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第二章

第22話2-1受け取るモノ

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 「シェル、今度は間違えないでよね?」


 セキさんにそう言われシェルさんは乾いた笑いをする。

 「あはははは、だ、大丈夫よ! 今度はしっかりデルザに聞いたから間違い無いわ!」

 「まあ、歴代のデルザはどの子も優秀だったから今度は大丈夫でしょうけど、シェルの方がボケて来たんじゃしょうがないわよ?」

 「ボケてません! ちょっと間違えただけです!! それよりみんな準備いいかしら? 行くわよ?」

 そう言ってシェルさんは魔法陣を起動させ始めた。
 魔法陣の外では見送りのシーナ商会の面々が頭を下げている。

 僕たちは今度こそ学園都市ボヘーミャに転移するのだった。


 * * * * *


 魔法学園都市ボヘーミャ。
 ここは何処の国にも属さない魔法を学ぶための学園。
 その歴史は古くもう何千年も前からあるらしい。


 「うーん、久しぶりねぇ。こっちは相変わらず暖かい気候ね」

 シェルさんは今度こそ学園都市ボヘーミャに転送を成功させた。
 そして地下の魔法陣から出て来るとそこは同じ服装を着込んだ若い人たちが大勢いた。


 「話には聞いていたけど、ここってみんな魔法を学ぶために通ってる学校よね?」

 「うん、先生もそう言っていたね。魔法を極めるなら来た方が良い所だって言ってたけど、村の人たちは特に魔法使いになるつもりの人が少なかったから結局みんな先生の所に習いに行っちゃうんだよなぁ」


 先生の所では初級魔法なんかを教えてくれる。

 それは生活に必要なものばかりで水生成魔法や点火魔法、明かりの魔法なんかが主なんだよね。

 僕たちみたいに稽古をつけてもらいながら特別な魔法を覚える人もいるけど大抵の人が上手く行かないんだよなぁ。

 でも姉さんみたいに呪文を唱えないでも魔法が使えちゃう人もいるし、やっぱり才能なのかな?


 「シェル、よく来ましたね」
 
 僕が村の事を思い出しているとシェルさんが声を掛けられた。
 
 見れば姉さんと同じくらいの歳の女性。
 黒髪にマントを羽織り腰には片刃の刀っぽいものを挿している。
 目元を覆う仮面をしていたけどそれを外すと髪の毛と同じ奇麗な黒い瞳の色だった。
 奇麗な人なんだけど何処と無く静かな感じで凛とした感じがする。
 

 「あら、学園長直々にお出迎えとは恐縮ね? 元気にしていたユカ?」

 「いたって健康です。風のメッセンジャーで話は聞いていましたがなかなか来ないのでどうしたかと思いましたよ?」

 言われたシェルさんは頬に一筋の汗を流す。


 「あ~、そうそう、ブルーゲイルで魔王軍が襲って来たので先にそっちに手を貸しに行ったのよ!」

 「単に間違っただけでしょうに」

 「何を言いますのセキ! シェル様のやる事は常に完璧なのですわ!!」

 
 あ~、うん、まあそう言う事にしておいて。   
 学園長と呼ばれたその女性は僕たちに顔を向ける。


 「こちらは?」

 「ああ、紹介がまだだったわね、ジルの村から来たフェンリルとソウマよ」

 シェルさんに紹介され僕たちも挨拶をする。

 「どうも、初めましてフェンリルと言います」
 
 「初めまして、ソウマです」

 僕たちがそう言うとその女性も頭を下げながら挨拶をしてくる。


 「学園都市ボヘーミャの学園長を務めるユカ・コバヤシです」


 差し出した手が行き場もなくふよふよとする姉さんと僕。
 慌てて手を引っ込め同じように頭を下げる挨拶にする。


 「時にシェル、この方たちはジルの村からと言っていましたね? 彼女の赤髪、もしかして?」

 「まだ思い出していないわ。でも今はそれよりも覚醒した『魔王』を何とかしなきゃなの。本店でも聞いたけど撤退したシーナ商会の首都エリモア支店の話だと住民は大人しくしていれば危害は加えられなかったそうよ。抵抗したホリゾン公国軍は完膚なきまでに叩き伏せられたみたいだけどね。それにウェージムにはティナの国があるから侵攻はそこで止められているけど東のイージムはまだまだ危ないわ。第一陣でしょうけどそいつらはあたしたちが始末した。だけどまだまだ次が来るでしょうね。早い所片付ける為にあの子の封印を解いてフェンリルに渡したいのよ」

 シェルさんはそう言って状況説明をする。
 学園長はその話を聞き頷く。

 「わかりました。とは言えまずはこちらに来なさい。お茶くらい飲む時間は有るでしょう?」

 そう言って僕たちを建物の中に案内するのだった。


 * * *


 かーん!

 見た事の無い庭先で竹の筒に流れ込んだ水がシーソーのように動いて甲高い音を鳴らしている。
 靴を脱いで入る部屋って初めてだった。
 そして椅子ではなく床、いや藁でもないけどその上に乗せられたクッションの上に座るのって初めて。


 「な、何だろう? どこかで見たようなこの感じって‥‥‥」

 「姉さん良くその恰好で足痺れないね?」

 見ると姉さんは正座の姿のままかしこまって背筋をしゃんとして座っている。

 「うううぅ、何故かこうしないとものすごく怒られるような気がして」


 あ、あの表情は脚のしびれを我慢しているね?
 他の人はすでに足を崩しているけど姉さんだけはしっかりと正座している。


 「ふむ、思い出していなくても作法は忘れていないようですね? 合格です」

 学園長はお茶をみんなにふるまいながら姉さんと同じく正座したままお茶をすすっている。


 「それでユカ、あの子の封印なんだけど‥‥‥」

 「フェンリルさんが来たのならば容易く解かれるでしょう。あの力は今の世には十二分過ぎましたからね。しかし、覚醒した魔王とはそこまでですか?」

 学園長はそう言ってまたお茶を飲む。
 出されたお茶は見た事の無い緑色だったけど飲んでみると清々しい感じのさっぱりとしたお茶だった。


 「ユカ、あたし甘いのよりしょっぱい方が良いんだけど‥‥‥ もしくは清酒の方が良いなぁ、つまみも込みで!」

 「セキ、遊びに来たのではないですわよ?」

 セキさんは真っ黒なゼリーの硬くなったようなものを口の中に放り込んでいる。
 学園長はそれをお皿ごと持ち上げてついている楊枝みたいなもので器用に切り分け口に運んでいる。

 と、何故か姉さんも同じ動きをするけど、これってそんな作法でもあるのかな?

 僕も試しに同じようにそれを口に運ぶけどすごく甘くて小豆のような味がして美味しい。
 そしてこのお茶と合わせるととてもよく合う。


 「初めて食べた。美味しいね姉さん?」

 「け、結構なお手前です‥‥‥ ってあれ? なんであたしそんな事言ってるんだろう??」


 姉さんは姉さんにしてはおしとやかにお皿を置いてお茶を飲んでからそう言って首をかしげる。


 「まあ魔王が『鋼鉄の鎧騎士』召喚何てことするかもしれないからと思って保険だったんだけどね。どうもそれでも済まなくなりそうなのよ」


 ぴくっ!?


 シェルさんがそう言うと学園長の物静かそうなその表情に眉毛だけがピクリと動いた。

 
 「なるほど。ではあの子、アイミの復活だけでは済まないかもしれないのですね?」

 「ええ、そうなるわね」


 シェルさんがそう答えると学園長はすっと立ち上がりフェンリル姉さんを見る。

 「ではまた鍛え直さなければなりませんね? フェンリルさん、稽古をつけます来てください。そして『同調』が出来るまで己を高めてもらいます。でなければあれの真の力は使えないでしょうから」


 「は、はい? け、稽古ですか??」



 驚く姉さんを他所に学園長はすたすたと部屋を出て行ってしまったのだった。
 

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