61 / 221
第三章
第60話3-19生贄の村
しおりを挟む僕たちは翌日、昨日の続きの断崖絶壁を登っている。
「ぜぇぜぇ、ま、まだですの?」
エマ―ジェリアさんがだいぶ疲れている様だった。
うーん、村の外の人ってこういった事しないから壁登り苦手なのかなぁ?
僕たちの村では崖から落ちると登ってくるしかないから結構小さい頃から壁登りするんだけどなぁ。
「なんか危なっかしいわね? シェルさんがエマ―ジェリアさんだけでも抱きかかえてあげたらどうですか?」
「いや、それやっちゃうとエマが余計に調子に乗るから駄目よ」
「そんなぁ、シェル様ぁ~ですわぁ~!!」
そんな様子を見ていた姉さんはため息ついて器用にポーチからアイミを引っ張り出す。
「アイミ、エマ―ジェリアさんを乗せて一足先に崖の上まで飛んで!」
ぴこっ!
アイミはすぐに嬉しそうにエマージェリアさんを抱きかかえ上へ飛んで行った。
「のっひょぉおぉぉぉぉっ! 早過ぎですわぁっ!!」
あ、もうあんなに上に行っちゃった。
「アイミに乗れれば楽だったなぁ。あ、一人一人運んでもらえばよかったんじゃない!!」
今更ながらに姉さんはそれに気づく。
でもあと少しで着くってダグスさんも言っているしもうひと踏ん張りかな?
僕たちはその後ひょいひょいと壁を登って崖の上にまで行くのだった。
* * *
「着きました、ここがエデルの村です」
案内役のダグスさんは断崖絶壁の崖を登り終わり向こうにある村を指をさしそう言う。
その隣で何故かエマージェリアさんがぜぇーぜぇー言いながら肩で息をついていた。
アイミに運んでもらったのにまだつかれているのかな?
「ア、アイミ飛ばし過ぎですわ、死ぬかとおもいましたわ‥‥‥」
ぴこぴこ~
アイミは耳をピコピコさせながら頭の後ろに手を当てている。
まるで「失敗、失敗」とか言っている様だった。
「それで、あそこがエデルの村って訳ね? しかしなんでこんな辺鄙な所に?」
「それはここがハーピーたちが飛んでくるのにちょうどいい場所だったからです」
ふわっ
シェルさんは地面に足をつけながらダグスさんに聞く。
そして言われたここは確かに高台になっていて十分な広さがあるようで村の更に後ろにある山は先ほどと同じく険しい断崖絶壁が続いていた。
「村の連中に紹介します。どうぞついて来てください」
ダグスさんはそう言って僕たちを村まで案内してくれた。
* * *
村に入るとちょっと様子がおかしい。
大体十五軒くらいしかない本当に小さな村だったけど何処の家も扉や窓が固く閉じられていた。
人のいる感じはする。
村の外にある小さな畑には作物もあるし、湧水を溜めているだろう溜池も人が使っている感じがちゃんとする。
「おーい、サスボのダグスだ! 誰かいないのか!?」
ダグスさんがそう声を大きく上げるけど何処からも反応がない。
「おかしいな? おーいぃ!!」
ダグスさんがもう一度声を掛けたその瞬間だった!!
「ぴぃぃいいいぃぃぃっ!!」
ばさっ、ばさっ!
家の影からいきなり大きな鳥?
いや、怪物が現れたぁ!?
「ソウマ下がって! アイミっ!!」
ぴこっ!
「何こいつ!?」
姉さんやアイミ、セキさんが僕の前に出る。
そしてシェルさんが僕の横に着くけどダグスさんは出てきたその鳥の化け物にいきなり肩を掴まれ空高く舞い上がって行った!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぴぃぃいいいぃぃぃっ♪」
ばさっ、ばさっ!
それはあっという間だった。
「あちゃぁ~、連れ去られちゃった。意外と早いわね?」
『あれがハーピーね? う~ん、男と見るとすぐに掻っ攫うとはなかなかね!』
飛び行くその姿はもうかなり小さくなっていたけど噂通り女の人の手足が鷲のような鳥になっていてダグスさんはその両肩をしっかりとその足でつかまれて行ってしまった。
「うわぁ、どうしよう? 助けないんですかシェルさん!?」
「あそこまで遠くに行かれると間に合わないわね」
シェルさんは片手を日差しを遮るように目の上に当て遠く点になって行くダグスさんを見る。
「ど、どうしましょうですわ? あの人さんざん搾り取られて最後は食べられてしまうのですの!?」
『食べられはしないと思うけど、さんざん搾り取られちゃうでしょうねぇ~』
「うっわぁ~」
エマ―ジェリアさんは僕と同じく慌てているけどリリスさんは腕組みしてうんうんと唸ってる。
セキさんは何となく嫌そうな顔をして呻いているけど本当に放っといて良いの!?
「どちらにせよ私たちは『ハーピーの雫』が必要だからハーピーたちのいる所に行かなきゃならないわ。その時に助けてやりましょう」
シェルさんは振り返りそう言う。
と、村の家々の扉が開き始める。
「やっと行ったか、しかしサスボのダグスだって? なんてうかつなんだ」
「あら? あなたたちは?」
「珍しいわね、サスボの村の人間以外がここへ来るなんて」
ぞろぞろと村の人たちが出てきた。
そして僕は気づく。
ほとんど女の人ばかり。
「あーっ! 若い男の子がいる!!」
「えっ? 何処何処っ!?」
「もしかして子作りできそうな子!?」
なんかいきなり若い女の人たちが僕に集まって来た。
「君、名前なんて言うの!? 年は幾つ!?」
「ねえ、ねぇ、奥さんとかいる? いない??」
「久しぶりの若い男だわ!!」
「ちょっと若いけど大丈夫そうね!?」
ええぇとぉぉ‥‥‥
詰め寄るお姉さんたちに僕は思わずたじろいでしまう。
「ちょっとっ! あなたたちうちのソウマに近寄らないでよ!!」
「ぶっ!?」
村の女子たちに囲まれた僕に姉さんがいきなり抱き着いてきてその胸に僕の顔を引き寄せる。
こうなるとなかなか姉さんって放してくれないんだよな。
「ソウマ君、ここでもお姉さんキラーなのですの?」
「ソウマはモテるわねぇ~」
「なんか砂糖に集まる蟻みたいね?」
ぴこ~?
『あぁ~、魔王様の件が無ければあたしが真っ先に味見するのにぃ!!』
みんなそんな事言ってないで早く姉さんを引き離してよぉっ!
また窒息しちゃうぅっ!!
僕は声にならない悲鳴を上げるのだった。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします
リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。
違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。
真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。
──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。
大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。
いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ!
淑女の時間は終わりました。
これからは──ブチギレタイムと致します!!
======
筆者定番の勢いだけで書いた小説。
主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。
処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。
矛盾点とか指摘したら負けです(?)
何でもオッケーな心の広い方向けです。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる