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第六章
第137話6-7リュード脱落
しおりを挟むリュードさんはミーニャと姉さんが抱き着く僕の前まで来てこう言った。
「主よ、悪いが次は俺の番だ。まっとうな勝負じゃ勝てないかもしれないがゲームなら勝機はある」
「あんた、誰よ?」
ミーニャはリュードさんを睨みながら聞く。
するとリュードさんはふっと笑いながら言い放つ。
「全てのかわいい少年の味方、リュード=ホリゾンとは俺様の事よ!」
「ホリゾン?」
ミーニャはそう言ってリュードさんを見る。
にやけた笑いをしているリュードさんをしばし見ていたミーニャは姉さんを見て言う。
「フェンリルさん、まさかさっきのお姉さま似の虫以外にもこんな虫までソウマ君に着けたんじゃないでしょうね?」
「知らないわよ、こいつが勝手について来てんのよ!」
そう言ってまたまた睨み合うミーニャと姉さん。
「あのぉ、二人ともまずは放してもらえないかな? いい加減引っ張られて痛いんだけど‥‥‥」
二人が本気で引っ張り合いしたら多分僕は死ぬだろう。
真っ二つに引き裂かれて。
「ああっ! ごめんソウマ!」
「ソウマ君、ごめんね! 痛かった?」
姉さんもミーニャもすぐに手を放してくれたけど多分引っ張られた腕は痣になっていると思う。
エマ―ジェリアさんがいてくれればお願いして直せるのだけどね、今は固まっちゃったままだ。
僕はエマ―ジェリアさんにとりあえず姉さんのポーチに手を突っ込んで毛布を出してやる。
それを固まったエマ―ジェリアさんにかけてからリュードさんを見る。
するとリュードさんはにっこりと笑って僕に投げキッスをする。
「ソウマのそう言う所好きだぜ。ソウマこれに勝ったら俺に付き合えよな? 男二人で飲もうぜ!」
「リュード、飲むのは良いけどその後に何かするつもりじゃないでしょうね? 私のソウマに手を出したらただじゃおかないわよ?」
「フェンリルさん、こいつ勝負する前に灰にして良いですか?」
なぎなたソードに手をかけ、ミーニャも手の平に炎を燃やしていた。
「おいおいっ! ゲームで勝負するって言ったんじゃないのかよ!?」
リュードさんは慌てて手を振るとミーニャは炎をしまってため息をつく。
「ちっ、約束だからね。その代わりあたしが勝ったらソウマ君は私のモノ、いいわね?」
「ああ、分かってるさ。さて何で勝負なんだ?」
リュードさんはそう言い顎に手を当てる。
ミーニャはリュードさんを一瞥してから指をパチンと鳴らす。
するとテーブルが現れその上に酒瓶と小さいコップが二つ。
ミーニャはそちらに歩いて行って椅子に座る。
「こいつで勝負ってどう? 飲み比べよ」
「へぇ、あんたのなりだけど酒なんて飲めるのかよ?」
するとミーニャは笑って小さなコップを目の前に持ち上げる。
そして小さいコップを振りながら言う。
「外観と中身を一緒にしない方が良いわよ? こう見えても覚醒しているからそこら辺のやつよりはずっとお酒には強いわ」
いや、魔王関係無しにミーニャって隠れてお酒飲んでたじゃないか!
果実酒とか良く内緒で飲んで怒られてたくせに。
思い起こせば僕も少しは飲めるようになったのはミーニャのせいだよなぁ。
いまだにそんなに強くはないけど。
「面白い、こう見えても俺も酒には結構自信あるんだぜ! ドワーフともいい勝負するからな!!」
言いながらリュードさんは椅子に座る。
『では魔王様、お注ぎいたします』
リリスさんがすっと出て来てミーニャの小さいコップにお酒を注ぐ。
そしてリュードさんの方にもリリスさんと同じ格好のお姉さんがやって来て同じくお酒を注ぐ。
「じゃあ始めましょうか!」
「おう、受けて立つぜ!」
ちんっ!
小さいコップを打ち鳴らし二人は一気にお酒をあおった。
小さいコップだから一気に飲み干す。
たんっ!
二人は同時にコップをテーブルの上に置く。
するとリリスさんたちがすぐにコップに次のお酒を注ぐ。
そしてまたコップをかかげてから二人はそれをあおる。
「ミーニャのやつ、村で内緒でお酒飲んでいたからってあのスピードで持つのかしら?」
「うーん、飲んではいたけどそんなに量は飲めないはずなんだよなぁ」
姉さんも僕も村でのミーニャを思い出す。
隠れて飲んでいたのは僕が無理やり飲まされたのを姉さんにも見つかって二人して怒られたこともあり姉さんもミーニャがお酒を飲んでいるのは知っている。
でもあの頃って飲んでもせいぜいコップに一杯くらいだったはず。
それなのに今のミーニャはリュードさんに決して負けずにカパカパとコップを飲み干していく。
「へへっ、なかなかいい飲みっぷりじゃねぇかよ?」
「ふん、こんなのまだ序の口よ?」
リュードさんが、たんっ! とコップを置きながらそう言うとミーニャも飲み干したコップを「ことっ」っとテーブルに戻す。
そしてリリスさんたちがまたお酒を注ぐのだけど‥‥‥
「もう瓶が六本目?」
ミーニャもリュードさんも淡々とコップを飲み干していくけど既にテーブルの上には飲み干したお酒の瓶がたくさん並び始めていた。
「ふうぅ、おいちょいと便所だ。何処だよ?」
「ふん、まあいいわソーシャ案内してやりなさい」
『はい、魔王様。こちらです』
リリスさんと同じ格好をしたお姉さんがリュードさんをトイレに連れて行く。
その間ミーニャはまだ飲んでいる。
「ミーニャ、そんなに飲んだら‥‥‥」
「うん? 大丈夫よ。魔王が覚醒してからあたしいくら飲んでも酔わないよねぇ~」
でもどう見てもほろ酔いなんだけど‥‥‥
僕が心配しているとミーニャはまだ飲み続けている。
「ミーニャ、もういい加減で村に帰ろうよ」
「いやっ! あたしはソウマ君と此処で暮らすの!」
「だからってミーニャがしている事は酷すぎるよ! 軍隊の人たちを悪魔に憑依させたり、町一つ悪魔と融合なんて! なんでそんなことするんだよ!?」
ぴたっ!
ミーニャは飲んでいたコップを止める。
そして僕を見てから首をかしげる。
「ソウマ君、何それ? あたしそんな事してないわよ?」
「だって、ここへ来るまでに僕は見たよ!? 町の住民が全部悪魔融合したり、変な遺跡で異界から悪魔たちを呼び寄せたり!」
「そうだね、それは事実だよ。魔王、君はこの世界を滅ぼすつもりか?」
ミーニャの返事に僕は抗議するとアガシタ様もミーニャを見ながらそう言う。
そしてメイドの二人もアガシタ様の前に出てミーニャを睨む。
するとミーニャは途端に機嫌が悪くなって声を荒げて叫ぶ。
「麒麟! 出て来なさい!!」
『はっ、魔王様ここに』
そう言ってミーニャに踏みつぶされ消えたはずの麒麟が床からせり上がって跪く。
「ソウマ君の話、本当なの?」
『恐れながら、事実にございます』
「何故そんな事をしたの? あたしの命令は世界征服をしろって事よね?」
『はっ、手法に関しましては恐れながら魔王様に提言いたしました通りでしたが、【ハーピーの雫】なる物を入手された魔王様は【任せる】とおっしゃったものですので』
言われてミーニャは一瞬ためらう。
そしてリリスさんを見るけどリリスさんもうんうんと頷いている。
『何かお気に触る事が有りましたでしょうか?』
「あ、ええぇとぉ~、そのやり方禁止ね。従う人間に憑依や融合禁止! 分かった?」
『はっ、魔王様の仰せのままに』
「ああ、あと、融合したのとか憑依したとか元に戻せる?」
『恐れながらそれをしてしまいますと力ある魔王軍はかなりの数が減ってしまいす。一度戻り再度召喚するにも憑依の母体となる物が弱き魂の持ち主ではこちらの世界で力が発揮できませぬが』
それを聞いたミーニャは舌打ちをする。
「ちっ! じゃあ、世界征服終わってからね。でもその前にソウマ君、あなたをあたしのモノにするわ!」
びしっ!
僕を指さしドヤ顔をするミーニャ。
「ミーニャ、させないわ。ソウマは私のモノ。絶対にさせない!!」
指さすミーニャの前に姉さんは立ち塞がりミーニャを睨む。
まずい、姉さんこのままだとミーニャに飛び掛かりそうだよ!
「おいおいおいっ! なんで麒麟がいるんだよ!? こいつ魔王に踏みつぶされていなくなったんじゃないのかよ!?」
トイレから戻ったリュードさんがこの場の空気を緩める。
「ふん、戻ったか。フェンリルさん、まずはこいつとの勝負が先です」
「‥‥‥」
ミーニャに言われ姉さんも大人しく引く。
そしてリュードさんとミーニャの飲み比べがまた始まる。
「でもミーニャがあんな酷い事やらせたんじゃ無かったんだ‥‥‥」
「だからと言って折檻部屋送りは無くならないわよ?」
僕は飲み比べをまた始めるミーニャを見ながらほっとする。
皆さんに迷惑をかけているけどミーニャはミーニャのままみたいだ。
たんっ!
「らちが明かないわね‥‥‥ リリス、瓶ごとよこしなさい!!」
『よろしいのですか、魔王様?』
言いながらミーニャは瓶を片手にラッパ飲みを始める。
「く、くそっ! 負けられるか!!」
リュードさんも同じくソーシャさんと呼ばれるお姉さんの手から瓶を奪い同じくラッパ飲みを始める。
「うわぁ、リュードさん大丈夫なの?」
「あちゃぁ~、あの飲み方は回るのよね」
見ていると次々と瓶を空にしている。
しかし何本目だろうか?
いきなりリュードさんの動きが止まる。
ぴたっ!
ばたっ
そしてそのまま倒れた!?
「ぷはぁっ! 普通の人間にしてはまあまあね。よくここまであたしに付き合えたものね」
どんっ!
ミーニャは全部飲み干した酒瓶をテーブルに置く。
リュードさんは身動き一つしない。
そしてリリスさんが宣言をする。
『この勝負、魔王様の勝ちです!』
途端にリリスさん、ソーシャさん、そして麒麟が拍手をする。
ぱいぱちぱち~
「ふっ、当然よ! ‥‥‥うっ! ちょ、ちょっとソウマ君失礼するね、お花を摘みに行ってくるわ!!」
言いながらミーニャはいそいそとトイレに向かって行った。
「いくらあの子でもあれだけ飲めばねぇ」
「いや、姉さんミーニャってばあの体の何処にこれだけの量が入って行ったんだよ‥‥‥」
僕はテーブルの上やその後ろ、リリスさんの足元に散らばる酒瓶を眺める。
うん、これってお風呂の水より多いんじゃないの?
僕はいつの間にかお腹がふくれて動かなくなり、そのまま灰色になって固まるリュードさんを見るのだった。
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