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第八章

第187話8-12ウスター

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 「セキ? セキと言えば大昔女神様と一緒に居た女の子が同じ名前じゃったな?」

 「そう、そのセキがあたしだよ! って、あの頃はまだちびっ子だったけどね」

 
 真っ白な髪の毛に真っ白な長い髭を邪魔にならに様に結んでいるそのドワーフの人は目を細めセキさんを見る。
 リュードさんはセキさんがこのドワーフの人と知り合いだったので驚いている様だ。

 「まさかセキがこの名工ウスターと知り合いだったなんてな。なんつう奇遇」


 「あの時の嬢ちゃんか! 思い出したわい。大きくなったもんじゃな!!」


 がはははと豪快にそのドワーフの人は笑う。
 でもセキさんが小さい時に会っているって言う事は、このドワーフの人って一体何歳なの!?


 「それでどうじゃ? 女神様は元気かの?」

 「元気も元気、エルハイミ母さんなら殺しても死なないわよ? 何せ女神様だものね」

 セキさんもそう言いながら笑う。

 
 「あの、セキさんこちらのドワーフの人って?」

 「ああ、ウスターって言ってね、その昔エルハイミ母さんたちにガリーの村で頼まれ事したのよ」

 「昔って、女神様がまだ大魔導士の頃のお話ですの?」

 「そうね、まだ女神様になる前だもんね、と言う事は千三百年前かぁ」


 「千三百年!? じゃあ、ウスターさんって!?」


 僕がこのドワーフの人についてセキさんに聞いていると、エマ―ジェリアさんたちも来て話に混ざる。
 そしてセキさんの話でこのドワーフの人が千三百年以上生きているという事を聞いて驚く。


 「そうさな、もうそんなに経っておったかの? まあ、儂も今ではドワーフ族一の長寿となってしもうたわな」


 がはははははっ!


 ウスターさんはそう言って豪快に笑う。
 そんなウスターさんにリュードさんは顎に手を当てながら言う。


 「ドワーフ随一の名工ってのは聞いていたが、まさか最年長者だったとはな。道理で弟子たちが『鉄の神』なんて呼ぶわけだ」

 「がははははっ、そんな大それたもんじゃないわい。ただ長生きしておるだけじゃよ。今ではもう槌を持つのも一苦労さな」


 「へぇ~、お母さんの知り合いですか。こんにちわ、ドワーフのおじいちゃん!」

 タルメシアナちゃんも入って来てぺこりとお辞儀する。
 それを見てウスターさんはにっこりとする。

 「こんにちわ、嬢ちゃん。女神様には子供が出来たと聞いておったが、そこの嬢ちゃんもこのちっこい嬢ちゃんもみんな女神様の娘さんかの?」

 「こっちのちっこい子はエルハイミ母さんの娘よ。エマは聖女で血は繋がっているけど娘じゃないわ」

 セキさんがそう言うとウスターさんはまた豪快に笑う。


 「がはははははっ、まさかリュードの小僧が女神様の関係者と一緒に来るとはな。また女神様が無茶な注文でもしに来たかと思ったわい」


 「無茶な注文? 何それ?」

 「何もかにも、以前直接来られた時には『鋼の翼』を作ってくれとか無茶ぶりでな、当時魔鉱石の錬成を出来るモンが儂しかいなくてえらい苦労をしたもんじゃわい」


 ちょっと待って、今「鋼の翼」って言わなかった!?


 僕は驚きウスターさんを見るけど、他のみんなも同じようにウスターさんを見る。

  
 「オヤジさん、まさかあんたが『鋼の翼』を作ったって言うのかよ?」

 「ああ、そうじゃ。三百年前になにやら女神様が忙しくなるとか言ってな、直接エルフの嬢ちゃんと一緒にここへ来ての。そしてえらい魔力を帯びた魔結晶石を持ち出しそいつを核に鉄の翼を持つ『飛行艇』とか言うモノを作ってくれとかな。全く相変わらずどえらいものを注文してくるもんじゃわい」

 そう言ってウスターさんは懐かしそうに目を細める。


 「何それ? お姉さまったら相変わらずとんでもないもの開発しまくってるじゃない!」

 ミーニャも腕を組みながらぶつぶつ言っている。

 ぴこっ!

 お店の入り口からアイミが頭だけ入れて手を、しゅたっ! 出して挨拶をしている。

 「おお、お前さんも元気そうじゃな! どうじゃ補充で作ってやったパーツは問題無いかの?」

 ぴこぴこ~

 アイミは耳をピコピコさせながら頷いている。
 どうやら問題は無いようだ。

 するとウスターさんはまた大声で笑う。


 「がはははははっ! ならいい」


 ずいぶんと嬉しそうだな。

 「しかし、オヤジさんがまさか『鋼の翼』まで関わっていたとはな。ちょうどいい、オヤジさん俺たちはその『鋼の翼』を借りたいんだ。天界に行かなきゃならないんでな」

 「なんじゃ、お前さんが天界に何の用事じゃ?」


 「僕の姉さんがエルハイミねーちゃんに連れ去られてしまったんです!」


 僕はたまらずそう言ってしまう。
 それを聞いたウスターさんは僕を見て目を細める。


 「小僧、お前さん一体何モンなんじゃ?」

 「僕はソウマと言います。僕の姉、ティアナ姫の魂を持つフェンリル姉さんがエルハイミねーちゃんに天界へ連れられて行ってしまったんです。僕は姉さんを取り戻しに行かなきゃならないんです!」


 僕がそう言うとウスターさんは目をつぶり深く息を吐く。

 「そうか、ティアナ姫が転生されたのか。しかしそれを姉に持つお前さんも因果じゃのぉ…… あの女神様がそうそう簡単にティアナ姫を手放すとは思えんがの?」

 「あ、でもうちのお母さんは本体のお母さんの邪魔しろって言ってましたよ?」

 ウスターさんがそうつぶやくとタルメシアナちゃんは首をかしげながらそう言う。
 するとウスターさんはまじまじとタルメシアナちゃんを見る。

 「ふむ、女神様の娘がそう言うか? そうか、ならば……」



 ウスターさんはそう言って僕を見るのだった。
 
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