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第七章
第163話7-18イザンカ王国
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「ぐぎゃぁーっ!」
ばたっ!
「ふう、雑魚とは言え人質取られてたから手間かかったな? セキそっちはどうだ?」
「大丈夫みたい、気を失っているだけの様ね。でもそっちの女性は‥‥‥」
どうやら終わったようなので僕たちはセキさんたちが退治したゴブリンがいた林の方へ行ってみる。
するとセキさんが見る足元に‥‥‥
「‥‥‥残念ですわね。せめてあなたの魂が女神様の下へ無事いけますようにですわ」
一緒に来たエマ―ジェリアさんはそう言って裸にされ串刺しにされ死んでしまっている女性にお祈りをして【浄化魔法】をかけ奇麗にしてやってから布をかけてあげる。
「しかしこんな所に女二人っきり? そんなの魔獣たちに襲ってくれと言わんばかりじゃないの?」
ミーニャもこちらに来てもう一人の女の子を見ている。
年の頃十歳くらい。
僕たちより小さい様だ。
そうすると殺されたこの女性はお母さんなのかな?
「残念だが、遺体はここに埋めていく。アンデットになったら厄介だし、死肉を喰らいに魔獣どもが来るのも良くはない。さっきのセキの警告でしばらくはなにも来ないとは思うけどな」
いいながら リュードさんは林から街道が見える場所に穴を掘り始める。
「退いて。あたしがやってやるから」
ミーニャはそう言ってリュードさんが穴を掘るのをやめさせ、手をかかげ一瞬で地面に穴を掘り、その土をすぐ横に盛り上げる。
「埋めるのは手伝ってね。空間移動で土を移しただけだから硬いままよ」
それを聞いたリュードさんは頷いてから亡くなった女性を持ち上げ穴に入れる。
エマ―ジェリアさんが何処からか摘んできた小さな花をその女性の上に載せ祈りの捧げる。
それが終わったらみんな無口のまま土を崩しながらその女性にかけていく。
最後にリュードさんが何処からか持ってきた石を同調して切り刻み文字を刻む。
―― 永久の眠りにつきしこの者に女神様の救いを ――
そう彫られた文字はこの墓の下に眠る女性の名前さえ知らなかったことを思い出させる。
このイージム大陸の過酷さをいまさらながらに感じさせることだった。
「さてと、他にはこの子の仲間らしいのはいないし、どうするの?」
「とりあえず連れて行くさ。こんながきんちょ一人でこんな所をほっつき歩いてたらひとたまりもないだろう?」
ミーニャの質問にリュードさんが答えるけどだれも異論はない。
まだ気を失っているけどセキさんはその子をそっと抱き上げ馬車にまで連れていく。
「せめて助かった命を大切にしてもらいたいものですわ‥‥‥」
「そうですね‥‥‥」
エマ―ジェリアさんのその言葉に僕はリュードさんが作ったお墓を一目見てから馬車に戻るのだった。
* * * * *
「ぅぅううぅん‥‥‥」
「あら? 気が付いたみたいね?」
「お嬢ちゃん、大丈夫ですの?」
馬車に寝かされていた女の子は目を覚ましたようだった。
僕も馭者の席から馬車の中に戻り様子を見る。
赤みがかったブラウンの髪の毛を肩の位置で切りそろえ、可愛らしいその瞳を開く。
藍味がかった瞳はうっすらと開いたかと思ったら一気に大きく見開かれ、驚きと共にその子は起き上がった。
「こ、ここはっ!? はっ!? ラシア! ラシアは何処っ!?」
「落ち着いてですわ。あなたはゴブリンたちに襲われていたのですわ。私たちがあなたを助けましたからもう安心ですわ」
「それよりあなたは誰? なんであんなところを女二人でうろついてたのよ?」
「わ、私は‥‥‥」
エマ―ジェリアさんにそう言われ、そして女の子はミーニャに聞かれ黙ってしまった。
見た感じ村とかの子じゃなさそうだった。
着ている服も結構良いみたいだし、何より可愛らしいその顔は日焼けなんかまったくしていない真っ白な肌だった。
「事情を話していただけますか? 私たちはいまイザンカ王国のブルーゲイルに向かっているのですわ」
エマ―ジェリアさんが優しくそう言うと女の子はばっと顔を上げ、そして涙目になる。
「ブルーゲイルはだめ! 今あそこは、あそこは‥‥‥」
慌てるその様子に僕たちは顔を見合わせるのだった。
* * *
彼女の名はラーミラス。
今年九歳になるそうだが家はブルーゲイルに有り、何とそこから逃げ出してきたって話だ。
なんでも魔王軍の侵攻を僕たちが防いだ後に内乱が起こって、脆弱な国王を糾弾する国王の弟がクーデターを起こしたそうだ。
ラーミラスは乳母であるラシアさんと逃げ出しレッドゲイルに向かっていたそうだ。
しかし護衛の人たちは次々に追手に倒され命からがら逃げてきたところ魔物に襲われ最後にそのラシアさんがラーミラスを連れて逃げていたらしい。
「ラシアは何処?」
「ラーミラスちゃん、ラシアさんはですわね‥‥‥」
「死んだわ。あなたを守っていたのでしょう、ゴブリンたちに殺されたわ」
「!?」
ミーニャが容赦なくそう言う。
「ミーニャっ!」
「嘘を言ってはだめ。このイージム大陸はあたしたちの居たウェージムみたいに優しくないのよ。街を出るという事は、城壁から出るという事はそれだけの覚悟が必要なの。それは大人も子供も関係ない。あたしはイオマだった頃に生きる為に冒険者になった。成人前に偽って冒険者になって生きていくためにね」
「それでも、もう少し言い方が有りますわ。ラーミラスちゃん、残念ながらそのラシアさんはお亡くなりになりましたわ‥‥‥」
それを聞きラーミラスは瞳に涙をためるも泣き出すことは無かった。
そして袖で涙を拭き取り僕たちに向かって言う。
「お願いです、私をレッドゲイルに連れてってください。そうすれば、そうすればまだ間に合うんです!」
「ブルーゲイルが内乱中とはな。だったらレッドゲイルに行くしかないだろう?」
「そうね、まったくあの国はしょっちゅう内乱を起こすわね」
「あの国は古いからこそ、その派閥が強いのよ。だから何かあった時の為にもう一つの街、レッドゲイルが有るのよ‥‥‥」
リュードさんとセキさんはレッドゲイルに行く事を決めるけど、ミーニャは遠くを見ながら昔を思い出すかのようにそう言う。
「ミーニャ?」
「ううぅん、なんでもない。今のあたしじゃない昔のあたしの事。今のあたしには関係の無い事よ‥‥‥」
そう言うミーニャはポンとラーミラスの頭に手を置く。
「よく泣かなかったわね。偉い偉い」
そう言うとラーミラスは今度はミーニャに抱き着いてマントに顔をうずめて震えた。
僕たちは何も言わずしばらくその光景を見守るのだった。
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