上 下
74 / 221
第四章

第73話4-4聖地ユーベルト

しおりを挟む

 「それではシェル様、よろしくお願いしますわ」


 エマ―ジェリアさんがそう言いシェルさんがゲートを起動する。
 いつも通り足元から光のカーテンがせり上がって来て周りがいったん見えなくなるとまた足元へと引いていく。
 そしてそれが終わると周りの風景が一変する。

 そこは静かな場所だった。

 いくつもの白い柱が立ち並び静寂が支配する空間。
 そこに淡く光る魔法陣が徐々にその輝きを消していく。


 「ふう、戻ってきちゃったわね」

 セキさんは真っ先にそうつぶやき大きくため息をつく。

 「今の時間はちょうどお祈りの時間ですわね?」

 エマ―ジェリアさんはそう言って魔法陣から一番近い扉に向かう。
 その後をセキさんやシェルさんが付いて行く。
 僕や姉さんもその後を付いて行くわけだけど、今ってお祈りの時間なんだ。


 「結界は‥‥‥問題無いようね? まあ母さんの作った結界だもの、そうそう変なことは無いわよね?」

 「そうね、彼女の力を超えるなんてまず不可能でしょうしね。それに力の源である『女神様の涙』がある限りここは絶対に安全だものね」

 セキさんもシェルさんもいろいろと詳しいみたいだな。

 僕はちらっとエマ―ジェリアさんを見る。
 彼女はいつも通りにしているけど心なしか少し緊張した表情をしている。

 扉を開き僕たちはエマ―ジェリアさんに付いて行くのだった。


 * * *

 
 「よく戻りました。して、女神様の愛するお方は見つかったのですか?」

 「ええ、シェル様のお話ではこの方がそうだそうですわ。フェンリルさん、ソウマ君こちらは大司祭様のエドガー様ですわ」


 エマ―ジェリアさんに付いてやって来た場所は神殿の応接間で神官の人に戻った事を報告してここで待つように言われていたのだった。

 髪の毛がほとんど白く温和な感じの大司祭様。
 彼は僕たちに手を差し伸べながら挨拶をしてくる。


 「お初にお目にかかります。私は当神殿の大司祭を務めますエドガーと言います。フェンリルさん、ソウマ君よく来られた」

 「あ、フェンリルです」

 「ソウマです。こんにちわ」


 姉さんも僕もその手を握り返し挨拶をする。


 「お久しぶり、エドガー。変わりはないよね?」

 「シェル様もお変わりないようで。エマとセキ様がいきなりベイベイに行くと言い出し驚きましたが、後でティアナ様がこちらに戻ったと聞き女神様にもご報告してお慶び申し上げていたのです」

 「あ~、エドガーそれなんだけどね‥‥‥」

 シェルさんはそう言い腰のポーチから手のひらに収まるくらいのオーブを取り出す。
 エドガーさんはそれを見て驚く。


 「オーブがまだここにあると言う事は、まだ記憶が戻っておりませんか?」


 「そう言う事、だから彼女への報告はその事も追加してね」

 それを聞いたエドガーさんはとても残念そうな表情をする。
 そして「女神様、あなた様には残念なお知らせになってしまいます」などとつぶやいている。


 「思い出してはいないけど、フェンリルたちにはやってもらわなければならない事が有るのよ。だからここでエマの補給が終わり次第、私たちは出発します」

 残念がるエドガーさんにシェルさんはそう言う。
 するとエドガー大司祭様はシェルさんに向き直り顎に手を当て思い出すかのように言う。

 「シェル様が動いているのは噂の『魔王』ですか? 北の大地は既に魔王軍に占領され東の大陸にもその影響が出ていると聞きます。ボヘーミャからの情報もいただいておりますが我々も動いた方が良いのでしょうか?」

 「いえ、これ以上被害拡大は良くないわ。だから私たちが直接乗り込みます。こちらには魔王ミーニャに親しい関係者がいますから」


 「「う”っ!」」


 シェルさんのその答えに思わずうめいてしまう僕たち。
 ミーニャってば皆さんにご迷惑ばかりかけて出身が僕たちのジルの村だってばれたら折檻部屋送りだっていうのに!


 「ですので大司祭様、私の補給が終わり次第またセキと共にシェル様にお供して魔王討伐に向かいますわ!」

 エマ―ジェリアさんはそう言ってぐっとこぶしを握りながらシェルさんをちらちらと見る。


 「エマはシェルと一緒にいたいだけでしょうに。まあ神殿から出れるからあたしは良いんだけどね? エドガー、ここの守りは問題無いのでしょう?」

 「はい、セキ様。女神様のご加護がありますゆえしばしの間であればセキ様不在でもなんとかなりましょう。しかし魔王討伐にフェンリルさんたちも必要なのですか? 万が一フェンリルさんの御身に何か有りましたら我々女神教の立場がございませぬが‥‥‥」

 何故かエドガー大司祭様は姉さんを見ながら心配そうにする。


 「あの、前から気になっていたんですけど、私って女神様とどんな関係だったんですか?」

 たまらず姉さんはエドガー大司祭様に聞く。
 エドガー大司祭様はシェルさんを見るとシェルさんはあきらめたかのようにため息をついて頷く。


 「少し長くなりますが、お話ししましょう。フェンリルさんが女神様にとってどれほど大切な方かと言う事を」


 * * * * *


 その昔このユーベルトから魔道に関して天才的な令嬢が生まれた。

 彼女はガレント王家とも血縁のあるハミルトン家の生まれで幼少の頃より秀でた魔術で周りを圧倒していたらしい。
 そしてガレント王国の姫様、ティアナ姫と恋仲に落ちそして伴侶となった。

 しかし世界を救うために犠牲になったティアナ姫は古い女神様の力によって未来永劫彼女のもとへ転生出来る事になった。

 だけどこの世界はティアナ姫の犠牲だけでは世界の平和は掴むことが出来なかった。

 悪魔の神や魔王からの魔の手を阻むために彼女は大いなるお方の力を受け入れ女神となった。


 それが今の女神様。


 元は人の身でありながら女神様にまでなってしまった偉大なお方。
 そしてこの千三百年間女神様の教えの元僕たちは過せてきたわけだ。



 「女神様はとても慈悲深きお方。そんな女神様はこの世界を守るために今この時も尽力なさっている。そう、また会えるはずのティアナ姫の為に」

 「は、はぁ‥‥‥」

 エドガー大司祭様は上を向いて女神様の名を唱える。
 そんな大司祭様を姉さんは脂汗を流しながら見ている。


 「つまり、そのティアナ姫ってのが私の前世と言う事ですか?」


 「いえいえ、あなた様は過去に何度も転生なされています。そのほとんどが女神様に召され幸せな時を過ごしていたと聞き及んでおります。そうそう、こちらのエマにも数世代前のあなた様たちのお子の血が流れております」

 そう言ってエマ―ジェリアさんを招く。


 「え”っ!?」


 思い切り驚く姉さん。
 僕も思わずエマ―ジェリアさんを見る。

 「先祖返りなのよね、エマのその姿は彼女とよく似ているのよ」

 「そうね、あ、あたしの今の姿も再生する時にティアナ姫と女神の二人の魔力を注ぎ込んでもらったのでこんな人型になっちゃったんだよね~」


 「え”ぇっ!?」


 またまた驚く姉さん。

 「それどころか黒龍様も私とよく似ていますの。いえ、正確には女神様に似ているのですわ。黒龍様も再生する時に女神様の魔力で再生したと聞いていますわ」



 「「え”ぇっ!!!?」」



 エマ―ジェリアさんのその言葉に今度は僕も一緒に姉さんと驚きの声を上げる。


 「つまり、ここにいるみんなって全部女神様の関係者!? 私も含めて!!!?」


 「うーん、ソウマも関係者なのよ。その昔は私の弟分だったしね」

 既に混乱が始まりそうな姉さんに追い打ちをかけるかのようにシェルさんが言う。
 勿論その言葉に僕も驚く。


 「僕がシェルさんの弟分だった? どう言う事です!?」

 「ソウマ、あなたもあのジルの村で何度も転生しているのよ。あなたは『ジル』と言う少年だったの。私があなたに弓を教えたりしていたのよ」


 シェルさんはそう言って懐かしそうに微笑む。


 どきっ!


 そう、その笑顔だ。
 僕の胸の中からいつもその笑顔を見ると心臓が高鳴る。

 そうか、これって昔の僕がシェルさんを知っていたからなのか‥‥‥


 「そんな‥‥‥ でも、でもやっぱり私はソウマが良いっ!! 嫌ぁっ! 女神様に食べられちゃうのはぁ!!」

 「ぶっ!」


 僕がシェルさんのその笑顔に見とれていると姉さんがいきなり抱き着いてくる。
 

 「やだやだやだぁっ! 女の人同士で何てっ! 私はソウマが良いのぉ―っ!!」

 「ぶはっ! 姉さん離れてよ! 苦しいってっ!」

 「ヤダヤダやだぁーっ! もうソウマのいけずぅーっ!」



 そして僕が気を失うまで姉さんに振り回される事になるのは言うまでも無かったのだった。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

処理中です...