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第四章
第73話4-4聖地ユーベルト
しおりを挟む「それではシェル様、よろしくお願いしますわ」
エマ―ジェリアさんがそう言いシェルさんがゲートを起動する。
いつも通り足元から光のカーテンがせり上がって来て周りがいったん見えなくなるとまた足元へと引いていく。
そしてそれが終わると周りの風景が一変する。
そこは静かな場所だった。
いくつもの白い柱が立ち並び静寂が支配する空間。
そこに淡く光る魔法陣が徐々にその輝きを消していく。
「ふう、戻ってきちゃったわね」
セキさんは真っ先にそうつぶやき大きくため息をつく。
「今の時間はちょうどお祈りの時間ですわね?」
エマ―ジェリアさんはそう言って魔法陣から一番近い扉に向かう。
その後をセキさんやシェルさんが付いて行く。
僕や姉さんもその後を付いて行くわけだけど、今ってお祈りの時間なんだ。
「結界は‥‥‥問題無いようね? まあ母さんの作った結界だもの、そうそう変なことは無いわよね?」
「そうね、彼女の力を超えるなんてまず不可能でしょうしね。それに力の源である『女神様の涙』がある限りここは絶対に安全だものね」
セキさんもシェルさんもいろいろと詳しいみたいだな。
僕はちらっとエマ―ジェリアさんを見る。
彼女はいつも通りにしているけど心なしか少し緊張した表情をしている。
扉を開き僕たちはエマ―ジェリアさんに付いて行くのだった。
* * *
「よく戻りました。して、女神様の愛するお方は見つかったのですか?」
「ええ、シェル様のお話ではこの方がそうだそうですわ。フェンリルさん、ソウマ君こちらは大司祭様のエドガー様ですわ」
エマ―ジェリアさんに付いてやって来た場所は神殿の応接間で神官の人に戻った事を報告してここで待つように言われていたのだった。
髪の毛がほとんど白く温和な感じの大司祭様。
彼は僕たちに手を差し伸べながら挨拶をしてくる。
「お初にお目にかかります。私は当神殿の大司祭を務めますエドガーと言います。フェンリルさん、ソウマ君よく来られた」
「あ、フェンリルです」
「ソウマです。こんにちわ」
姉さんも僕もその手を握り返し挨拶をする。
「お久しぶり、エドガー。変わりはないよね?」
「シェル様もお変わりないようで。エマとセキ様がいきなりベイベイに行くと言い出し驚きましたが、後でティアナ様がこちらに戻ったと聞き女神様にもご報告してお慶び申し上げていたのです」
「あ~、エドガーそれなんだけどね‥‥‥」
シェルさんはそう言い腰のポーチから手のひらに収まるくらいのオーブを取り出す。
エドガーさんはそれを見て驚く。
「オーブがまだここにあると言う事は、まだ記憶が戻っておりませんか?」
「そう言う事、だから彼女への報告はその事も追加してね」
それを聞いたエドガーさんはとても残念そうな表情をする。
そして「女神様、あなた様には残念なお知らせになってしまいます」などとつぶやいている。
「思い出してはいないけど、フェンリルたちにはやってもらわなければならない事が有るのよ。だからここでエマの補給が終わり次第、私たちは出発します」
残念がるエドガーさんにシェルさんはそう言う。
するとエドガー大司祭様はシェルさんに向き直り顎に手を当て思い出すかのように言う。
「シェル様が動いているのは噂の『魔王』ですか? 北の大地は既に魔王軍に占領され東の大陸にもその影響が出ていると聞きます。ボヘーミャからの情報もいただいておりますが我々も動いた方が良いのでしょうか?」
「いえ、これ以上被害拡大は良くないわ。だから私たちが直接乗り込みます。こちらには魔王ミーニャに親しい関係者がいますから」
「「う”っ!」」
シェルさんのその答えに思わずうめいてしまう僕たち。
ミーニャってば皆さんにご迷惑ばかりかけて出身が僕たちのジルの村だってばれたら折檻部屋送りだっていうのに!
「ですので大司祭様、私の補給が終わり次第またセキと共にシェル様にお供して魔王討伐に向かいますわ!」
エマ―ジェリアさんはそう言ってぐっとこぶしを握りながらシェルさんをちらちらと見る。
「エマはシェルと一緒にいたいだけでしょうに。まあ神殿から出れるからあたしは良いんだけどね? エドガー、ここの守りは問題無いのでしょう?」
「はい、セキ様。女神様のご加護がありますゆえしばしの間であればセキ様不在でもなんとかなりましょう。しかし魔王討伐にフェンリルさんたちも必要なのですか? 万が一フェンリルさんの御身に何か有りましたら我々女神教の立場がございませぬが‥‥‥」
何故かエドガー大司祭様は姉さんを見ながら心配そうにする。
「あの、前から気になっていたんですけど、私って女神様とどんな関係だったんですか?」
たまらず姉さんはエドガー大司祭様に聞く。
エドガー大司祭様はシェルさんを見るとシェルさんはあきらめたかのようにため息をついて頷く。
「少し長くなりますが、お話ししましょう。フェンリルさんが女神様にとってどれほど大切な方かと言う事を」
* * * * *
その昔このユーベルトから魔道に関して天才的な令嬢が生まれた。
彼女はガレント王家とも血縁のあるハミルトン家の生まれで幼少の頃より秀でた魔術で周りを圧倒していたらしい。
そしてガレント王国の姫様、ティアナ姫と恋仲に落ちそして伴侶となった。
しかし世界を救うために犠牲になったティアナ姫は古い女神様の力によって未来永劫彼女のもとへ転生出来る事になった。
だけどこの世界はティアナ姫の犠牲だけでは世界の平和は掴むことが出来なかった。
悪魔の神や魔王からの魔の手を阻むために彼女は大いなるお方の力を受け入れ女神となった。
それが今の女神様。
元は人の身でありながら女神様にまでなってしまった偉大なお方。
そしてこの千三百年間女神様の教えの元僕たちは過せてきたわけだ。
「女神様はとても慈悲深きお方。そんな女神様はこの世界を守るために今この時も尽力なさっている。そう、また会えるはずのティアナ姫の為に」
「は、はぁ‥‥‥」
エドガー大司祭様は上を向いて女神様の名を唱える。
そんな大司祭様を姉さんは脂汗を流しながら見ている。
「つまり、そのティアナ姫ってのが私の前世と言う事ですか?」
「いえいえ、あなた様は過去に何度も転生なされています。そのほとんどが女神様に召され幸せな時を過ごしていたと聞き及んでおります。そうそう、こちらのエマにも数世代前のあなた様たちのお子の血が流れております」
そう言ってエマ―ジェリアさんを招く。
「え”っ!?」
思い切り驚く姉さん。
僕も思わずエマ―ジェリアさんを見る。
「先祖返りなのよね、エマのその姿は彼女とよく似ているのよ」
「そうね、あ、あたしの今の姿も再生する時にティアナ姫と女神の二人の魔力を注ぎ込んでもらったのでこんな人型になっちゃったんだよね~」
「え”ぇっ!?」
またまた驚く姉さん。
「それどころか黒龍様も私とよく似ていますの。いえ、正確には女神様に似ているのですわ。黒龍様も再生する時に女神様の魔力で再生したと聞いていますわ」
「「え”ぇっ!!!?」」
エマ―ジェリアさんのその言葉に今度は僕も一緒に姉さんと驚きの声を上げる。
「つまり、ここにいるみんなって全部女神様の関係者!? 私も含めて!!!?」
「うーん、ソウマも関係者なのよ。その昔は私の弟分だったしね」
既に混乱が始まりそうな姉さんに追い打ちをかけるかのようにシェルさんが言う。
勿論その言葉に僕も驚く。
「僕がシェルさんの弟分だった? どう言う事です!?」
「ソウマ、あなたもあのジルの村で何度も転生しているのよ。あなたは『ジル』と言う少年だったの。私があなたに弓を教えたりしていたのよ」
シェルさんはそう言って懐かしそうに微笑む。
どきっ!
そう、その笑顔だ。
僕の胸の中からいつもその笑顔を見ると心臓が高鳴る。
そうか、これって昔の僕がシェルさんを知っていたからなのか‥‥‥
「そんな‥‥‥ でも、でもやっぱり私はソウマが良いっ!! 嫌ぁっ! 女神様に食べられちゃうのはぁ!!」
「ぶっ!」
僕がシェルさんのその笑顔に見とれていると姉さんがいきなり抱き着いてくる。
「やだやだやだぁっ! 女の人同士で何てっ! 私はソウマが良いのぉ―っ!!」
「ぶはっ! 姉さん離れてよ! 苦しいってっ!」
「ヤダヤダやだぁーっ! もうソウマのいけずぅーっ!」
そして僕が気を失うまで姉さんに振り回される事になるのは言うまでも無かったのだった。
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