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第二章

第27話2-6知識の塔の管理者

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 とうとうここボヘーミャで姉さんは新たな力となるマシンドールのアイミを復活させ手に入れた。
 僕たちはとりあえず目的が果たせたのでここで泊まりこんでいいるゲストハウスで一休みをしている。


 ぴこぴこ!


 僕たちよりかなり大きいマシンドールのアイミはしゃべる事は出来ないけど感情があるらしい。
 何かあるとピコピコと耳の様なモノを動かし反応してくれるのだけど‥‥‥


 「え? アイミとの『同調』の練習をするべきだって? でもどうやればいいかよくわからないわよ?」

 
 何故姉さんはアイミの言っている事が分かるのだろう?
 いや、相槌を打ったりするのなら分かるけど耳だけじゃ何言ってるか分からないってば!


 ぴこぴこ?


 アイミは僕に向かってもピコピコと耳を動かして話しかけてくれるみたいだけど何言ってるかさっぱりわからない。


 「えーと、ごめん、アイミが何言ってるか分からないよ。姉さん、アイミは何を言っているの?」

 「あ、うん、ソウマがあたしの弟かって聞いてるのよ」


 姉さんが通訳するとアイミは相槌を打つ。
 まあこれなら僕にも分かるけど何かいい方法は無いものだろうか?

 そんな事を思っているとシェルさんがやって来た。


 「ほほぉ、彼女がそうか? 女神に愛されし者にしてはずいぶんと今回は気性が荒そうだが?」

 真先に聞こえたのはシェルさんの声じゃ無かった。
 
 見ればシェルさんの後ろに大きな眼鏡をかけた女性がいた。
 初めて見る人だな?


 「フェンリル、ソウマ。すぐにベイベイに戻るのは取りやめよ。ちょっと気になる事が起こってしまったの」


 シェルさんはそう言って珍しく眉間にしわを寄せている。
 そしてそんなシェルさんを押しのけるかのようにその眼鏡の女性はずいっと前に出て来る。


 「僕の名はエリリア。久しぶりと言うべきかな?」

 「エリリア、彼女はまだ記憶を取り戻していないわ」


 エリリアさんというその眼鏡の女性は顔の半分を覆うほど大きな眼鏡をはずしながら僕たちに名乗った。

 と、メガネを外したその素顔に僕は驚く。
 思わず見とれてしまうようなきれいな顔だった。


 「エリリア‥‥‥何だろう聞いた事があるような名前‥‥‥」

 「え、えーと、こんにちは。僕はソウマ、こっちは姉のフェンリルです」

 姉さんはエリリアさんの顔を見て思わず考え込んでいるみたいだ。
 初対面の人に挨拶をちゃんとしないのは良くないので僕が先に割り込んで僕と姉さんの自己紹介をする。

 流石に僕が自己紹介をしたので姉さんも慌てて自己紹介をする。


 「あわわわわぁ、フェンリルです」

 「フェンリルねぇ。名前通りだね。まるでオオカミのようだよ」


 クスリと笑うその顔に思わずどきっとしてしまった。
 僕よりちょっとお姉さんの彼女のその瞳に思わず飲み込まれそうになる。


 「ソウマ! なに他の女の子見てるのよ!! 見るならお姉ちゃんを見なさいよ!!」


 がしっ!

 思わず姉さんに抱き寄せられる。

 「うわっ、ぷっ!!」

 引き寄せられて姉さんの胸に顔が埋まる。
 もう、やめてって言ってるのに!


 「ふむ、今回の君はその子がお気に入りなのかい? まあ思い出していないなら仕方ないが。それよりアイミが復活したそうなので見に来たよ。神託ではアイミが復活すると同時にエルフの村に災いが起こるらしいからね、やあアイミ、復活おめでとう。久しぶりだね?」

 ぴこっ!

 アイミはしゅたっと片手をあげてエリリアさんに挨拶を返している様だ。
 

 「ぷはっ! 災い?」

 何とか姉さんの胸から脱出する僕。
 エリリアさんのその話を聞いてやっとシェルさんの様子がおかしい訳が分かった。


 「エリリア、それで一体どう言う内容なのよ?」

 「残念ながらそこまでは分からない。ただ、『魔王』が復活したんだ。そして世界征服を始めたんだろ? ならばエルフたちに対して何もしないってことは無いだろう。多分そう言う事だと思うがね」

 エリリアさんはそう言いながらまた眼鏡をかけ直す。


 「『魔王』か‥‥‥ 確かにそう言う事になるのかもしれないわね‥‥‥ やはり気になるわ。フェンリル、ソウマ悪いけど付き合ってもらえる? 胸騒ぎがするのよ」

 シェルさんはそう言って一緒にエルフの村に行ってもらいたい事を僕たちに聞く。


 「え、えーとシェルさんには世話になっているからそれは構わないですけど何をしに?」

 「まだわからないけど相手は目覚めた『魔王』。まだあなたたちの知っているその女の子の意識強いだろうけど過去に手に入れた力は使えるわ。本気の『魔王』は生半可な力では対抗できなくなってしまう。そして『魔王』はずっとエルフ族を恨んでいる」

 シェルさんはそう言ってため息をつく。


 しかし「魔王」がエルフ族を恨んでいるって何?



 「シェルがもっと早く気付いて『魂の封印』をちゃんとしておけばこんな事にならなかったのに」

 「セキ! シェル様のやられる事は全て完璧なのですわ! だからこうして久しぶりにシェル様と一緒にいられるのではないのですの? あんな神殿にずっといるよりシェル様の近くに居られる事の方がどれだけ幸せだかですわ!」


 僕が首をかしげているとセキさんとエマ―ジェリアさんがやって来た。
 
 「君たちもあの神殿から出てきたのかい? これは正しくエルフの村に行けとでも言っているかのようだね」

 「久しぶり、エリリア。相変わらずの様ね?」

 「お久しぶりですわエリリア様」

 顔見知りなのか、セキさんもエマ―ジェリアさんもエリリアさんに挨拶している。


 と、僕はここで初めて気になった。
 エリリアさんって何者?


 「あの、すみませんがエリリアさんっていろいろ知っているようですけど一体何者なんですか?」

 「あら、言ってなかったっけ? 彼女は古い女神様の分身よ。『知識の塔』の管理者よ」

 
 「はいっ!? 女神様の分身!? 『知識の塔』!?」


 その話は僕も先生から聞いている。

 その昔、古い女神様たちが女神様同士で戦争をしてその時に「知識の女神」様が自分の知識を失う事を恐れ北の大地に「知識の塔」を建ててそこに自分の分身を置いて管理させているという神話。


 「まさか、本物なの?」


 「残念ながら本物だよ」

 姉さんのつぶやきにエリリアさんは答える。
 
 「でもなんで女神様の分身がボヘーミャにいるの?」

 僕は真っ先に思った疑問を聞いてしまう。


 「なに、僕は人の世にいる事が好きなんだ。君たち人間の社会はゆっくりだが変化していきとても面白い。だからここへ引っ越してきた。それに僕が不在でも『知識の塔』は離れると消えてしまい誰にも手が出せないんだよ」    

 「そしておもむろに神託を受け私たちにこうして警告をしてくれるのよ」

 エリリアさんの答えを引き継ぎシェルさんはそう言う。
        

 「フェンリル、ソウマ行きましょう、エルフの村へ」



 珍しく真剣な表情をするシェルさんに僕たちは頷くのだった。


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