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第七章
第160話7-15女神降臨
しおりを挟む広場に集まった各宗派の司祭様たちは口々に何か言っている。
「聖女様が来られたと言うから来てみればまだ年端も行かない少女では無いか?」
「しかし女神様に何処と無く似ておられる」
「どちらにせよ、ユーベルトの聖女様が我が『育乳信仰派』に来ていただければ我が派が女神様の教えを一番理解していると言う事になるわ」
「否! 胸だけ大きくなったって駄目でしょう? やはり愛の結晶、同性同士でも子宝に恵まれる事こそ重要よ!」
なんかもうすでに口論が始まりそうな雰囲気。
僕は離れた二階のへやから皆さんのその様子を見ながら少しハラハラし始めた。
「お集まりいただいた各派の司祭様! 本日来ていただいたのは他でもありません、ユーベルトの聖女様がこの地を訪れました。我が家にてお迎えを致しましたが、昨夜に聖女様が天啓を受けたと仰っています。故に急遽ここへ場所を変更してお集まりいただきました!」
カルスさんはそう言って司祭様たちの注目を集める。
流石に町長さん直々にそう言われると口論を始めそうになっている皆さんも黙りそちらを注目する。
「聖女様、どうぞ天啓を我らに」
どよどよ。
町長さんのその言葉に広場に集まった司祭様たち以外の見物人もエマ―ジェリアさんに注目し始める。
「皆様、私はエマ―ジェリア=ルド・シーナ・ハミルトンと申します。ユーベルトの女神教神殿で聖女の職をさせていただいております。今、私は訳あって旅をしておりますがその折こちらのノヘルの町に立ち寄らせていただき歓迎をしていただきました。まずはその事につきまして御礼を申し上げますわ」
エマ―ジェリアさんの透き通るような声はこの広場に染み渡る。
聖女としての名はこのノヘルの港町にも届いている。
「私を歓迎していただいた町長さんのお宅で昨晩私は女神様からの天啓を受けました。それは今ここで女神様がお越しになられて皆様にお言葉を伝えると言うモノでしたわ」
どよどよ!
ざわざわっ!
エマ―ジェリアさんのその言葉にだれもがどよめきざわつく。
女神様がこの地に来られる、降臨されるともなればそれは誰だってざわめくはずだ。
エマ―ジェリアさんはどよめきが収まらない中、一気にシナリオ通りに宣言する。
「女神様、どうか私の体をお使いになり、皆にあなた様のお言葉を!!」
そう言ってエマ―ジェリアさんはあらかじめ唱えていた【聖なる光】ホーリーライトを発動させる。
途端にエマ―ジェリアさんの体が輝きそのまぶしさに人々は目を覆う。
そして僕たちが控えていたこの部屋に姿を現す。
「よっし、ほら早く着替えなさいよ!」
「わっきゃっ! ソウマ君がいるのですのよ! いきなり服を脱がさないでくださいですわ!! ソウマ君は向こうを向いていなさいですわぁっ!!」
「そんな貧相な物見てもソウマ君は何とも思わないわよ! ほらこれも入れて!!」
「きぃーっ! なんなのですのそれは!! それにやっぱり納得いきませんわ! 胸にこんな詰め物入れるなんてですわ!!」
空間転移してきたエマージェリアさんは僕の後ろでミーニャにひん剥かれ着替えをしている。
着替えを見るなと言われて僕はまた窓の外を見る。
まだエマージェリアさんの消えた場所にはホーリーライトの光が輝いているけどそろそろ光が弱まる頃だ。
「よっし、さあ行ってこい!」
「ちょっ、まだ胸の詰め物がですわっ!!」
着替え終わったらしく僕は振り向くとエマ―ジェリアさんが自分の胸に詰め物を入れている所だった。
うーん、エルハイミねーちゃんって同じ年頃の女の子より少し胸大きかったもんなぁ。
エマ―ジェリアさんてまだ胸小さいからなぁ。
僕がそんなこと思っていると何故かエマ―ジェリアさんは、きっ! とこちらを睨んでからその姿を消した。
「ふう、これで次は【浮遊魔法】ね? どれどれ?」
そう言いながらエマ―ジェリアさんをまた空間転移させたミーニャは僕の隣に来て広場の中央を見る。
先ほどホーリーライトで輝いたそこにエマ―ジェリアさんはまた空間転移させられてみんなが見守る中、女神様としての姿を現す。
「ちょうどホーリーライトも切れるわね? さてと、【浮遊魔法】!」
ミーニャはここからエマ―ジェリアさんに対して【浮遊魔法】をかける。
それはタイミングよく輝きを消し、女神様の衣装に着替えたエマ―ジェリアさんを宙に運ぶ。
大体二メートルくらいかな?
あまり高いとだめなのでその位でエマ―ジェリアさんは止まる。
広場に集まった人たちはそれを見て静まり返る。
『セキ、その真の姿を現しなさい』
「仰せのままに!」
どんっ!
今まで聖女の付き添いとしていた赤髪の女性が前に出るとその体を膨張させ一気にはじけるかのように竜の姿になる。
『女神様よくぞ下界においで下さいました』
ぐろろろろろぉぉぉ
いきなり現れた赤いドラゴンに広場は一瞬騒然となるも、その頭を傾づきエマ―ジェリアさんに平伏する。
それを見た人たちは落ち着きを取り戻し固唾を飲んで見守る。
『この地に生けとし生けるものよ、我は女神なり。この世界を守る者なり。聞くがよい、我が言葉を』
エマ―ジェリアさんは台本通りに台詞を言う。
うーん、あれだけ長い台詞をよく覚えらるもんだね。
感心して聞いていると司祭様の一人が何か言っている様だけど、それをセキさんが唸って黙らせる。
そしてエマ―ジェリアさんは長々とした台詞を最後まで続ける。
『我を慕う者たちよ、健やかに、穏やかに手を取り合い過すのだ。さすれば我は永遠にそなたたちを見守ろうぞ!』
最後にエマ―ジェリアさんがそう言うと歓声が沸き上がる。
そしてそれを見計らってエマ―ジェリアさんはまたホーリーライトをこっそりと唱えまばゆい光に包まれる。
「うっし、終わったわね? じゃあ引き寄せるわよ!」
隣でそれを見ていたミーニャはまたまた空間転移を使ってエマ―ジェリアさんをここまで転移させる。
「ほら、着替え着替え!」
「だ、だからソウマ君が見ていますわぁっ! ソウマ君あっち向いてくださいですわぁっ!!」
また聖女様としての衣装に着替えるエマ―ジェリアさん。
だけど今度のホーリーライトはさっきより消えるのが速そうだ。
「まずいですよ! ホーリーライトが消えかかってます!!」
慌ててその事を伝えようと振り向くとまだ胸元がはだけているエマ―ジェリアさんが目に入る。
「だからこっち見てはだめですわぁっ! 初夜まで待ってですわぁっ!!」
「何言ってんのよ! ソウマ君の初夜は私が相手なのだからね!! もういい、行ってこい!!」
騒ぐエマ―ジェリアさんは胸元を手で覆い隠しながらまたミーニャに空間転移で広場に飛ばされる。
「あっ‥‥‥」
エマ―ジェリアさんのいなくなったそこに胸に詰め込んでいた丸いクッションの様な物が一つだけ転がっていた。
僕は慌てて窓の外、広場に目を向ける。
そこには空間転移をしたエマ―ジェリアさんが慌てて胸元を直してゆっくりと地面に降りて来ていた。
その間に人々の注目を引くためにセキさんは軽い龍の鳴き声を発してからまた元の人の姿に戻る。
そんな中に地面に降り立ちふらっと倒れるエマ―ジェリアさんをその場にいた人たちは見ている。
「おっと、ずいぶんと無理をした様ね? 聞け、聖女様は見事女神様をその御身に降臨させられた。今はお力を使い果たし眠りについている。皆の者、『爆竜のセキ』の名の下に女神様のお言葉を聞き一つとなり女神様を祀り上げる事を命じる! よいか!?」
セキさんはぐったりと気を失ったふりをするエマ―ジェリアさんを抱き上げ広場にいる司祭様たちにそう言う。
「「「「はははぁーっ!!!!」」」」
セキさんのその物言いにその場にいた者全員が膝をつき頭を下げる。
そしてセキさんはカルスさんをちらっと見て軽いウィンクをする。
カルスさんは口元だけ笑って頭を下げる。
「赤竜様、聖女様はお疲れでしょう。どうぞ我が屋敷へお連れください」
「うむ、ご苦労」
セキさんはそれだけ言うとこの場からエマ―ジェリアさんを連れ出し姿を消す。
そしてそれを見送ったカルスさんは司祭様たちに振り返り高々と宣言をする。
「女神様のお言葉、このカルス承りました! 皆さん、心を一つにしそのお言葉に従いましょう! 司祭様たち、どうぞよろしくお願いしますよ」
そう言ってカルスさんは司祭様たちにもう一度頭を下げてから「詳しくはこの後の会合で」と言ってその場を離れる。
司祭様たちは何も言わず踵を返してその場を立ち去る。
ただ一人、地面から丸い物を拾い上げる女性の司祭様以外は。
「あ、あれって!」
僕はこの部屋にまだ転がっているエマ―ジェリアさんが胸に詰めていたクッションと女性司祭様の拾い上げたそれを見比べる。
エマ―ジェリアさん落し物しちゃったのね。
僕はそんなこと思っていたけど後で大騒ぎになったのは言うまでもない。
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