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第二章
第35話 2-14台風一過
しおりを挟む「あれが新たな『魔王』かの、今までのよりかなり強力では無いかえ?」
メル長老さんがとても不機嫌な顔で胡坐をかいてお酒を飲んでいる。
見た目が僕と同じくらいの歳なのでもの凄く違和感がある。
それに周りのお姉さんの長老さんたちも凄く不機嫌だ。
「まさか儂らの精霊魔法が全く効かんとはな」
「しかもこのエルフの村の結界をあれほどいとも容易く」
「今回はソルガの折檻は無しじゃ、シェル! お前は後で折檻じゃぞ!!」
やはりメル長老さんと同じくお酒を飲みながら苛立っている。
「ええっ!? カナル長老! それはご勘弁を!! 私にはミーニャを捕まえて『魔王』の魂を封じなければならないという重大な役目が有るんですよ!」
珍しくシェルさんが慌ててカナル長老さんにしがみつく。
「カナル様、今回は多めに見てやっていただけませんか? シェルにはすぐにでもあの『魔王』をどうにかしてもらわなければなりません」
ファイナス市長はカナル長老さんにそう言う。
シェルさんはカナル長老さんにしがみつきながら涙目でこくこくと首を縦に振っている。
「ふん、だったらすぐにでもなんとかする事じゃな。でなければお前さんの伴侶に出てきてもらうぞ?」
「ええっ!? そ、それだけはご勘弁を! あの人に出てこられたらフェンリルが凄い事になっちゃいます! フェンリルがもう帰ってこれなくなっちゃうくらい凄い事されちゃうし、当分私もお預けになっちゃいますぅ!!」
シェルさんはさっきの折檻以上に大慌てになる。
「私がどうかなっちゃうって、何ですかそれは!?」
姉さんは自分を指さしながらシェルさんに聞く。
しかしシェルさんはそれどころでは無いらしく未だにカナル長老さんにしがみついて何か訴えている。
「フェンリルさんは女神様の大切な人の生まれ変わりです。彼女はあなたの為に女神になったと言っても過言では無いのですよ。とてもやさしいお方なのです」
ファイナス市長は微笑んで僕たちにそう言う。
しかし姉さんは引きつった感じで苦笑いをする。
「生まれ変わりだとか女神様だとか、私は嫌ですからね! 私はソウマが良いんですから!!」
そう言って僕に抱き着いてくる。
「ぶっ!」
「シェルさん! とにかく早い所ミーニャを何とかしましょうよ!! じゃなきゃ私って女神様になんかされちゃうんでしょ!? そんなの嫌ぁっ!!」
姉さんの悲鳴が上がるのだった。
* * *
あの後何とか長老さんたちから解放された僕たちは早急に「魔王」であるミーニャを何とかする事となった。
「『魔王』が出現するのは千三百年ぶり。あの時は今の女神様が直々に対処してくれたので何とかなりましたが、今回の『魔王』は既にあの時と同じ力を持っているという事ですね?」
「はい、イオマだった頃の事も思い出しているからあの『空間魔法』も自由自在に使え、更に『世界の壁』までも操れる。あれでは彼女と同等です」
「参ったなぁ、そうなるとあたしじゃ勝ち目無いじゃん」
「セキがですの!? そんなに『魔王』とは凄い存在なのですの!?」
「あらあら~、皆さんお茶が入りましたよ~」
「あ、ソルミナ姉さんありがと、そっちにお茶配って」
わいわいがやがや
今はシェルさんの実家に来ている。
そこにはシェルさんのお父さんやお母さん、妹のシャルさんがいて僕たちを迎えてくれた。
ファイナス市長さんがシェルさんといろいろ話しているけど確か伝説ではその魔王って勇者の名もなき少女と相打ちになって滅んだって聞いているけど?
「すみません、確か伝説では世界を恐怖に陥れた『魔王』って『勇者の名もなき少女』と相打ちになったって聞いてるんですけど、女神様が手を下したんですか?」
僕は思わず聞いてしまった。
するとファイナス市長、シェルさん、ロンバさん、セキさん、エマ―ジェリアさんが一斉に僕を見る。
え、えっ?
なに?
もしかしてまずいこと聞いちゃった??
「そうね、一般的にはそう言う事になっているわね。でも本当はその『名も無き少女』ってのは女神の分身なのよ」
シェルさんはそう言って姉さんを見る。
姉さんはきょとんとしてして首をかしげている。
「あの時は分身体を二体も使って『魔王』と同化して世界の壁の修復をしたからこの世界は助かったけど、三体目が残っていなかったらどうなっていた事やら」
「まあ結果は何とかなったしあの時は良かったわよね~」
「我が女神様は偉大なのですわ! 至極当然ですわ!」
知っている人は当時を振り返っている様だけど、そうすると伝説とは少し違うんだ。
って、この人たちそれに関わっていたの!?
思わずシェルさんたちを見る。
すると僕の隣に妹のシャルさんがすっと座って来て話してくれる。
「あの人は、あの女神様はとてもやさしい人よ。私も小さい頃遊んでもらったしご神体で祀られているのとはちょっと違ってソウマ君より少し年上の感じの人なのよ」
「シャルさんも女神様に会った事有るんですか?」
「ええ、ここにいるみんな会っているわ」
にっこりと笑うその笑顔はシェルさんよく似ている。
「でもそうすればその女神様が出てくればミーニャもすぐに取り押さえられるんじゃないんですか?」
姉さんは無理矢理シャルさんと僕の間に座り込んでくる。
シャルさんはきょとんとしたけどすぐにシェルさんそっくりににまぁ~っと笑う。
「フェンリルさん、大丈夫ソウマ君は取らないって。私こう見えても年上が好きなのよ?」
「うっ、そ、そうなんですか?」
シャルさんは少し姉さんと距離を取ってから座り直して姉さんに話す。
「フェンリルさん、女神様が出て来るといろいろと不都合が出ちゃうのよ、特に姉さんに対しては不都合が出まくるわね。それにフェンリルさんはまだ昔を思い出していないでしょ? そうなるとあの人なにがなんでも思い出させようとするから大変だよ? そして思い出したら確実に襲われちゃうよ?」
「え”っ!?」
姉さんはさぁーっと血の気が引いたように青ざめる。
「やっぱり女神様もそっちの気が有るんですね!?」
なんの気だよ?
どうも最近の姉さんは良く分からない事に怯えている様だ。
「どちらにせよ今後の事はシェルたちに任せるしかないね。ファイナスさん、母さんには私からそう言っておきますから」
「そうですね、そちらはロンバに任せましょう。シェル、そう言う事ですから早急にあの娘を何とかするのですよ?」
「分かっていますって! 明日ボヘーミャに戻ります。そしてベイベイから一気に北のホリゾン公国を目指しましょう。魔王城とか言う場所に彼女はいるらしいですから」
シェルさんはぐっとこぶしを握りそう言う。
はぁ、ミーニャったら大人しく一緒に村に戻ってくれればいいのに。
僕は出してもらったお茶を飲みながらそう思うのだった。
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