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第七章

第159話7-14教会

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 カルスさんはエマ―ジェリアさんに聖女として女神様の言葉を派閥の皆さんに伝え、この派閥の争いをやめさせようとしていた。


 「この絵のように『聖女様』は女神様によく似ておられる。そうですね、付け髪でこめかみの横のくせ毛を追加し、胸にも詰め物を入れれば女神様によく似ておりますしね」


 「ちょっと待ってですわ、詰め物って何なのですの!?」


 何故かジト目になるエマ―ジェリアさん。
 しかしそんな話の中リュードさんが口を開く。


 「カルス町長さんよ、お宅の町の事情は分かった。しかし俺たちにも旅に目的が有ってな、ここでゆっくりとはしていられないんだよ」

 「ええ、そこは十分理解しているつもりですよ? 『黒の牙』さん」


 カルスさんは静かにお茶のカップと持ち上げ、それを飲み干す。
 リュードさんは目をすぅっと細める。


 「俺の通り名も知っているか‥‥‥ なら話は早い。俺たちの協力を要請するなら対価をもらおう」

 「ええ、ご用意いたしますとも、このお話が上手く行けば」


 カルスさんがそう言うとリュードさんは立ち上がり手を差し出す。
 するとカルスさんはエマ―ジェリアさんとセキさんを見てからリュードさんの差し出された手を握り返して言う。


 「商談成立と言う訳ですね?」

 「ああ、適正価格でやってやっるさ」


 「えっ? ええっですわ!?」


 ニヤリと笑うリュードさんとカルスさんに見られながら声を上げるエマ―ジェリアさんだった。

 
 * * * * *


 「宿代も浮いたし、飯も食える。そしてこの話をまとめれば報酬まで入って来るんだ、いい事づくめだろうに?」

 「そうは言っても私が女神様のお言葉を皆さんにお伝えして派閥競争を止めるだなんてですわ!」


 まだ各教会の司祭様は来ていない。
 なので今日は町長さんの家で休ませてもらう事になった。

 久しぶりの豪華な食事にお風呂までいただいてすっきりとした頃みんなで集まるようリュードさんに言われた。
 ああ、アイミは残念ながら屋敷の外にある馬小屋で待ってもらっている。
 流石にあの大きさだと部屋には入れない。
 しゅんとして耳を垂れていたから後で励ましに行ってあげよう。


 「それで、みんなを集めて何?」

 ミーニャはつまらなさそうにリュードさんに聞く。
 ちなみにリリスさんとソーシャさんはまたまた別行動をしているらしい。
 何やら補給とか言っていたけど何の補給だろうね?


 「まあ聞けよ、女神教の総本山となるはずのユーベルトだが、一番遠いこのイージム大陸でどれほど影響が有るのか知っているか?」

 「どう言う事よリュード? エルハイミ母さんを崇拝するならそれ相応に影響あるんじゃないの?」

 「まあ普通はそうだが、ここはその総本山よりも先に女神信仰が始まった場所だぞ?」

 「あっ、ですわ!」
 
 言われてエマ―ジェリアさんが何かに気づく。


 「私たちユーベルトの教えより早く女神様の教えが広まった、と言う事ですの?」


 「そう言う事だ。いくら降臨した場所がユーベルトでもそれより先にここで教えを広めたとなれば、どちらが最初の教えか分かるな? だから後から教えが広まった内容を素直にあいつらが聞くかどうかって事さ」

 「あっ!」

 リュードさんがそう言って僕は初めてその意味を理解した。
 あれだけ派閥が分かれてそしていがみ合っているのにそれより後の教えを素直に聞いてくれるかどうか‥‥‥


 「そこでだな、セキには合図をしたら赤竜の姿になってもらい、エマ―ジェリアには女神様を演じてもらうのさ。そうすればいくらあいつらだって女神様の言う事を無視は出来ないだろう?」


 「ちょっと待ちなさいよ。お姉さまのまね事をこいつが出来るの?」

 「失礼ですわね、こいつ呼ばわりとは何なのですの?」

 ミーニャは腕組みしていた手で親指をエマ―ジェリアさんに向けてそう言う。
 確かにエマ―ジェリアさんエルハイミねーちゃんに比べてまだ少し身長も低いもんなぁ。

 「そんなのは遠目に見ればわからんさ。重要なのはこちらのメッセージを一方的に伝え、そして質疑をされる前に姿をくらます。俺たちにはそれが出来るやつがいるだろう?」

 リュードさんはミーニャを見ながらそう言う。
 ミーニャは何かを察した様で嫌な顔をする。

 「なんであたしが協力しなきゃならないのよ?」

 やっぱりミーニャは不機嫌にそう言うけど、事前にリュードさんに言われたことを僕は言う。

 
 「ミーニャ、そんな事言わないで僕の為と思って手伝ってくれよ、そうすれば報酬も手に入って僕とミーニャの旅が続けられる。そして僕はその旅の中でミーニャの作った手料理が食べたいんだ(棒読み)」


 どきっ!


 「えっ、ソ、ソウマ君? あ、あたしの手料理が食べたいの??」

 「勿論だよ、ミーニャの手料理が楽しみだなぁ(カンペを見ながら棒読み)」


 どっきーん!!


 「やるわ! 何すればいいの!?」

 ミーニャは両の手を顎の下に持って来てお尻をフリフリと犬が尻尾を振るようにしている。
 それを見たリュードさんはニヤリとしてぼそっと言う。

 「ちょろいな」

 「うん、ちょろいわね。先代のイオマだったら使えない手だけど」

 なんかリュードさんと一緒にセキさんもコソコソと言っている。
 僕はリュードさんに渡されていたカンペをしまいながらリュードさんに聞く。


 「それでどうするんですか?」

 「なに、こう言う事さ」


 リュードさんはニヤリと笑いながら説明を始めるのだった。


 * * * * *


 「それでこうですか。上手く行くのでしょうか?」
 

 カルスさんは首を傾げ広場に集まった司祭様たちを見ている。
 あの後リュードさんが考えた女神様降臨を聖女であるエマ―ジェリアさんがして派閥の皆さんに新たな教えを広め、抗争を無くしてしまおうと言う考えだ。

 普通にしたのでは効果がないのでひと芝居をする。
 まずはみんなの前でエマ―ジェリアさんが天啓を授かり、女神様を自身に降臨させる。

 ホーリーライトで姿をくらまし、すぐにミーニャが空間移動でエマ―ジェリアさんを舞台裏へ引っ張って変装をしてからまたみんなの前に現れる。

 このとき浮遊魔法をミーニャが使ってエマ―ジェリアさんを空中に浮かせ、そして僕であるセキさんがドラゴンの姿になる。

 みんなが驚いた所女神様の教えを説いて、その後又ホーリーライトで姿をくらまし、元のエマ―ジェリアさんの衣装に着替え戻って来る。

 その後はぐったりと気を失ったふりをしてそれを人の姿に戻ったセキさんが緊急搬送する。

 これで各派閥の皆さんは抗争を続けることが出来なくなり、その証人として町長のカルスさんが明言をすれば終わりだ。


 上手く行くかどうか不安は残るけど、みんなを納得させるためには仕方ない。
 最後まで女神様に変装する時に胸に詰め物を入れる事を拒んでいたエマ―ジェリアさんも僕たちの説得に渋々応じた事だし、後はやるしかない。



 僕はいよいよ始まるそれを見守るのだった。  
  
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