159 / 221
第七章
第158話7-13派閥
しおりを挟むセキさんの咆哮で落ち着きを取り戻した信者の皆さん、つかつかとエマ―ジェリアさんに近づくセキさんにみんな注目する。
「さてと、わたしは『爆竜のセキ』。そこのエマ―ジェリアと言う聖女と運命を共にしていた赤竜よ。女神様である私の母の一人、エルハイミ母さんを信仰するのはうれしいけど、ちょっとやり過ぎじゃない?」
セキさんにそう言われ驚き腰を抜かしていた信者の皆さんは恐る恐る聞く。
「あなたが赤竜様ですか?」
「若い女性にしか見えませんがな‥‥‥」
「ステキなお姉さまですよね?」
「赤竜と言えば古き女神様を焼き殺したと言われる古のドラゴン‥‥‥」
口々にそう言いながらみんなセキさんに注目する。
するとセキさんはエマ―ジェリアさんを引き上げ立たせてあげる。
「エマ大丈夫? さてと、なんでみんなエマを教会に呼びたがるのよ?」
セキさんがその疑問を口にした途端信者の皆さんは目を背ける。
なんか様子が変だな‥‥‥
「それは私が説明しましょう」
声のした方を見るとびしっとした服を着こなしたおじさんが居た。
年の頃は三十台半ばかな?
紳士と言ういで立ちのその人はこちらに向かって軽く頭を下げて挨拶をして来た。
「私の名はカルス。この町の町長をしています。たまたま通りかかり『聖女様』と言う言葉が耳に入りまして様子を見ていました。しかしそちらの女性のあの鳴き声、確かに竜のそれでした」
そう言ってエマ―ジェリアさんに向かって深々と頭を下げる。
「まさか聖女様がこちらに来られていたとはつゆ知らず、失礼を致しました。そして赤竜様までお越しいただくとは光栄の限りです」
「ご丁寧にありがとうございますわ。私はエマ―ジェリア=ルド・シーナ・ハミルトン。女神教ユーベルトの地で聖女をしている者ですわ」
「んーと、あたしはセキ、『爆竜のセキ』ね。よろしく。で、何なのこの信者の人たち?」
エマ―ジェリアさんが挨拶を返すとそのカルスと言う町長さんはにっこりと笑ってこう言う。
「こんな所で立ち話も何です、私の屋敷はすぐ近くなのでそちらにいたしてください。お連れの方もご一緒に。それと皆さん丁度良い。皆さんの教会から司祭様を呼んで来ていただけますか、私の屋敷に」
カルスさんがそう言うと信者の皆さんはびくっとなり首を縦に振ってからすぐさま蜘蛛の子を散らすかのように消えていった。
「良いのですの?」
「ええ、丁度聖女様がおられる。この町の抱える問題を解決するにはちょうど良いのですよ」
そう言ってカルスさんは僕たちの屋敷に案内するのだった。
* * * * *
「へぇ~、あんたイルスの子孫だったんだ!」
「はい、そう聞き呼んでおります」
セキさんは出されたお菓子を口の放り込みながらカルスさんと話している。
カルスさんの屋敷に連れられて行った僕たちは応接間でお茶をいただきながら色々と話を聞いていた。
カルスさんのご先祖様はこの港町で最初に女神信仰を始める中心人物だったらしい。
当時ここでいろいろとあってエルハイミねーちゃんに助けられ、そしてエルハイミねーちゃんが女神であることをいち早く認識し、ユーベルトで女神教が発足する前からエルハイミねーちゃんを信仰していたらしい。
言わばここはそう言う意味では一番最初の女神教の発祥の地でもあるわけだ。
しかしエルハイミねーちゃんの生家であるユーベルトの方が有名になり、事実女神様であるエルハイミねーちゃんが降臨した場所でもある事からそちらの方が有名となり、女神教発祥の地とされた。
さらにセキさんがエルハイミねーちゃんの僕となり神殿を守っていると言う事になったから今はあの地が聖域と扱われている。
「そうでしたの、女神様をいち早く認識し、そして信仰していたのはこちらのノヘルの方が早かったのですわね?」
「ええ、信仰自体は早かったようですが、降臨されたのはそちらユーベルトでした。ですのでこの長い間に女神様の信仰する方向が多様化して、大魔導士であられた時代の呼び名も加わりそれが派閥を産んだのです」
カルスさんはそう言いながらお茶を飲む。
そんなカルスさんを見ながらミーニャは面白く無さそうにつぶやく。
「お姉さまの魔女だった頃の呼び名がそのままじゃない‥‥‥」
ミーニャのその言葉を受けてセキさんはうんうんと首を縦に振っている。
「まあ、エルハイミ母さんは色々とやらかしているからねぇ~。それで、なんでみんなエマを各教会に呼び寄せようとしたのよ?」
「それですが、実はこの町も財政難でして町から支給する教会への支援金も見直しを余儀なくされているのですよ。もともと女神様に対する信仰はこの町の住民であればだれでも持っていて、昔からそれは家訓になる程でした。しかし派閥が出来てしまいその各派閥に対して町の住民も信仰をする対象に好みが分かれましてね」
言いながらカルスさんは大きくため息を吐く。
「もともと同じ女神様を信仰するのですから、一つにまとめて崇めて欲しかったのです。ですが派閥が出来た事によりその支援金争奪にも拍車がかかりいがみ合うようになってしまったのです。そんな時にユーベルトの聖女様が現れた、これは自分たちの派閥が正当であると宣伝するにはうってつけですからね」
なるほど、女神教の正当性をアピールして他の派閥を押さえるつもりだったんだ。
僕はその事に気付きエマ―ジェリアさんを見る。
するとエマ―ジェリアさんはふるふると小さく震えていた。
「め、女神様は、あのお方は、どれか一つをお教えに等なっていませんわ‥‥‥ 私だって神殿で女神様の教えを受けましたがそれはどれもこれも慈愛に満ちたもの。皆さんの仰ることはどれも女神様のお言葉ですわ!」
言いながらエマ―ジェリアさんはばっと顔を上げ、カルスさんを見る。
カルスさんはそんなエマージェリアさんの顔をじっと見てからふと小さく笑って頷く。
「まさしくそうです。女神様の教えは慈愛に満ちたものです。ですから聖女様にはこの派閥争いを止めたもらいたいのです、そのお姿を使っていただいて」
「へっ、ですわ?」
カルスさんはそう言ってつかつかと応接間に有る一枚の絵画を指さす。
「これは我が祖先イルスが描かせたと言う女神様降臨の絵です。似ていると思いませんか?」
そこには天使の羽根を背に輝かしい一人の少女の姿が人々の救いを求め差し出す手の中に降り立つシーンであった。
そしてそこに描かれているその少女はエマ―ジェリアさんによく似ている。
そう、エルハイミねーちゃんその人だった。
「『聖女様』であり、赤竜様もご一緒となればそのお言葉は我ら女神信仰者にとって女神様のお言葉も同然。『聖女様』には女神様のお言葉を皆に伝えていただき派閥争いをやめさせていただきたいのです!」
カルスさんにそう言われ驚きに目を見開くエマ―ジェリアさんだったのだ。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします
リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。
違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。
真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。
──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。
大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。
いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ!
淑女の時間は終わりました。
これからは──ブチギレタイムと致します!!
======
筆者定番の勢いだけで書いた小説。
主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。
処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。
矛盾点とか指摘したら負けです(?)
何でもオッケーな心の広い方向けです。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる