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第五章
第116話5-17お墓
しおりを挟む僕たちはモルンの町を出て一路東に向かっていた。
「そう言えばこの辺って‥‥‥」
姉さんはそう言いながらシェルさんの横に行く。
「シェル、この辺ってもしかして‥‥‥」
「思い出した? あなたのお墓も有るわよ?」
シェルさんはしれっとそう言う。
姉さんのお墓って何っ!?
シェルさんのその一言に僕は驚き見る。
するとそれに気づいたシェルさんは苦笑を浮かべ姉さんと僕に言う。
「魔王城に行く前に少し寄り道しましょう。元ルド王国はすぐだからね‥‥‥」
言いながらリュードさんに指示をして街道から少し離れた方向に向かわせる。しばらく行くとそちらにも道があり馬車でも十分に通れるようだった。
「こんな所に道かよ? 俺も知らなかったな‥‥‥」
「今は献花に来る者も少なくなったし、そもそもティアナが何度も転生するたびにあの人の元に戻っちゃうからどんどん忘れられて行ったのよ。でもあの人は違った‥‥‥」
そう言ってしばらく行くとやたらと開けた場所にたどり着いた。
そこは森の中にぽっかりと開いた場所。
木々は無くなり草でさえわずかにしか生えていない。
「あの戦いの傷跡よ。精霊力にも影響が出ていたみたいでここだけ草木が生えにくくなっているわ」
そう言って道が無くなったこの広場にシェルさんは真ん中に行くようにリュードさんに言う。
リュードさんは馬車を操り言われた方へ向かう。
「見えてきたわね」
シェルさんのその一言にみんな注目をする。
そこには大きな石碑が立っていた。
リュードさんはそこまで行くと馬車を止める。
シェルさんが真っ先にその場に降りる。
そして高さ数メートルはあるだろうその祭壇に向かう。
石碑の祭壇はいつも誰かが掃除しているかの様にピカピカだった。
「シェルこの場って‥‥‥」
「分かる? 初代ティアナ姫が死んだ場所よ。あなたは最後あの人を守って光の粒子になって天へと消えて行ったのよ?」
そう言って空を見上げるシェルさん。
「人間は不思議なもので転生しても最初のその人の事をやたらと気にかけるのよね?」
セキさんもそう言ってシェルさんの横に来る。
そして姉さんと僕を見てニカっと笑う。
「あたしら竜族にしてみれば目に映る外観なんてどうでも良いんだけどね? 魂でその人を見るから。でも最初のお母さんはあたしにとてもよくしてくれたのよ?」
そう言って姉さんに手を差し伸べる。
姉さんは一瞬ためらったけど手をセキさんに差し出す。
するとセキさんは姉さんの手を取りそれを自分の頬に持って行く。
「こうやってよくあたしのことを撫でてくれたのよ。フェンリルは忘れちゃったかもしれないけどね?」
「‥‥‥ううん、覚えてる。あなたはあの頃もっと小さく、子供だったわよね」
それを聞いてセキさんは嬉しそうにする。
「さて、当人のお墓参りでもする?」
シェルさんはそう言って祭壇の奥に僕たちを呼び寄せる。
そして僕たちはそこでティアナ姫の像を見た。
既に色あせているけど今の姉さんよりもっと長身で多分真赤な髪の毛なのだろう、それを背中まで伸ばしていて大きな胸が張り上げている軍服のいでたちだった。
僕はまじまじとその顔を見るけど、今の姉さんより少し釣り目で頬の辺にカールした癖っ毛が左右まとわりついている。
とても凛々しい大人の女性でもの凄く美人だった。
「これが私‥‥‥」
姉さんはその姿を見てそうつぶやく。
僕もその姿をもう一度見る。
「あっ!?」
その瞬間脳裏に金髪碧眼の少女といつも一緒に楽しそうにしている赤髪の女性の画像がよぎる。
「‥‥‥ティアナ姉ちゃん」
いつの間にかそうつぶやいていた。
そんな僕を姉さんはグイっと抱き寄せる。
「ソウマ、ジルの頃の記憶がよぎったのね? 大丈夫、私たちはまたこの世界で幸せに暮らせるのよ? 今度は私の本当の弟として‥‥‥」
「姉さん?」
姉さんはそれだけ言うと僕を放しシェルさんの元へ行く。
「シェル、これってあなたのお陰でしょ? 何時も奇麗にしてくれてありがとう」
「なんてことないわ。精霊たちにお願いしているの。それに幻覚の魔法を使っているから知らない人は勝手には入ってこれないわ」
そう言うシェルさんはバツが悪そうにちょっと頬を染めていた。
「しっかし、母さんのお墓っていつ来ても大きいわね? 墓標を作るにしてもやり過ぎじゃない?」
「あの人の趣味だから仕方ないわ。最初のティアナが忘れられなくてこんな墓標を立てちゃうんだものね」
「それにしてはその都度母さんの転生者のお墓ばかり作っているじゃない?」
え?
そんなに沢山ティアナ姫の転生者たちのお墓が有るの?
思わずセキさんとシェルさんを見てしまう僕。
それに気付きシェルさんはため息をつく。
「いっその事ティアナもエルフか何かにでも転生すればいいのだけどね。どんなに頑張っても百年もしないで死んじゃうのだもの、その都度あの人ったら号泣してお墓作るって言って聞かないのだもの。ティナの国だけでも数個もお墓が有るわよ!」
「え? あの子そんなにあちらこちらに私のお墓作ってるの!?」
姉さんが思わず引く。
まあ、転生者も人間なのだからその都度死んじゃえばお墓も必要になるよね?
「はぁ、でも女神様って初代ティアナ姫のお墓だけは気合の入りようが違いますわね? 私の知っているティアナ姫の転生者のお墓ってもっと小さかったのにですわ」
「エマ―ジェリアさんもティアナ姫のお墓知っているんですか?」
不思議に思いそう言うとエマ―ジェリアさんは僕の顔を見てぱちくりとする。
「ティナの国の『鋼鉄の鎧騎士』封印の間に有りましたわよ? たしか『ティアナ姫の転生者ティアーヌここに眠る』と」
思わず姉さんもエマ―ジェリアさんを見る。
「し、知らなかった、四人目の私のお墓がそんな所に在っただなんて‥‥‥」
「四人目って、姉さん一体全体何回転生しているんだよ!?」
「十回以上は‥‥‥」
初めて知った姉さんの転生回数!
という事はそれだけあちこちに姉さんのお墓が有るって事!?
「まあ、それでもここだけは特別よね、全ての『ティアナ』たちの最初だもの」
そう言ってシェルさんはポーチからお花を取り出す。
そして祭壇に献花する。
「当人を目の前に言うのは変だけど、あなたの守ったこの世界はきっと守り抜いてみせるわ、ティアナ」
シェルさんはそう言って踵を返す。
姉さんはそんなシェルさんを見てため息をついてから歩き出す。
「なら余計に頑張らなきゃね。シェル!」
僕たちはそんな姉さんたちにくっついて行くのだった。
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