶとそれに反応してアイミは鬼神に体当たりを仕掛けてくる。

 「何っ? ティアナ姫以外の言う事を聞くのか、アイミよ!?」

 鬼神は僕に何もしないままその場から大きく飛び退く。
 寸での所でアイミの体当たりを交わし、大きく下がった所でこちらを見る。

 アイミはそのまま僕の前に立ち塞がり鬼神と対峙する。

 「アイミがティアナ姫以外の言う事を聞くか…… ソウマ、君は優しい男なんだな。しかしその傷でどうする? もうこの俺に立ち向かう事は出来んだろう?」
 
 鬼神の言う通りだった。
 もう僕には動ける力が残っていない。

 でも、それでも!

 「僕はフェンリル姉さんを助け出すんだぁッ!!」

 僕の心はまだ折れていない。


 ぴこっ!


 するとアイミが僕のその覚悟に答えてくれた。
 僕と鬼神の間に立っていたアイミは背中を開く。
 それはまるで僕に入れと言うかのように。

 僕は迷わずそこへ飛び込む。
 

 「なんだと!? ティアナ姫以外に『特殊技巧装着』をさせるだと!?」


 そう、これは赤の騎士になれる命を削るモノ。
 でも今はそんな事で躊躇なんかできない。
 僕はアイミの中に入りながら叫ぶ。


 「アイミっ!【特殊技巧装着】!!」

 ぴこっ!



 そしてアイミはクリスタルに包まれながら輝きを放つのだった。
しおりを挟む

処理中です...