上 下
161 / 221
第七章

第160話7-15女神降臨

しおりを挟む

 広場に集まった各宗派の司祭様たちは口々に何か言っている。


 「聖女様が来られたと言うから来てみればまだ年端も行かない少女では無いか?」

 「しかし女神様に何処と無く似ておられる」

 「どちらにせよ、ユーベルトの聖女様が我が『育乳信仰派』に来ていただければ我が派が女神様の教えを一番理解していると言う事になるわ」

 「否! 胸だけ大きくなったって駄目でしょう? やはり愛の結晶、同性同士でも子宝に恵まれる事こそ重要よ!」


 なんかもうすでに口論が始まりそうな雰囲気。
 僕は離れた二階のへやから皆さんのその様子を見ながら少しハラハラし始めた。


 「お集まりいただいた各派の司祭様! 本日来ていただいたのは他でもありません、ユーベルトの聖女様がこの地を訪れました。我が家にてお迎えを致しましたが、昨夜に聖女様が天啓を受けたと仰っています。故に急遽ここへ場所を変更してお集まりいただきました!」


 カルスさんはそう言って司祭様たちの注目を集める。
 流石に町長さん直々にそう言われると口論を始めそうになっている皆さんも黙りそちらを注目する。


 「聖女様、どうぞ天啓を我らに」


 どよどよ。


 町長さんのその言葉に広場に集まった司祭様たち以外の見物人もエマ―ジェリアさんに注目し始める。


 「皆様、私はエマ―ジェリア=ルド・シーナ・ハミルトンと申します。ユーベルトの女神教神殿で聖女の職をさせていただいております。今、私は訳あって旅をしておりますがその折こちらのノヘルの町に立ち寄らせていただき歓迎をしていただきました。まずはその事につきまして御礼を申し上げますわ」

 エマ―ジェリアさんの透き通るような声はこの広場に染み渡る。
 聖女としての名はこのノヘルの港町にも届いている。

 「私を歓迎していただいた町長さんのお宅で昨晩私は女神様からの天啓を受けました。それは今ここで女神様がお越しになられて皆様にお言葉を伝えると言うモノでしたわ」


 どよどよ!
 ざわざわっ!


 エマ―ジェリアさんのその言葉にだれもがどよめきざわつく。
 女神様がこの地に来られる、降臨されるともなればそれは誰だってざわめくはずだ。
 エマ―ジェリアさんはどよめきが収まらない中、一気にシナリオ通りに宣言する。


 「女神様、どうか私の体をお使いになり、皆にあなた様のお言葉を!!」


 そう言ってエマ―ジェリアさんはあらかじめ唱えていた【聖なる光】ホーリーライトを発動させる。
 途端にエマ―ジェリアさんの体が輝きそのまぶしさに人々は目を覆う。


 そして僕たちが控えていたこの部屋に姿を現す。

 「よっし、ほら早く着替えなさいよ!」
 
 「わっきゃっ! ソウマ君がいるのですのよ! いきなり服を脱がさないでくださいですわ!! ソウマ君は向こうを向いていなさいですわぁっ!!」

 「そんな貧相な物見てもソウマ君は何とも思わないわよ! ほらこれも入れて!!」

 「きぃーっ! なんなのですのそれは!! それにやっぱり納得いきませんわ! 胸にこんな詰め物入れるなんてですわ!!」

 空間転移してきたエマージェリアさんは僕の後ろでミーニャにひん剥かれ着替えをしている。
 着替えを見るなと言われて僕はまた窓の外を見る。  
 
 まだエマージェリアさんの消えた場所にはホーリーライトの光が輝いているけどそろそろ光が弱まる頃だ。
 
 「よっし、さあ行ってこい!」

 「ちょっ、まだ胸の詰め物がですわっ!!」

 着替え終わったらしく僕は振り向くとエマ―ジェリアさんが自分の胸に詰め物を入れている所だった。


 うーん、エルハイミねーちゃんって同じ年頃の女の子より少し胸大きかったもんなぁ。
 エマ―ジェリアさんてまだ胸小さいからなぁ。


 僕がそんなこと思っていると何故かエマ―ジェリアさんは、きっ! とこちらを睨んでからその姿を消した。


 「ふう、これで次は【浮遊魔法】ね? どれどれ?」

 そう言いながらエマ―ジェリアさんをまた空間転移させたミーニャは僕の隣に来て広場の中央を見る。
 先ほどホーリーライトで輝いたそこにエマ―ジェリアさんはまた空間転移させられてみんなが見守る中、女神様としての姿を現す。 


 「ちょうどホーリーライトも切れるわね? さてと、【浮遊魔法】!」

 ミーニャはここからエマ―ジェリアさんに対して【浮遊魔法】をかける。
 それはタイミングよく輝きを消し、女神様の衣装に着替えたエマ―ジェリアさんを宙に運ぶ。

 大体二メートルくらいかな?
 あまり高いとだめなのでその位でエマ―ジェリアさんは止まる。
 広場に集まった人たちはそれを見て静まり返る。


 『セキ、その真の姿を現しなさい』

 「仰せのままに!」


 どんっ!


 今まで聖女の付き添いとしていた赤髪の女性が前に出るとその体を膨張させ一気にはじけるかのように竜の姿になる。


 『女神様よくぞ下界においで下さいました』


 ぐろろろろろぉぉぉ


 いきなり現れた赤いドラゴンに広場は一瞬騒然となるも、その頭を傾づきエマ―ジェリアさんに平伏する。
 それを見た人たちは落ち着きを取り戻し固唾を飲んで見守る。


 『この地に生けとし生けるものよ、我は女神なり。この世界を守る者なり。聞くがよい、我が言葉を』


 エマ―ジェリアさんは台本通りに台詞を言う。
 うーん、あれだけ長い台詞をよく覚えらるもんだね。
 
 感心して聞いていると司祭様の一人が何か言っている様だけど、それをセキさんが唸って黙らせる。
 そしてエマ―ジェリアさんは長々とした台詞を最後まで続ける。


 『我を慕う者たちよ、健やかに、穏やかに手を取り合い過すのだ。さすれば我は永遠にそなたたちを見守ろうぞ!』


 最後にエマ―ジェリアさんがそう言うと歓声が沸き上がる。
 そしてそれを見計らってエマ―ジェリアさんはまたホーリーライトをこっそりと唱えまばゆい光に包まれる。


 「うっし、終わったわね? じゃあ引き寄せるわよ!」

 隣でそれを見ていたミーニャはまたまた空間転移を使ってエマ―ジェリアさんをここまで転移させる。


 「ほら、着替え着替え!」

 「だ、だからソウマ君が見ていますわぁっ! ソウマ君あっち向いてくださいですわぁっ!!」


 また聖女様としての衣装に着替えるエマ―ジェリアさん。
 だけど今度のホーリーライトはさっきより消えるのが速そうだ。


 「まずいですよ! ホーリーライトが消えかかってます!!」


 慌ててその事を伝えようと振り向くとまだ胸元がはだけているエマ―ジェリアさんが目に入る。


 「だからこっち見てはだめですわぁっ! 初夜まで待ってですわぁっ!!」

 「何言ってんのよ! ソウマ君の初夜は私が相手なのだからね!! もういい、行ってこい!!」


 騒ぐエマ―ジェリアさんは胸元を手で覆い隠しながらまたミーニャに空間転移で広場に飛ばされる。

 「あっ‥‥‥」

 エマ―ジェリアさんのいなくなったそこに胸に詰め込んでいた丸いクッションの様な物が一つだけ転がっていた。
 僕は慌てて窓の外、広場に目を向ける。

 そこには空間転移をしたエマ―ジェリアさんが慌てて胸元を直してゆっくりと地面に降りて来ていた。
 その間に人々の注目を引くためにセキさんは軽い龍の鳴き声を発してからまた元の人の姿に戻る。

 そんな中に地面に降り立ちふらっと倒れるエマ―ジェリアさんをその場にいた人たちは見ている。

 「おっと、ずいぶんと無理をした様ね? 聞け、聖女様は見事女神様をその御身に降臨させられた。今はお力を使い果たし眠りについている。皆の者、『爆竜のセキ』の名の下に女神様のお言葉を聞き一つとなり女神様を祀り上げる事を命じる! よいか!?」

 セキさんはぐったりと気を失ったふりをするエマ―ジェリアさんを抱き上げ広場にいる司祭様たちにそう言う。


 「「「「はははぁーっ!!!!」」」」


 セキさんのその物言いにその場にいた者全員が膝をつき頭を下げる。
 そしてセキさんはカルスさんをちらっと見て軽いウィンクをする。
 カルスさんは口元だけ笑って頭を下げる。


 「赤竜様、聖女様はお疲れでしょう。どうぞ我が屋敷へお連れください」

 「うむ、ご苦労」


 セキさんはそれだけ言うとこの場からエマ―ジェリアさんを連れ出し姿を消す。
 そしてそれを見送ったカルスさんは司祭様たちに振り返り高々と宣言をする。

 「女神様のお言葉、このカルス承りました! 皆さん、心を一つにしそのお言葉に従いましょう! 司祭様たち、どうぞよろしくお願いしますよ」

 そう言ってカルスさんは司祭様たちにもう一度頭を下げてから「詳しくはこの後の会合で」と言ってその場を離れる。

 司祭様たちは何も言わず踵を返してその場を立ち去る。
 ただ一人、地面から丸い物を拾い上げる女性の司祭様以外は。


 「あ、あれって!」

 僕はこの部屋にまだ転がっているエマ―ジェリアさんが胸に詰めていたクッションと女性司祭様の拾い上げたそれを見比べる。


 エマ―ジェリアさん落し物しちゃったのね。



 僕はそんなこと思っていたけど後で大騒ぎになったのは言うまでもない。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

処理中です...