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第二章

第39話2-18忠義

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 昨日はライオン頭の魔王軍の人がシーナ商会スィーフ店に現れた。
 そして魔王軍が世界各国で何を探し求めているのかも判明した。


 「まさか直々にやって来るとは思ってもみなかったけど、あの魔王でミーニャって子が言っていた通り『ハーピーの雫』を探しているのね」

 シェルさんはそう言って銀色の小さな魚が沢山入った卵焼きを口に運ぶ。
 ここスィーフの名物料理らしい。

 小さな魚がぷりぷりしていて美味しいのだけど、見た目がちょっとね。
 

 「美味しいんだけど、この見た目がねぇ~」

 姉さんはなるべく目を合わせない様にそれを口に運ぶ。
 だって小さな魚たちの目がこっちを見ているようで慣れないとちょっと怖い。


 「意外とフェンリルもソウマもこう言うの苦手なのね?」


 ひょいぱくひょいぱく


 セキさんはそれをどんどんと口に運んでいる。

 「セキはデリカシーが無さすぎるのですわ。卵焼き美味しいですわ~」

 ニコニコとエマ―ジェリアさんもそう言いながら平気で食べている。
 セキさんは自分の分の卵焼きを食べ終えシェルさんに聞く。

  
 「それで、どうするのよ? シーナ商会にやって来た場合は『お客様』だから手出しは出来ないのでしょ? あんなのちゃっちゃとしばけばいいのに」

 「セキ、シェル様には深いお考えが有るのですわ。それにお店のポリシーに反しますわ!」

 セキさんは今度は蒸し魚をぺろりと平らげなががら他の料理にも手を伸ばす。
 するとシェルさんは口元を拭きながら答えた。


 「どちらにせよ方法は二つ。お店に入る前に片付けるか私たちが先に『ハーピーの雫』を手に入れるかね。それを餌に全世界に迷惑をかけている魔王軍を北へ誘導する。これが一番いい方法かしら」


 「「う”っ!」」


 シェルさんの「全世界に迷惑をかけている」という言葉に思わず僕も姉さんもうなってしまう。
 既に全世界規模でミーニャがご迷惑をかけてしまっている。

 世界征服もそうだけど「ハーピーの雫」を探すことだって十分に各国にご迷惑をかけてしまっているもんね。

 
 全く、ミーニャってば大人じゃないと買っちゃいけないもの欲しがるなんて。
 なんでそんなもの欲しがるのだろう?


 思わずちらっとエマ―ジェリアさんを見るとまだ卵焼きをおいしそうに食べている。


 「でも皆さんに迷惑かけているってのならその魔王軍の連中もやっつけないといけないんでしょ? それにあたしはもっと強くならなきゃ‥‥‥」

 「姉さん?」


 ぶすっ!


 隣で姉さんはそう言って蒸し魚にフォークを突き刺す。
 

 「アイミと『同調』出来るフェンリルだけで何とかなると思ったけど、完全覚醒してしまった『魔王』は一筋縄ではいかないって事よね。幸い彼女、ミーニャって子はソウマが北の魔王城に来ることを待っているらしいけど」

 シェルさんにそう言われ僕もはっとなる。
 そう、僕だってもっと強くならなきゃいけない。

 
 「姉さん、僕にも稽古つけてよ! 僕も、僕も強くならなきゃいけないんだ!!」


 「ソウマ、あんたって子は‥‥‥」

 食事中だって言うのに姉さんはいきなり抱き着いて来た。

 「ぶっ!」

 「ソウマが自分から強くなりたいだなんて! お姉ちゃん嬉しい!! あの弱虫でいつも村でいじめられてたソウマが!! 任せて! お姉ちゃんがソウマを鍛えてあげる! もうベッドの中でもお風呂でも鍛えまくってあげて立派な男にしてあげる! ついでにお姉ちゃんも立派な女にして!!」

 
 いや、ベッドやお風呂で稽古はつけられないでしょうに!
 いくら姉さんが僕の為にやる気になっても無理でしょうに!
 それに姉さんはもう立派な大人の女でしょうに!

 僕に何をしろってんだよ!?


 「面白そうね? あたしもソウマ鍛えるのに付き合うわよ?」

 「セ、セキ!? だめですわよ? セキだってまだ乙女でしょ? そんなソウマ君とだなんてですわっ!!」

 なんか向こうでエマ―ジェリアさんが「きゃーきゃー」騒ぎ始める。


 「うん、そうねフェンリルだけではなくソウマも鍛えた方が良いわね? もしかして一番の切り札になるかもしれないから」


 シェルさんもそう言って僕たちを見る。
 僕は姉さんの胸で窒息しそうになりながらこの三人に鍛えられる事の恐ろしさをまだ知らなかったのだった。


 * * *

 
 『たのもう!』


 それは間違いなくあのライオン頭だった。

 食事の後一休みして姉さんやシェルさん、セキさんに稽古をつけてもらったのだけど何度死にそうになった事か。
 まさか三人同時で来るとは思わなかった。


 連続で三回吹き飛ばされるのって初めてだよ。
 
 
 エマ―ジェリアさんがいてくれて本当に助かった。
 危うく腕一本切り落とされそうになるし、あばらも鎖骨もボキボキに折れちゃうんだもの。


 いくら防御したって間に合わないよ!


 そう僕が思っていたらお店の外から大きな声がして階下の方を覗いてみたらあのライオン頭がいた。
 シェルさんはすぐに下の階まで行ってやって来たライオン頭に対応する。
 僕たちも遅れてそこへ駆けつけた。


 『おお、昨日の店の者か。実はな我が主の所望する、その、『ハーピーの‥‥‥』なのだが、我々では到底探し出す事は出来ん。そこでだ、お前の店で何とか取り寄せられぬものか相談に来た! 珍しい品というのは分かったが我が主に対する忠義、ここで引く訳には行かんのだ!』

 「お客様、我々といたしましても可能な限りお客様のご要望にお応えしたいのですが、本件に関しましては我々の力及ばぬ事となってしまいます」

 『ぬう、そこを何とかならんか? 我らでは見分けもつかぬし俺もこのままでは主に顔建て出来ぬ』

 「しかし、力及ばぬことを申されましても‥‥‥」


 なんかだんだんと押し問答になりつつあるな。


 
 「もうめんどくさいな! 無理っつったら無理なのよ! お引き取り願おうかしら!?」


 「ちょ、ちょとセキですわっ!」


 ざっ!


 ぽきぽき


 セキさんはシェルさんとライオン頭の間に立って指を鳴らしている。


 『ほう、女。邪魔建てするか? 俺はたとえ女子供でも相手に敬意を払い手加減せずに全力で行く主義だぞ?』

 「面白い!」


 そう言ってセキさんとライオン頭は動き出すのだった! 
    

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