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第七章

第172話7-27ラーミラスの騎士

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 「魔王! 反乱を起こしたとはいえ彼らは我がイザンカの軍、これ以上の狼藉は許しません!!」


 ラーミラスちゃんは僕が操る「鋼鉄の鎧騎士」の手のひらの上で魔王を演じるミーニャに声高々と宣言する。
 既にクーデター軍の「鋼鉄の鎧騎士」と傭兵部隊の「鋼鉄の鎧騎士」たちはそのほとんどがミーニャに手足を切られ身動きできなくなっている。
 勿論一般兵だってそれを見せつけられれば尻込みして抜いた件を高々と掲げてもファイザス含め身動きが取れなくなっている。


 『ほほぅ? 狼藉を許さぬというがこの我をどうするというのだ?』

 「我が王家の秘宝、このオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』が相手をします! 我が騎士よあの魔王を滅せよ!!」


 ラーミラスちゃんは予定通りのセリフを言って僕が操る手のひらから地面に降りる。
 そして僕はこのオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」を前にに動かし、魔王を演じるミーニャの近くまで行く。

 既に両軍とも魔王の力は分かっているので僕とミーニャの対峙を固唾を飲んで見守る。


 『なんだ、我の作った物ではないか? 創造主に刃を向けるとは出来の悪い子だな!!』


 そう言って土煙を上げてこちらに飛び込んでくる。
 僕は「鋼鉄の鎧騎士」を動かし剣でミーニャの剣を受け止める。


 って、ミーニャ少しは手加減してよ!!


 「ソウマ君、少し立ち回りに付き合ってもらうわよ? 稽古と同じ、組手をするわよ!」

 僕に攻撃をかけて来たミーニャは小さく僕だけに聞こえるようにいつもの声で話しかけて来てばっと下がる。
 組手と同じって事は、先生の所でやっていたあれか?

 僕は剣を構え直してミーニャを見る。


 『はぁっ!』


 気合一閃ミーニャが飛び上がり蹴りをしてくる。
 大きさが全く違うのにその蹴りはガードをした左手を弾き、蹴り抜けた脚と反対の脚も回して連続の蹴りを入れて来る。
 既に弾かれた左手を戻すのは間に合わない。
 だから組手の時と同じく上半身をのけぞりながら蹴り上げをする。

 するとミーニャはその足に手をつき宙返りをしながら距離を取る。


 『ほほぅ、我が作った【鋼鉄の鎧騎士】に乗っているのは何者だ? なかなかやるではないか?』

 『ま、魔王! 覚悟しろ!!』


 打ち合わせ通り僕は「鋼鉄の鎧騎士」を通して声を上げる。
 こうして何度か攻防を繰り広げ、最後にミーニャが放つ特大魔法をしのいでエマ―ジェリアさんが登場して魔王を撃退する予定なんだけど、ミーニャの攻撃がやたらと凄い。
 組手だって型通りでないアドリブが沢山入っていて、まるで姉さんやセキさんに稽古をつけてもらっているかのようだ。

 しかし僕だってこの一年で鍛錬を積んできた。
 少しくらいミーニャに追い付いているはずだ。


 『くっ、ガレント流剣技四の型、旋風!』


 僕はミーニャの、まるでセキさんのドラゴン百裂掌の様な攻撃を耐えてガレント流剣技四の型、旋風を放つ。
 掌を打ち終わったミーニャが地面に降り立った瞬間を狙ってこのオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」を踏み込ませ回転をしながら剣を振る。
 素早いミーニャに当たるとは思えないけど、何時もより踏み込みを強く、そして振り抜く剣先を早く!


 ずんっ、ぐるんっ!

 びゅぅううううぅぅっ!!


 「てっ、ちょっとっ!!」


 ミーニャは地面いつく前に更に魔力を放出して自分の体を【念動魔法】で大きく下がらせる。
 と、同時に魔法防壁を展開したようだけど、僕の振り抜くその剣がその防壁を突き破る。

 「くぅっ!!」

 小さく呻きながらも更に状態を逸らせながらその一閃を避けるミーニャ。
 流石に僕の一撃程度じゃ届かないか?

 ミーニャはのけぞった状態からバク転をして大きく距離を取る。
 そしてそのまま宙に浮かび上がり慌てて両の手で自分の胸を隠す。


 「くぅっ! ソウマ君がここまで成長しているだなんて! でも酷いよ、みんなの前で胸をさらす羽目になるなんて!! あたしの裸を見ていいのはソウマ君だけだっていうのに!!」


 へっ?
 ミーニャの裸って、何を言っている……の……


 他の人には聞こえないようにしているその抗議の声は僕に振り抜いた剣先に引っかかっているミーニャの衣服の切れ端が有る事を気付かせる。


 『えっ!?』


 思わず声を上げてしまう。
 しかしミーニャは仮面で顔は見えないけど覗き見える耳が真っ赤になってふるふると震えている。
 そしてこちらに片手を向けて叫ぶようにその力ある言葉を放つ。


 『この痴れ者がぁあああああぁぁぁっ! 【爆裂核魔法】っ!!!!』


 って、何その魔法!?
 なんか姉さんが使っていたとんでもない大魔法じゃないの!?

 予定では雷系の最強魔法、【雷龍逆鱗】で攻撃してきてみんなが度肝を抜いたところを全くダメージが無くても追い詰められたようにしてエマ―ジェリアさんが登場するはずだったのに!?


 きゅうぅぅ~

 カッ!

 どごばがぁぁああああああぁぁぁぁんッ!!


 『うわっ!』


 「【絶対防壁】!!」


 ミーニャの放ったその特大魔法はまるで爆発するかのようにこちらにものすごい勢いの爆風と熱を放ち地面や空気を焼きながら迫って来る。
 こんなのいくら本物のオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」の外装だって耐えられるの!?

 そう思った瞬間、エマ―ジェリアさんが僕の「鋼鉄の鎧騎士」の前に【絶対防壁】の魔法をかける。
 しかしもの凄く嫌な音がしてどんな魔法も攻撃も受け付けないはずの【絶対防壁】が耐えきらずガラスを割るような音がしてミーニャの魔法を通してしまった!

 左手に着いた小型のラウンドシールドで一応その攻撃を防ごうと掲げるも、その攻撃は僕の乗る「鋼鉄の鎧騎士」の上半身をあっさりと包み込む。


 『くうううぅうぅっ!』


 もの凄い熱量と衝撃が加わって来て僕の乗る「鋼鉄の鎧騎士」を揺さぶる。
 こんなの本当に耐えられるのか!?

 そう思った瞬間、僕は更に魔力をこの「鋼鉄の鎧騎士」に注ぎ込む。
 それはエルハイミねーちゃんのもらった新しい心臓も、自分の魂もフルに使ったものだった。


 『うわぁあああああぁぁぁぁぁっ!』 


 ミーニャの特大魔法を僕は気合と共に防いでいるラウンドシールドで押し返す。


 「えっ!? 【爆裂核魔法】を押し返す!?」


 思わず素の声で驚きの声を上げるミーニャだったけど、僕の乗るその「鋼鉄の鎧騎士」は何とかミーニャの特大魔法を防ぎきった。

 片手で胸を隠して、もう片方の手で極大魔法を放った格好のままミーニャはしばし空中に浮かんだまま動きを止めた。



 「この世を守る女神様の意に反し、世を乱す魔王! 女神様の裁きのそれを受けるがいいですわ!! 女神様、非力な私にお力を!!!!」


 ちょっと段取りと違うけど、エマ―ジェリアさんがそう声を上げて両の手を天に向ける。
 そしてあらかじめ唱えていた呪文を発動させる。

 それは天空の雲をかき分け挿し込む聖なる光。
 その光は真っ直ぐにミーニャを包む。


 『ぐわぁぁああああぁぁぁぁぁっ!!!!』


 さぞかし効いているのであろう感じでミーニャは苦しみの声を上げる。
 そしてそこへ追い打ちをかけるかのようにエマ―ジェリアさんが台詞を言う。


 「女神様、この不浄な魔王をどうかあなた様のお力で滅してください! ソウマ君!!」


 言うと同時に僕の乗るオリジナル「鋼鉄の鎧騎士」が光に包まれそして持っている剣が光る。
 エマ―ジェリアさんが聖なる光を僕にかけてくれたからだ。

 僕は立ち上がりその剣を振り上げミーニャに向かって振り下ろす。
 そしてぶつかる瞬間打ち合わせ通り瞬間的に光を大量に放ちミーニャは空間転移でその場から姿を消す。
 しかし遠目には僕が振り下ろした剣により魔王は光になり霧散したかのように見える。


 漸ッ!


 どぉおおおおぉぉぉん!


 振り下ろした剣は地面をえぐり魔王を跡形もなく粉砕する。
 そう周りには見えたはずだ。

 僕は「鋼鉄の鎧騎士」の剣を振り上げ勝利の勝鬨を上げる。


 『魔王は女神様のお力により打ち滅ぼした!!』



 うおぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!!
 


 途端にどちらの軍とも言わず歓声が上がる。 
 そしてその隙にリュードさんとセキさんが相手の首謀者であるファイザスを捕らえている。
 捕らえられたファイザスはいつの間にかアポロス将軍の下に連れられていて縛られ跪いている。


 「おじ様、こんな事をしなければ無駄な血は流れなかったというのに…… お父様の仇です!」


 ラーミラスちゃんがそう言うと同時にアポロス将軍は剣を一閃してファイザスの首をはねる。

 そして大声で宣言する。


 「正義はラーミラス様に在り! 女神様の加護も、オリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』も! そしてその栄光は宿敵魔王をうち滅ぼした!! イザンカと運命を共にする者よ、ラーミラス様の下へ集え!!」



 わぁあぁああぁあああああああああ!!



 アポロス将軍はラーミラスちゃんを馬に載せそして自分は下馬してその場に膝をつく。




 それを見た周りにいる者たちも、そして敵兵だった者も同じくラーミラスちゃんに跪くのだった。
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