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第二章

第26話2-5封印

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 姉さんは学園長との特訓でとうとう「同調」という技を身に着けた。
 これは魂と体の結びつきを強くする事によって魂からくる力をダイレクトに発揮できる技らしいんだけど‥‥‥


 「う~、これってほんと慣れるまで大変だなぁ。目がちかちかする」

 姉さんは瞳の色をいつもの碧眼から金色へと変えている。
 シェルさんの話だと「同調」でいきなり瞳を金色にまでするにはそうとうの技量が必要らしいのだけど、姉さんはいきなりできてしまった。

 「凄い事なんでしょそれって?」

 「うん、凄いらしいのだけどソウマがマナや魔力の塊に見えるし次にどう動こうかとするのが肉体よりも先にマナや魔力が動くからその後を肉体がついている感じで変なのよね」

 どうやら普通の人はこうに動こうと思うと先にマナや魔力が思った方へ動きそれを追うように肉体が動くらしい。
 でも同調をしている姉さんはその誤差がなくすぐに動けるとか。

 更にあの後に学園長ともう少し鍛錬をしたけど凄いのが学園長の【火球】を当たる寸前で魔力に変えて吸収してしまった事だった。

 姉さんの話だと魔法って魔力を力に変える事らしいけど逆の事も出来るらしくて魔法の分解魔力還付吸収も出来てしまうとか。


 それってすごくない?


 先生にも習ったけど魔法ってのは魂の中から出て来る魔素を魔力にして呪文などで具現化して力に変えるらしいけど、普通はその逆なんて出来ないもんね。

 僕は姉さんの「同調」の鍛錬を見ながら感心していた。



 「さてと、宝物庫の方に封印してあるアイミは引っ張り出したわ。あとはフェンリルが魔力を込めて呼び起こせば目覚めるわ」

 シェルさんがやって来てそう言う。

 あの後姉さんがここで受け取るあの力って言うのがマシンドールオリジナルのアイミって子らしい事が分かった。

 今ではあまり見なくなったマシンドールだけどゴーレムと違い自己判断で動くその機械人形は過酷な環境とかで未だに使われているそうだ。
 人の少ない国境とか極寒の駐屯地や砂漠の駐屯地、潜って行けない水の中とか意外と人知れず世の中の為に役立っているとか。


 それらのマシンドールはほとんどがガレント王国で作られ、特にその衛星都市ユーベルト、今では女神教の発祥の地として聖地とされている所だけどそこでの生産量がとても多いらしい。
 エマ―ジェリアさんなんかここに受け取りに来るものがマシンドールだと言ったら実家に腐るほどあるとか言っていたっけ。


 「シェルさん、マシンドールなんて役に立つんですか?」

 「普通のマシンドールじゃ無いのよ。オリジナルであの人が作った機体。それを量産型で世に広めたのがここの昔の学園長なのよね」

 シェルさんは懐かしそうにそう言うけど、今の学園長さんって聞いた話ではすでに千四百年生きているとか言ってなかったけ?

 「シェルさん、そのマシンドールが何故私じゃないとだめなんですか?」

 「アイミはね、あなたの魂と深い結びつきがあるのよ。あなたの魂は古い女神様とつながっている。英雄の素質を持つ魂なのよ」


 姉さんが英雄?
  

 思わず僕と姉さんは顔を見合わせてしまった。
 するとシェルさんはその事について話してくれる。


 英雄とは女神様の魂と結びつきがとても強い人たちがその素質を持っていて、姉さんのように「同調」をして超人的な力を発揮して来たそうだ。
 そしてその英雄たちは女神様の加護を受け、上位精霊と契約出来易いそうだ。

 姉さんは古い火の女神様と魂が強く結びついているらしく、そのマシンドールの核には炎の上位精霊、イフリートが封じ込められているそうだ。
 しかもその上位精霊は更に四体の上位精霊を支配下に置いているとんでもなく凄いものらしくその力は絶大らしい。


 「私にそんな力が? 私の魂がその古い炎の女神様とつながっている?」

 「まあそんな所よ。じゃあそろそろ行きましょうか」


 そう言ってシェルさんは姉さんと僕を呼び寄せ学園長と鍛錬をした試験場へと連れて行く。
 既にセキさんやエマ―ジェリアさん、そして学園長はそこにいた。

 そして試験場の中央には大きな棺桶の様な物が立てかけられていた。


 「なんですかあれ? 棺桶??」

 「うわー、でかい! あれの中に入っているのですか?」


 姉さんも僕も思わずそう言ってしまう。
 シェルさんは僕たちをその棺桶の様なモノの前まで連れて行く。


 「フェンリル、『同調』をしてこれを見てみて」

 シェルさんはそう言ってポンとその棺桶みたいなものに手をつく。
 姉さんは首をかしげたものの言われた通り「同調」を始める。
 
 瞳の色を金色に変えゆっくりとその棺桶みたいなのを見る。


 「なんですかこれは? 五つのマナの塊のようなモノが大きな人型の中にある‥‥‥ でも何だろう? 眠っているようにも見えるけど‥‥‥」

 「フェンリル、これに魔力を注ぎ込む感じで呼びかけてみて」

 シェルさんにそう言われ姉さんもその棺桶みたいなものに手をつく。
 そしてうっすらとその手を光らせ始める。
 どうやら魔力を注ぎ込み始めている様だ。


 「良く分からないけど目を覚まして‥‥‥ 私に力を貸して!」


 姉さんがそう言うとその棺桶みたいなモノに変化が現れる。
 全体がうっすらと光り輝き始めその光が収まったら今度はその扉が開き始める。
 驚き数歩下がる姉さんだけど他のみんなはそれを見て期待をしている様だ。


 がこん!


 何かが外れる音がして完全い扉が開いた。


 「これは‥‥‥」

 姉さんが唸るその前にはオーガのように大きな人型、それも女性の姿をした大きなマシンドールがいた。
 全身を赤く染めたそのマシンドールは胸の前で両手を交差させ静かに眠りについていたようだ。


 「アイ‥‥‥ミ‥‥‥? アイミ??」


 姉さんはそう言いながら一歩前に出る。


 「知っている、このマシンドール。何故だろう? ずっと昔から知っている気がする‥‥‥ アイミ? あなたはアイミよね??」


 ブンっ!


 女性の顔で瞳の無い目が一瞬光りそのマシンドールが動き出す。


 ぐぐぐっ

 ずしゃっ!


 動き出したそのマシンドールはゆっくりと棺桶から出て来る。
 そして周りを見回し姉さんに向く。


 ぴこっ!


 「どうやらうまく目覚めたようね? アイミ、久しぶり。私が分かるわよね?」


 ぴこぴこ。


 どうやら喋れはしないようだけどシェルさんがそのマシンドールに話しかけると顔の横についている耳の様な物がピコピコ動く。
 そしてシェルさんに向かって頷く。

 「ユカがこちらに戻って来て以来だから結構長間寝ていたわね?」

 ぴこ、ぴこぴこ??

 「そう、その子がそうよ。今はフェンリルって言うの。まだ思い出していないようだけどね」

 シェルさんがそう言いながらフェンリル姉さんの横まで行く。
 するとその大きなマシンドールは姉さんの前に跪いた。


 「知ってる、あなたはアイミ。私の機械人形‥‥‥」


 姉さんはそう言いながらそのマシンドールに触れる。
 するとそのマシンドールは嬉しそうに耳をピコピコさせる。


 「アイミ復活かぁ、かあさ‥‥‥じゃ無かった、フェンリルもこれで更に強くなったわね?」

 「セキ、ただ大きいだけのマシンドールでフェンリルさんが強くなれるのですの?」

 「このマシンドールにフェンリルは『同調』が出来ます。感覚を共有して手足のように操ることが出来るのです。そしてこの子は各上級精霊を内蔵する。なのでそれらの精霊魔法を制限なしに使えます」

 学園長さんはそう言いながらこの機械人形を見上げる。
 その表情はうっすらと笑っているかのようだった。


 これが魔王となったミーニャを押さえられる力。
 



 僕はその真赤な機械人形を見上げるのだった。
 

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