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第七章

第171話7-26魔王到来

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 レッドゲイルの郊外、未だクーデターを起こした連中と既にそれに従事している傭兵部隊が静かにこちら側と対峙している。
 交渉の場を設ける為にそちらに行っていた使者は急ぎこちらのレッドゲイル側に戻って来るけど、その様子は聞くまでも無い雰囲気だった。


 「やはりこのレッドゲイルを開城しろの一点張りか……」

 「でしょうね。既に魔王軍は女神様に消滅されてそして王位継承権第一位のラーミラスがここにいるとなれば無理やりにでもここを開城させ制圧し、オリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』を確保して自分が正当である事を誇示しなければならないでしょうからね」

 アポロス将軍のその言葉にミーニャはそう答えながらどこからか調達したお面をかぶる。
 そして僕を見てから姿を消した。

 「しっかし、ミーニャの作戦って上手くいくのかしら?」

 「どうだろうな? どちらにせよ始めちまったんだ、エマの嬢ちゃんにもソウマにも頑張ってもらわなきゃだからな」

 言いながらセキさんやエマ―ジェリアさんも準備にかかる。

 僕はミーニャに教えられた通り二回目のこいつを動かす準備をする。
 そう、僕が今乗っているのはオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」。
 中に入り、半立ちの椅子に座ると体中を鎧の様なもので覆われほとんど身動きできなくなり最後に兜が下りてきて頭を覆う。
 すると面白いもので真っ暗な兜の中でもまるで自分が巨人になったかのような映像が見えて来てオーブに載せた手足からの感覚もまるで自分が巨人にでもなったかのようにその手足の感覚が伝わって来る。
 
 「鋼鉄の鎧騎士」を動かすのは自分がその「鋼鉄の鎧騎士」と一体になるような感じだってミーニャは言っていた。

 僕はその二回目だけどまだ慣れない感覚に徐々に慣れながら自分の奥深くに有る魂を探す。
 そして間もなく「同調」を始める。
 途端に体と魂が繋がり、そこへ更に胸の奥から大量の魔力が発生して力がみなぎる。
 それは「鋼鉄の鎧騎士」と一体となっている僕たち自身にも魔力を巡らせ、この巨体を動かし始める。


 『ふう、準備出来ました! 何時でも良いですよ!!』

 「ソウマ君、大丈夫ですの?」

 
 足元に心配そうなエマージェリアさんが見える。
 僕は「鋼鉄の鎧騎士」の腕を上げて返事する。

 『ええ、もう慣れました。大丈夫です。それよりラーミラスちゃん、こっちへお願いします』

 「はい、ではアポロス様行ってまいります」

 「では我々も始めましょう」

 そして僕たちは位置に着きいよいよこの大芝居を始めるのだった。


 * * * * *


 「イザンカ王国に忠誠を誓う者たちよ、よく聞くがいい! ブルーゲイルにて此度起こった動乱は正統なる王位継承者ラーミラス様がそれを断罪し、その正当性を示す! 反乱軍よ、すぐにその剣を手放し我らラーミラス様の下に従うがいい!!」


 アポロス将軍はレッドゲイル側の軍隊の一番前に馬で現れ声高々にそう言う。
 後ろにはレッドゲイルに在る「鋼鉄の鎧騎士」たちが立ち並んでいる。
 すると向こうも立ち並ぶ「鋼鉄の鎧騎士」の間から馬に乗った略式の王冠をかぶった中年の人物が出てくる。


 「先王は既に殉職なされた! 王の意思、いや、イザンカ王国の意思はこの弟であるファイザスが受け継ぐ! レッドゲイルは速やかに開城をして我々に従え!!」


 どうやら今回のクーデターの首謀者である先王の弟、ファイザスとか言う人らしい。


 「否っ! お父様の意思はこの私、ラーミラスが継ぎます! そしてその証であるオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』はここにあります!!」

 
 ラーミラスちゃんは大声を上げてそう宣言する。
 僕はラーミラスちゃんを手のひらに載せたままオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」を動かし、立ち並ぶレッドゲイルの「鋼鉄の鎧騎士」たちの間から出て行く。

 途端に周りから驚きと歓声の声が上がる。


 「あれがオリジナルか!?」

 「あの掌の上にいるのは確かにラーミラス皇女殿下だぞ!?」

 「これは一体どう言う事だ!?」


 僕の操るオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」やその手の平に乗るラーミラスちゃんの出現にこちらの軍隊だけでなく相手の軍隊にも動揺が走る。
 そんな中僕たちはアポロス将軍のすぐ後ろまで出て行きそしてまたラーミラスちゃんが声を高々に宣言する。


 「我が名はラーミラス=エルグ・ミオ・ド・イザンカ! イザンカ王家の正統なる後継者!! 我が父が倒れてもイザンカの理念と信念は我がもとに在り! イザンカを愛する者たちよ、我に従え、魔王軍の脅威は既に女神様直々にお手を下し、消滅させた!!」

 
 ざわざわ……


 ラーミラスちゃんのその言葉に相手側の兵士たちも騒ぎ始める。


 「ええぇい、そんな事を誰が信じるか!? 魔王軍に対してその重い腰を上げず防戦ばかり、この国を考えるならば我々は自分で力をつけそれに対抗しなければならぬ! またいつ魔王軍が攻め入るか分かった物では無いわ!!」

 「おじ様!! もう魔王軍はいないのです! 女神様が魔王軍を消滅させてくれたのですよ!? もうこんな事はやめてください!!」


 ファイザスとか言う人はそれでもラーミラスちゃんの言葉を否定し、強硬的な事を言っている。
 これが最後とばかりにラーミラスちゃんも説得をするけどなかなか聞いてもらえない様だ。

 と、ここで両軍の真ん中に爆発が起こる!



 どがぁあああああぁぁぁぁん……



 「な、何だっ!?」

 土煙が上がる中そこに小さな人影がいる。
 それはゆっくりと立ち上がりこちら側とあちら側を交互に見る。


 『ふん、ここはイザンカか? どうやら逃げ延びられたようだな?』


 ミーニャのいつもの可愛らしい声ではなく、大人の女性でしかもかなりハスキーな声でその人物は言う。
 見れば仮面をかぶり、露出の高い衣服にマントをした姿。
 こんな戦場には似つかわしくないその人物はその場で高笑いをする。


 『はははははっ! 逃げ切ったぞ!! 我が軍は壊滅なれど我が存在する限りまた我が魔王軍は復活できる!!』


 「な、何者ですかあなたは!?」

 「誰なんだ貴様は!?」

 ラーミラスちゃんもファイザスもその人物に問いかけるも高笑いをしていたそれは笑いを止めない。


 『ふははははははっ、我に不躾に問うか? まあいい、教えてやろう、我は魔王! 女神に危うく滅せられそうになったが、我が存在する限り我が魔王軍は不滅! 丁度良い、貴様ら我が魔王軍の糧となるがいい!!』

 
 どんっ!


 言いながらミーニャは魔力を放出する。
 それは付近の砂埃を巻き上げ、そしてその威圧的な魔力風は「鋼鉄の鎧騎士」でさえ揺らす程であった。


 「ま、魔王だと? 何故そんなものが此処へ!?」

 『なに、我が魔王軍が女神に滅せられたが我はここへ逃げ延びた。我が軍は貴様ら人間を贄に復活するのだ! さあその魂を差し出すがいい!!』


 ぶわっ!

 
 言いながらミーニャは魔力を膨らませ手をかかげてファイザスたちの鋼鉄の鎧騎士に向ける。


 きんっ!

 
 ず、ずずずぅ……
 
 ごとっ!


 金属が鳴る音がしたと思ったらファイザスたちの「鋼鉄の鎧騎士」の首が切られ地面にずり落ちる。


 「なっ!?」


 『はははははっ! 大人しくするがいい! そうすれば苦しまずに殺してやるぞ? そしてその魂を糧に我が魔王軍は復活をするのだ!!』


 ミーニャのその言葉にこの場は騒然となる。
 しかしファイザスはそれでも大声を上げて部下たちに命令を下す。


 「恐れるな! 相手はたった一人、こちらにはまだ『鋼鉄の鎧騎士』もいる! 全軍魔王を討ち取れぇっ!!」


 言いながら剣を引き抜き号令をかけ、一気にクーデターの軍と傭兵部隊をミーニャに突っこませる。
 だけどミーニャは「鋼鉄の鎧騎士」をことごとく空間をずらし切り刻む。


 キンキンキンッ!!

 がらがらっ!
 どがぁーん!

 
 「そんな、『鋼鉄の鎧騎士』が!!」

 クーデター軍のミーニャに向かった「鋼鉄の鎧騎士」たちはことごとく手足を切り刻まれその場で崩れ落ちて行く。
 でもちゃんと中の人には影響が出ないようにしているのは流石。
 ミーニャはその後攻め入る軍隊を空間転移させ全て反対向きに出現させ軍隊同士をぶつけさせる。


 「なんだこれは?」

 「なっ!? 自軍だと!?」

 「いったいこれは!?」


 兵士たちは突っ込んだ先にいきなり自分たちの軍隊が現れ大混乱を起こす。
 口々に驚きの声を上げながらその混乱は拡大をする。



 『ふははははははっ、無力無力無力無力ぅっ!!』


 
 ……何かミーニャ本気で楽しんでいない?
 



 だんだん興が乗って来た頃にいよいよこちらもラーミラスちゃんが声を上げるのだった。
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