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第五章

第100話5-1首都へ向けて

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 「だから私たちに付きまとわないでってばぁっ!!」


 姉さんは苛立っていた。
 昨日もなんだかんだ言って宿まで押し寄せ家臣にしてくれなければ僕たちの部屋にずっといるとか、今朝の出発も一緒についてくるとかリュードさんはかなり強引だった。


 「まさかゾナーの子孫とはね。道理で何処かで見た事のある甲冑なわけだ」

 「ゾナーってあんな甲冑だったっけ?」

 「まさかこの不躾な男がホリゾン公国初代公王の子孫だなんてですわ! でもなんでホリゾン公国の公王をやっていないのですの?」

 「あ、それ僕も気になってたところです。何で冒険者紛いの事やってたんですかね?」


 馬車に揺られながら僕たちは首都エリモアを目指しているけど馬に乗ったリュードさんはずっと馬車の横で姉さんに懇願している。

  
 「ん? 俺かぁ? ホリゾン公国は世襲制じゃないんだよ。初代の公王が強固な国にする為には王族の血筋だけじゃ駄目だから力のある者が王座に就くべきだってね。だから元公王の子孫に機会はあるが必ず公王になれるわけじゃない。俺たちの一族は早々に公王の座を辞退して家訓のを全うする為に何処かに転生するティアナ姫を探していたんだよ」

 「何それ? じゃあゾナーの奴は一族に伝えていなかったの? ジルの村にティアナが転生する確率がとても高いって事?」


 リュードさんの説明にシェルさんはやや驚き見返すとリュードさんは首をひねった。


 「ジルの村って何だ? そんな話は聞いた事ねーな??」

 どうやら僕たちの村の事すら知らないらしい。
 僕はシェルさんを見る。


 「まあジルの村はもともと隠れ里だからね。採掘される鉱石が特殊なものが多いし、普通じゃ無い人が多いからね」

 「言われてみればそうだったわね。今ならだれが転生しているか分かりそうだけど」

 シェルさんはそう言いながら手に持つ手綱を引き締める。
 姉さんはなぎなたソードの柄を取り出しまじまじと見ている。


 「なぁなぁ、そんな事より俺を家来にしてくれよ! ずっと探していたんだ!」

 「はぁ、知ってるの私たちの目的?」


 姉さんはなぎなたソードの柄をしまいリュードさんに聞く。


 「魔王の討伐だろ? こう見えても腕には少しは自信が有るんだぜ!!」


 リュードさんはそう言って腕をガシッと持ち上げて力こぶを叩く。
 姉さんはため息をついてからシェルさんに言う。

 「シェル、ちょっと馬車を止めて。こいつを諦めさせるわ」

 「ん? リュードはそこそこ使えるけど、いいの?」


 「ソウマに変な虫付けさせるわけにはいかないわよ!!」


 「そっちが本音なのですのっ!?」

 何やら姉さんはリュードさんを追い返す為の行動に出る様だ。
 これって、村でも面倒になると姉さんがやっていた叩きのめして諦めさせるってやつだ!

 姉さんに交際を申し込んできた男の人をいっつもコテンパンに叩きのめして諦めさせていたやつだ!!


 「エ、エマ―ジェリアさん回復の魔法お願いしますね‥‥‥」

 「はい? フェンリルさんが怪我するとでも言いますの?」

 「いや、リュードさんが心配で‥‥‥」

 
 僕がこっそりエマ―ジェリアさんにお願いしていると馬車は止まり、姉さんがリュードさんを引き連れて近くの広い場所へ移動する。


 「どれだけ実力が有るか知らないけど、私にあっさり負ける様なら大人しく帰ってもらうわよ!?」


 「へぇ、手合わせかい? 勿論良いぜ!」


 ばっ!


 言うが早いかリュードさんは剣を引き抜き姉さんに切り掛かる。

 
 「そんなモノ!」


 姉さんはリュードさんの剣を受け流し三十六式が一つ、ダガーを打ち込む。
 リュードさんは交わされるのを予想していたみたいで姉さんの拳を弾くけど姉さんはそのまま肘を曲げ肘打ちに攻撃を移行させる。
 でもリュードさんはそれすら予測していた様で姉さんの肘打ちを寸前の所でかわして剣の柄を姉さんの頭上に落とす。

 姉さんもれを寸前でかわし、なぎなたソードを振って距離を取る。
 リュードさんは姉さんの一撃をしっかりと剣で防いで構え直す。


 「ふん、普通の戦いはかなり手馴れているじゃない?」

 「お褒めに預かり光栄です。さて、これで主の技量は分かった。少し本気を出させてもらうぜ!!」


 そう言って剣を構える。
 って、あの構えは!?


 「ガレント流一の型、牙突!!」


 リュードさんは左手に剣の切っ先を乗せたと思うと一気に踏み込んで片手での突きを繰り出す。


 「ガレント流剣技六の方、逆さ滝!!」


 姉さんはガレント流剣技六の型、逆さ滝でリュードさんの牙突を跳ね上げる。
 しかもその剣圧は並ではなく、飛び込んだリュードさん自身も宙に浮かび上がらせる程だ。

 「うおぅっ! ここまでとはなっ! だがっ!」

 完全に宙に浮かび上がらせて姉さんの恰好の的になったリュードさんはそれでも剣を引き身構える。


 「これで終わりよ! ガレント流剣技五の型、雷光!!」


 どんっ!


 姉さんの強い踏み込みと同時に俊足のその抜刀術は姉さん自信の姿を消し、リュードさんに迫る。
 しかしリュードさんは目の色を金色に変え「同調」をする。


 「まだまだぁっ! 八方切り!!」


 姉さんの雷光がケガさせない為みね打ちに放たれているけどそれの軌道を読んで一瞬に足場が無いのにリュードさんは宙で八方向に剣を振る。
 そしてそのうち一つが姉さんの雷光に当たりその一撃を食い止める。


 がきぃいいぃぃん!


 「なっ!?」


 どんっ

 ばっ!!


 雷光を受け止められた姉さんが驚いたその一瞬にリュードさんは地面に着地してすぐに飛び退く。
 そして姉さんと距離を保った。


 「流石本家のガレント流剣技。その技の切れは流石だな! だが俺らもそれらの剣技や体術をどん欲に取り込んでいった。そう簡単にはやられねえぞ!」
 
 「ならっ!」


 どんっ!!


 姉さんはそう言って瞳の色を金色に輝かせる。
 姉さんも「同調」をしたのだ!


 「ふう、流石伝説のティアナ姫の生まれ変わり。同調も出来んのかよ?」

 「大きなお世話よ! 確かにあなたは強いかもしれないけど私には敵わない! ガレント流剣技九の型、九頭閃光!!」


 かっ!


 姉さんがガレント流剣技最終型の九頭閃光を放った。
 ただでさえ威力があるのに「同調」までしたその一撃は光り輝い九つの龍になってリュードさんを襲う。

 
 「流石だが力にだけ頼り過ぎている! ガレント流剣技八の型、凪流閃!!」


 何とリュードさんは剣を逆手に持ちガレント流八の型、凪流閃で九頭閃光を受ける!?
 でも凪流閃で一度に九つの攻撃をかわすには無理があるはず。

 でもその瞬間リュードさんの体が半透明になったかのようにうっすらとなり姉さんの九頭閃光のうち八つの光が受け流される。


 「凄いっ!」


 思わず叫んでしまう僕。
 あれって高速で八つの打撃を受け流したって事だよね!?


 しかし最後の一撃がリュードさんの胸に迫る。
 それはリュードさんの胸に吸い込まれ決まったかのように見えた。

 でも突き出した剣先をリュードさんは持った剣を手放し、両の手で挟んだ!!!!


 「なっ!? 私の九頭閃光が止められた!!!?」

 「流石にただじゃすまなかったがこれで剣は使えなくなったぞ!?」


 と、ここでシェルさんが声を上げる。


 「そこまでっ!! フェンリル、もういいでしょう? エマ、リュードの手を治してあげて」


 姉さんとリュードさんはその場で止まって身動き一つしない。

 「私の九頭閃光を止めたのはあなたが初めてだわ‥‥‥」

 「へへっ、凄いだろ?」

 僕たちは姉さんのすぐそばまでやって来る。
 姉さんは剣を引きリュードさんはその場でしりもちをつく。

 「流石伝説のティアナ姫だ、結構やばかったが剣を手放しちまったが、あんたの剣を封じたからおあいこってのはどうだ?」

 「‥‥‥ふんっ、勝手にしなさい」

 「おっ!? じゃあ家臣にしてくれるのか? 姫!」

 「姫言うなっ! 私はフェンリル、フェンリルでいいわよ!」

 エマ―ジェリアさんケガした手の治療を受けながらリュードさんはそう言う。
 姉さんはプイっとそっぽを向くけど握ったなぎなたソードが震えていた。


 「ふぅん、人間にしちゃぁ結構やるわね? でもまだ何か隠しているんじゃない?」

 セキさんが覗き込んできてリュードさんにそう言う。
 リュードさんはエマ―ジェリアさんに治療をしてもらった手のひらをにぎにぎと確認しながらニカリと笑い答える。

 「それは秘密さ。それより坊主、いやソウマ! これから仲良くしようぜぇ!!」


 「ちょっ! それはダメぇっ!! ソウマは私のなんだからぁッ!!!!」

 「ぶっ!」

 
 にこやかに僕に握手を求めてくるリュードさんに姉さんは僕に抱き着いてさらうかのようにリュードさんから距離を取る。


 「ソウマを変な道に目覚めさせる訳にはさせないわっ!!」


 「いや、フェンリルさん自体がそれでは無いのですの?」

 冷静なエマ―ジェリアさんの突込みに僕は姉さんの胸でもがきながら叫ぶ。



 「どうでもいいから助けてっ!」


 と。 

  
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