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第六章
第145話6-15代価
しおりを挟む「姉さんっ!!」
僕は姉さんとエルハイミねーちゃんが消えた虚空を見ている。
「あっちゃぁー、やっぱり我慢できなくなってエルハイミったらフェンリルをさらっちゃたわね」
「え? エルハイミ母さん本気で母さんを連れてっちゃったの?」
「よっしぃ! これで邪魔者はいなくなったぁ! ソウマ君、これで二人っきりになれるね!」
「こ、こらぁっ! 何引っ付いているのですの!? ソウマ君は私と重要なお話があると言うのにですわっ!」
「なんてこったい! 主が女神様に連れ去られただとぉ?」
ぴこぴこっ!
シェルさんがエルハイミねーちゃんが姉さんをさらったと言うとやっと実感がわいて来た。
僕は騒いでいるみんなを見る。
そして動揺しながら聞く。
「ど、どうしよう‥‥‥」
しかしみんな僕の質問にしばし沈黙する。
「まあ、フェンリルがティアナとして完全に覚醒させられれば本体であるエルハイミとよろしくやるでしょうね?」
シェルさんがそう答えると僕はものすごく狼狽する。
「で、でも、姉さんと一緒にミーニャを村に連れもどすって長老に約束しちゃったのに!」
「ソウマ君、別に戻らなくたっていいじゃない? ここであたしと楽しく過ごしましょうよぉ~」
「なっ! 何を言っているのですの!! ソウマ君には私の恥ずかしい姿を見られた責任を取ってもらわなければなりませんわ! ソウマ君、一緒に実家に行ってもらいますわよ!!」
「うーん、でもエマ、一旦は神殿に戻らなきゃだめじゃ無いの?」
「お前ら、そんな事より主が!!」
ぴこぴこぉ~。
リュードさんの言う通り、とにかく姉さんが!!
「ぼ、僕エルハイミねーちゃんにお願いして姉さんを返してもらいます!」
「うん? あ~、ソウマにしてみればそうなるか。でもエルハイミだって三百年我慢したからどうかしらねぇ~。さてと‥‥‥」
そう言ってシェルさんは大きく伸びをしてから僕たちを見る。
「お陰で私の役目であった『魔王』を押さえる件は何とかなったわ。とりあえず後のことはシーナ商会経由で世界の秩序はデルザたちに任せるとして、私はそろそろ戻るわね。みんな今まで協力してくれてありがとう!」
え?
シェルさんはそう言って何やら懐から魔晶石を取り出す。
「ちょっと、シェルまさか一人でその魔晶石使って天界に帰るつもり?」
「ん? そうだけど。あたしの分のエルハイミはエムハイミとしてあたしを愛してくれるし、待っていてくれているって話だから急いで戻って子作りしなきゃ!」
セキさんの待ったにシェルさんはうきうきしながらそう答える。
勿論エマージェリアさんも驚いてキャーキャー騒いでいるけど、なんか騒ぎ方が普通じゃ無い。
「シェ、シェル様お戻りになられると言うのですの!?」
「ああ、エマもようやくセキとの枷も無くなったし、もう補給をする必要も無くなったのよね? これであなたは完全に自由よ。セキと同じくね」
にっこりそう答えるシェルさんに思わず言葉を失って固まるエマ―ジェリアさん。
「まあ、あたしはもうしばらくエマの面倒を見るわよ。神殿も大丈夫とは思うけど、よしみで面倒見てあげなきゃエドガー達か可哀そうだしね」
セキさんはそう言ってエマ―ジェリアさんを見る。
「なんだ、みんな大人しく帰るの? だったらあたしたちもここで二人でスイートホーム築きましょうよ、ソウマくぅ~ん」
『その前にソウマ君の味見させてよね! ずっと我慢してたんだから!!』
『ああ、ミーニャ様を今度こそ私のモノに!! ミーニャ様、さぁ、さぁ!』
ミーニャが僕に抱き着き付く。
そこへしゃしゃり出て来たリリスさんとソーシャさんがにじり寄って来る。
「お前たち、身の程をわきまえろ! ソウマ君に手を出すつもり!?」
『おっと、もう魔王様じゃないんだからあなたの言う事は聞かないわよ? ソウマ君、今まで我慢していた分たっぷりと搾り取ってあげる。大丈夫、初めてでもお姉さんが気持ちよくしてあげるからね~』
『ミーニャ様は私が天国へお連れしますわ~。その体、隅々まで快楽に溺れさせてあげますよぉ~』
そう言いながら迫って来る二人にミーニャは髪の毛を逆立てる。
「お前たち! ふざけるのもいい加減にしなさい!!」
どんっ!
ミーニャはいきなり魔力を放出する。
それは魔王の時ほどでは無いものの、それでも恐ろしいほどの力があふれている。
『なっ!? もう魔王ではないはずなのに何この魔力!?』
『す、すごいぃ! もう濡れちゃいますぅ!!』
バキッ!!
ミーニャはそんな二人を殴り飛ばす。
「お前たち、このあたしに逆らおうなんて百万年早いわ! お前らあたしのこま使いね!!」
『ひ、ひぇぇえええぇぇぇ~』
『ああっ! 流石ミーニャさまぁ、そこに濡れる、憧れるぅ!』
ぶぎゅるっ!
ミーニャは二人を踏みつけいじめっ子を退治した時と同じことしている。
あれって地味に応えるんだよな‥‥‥
「って、そんな事より姉さんを助け出さなきゃ! シェルさん、エルハイミねーちゃんの所へ連れてってください!!」
僕が慌ててそう言うとシェルさんはポカーンとしてこちらを見る。
「なんで?」
「え?」
意外な言葉がシェルさんの口から帰って来た。
「フェンリルはエルハイミの本体に連れ去られたけど後はフェンリル自身の問題でティアナになるかどうかはフェンリル自身の問題よ?」
「で、でも姉さんが!」
僕のその様子にシェルさんはため息をつく。
そして魔晶石をかかげてこう言う。
「残念ながらこの魔晶石の【帰還魔法】は私一人しか天界に飛ばせないの。ソウマを連れて行く事は出来ないわ」
「そんなぁ‥‥‥」
「それに私には大事な用事が有るから一刻も早くエムハイミの元に戻らなきゃならないの。コクの奴を早く見返しやらなきゃならないのよ!!」
赤い顔してはぁはぁ言いながらシェルさんは魔晶石を輝かせる。
「まあ、子供が生まれたらその頃また見せに来るからね。それじゃ、またね!」
「えっ、シェルさん!?」
「シェル様! もう行ってしまうのですの!?」
言いながらシェルさんは魔晶石を発動させる。
そしてその場で光って消えてしまった。
「シェルさんっ!!」
消え去る虚空に僕は叫ぶけどもうそこにシェルさんはいなかった。
「ソウマよ、シェルの奴はほっといて早い所主を取り戻しに行こうぜ」
ぽんっ。
リュードさんはそう言いながら僕の肩に手を置く。
その手をミーニャが払い除ける。
「おっさん、あたしのソウマ君に気やすく触らないでくれる? せっかく邪魔者がいなくなったんだから」
「ミーニャっ! なんでそんな事言うんだよ!? 姉さんがエルハイミねーちゃんに連れ去られてティアナ姫になっちゃうかもしれないんだよ? そうしたら、姉さんは、姉さんじゃ無くなっちゃうかもしれないんだよ!?」
僕は一番心配している事、僕の姉さんがいなくなってしまう事をミーニャにぶつける。
「それが? あたしにしてみれば好都合よ? お姉さまはもともとティアナさんが大好きで、イオマだった頃のあたしには全然手を出してくれなかったわ。今も同じ。だからお姉さまの事は嫌いじゃないけどあたしはティアナ姫が大嫌い! 本当は憎いくらい! そしてこの人生でもソウマ君を独り占めにしようとする! エルフたちよりたちが悪いわよ!!」
でもミーニャはミーニャで自分のその怒りを暴露する。
そして睨み合う僕とミーニャ。
「はいはい、そこまで。ソウマもミーニャもその辺でやめときなよ? 過去の事あーだこーだ言っても始まらないしね~」
「セキは良いのですの?」
「あのねエマ、重要なのは今の自分がどうしたいかって事よ? 過去の自分はあくまでも過去の自分でその時の人生はそこで終わっている。転生って過去の記憶が有るけど過去のその人物と同じになるかどうかは結局今を生きる自分自身が決める事。あたしたち竜族は体が再生されても意識も魂も『自分』を保持している。でも脆弱なあなたたちはそこに迷いが生まれる。いい事? 自分の心に、魂に聞きなさい。どうしたいかを」
セキさんはエマ―ジェリアさんにそう言いながら最後は僕を見る。
「僕は‥‥‥僕はエルハイミねーちゃんから姉さんを取り戻す! フェンリル姉さんは僕の姉さんなんだ!!」
「なら決まりね? あたしはソウマに着くわ。手伝ってあげる」
「セキ!? め、女神様に歯向かうと言うのですの!?」
「ふう、赤竜が味方に付くなら少しは期待が持てそうか? ソウマ、主を取り戻しに行こうぜ!」
ぴこっ!
「はぁああぁぁぁ、折角邪魔者が消えたってのに‥‥‥ 仕方ない、惚れたものの負けね。いいわ、ソウマ君あたしも付き合ってあげる。お前たち、あたしについて来て役に立ちなさい!!」
『えっ!? あたしたちも行くの!?』
『ミーニャ様、私共で夜伽以外でお役に立てるか‥‥‥』
「うっさい! いいからついてきなさい!!」
げしげし!
そう言いながらミーニャはリリスさんとソーシャさんを足蹴にする。
リリスさんは騒いでいるけど、なんでソーシャさんはうっとりと「もっとぉ♡」とか言っているのだろう?
「ソウマ君‥‥‥わかりましたわ。女神様に歯向かう代価はソウマ君が私を御嫁さんにしてくれると言う事で手を打ちましょうですわ‥‥‥」
「え? エマ―ジェリアさん何か言いました?」
「なんでもないですわ!! とにかく私も一緒に行ってあげますから今後ソウマ君は私をちゃんと面倒見なさいですわ!!」
この場に残ったみんなは何だかんだ言いながらみんな僕に協力をしてくれるようだ。
僕はもう一度姉さんとエルハイミねーちゃんが消えた虚空を見るのだった。
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