上 下
199 / 221
第八章

第198話8-22守る者その一

しおりを挟む

 『へぇ~? ここに侵入者とは珍しい。君たちは一体何者なんだい?』

 
 その人影はそう言って僕たちに語り掛けて来る。
 しかしその声はまるでカナリヤの様に奇麗で、かなり若い男、いや、僕と同じ少年のような声だった。


 「すみません、エルハイミねーちゃんに用事が有るんです。ここを通してもらえますか?」

 『女神様の名を呼ぶとは…… 君、それは不敬に当たるよ? それに訳の分からない者を通すわけないじゃないか?』


 そう言ってばっと翼を開いたそれは僕と同じくらいの少年の姿をしていた。
 白銀の四枚の翼、肌も白くまるで女の子のような顔つき、僕よりも華奢じゃないかと思うその体つきに銀色の長い髪の毛が肩まで伸びている。

 彼はふっと笑って手のひらを額に持ってゆく。
 そこにはあの水晶が埋め込まれていた。

 「退きなさい。あたしはセキ、赤竜のセキよ。エルハイミ母さんに会いに来たわ」

 『ああ、あなたがセキ様ですか? しかし残念ながらこの先にはお通しできません。我が女神様のお許しがなければ何人たりともここを通すなと言いつけられていますので』

 そう言って彼は優雅にセキさんに対してお辞儀する。

 『どうぞご理解下さい、セキ様』

 「言っても聞かないようね?」

 『残念ながら、それがここを守るよう言いつけられたこのウリールの役目故』

 そこまで言ってからセキさんはいきなり爪を伸ばしウリールと名乗ったそのガーディアンに襲いかかる!


 「殺しはしない! でも退いてくれないなら痛い目を見るわよ!!」

 『是非もありませんか仕方ない!』


 ばっ!


 ウリールはそう言って翼をはためかせセキさんのその一撃を避ける。
 そして両の手を光らせる。

 『少し痛いかもしれませんが、大人しくしてもらいますよ!』


 ビカッ!


 その光の帯はセキさんを狙うけど、セキさんはとさっさにその場を離れその光を避ける。
 すると光の当たったその床は真っ黒に焦げてしまった。


 「そんなモノでこのあたしは捕えられないわよ!?」

 『ええ、ですからこう言う風にしてあるんですよ!』


 そう言ってもう一度手を上げるとセキさんが逃げ込んだ先に炎の壁が燃え上がる。
 一瞬にして出来上がったその炎の壁にセキさんは止まる事も出来ず突っ込んでしまった。


 『手加減はしてあります。燃え尽きる事は無いでしょう……』

 「そうね、この程度の炎じゃこのあたしには通用しないわ!」


 ばんっ!


 『なにっ!?』


 炎に包まれたセキさんだったけど、その炎の壁を弾き飛ばす。
 そこには衣服がぼろぼろに焼きただれていたけどセキさん自体は全くと言って良いほどやけどの跡がない。


 「この赤竜、この程度の炎でどうにかなるほどやわじゃないわ!」

 『なっ、ちょ、ちょっと待ってください! 胸、胸見えてますよぉっ!!』


 途端にウリールは真っ赤になって両の手で顔を隠す。
 何事かと思い、セキさんを見ると衣服が焼きただれあの大きな胸が丸出しになっていた。
 姉さんより大きいそれはたゆんたゆんとうごめいている。


 「あれ? まあいいか、さあ続きをしましょうか!」

 『いやいやいや、女性が胸をさらけ出してしまうなんてなんてはしたない! は、恥ずかしくないんですか!?』


 しかしウリールはヘロヘロと床まで降りて来て真っ赤になって手で顔を塞いでいる。

 うーん、確かにずっと胸を出しっぱなしじゃ風邪ひいちゃうだろうし、大きな胸が揺れ動くのはその胸が痛いって姉さんも言ってたもんなぁ。
 胸当てが無いと運動するのも一苦労らしい。


 「ソウマ君、今私の胸見ませんでしたの?」

 「はい? い、いえ、見てませんよ……」


 見てはいないけどエマ―ジェリアさんなら胸当てしないで運動しても問題無いかなとか思ったら先に言われた。

 
 『と、とにかくセキ様それ隠してくださぁーいぃっ!!!!』


 ウリールは顔を隠したままいやんいやんと首を振っている。
 するとそこへタルメシアナちゃんがトコトトコと歩いて行ってポンと額に手を当てる。


 『うっ!』


 「はい、これで良いんですよね?」

 にっこりとこっちを見るタルメシアナちゃん。
 まあ、これでガーディアンであるウリールは大人しくなるわけだけど。


 「おっぱいなんていつもお母さんとお母様がベッドの上で出しまくっていましたからそんなに恥ずかしいものだとは知りませんでした。ソウマお兄ちゃんもいつもおっぱい見ても平然としてたし、リュードさんも全然興味ないみたいだし。クロエさんの言っていた男の人っておっぱい大好きだから要注意でいやがりますって、嘘だったのかなぁ?」

 「いや、普通は興味あるもんよ? ソウマ君とリュードのやつがおかしいのよ?」

 「ほっほっほっほっほっ、この年になりますと色欲など無くなりますからな、むしろ今はこの鋼の肉体の方が興味ありますぞ、ふんっ!」

 うーん、おっぱいって勝手に大きくなって窒息する危険なモノって認識しか無いからそんなに見たいとか思わないし、みんなだってしょっちゅうおっぱい出してるもんなぁ。
 タルメシアナちゃんの言うように男の人ってそんなにおっぱいに興味なんて無いと思うけどな?


 「か、可愛い……」

 『に、人間じゃないけど、もの凄く良い匂いがする…… お、美味しそう……』


 リュードさんはどうかなって思ってそっちを見るとなんか頬を赤くしてウリールを見ている。
 リリスさんも何かよだれたらしながら吸い寄せられるようにウリールの所へ行く。

 代わりにタルメシアナちゃんが筋肉を盛り上げてポージングしているフォトマス大司祭様の横を通り戻って来る。


 「お兄ちゃん、もうここは大丈夫ですから次行きましょ」

 「あ、うん、そうだね。次行こう!」


 僕がそう言って歩き出すとリュードさんとリリスさんが声を上げる。


 「ソウマ! 万が一が有る、こいつは俺に任せて先にいけぇ!!」

 『そうよ、ここは私たちに任せて! みんなは先に行って!!』


 瞳をキラキラさせてリュードさんとリリスさんは親指を立ててきらっと歯を光らす。

 うーん、タルメシアナちゃんのお陰でもう大丈夫なはずだけど、まあいいか。


 「セキ、何時までその凶器をさらしているのですの? 早く服を着替えなさいですわっ!」

 エマ―ジェリアさんはぷりぷり怒りながらセキさんにそう言う。

 「ん~あたしは別にいいんだけどねぇ~」

 セキさんはそう言いながらどこからか取り出したい服を着る。
 僕たちはとにかく先を急ぎたいのでリュードさんとリリスさんを残して先に進むことにした。


 
 なんか去り際にウリールの『あ”ぁ”ぁぁぁぁぁぁーーっ”!!!!』とか言う叫び声がしたけど、何だったんだろうね?
しおりを挟む

処理中です...