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第四章
第84話4-15記憶の扉
しおりを挟む「まさかあの『鋼鉄の鎧騎士』をフェンリルに使わす気だなんてね」
翌日宴の後にシェルさんはアナス王女様の提案を聞いてそう言う。
僕の姉はティアナ姫の生まれ変わりだそうで、その封印されている「鋼鉄の鎧騎士」はティアナ姫でないと扱えないと言う特別なモノ。
伝説の「狂気の巨人」とも渡り合ったと言う凄い物らしい。
「あたしは賛成ね。もしそれでお母さんの記憶が戻ればうれしいもの」
「フェンリルさんがティアナ姫になるって事ですの?」
セキさんは賛同しているけどエマ―ジェリアさんの言う事が僕も気になる。
だってティアナ姫の事を思い出したら姉さんじゃなくなっちゃうのかな?
「もしフェンリルがティアナだった事を思い出しても今のフェンリルでいるかティアナになるかはフェンリル自身が決める事よ。ただ、ティアナになるつもりならこのオーブを渡すわ。これにはあなたが今まで転生して来た時の記憶が詰まっている。今まであなたがこの世界に戻って来た時に何をしてきたかが分かるようにしてあるわ」
シェルさんはそう言ってポーチから手のひらサイズのオーブを取り出す。
それは虹色にキラキラ輝いていてとても奇麗なモノだった。
「あの、もし仮に私が昔を思い出しちゃったらソウマの事を嫌いになっちゃうんですか?」
姉さんはもの凄く真剣にシェルさんに聞く。
するとシェルさんはあっけらかんと答える。
「それは無い。むしろ愛情の多様性に苦しむかもしれないけど、今のフェンリルが誰かを好きって気持ちはティアナになっても引き継がれるわ。だから三百年前のあなたはあの人と同時にもう一人を愛してしまいその結果あの人は私やコクを受け入れてくれたの。だから無理にとは言わないけど決めるのはあなた自身よ」
シェルさんはそう言ってオーブをポーチにしまう。
姉さんは少し考えていたけど顔を上げてアナス王女様にお願いをする。
「上手く行くかどうかわかりませんが、お願いします。その『鋼鉄の鎧騎士』が手に入れば大幅な戦力アップになるのでしょう?」
「伝説ではその力はそちらにいる赤竜様にも劣らないと言われています」
アナス王女様にそう言われ僕や姉さんは思わずセキさんを見る。
「ああ、あの『鋼鉄の鎧騎士』かぁ、確かに再生前のあたしにだって負けなかったわね。空飛ぶし、あたしの女神殺しの炎だって防いじゃうし」
それを聞いた僕と姉さんは驚く。
もしそんなものが手に入ればミーニャの呼び出す悪魔たちも、そして「鋼鉄の鎧騎士」も何とかなるのじゃないだろうか?
「フェンリルがやるってのなら止めないわ。フェンリル?」
「はい、やります!」
シェルさんに最後の確認をされ姉さんははっきりとそう答えるのだった。
* * *
そこはこのお城の地下だった。
姉さんは周りをきょろきょろと見まわしている。
「ここ知ってる‥‥‥」
姉さんはそうぽつりと言う。
そしてエマ―ジェリアさんを見る。
「そう、私はエマ―ジェリアさんと同じ金髪碧眼の女の子と一緒にいた‥‥‥」
独り言をぽつりぽつり言う姉さんにシェルさんが気付いた。
そして姉さんのそばまでやって来る。
「フェンリル、もしかして記憶が戻り始めた? もしそうならゆっくりでいいわ。無理はしないで」
シェルさんにそう言われ姉さんは顔の半分を手で覆う。
もしかして本当に思い出してきたのかな?
「分からない。でも胸の奥からうずうずした感じがする。あの子は誰? あの子は私の、私の何!?」
「フェンリルさん、大丈夫ですか? もうじき封印の間ですが無理ならばやめますか?」
アナス王女様にそう言われた姉さんは軽く頭を振ってそれでもはっきりと言う。
「いえ、大丈夫です。何故かはわかりませんが私はそこに行かなきゃならない気がします!」
姉さんはそう言ってまた階段を降り始める。
シェルさんとアナス王女様は顔を見合わせ頷いてからまた階段を降り始めた。
そして間もなく僕たちの前に大きな扉が現れた。
それは重々しい鉄の扉で厳重に鍵や鎖がかけられている。
「ここが封印の間です。フェンリルさん、本当によろしいのですね?」
最後にもう一度だけアナス王女様は姉さんに聞く。
姉さんは黙ったまま頷くとアナス王女様は扉に振り返り両手を上げて呪文を唱え始める。
「古代魔法語ですの? 今は失われた言葉ですの!?」
「良く分かったわね、エマ。オリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』を扱えるのはティアナの魂を持つ者だけ。彼女がそう言う風に細工したから他の人が乗ってもピクリとも動かなの。そしてオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』の中でも魔王の支配が及ばない機体。それがこのティアナの『鋼鉄の鎧騎士』なのよ」
シェルさんはエマ―ジェリアさんの疑問に答えながら扉を見る。
するとアナス王女様の呪文が完成してその重々しい扉は長い時を経て久しぶりに開き始めるのだった。
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