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第三章

第60話3-19生贄の村

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 僕たちは翌日、昨日の続きの断崖絶壁を登っている。


 「ぜぇぜぇ、ま、まだですの?」

 エマ―ジェリアさんがだいぶ疲れている様だった。

 
 うーん、村の外の人ってこういった事しないから壁登り苦手なのかなぁ?
 僕たちの村では崖から落ちると登ってくるしかないから結構小さい頃から壁登りするんだけどなぁ。


 「なんか危なっかしいわね? シェルさんがエマ―ジェリアさんだけでも抱きかかえてあげたらどうですか?」

 「いや、それやっちゃうとエマが余計に調子に乗るから駄目よ」

 「そんなぁ、シェル様ぁ~ですわぁ~!!」


 そんな様子を見ていた姉さんはため息ついて器用にポーチからアイミを引っ張り出す。

 「アイミ、エマ―ジェリアさんを乗せて一足先に崖の上まで飛んで!」

 ぴこっ!

 アイミはすぐに嬉しそうにエマージェリアさんを抱きかかえ上へ飛んで行った。


 「のっひょぉおぉぉぉぉっ! 早過ぎですわぁっ!!」


 あ、もうあんなに上に行っちゃった。


 「アイミに乗れれば楽だったなぁ。あ、一人一人運んでもらえばよかったんじゃない!!」

 今更ながらに姉さんはそれに気づく。
 でもあと少しで着くってダグスさんも言っているしもうひと踏ん張りかな?

 
 僕たちはその後ひょいひょいと壁を登って崖の上にまで行くのだった。


 * * *

 
 「着きました、ここがエデルの村です」

 案内役のダグスさんは断崖絶壁の崖を登り終わり向こうにある村を指をさしそう言う。
 その隣で何故かエマージェリアさんがぜぇーぜぇー言いながら肩で息をついていた。


 アイミに運んでもらったのにまだつかれているのかな?


 「ア、アイミ飛ばし過ぎですわ、死ぬかとおもいましたわ‥‥‥」

 ぴこぴこ~


 アイミは耳をピコピコさせながら頭の後ろに手を当てている。
 まるで「失敗、失敗」とか言っている様だった。


 「それで、あそこがエデルの村って訳ね? しかしなんでこんな辺鄙な所に?」

 「それはここがハーピーたちが飛んでくるのにちょうどいい場所だったからです」


 ふわっ


 シェルさんは地面に足をつけながらダグスさんに聞く。

 そして言われたここは確かに高台になっていて十分な広さがあるようで村の更に後ろにある山は先ほどと同じく険しい断崖絶壁が続いていた。


 「村の連中に紹介します。どうぞついて来てください」
 
 ダグスさんはそう言って僕たちを村まで案内してくれた。


 * * *


 村に入るとちょっと様子がおかしい。
 大体十五軒くらいしかない本当に小さな村だったけど何処の家も扉や窓が固く閉じられていた。

 人のいる感じはする。

 村の外にある小さな畑には作物もあるし、湧水を溜めているだろう溜池も人が使っている感じがちゃんとする。


 「おーい、サスボのダグスだ! 誰かいないのか!?」


 ダグスさんがそう声を大きく上げるけど何処からも反応がない。
 
 「おかしいな? おーいぃ!!」

 ダグスさんがもう一度声を掛けたその瞬間だった!!


 「ぴぃぃいいいぃぃぃっ!!」


 ばさっ、ばさっ!


 家の影からいきなり大きな鳥?
 いや、怪物が現れたぁ!?


 「ソウマ下がって! アイミっ!!」

 ぴこっ!

 「何こいつ!?」

 姉さんやアイミ、セキさんが僕の前に出る。
 そしてシェルさんが僕の横に着くけどダグスさんは出てきたその鳥の化け物にいきなり肩を掴まれ空高く舞い上がって行った!!


 「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 「ぴぃぃいいいぃぃぃっ♪」
 
 ばさっ、ばさっ!
 

 それはあっという間だった。


 「あちゃぁ~、連れ去られちゃった。意外と早いわね?」

 『あれがハーピーね? う~ん、男と見るとすぐに掻っ攫うとはなかなかね!』

 飛び行くその姿はもうかなり小さくなっていたけど噂通り女の人の手足が鷲のような鳥になっていてダグスさんはその両肩をしっかりとその足でつかまれて行ってしまった。


 「うわぁ、どうしよう? 助けないんですかシェルさん!?」

 「あそこまで遠くに行かれると間に合わないわね」

 シェルさんは片手を日差しを遮るように目の上に当て遠く点になって行くダグスさんを見る。


 「ど、どうしましょうですわ? あの人さんざん搾り取られて最後は食べられてしまうのですの!?」

 『食べられはしないと思うけど、さんざん搾り取られちゃうでしょうねぇ~』

 「うっわぁ~」

 エマ―ジェリアさんは僕と同じく慌てているけどリリスさんは腕組みしてうんうんと唸ってる。
 セキさんは何となく嫌そうな顔をして呻いているけど本当に放っといて良いの!?


 「どちらにせよ私たちは『ハーピーの雫』が必要だからハーピーたちのいる所に行かなきゃならないわ。その時に助けてやりましょう」

 シェルさんは振り返りそう言う。


 と、村の家々の扉が開き始める。

 
 「やっと行ったか、しかしサスボのダグスだって? なんてうかつなんだ」

 「あら? あなたたちは?」

 「珍しいわね、サスボの村の人間以外がここへ来るなんて」


 ぞろぞろと村の人たちが出てきた。
 そして僕は気づく。

 ほとんど女の人ばかり。


 「あーっ! 若い男の子がいる!!」

 「えっ? 何処何処っ!?」

 「もしかして子作りできそうな子!?」


 なんかいきなり若い女の人たちが僕に集まって来た。


 「君、名前なんて言うの!? 年は幾つ!?」

 「ねえ、ねぇ、奥さんとかいる? いない??」

 「久しぶりの若い男だわ!!」

 「ちょっと若いけど大丈夫そうね!?」


 ええぇとぉぉ‥‥‥
 詰め寄るお姉さんたちに僕は思わずたじろいでしまう。
 

 「ちょっとっ! あなたたちうちのソウマに近寄らないでよ!!」

 「ぶっ!?」


 村の女子たちに囲まれた僕に姉さんがいきなり抱き着いてきてその胸に僕の顔を引き寄せる。
 こうなるとなかなか姉さんって放してくれないんだよな。


 「ソウマ君、ここでもお姉さんキラーなのですの?」

 「ソウマはモテるわねぇ~」

 「なんか砂糖に集まる蟻みたいね?」

 ぴこ~?

 『あぁ~、魔王様の件が無ければあたしが真っ先に味見するのにぃ!!』
 
 
 みんなそんな事言ってないで早く姉さんを引き離してよぉっ!
 また窒息しちゃうぅっ!!


 
 僕は声にならない悲鳴を上げるのだった。 
    
 
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