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第八章

第204話8-28鬼神の名は

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 まるで嵐か何かのようなその風圧に思わず腕で顔を隠す。
 

 目の前にいる鬼神、ショーゴ・ゴンザレス。
 僕にだってわかる。
 この人は強い。


 「ショーゴ、どうしてもここを通してはくれないの?」

 「セキ、我が主の命は絶対。それはお前も分かっているだろう?」


 「あのぉ~、ショーゴさんその額に触れるだけでもしちゃだめですか?」

 鬼神とセキさんは睨み合いながらそう言葉を交わすとタルメシアナちゃんがその間に入る。

 「君は…… 主にそっくりだが、一体何者だ?」

 「あ、私タルメシアナって言います。お母さん……えーと、エスハイミ母さんとコク母様の娘です」

 それを聞いて鬼神は一瞬驚きの表情をする。

 「そうか…… 主の娘か…… しかし困ったな、俺が命じられたのは許し無き者はここを通してはいけないという事だ。今の俺は正しく主の剣であり盾だ。たとえ娘であっても勝手に此処を通すわけにはいかんのだ……」

 「ええ、ですからその額に手を当てさせてもらえばいいんですよ。駄目ですか?」

 にっこりとそういうタルメシアナちゃん。
 僕はそれでもハラハラしながらその様子を見る。

 「我が額のクリスタルか? 主と同じ血を引く者か…… いいだろう。セキそれ以上は近づかないでくれ。でないとまた勝手に体が動いてしまう」

 「ショーゴ…… 分かった」

 そう言いながら鬼神はしゃがんでタルメシアナちゃんの目線になる。


 「抑えられるのは一瞬だ。触れるならすぐに触れてくれ」

 「はい! では触れます!!」


 ぴとっ!


 言いながらタルメシアナちゃんは鬼神の額に埋め込まれているクリスタルに触れる。


 「んっ」


 すると鬼神は少しうめいたがそのまま瞳を閉じて静かにしている。
 もしかしてこれで終わりかな?

 よかった、あんな怖い人と戦わずに済んだ様だ。


 「えーと、ショーゴさん、私が誰だか認識してくれましたか?」

 「ああぁ、確かに君は主と同じ血を持つ者だ。これで俺は自分の意思で動く事が出来るな。感謝する」

 そう言って鬼神は立ち上がりながらタルメシアナちゃんの頭に手を乗せて撫でる。


 「えへへへへへっ、じゃあここを通ってもいいですよね?」

 「残念だが、それは出来ない。ガーディアンとしての命はタルメシアナ様より解除されたが俺の主に対する忠誠はまだ残っている。だから主の命の通り許し無き者はここから先には通す事は出来ない、たとえそれが娘のタルメシアナ様でもな」


 そう言ってタルメシアナちゃんの頭から手を離す。


 「ショーゴ! いいかげんにしなさいよ!」

 「そうですよ、ショーゴさん。自由になったならあたしたちを通してくれてもいいじゃないですか! 別にお姉さまに危害を加える訳でもないし!」


 途端にセキさんやミーニャが鬼神に対してそう言う。
 しかし鬼神は目をつぶり軽く首を横に振る。


 「だが主の命は絶対だ。俺はその為にこの世に戻って来たのだからな。だからここを通りたければ俺を倒して行け」


 そう言って静かにまた部屋の中央に歩いて行きそこで腕を組む。
 その様子を見てセキさんもミーニャもうなってはいるけど手出しはしない。


 「あの、自由になって自分の意思で動けるのになんで私たちを通してくれないのですか?」

 「タルメシアナ様、残念ながら我が忠誠を誓ったのはあなたの母君。タルメシアナ様のお陰で自由になりはしたが、今は自分の意思に従っている」


 「うううぅ、頑固です……」

 タルメシアナちゃんがそう言うと鬼神は驚いたように笑った。


 「まさか主とティアナ姫の娘と同じことを言われるとはな…… すまんな、これが俺が俺であるための曲げられない事なのだ」


 いいながら腕組みを外して腰の後ろから剣の柄を取り出す。
 それを目の前に出して握るとシャコーンと言う音がしてなぎなたソードと同じく両の端から刃が出る。


 「あれって、なぎなたソード? 姉さんが使っていたものと少し形が違う?」

 なぎなたと言う通りその刃は両の端から同じ長さで出ていた。

 「ほう、少年なぎなたソードも知っているのか? これは主よりたまたわった新しいなぎなたソードだ。セブンソードも新たに頂いた。その切れ味は君なら分かるだろう?」


 ちゃきっ!


 なぎなたソードを僕に向けてそう言う鬼神。
 確かに僕の持つセブンソードは周りの魔力を吸収して切れ味に変換し、なんでも切ってしまう。
 それと同じ剣。


 「言っても聞かないなんて、ほんと昔っから融通が利かないわね!」

 「ショーゴさん相手かぁ、今のミーニャで戦えるかな?」

 「それでもここを通してもらわなきゃいけないんだ!」


 セキさんは爪を伸ばし、ミーニャは魔力を高める。
 僕もショートソードを引き抜き構える。


 「セ、セキ! それにソウマ君もですわ!!」

 ぴこぴこ~!


 エマ―ジェリアさんやアイミはこの流れにまだおどおどしているけど、殺気は無くなっても鬼神からはまるで空気を切るような静かな気迫が感じられる。


 「うぅうぅぅ、駄目ですか……」

 「ふんっ、タルメシアナ様はこちらに。危ないですからな、ほッ!!」

 フォトマス大司祭様はタルメシアナちゃんをポージングしながら部屋の端にまで連れて行く。


 「どうしても引いてはくれないのですわね?」

 「まるで主に言われている気分だが、すまんなハミルトン嬢。我が主の命とならば」

 エマ―ジェリアさんは下がりながら最後にもう一度問う。
 しかし鬼神の答えは変わらずだった。



 「だったらその硬い頭ぶん殴って少しは柔軟にしてあげるわ!」

 「ショーゴさん、あの時はごめんなさい! でもあたしたちも行かなきゃならないの、退いてもらうわよ!!」

 「姉さんを、フェンリル姉さんを取り戻すんだ! 退いてもらいます!!」


 僕たちはそう言って一斉に飛び掛かる。


 「さあ来い! 見せてもらおうか、お前たちの実力を!!」



 
 鬼神はそう言いながらなぎなたソードを振り上げるのだった。 
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