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第一章

第9話1-9ライバル

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 「そ、そんなぁっ! フェンリルさん本当に行っちゃうんですかっ!?」


 冒険者ギルドでネミアさんから手をがっしりと握られフェンリル姉さんは頬に一筋の汗を流している。

 「え、えぇぇとぉ、ネミアさん、まずはその手を放してもらえませんか?」

 涙目のネミアさん。
 でも手はしっかりと握ったまま。

 「考え直してください! フェンリルさんに今いなくなられると困ります! 近隣に地竜が発生して大騒ぎなんですよ! それにまだ私フェンリルさんともっと親しい関係になっていないし!!」

 姉さんは青ざめて脂汗をだらだらと流し始めている。


 「ネ、ネミアさん、親しい関係って、まさか本当にそっちの気があるんじゃ‥‥‥」

 「今晩どうです? いい夢見させてあげますよ?」

 「んひぃぃぃぃぃいいいいぃぃっ!!」


 何を騒いでいるのだろう?
 姉さんは手をぶんぶん振ってネミアさんから逃れようとしている。


 「はぁ、若いって良いわね」

 「シェルさんだってもの凄く若そうですけど?」

 僕と一緒にその様子を見ていたシェルさんはにやにやしながらその様子を見ていたけどぽつりと言う。
 その言葉を聞いた僕は率直な感想を言ってしまった。

 「あら、ソウマ。お上手ね? でも女の年齢は永遠に秘密なのよ?」

 シェルさんは僕の方を見てにこりと笑う。
 

 どきっ!


 その笑顔は何故か僕の心の奥底まで突き抜ける。
 ものすごく懐かしい、そして憧れていた笑顔。

 思わずぽ~っとしてシェルさんのその笑顔を見てしまう僕。



 「ちょっとソウマぁっ! 何してんのよっ!」

 そんな僕の所へフェンリル姉さんは戻って来ていきなり抱き着く。
 姉さんの大きな胸に顔をうずめられると息苦しいって何度も言っているのに姉さんはやめてくれない。


 「ぷはっ! 姉さん苦しいってば!!」

 「ソウマが悪いのよ! なにシェルさんに見とれてるのよ!? 見るならお姉ちゃんを見てよ、ソウマのいけずぅっ!!」


 それでも姉さんは抱き着いたまま離れない。
 するとシェルさんは姉さんにあきれながら聞く。


 「はいはい、それでギルドとの話はついたの? 弟大好きお姉ちゃんは」

 「そ、それが何としても地竜の討伐だけは引き受けてくれないとネミアさんが地の果てまであたしを追ってくるっていうんですよぉっ!?」

 姉さんは青ざめてガクガクブルブルとしている。

 
 ネミアさん、仕事暇なのかな?


 「だったらあなたなら地竜くらい簡単に討伐できるのじゃ無いの?」

 「それが、発生したのがどに隠れているかまだ分からないらしいんですよ」

 フェンリル姉さんはやっと僕を放してくれて腕を組んで悩む。


 そう言えば僕も地竜って見た事無いな?
 先生に教わった話だと竜族でも下級に分類されて本能に準じて生きているのが多いらしいけど、ヒドラよりは強いらしい。
 体の大きさもかなり大きいらしくて炎を吐くらしいから要注意だって言ってたなぁ。



 「おいおい、もしかして地竜の討伐を受けるつもりかい?」

 見ると金ぴかの鎧に身を包んだ身長の高いやたらと歯の光るお兄さんと、神官様なのかな、ピンク色の髪の毛のでおしとやかにしているお姉さん、僕より少し背の高い軽装の青い髪のお姉さんや魔術師の恰好をした眼鏡のお姉さんがいた。



 「へぇ、君可愛いね? おっ、そっちの彼女はエルフかい?」


 フェンリル姉さんたちを見るとそのお兄さんはさわやかな笑顔に白い歯を光らせて背景にキラキラした草原の風景をしょっていた。


 「俺の名はハイン=ケネッヒ。勇者認定された者だ。君たちも地竜の討伐を受けるつもりかい?」


 そう言って姉さんの手を取る。
 姉さんはジト目でこの人を見てすっと手を引く。


 「ギルドから頼まれて嫌々受けるんですけど」

 「へえぇ、ギルドからの依頼か。君凄いんだね? でも地竜は強敵だよ? どうだい、俺たちと組まないか?」


 いやがる姉さんの手をもう一度握ってまたまた白い歯を光らせ言い寄る。


 「あーん、ハイン様! また他の女に手を出しているぅ~」

 「もう他の女? 昨日の晩は激しかったのに、底なしねハインは」

 「ハインは良い女と見ると見境なくなるからねぇ。あ、でも今晩は私の番よ?」


 姉さんの手を取っていたハインさんは三人の女性に引っ張られて姉さんから離れる。
 姉さんは握られた手を振って嫌そうにしていたけどハインさんを見てはっきりと言う。


 「勇者さんですか? だったらこんなん所で油売ってないで早い所『魔王』の討伐に行ったらどうです?」

 そう言い放つ姉さんの向こうでシェルさんがケタケタと笑っている。


 「勇者認定ねぇ~。まあ、駆け出し勇者じゃこの辺で力をつけるしかないわね?」

 シェルさんはにっこりと笑ってそう言う。
 するとハインさんは少し機嫌が悪くなったような顔をして言う。

 「ま、まあ確かにそうなんだが俺の実力ならすぐに強くなって『魔王』討伐にだって行けるさ! だけどまずはこの街の人たちを助ける為その地竜を倒して街の平和を守らなければだからな!」

 すると仲間らしい三人の女性が黄色い声を上げる。


 「きゃー! ハイン様ぁ、流石ですぅ!!」

 「いいわっ、それでこそあたしの男よ! 濡れるわっ!」

 「ふっ、今晩はその勇者の剣で私の相手をしてね!!」


 へぇ~偉い人だなぁ。
 人々の為に地竜をやっつけるのか。
 僕も大きくなったらみんなの為に頑張らなくっちゃ!


 「あたしたちはあたしたちでその地竜を探して討伐しますから結構です!」

 「なんだいつれないなぁ、地竜は強敵だよ? 魔法のサポートが無ければ倒せる相手じゃないよ? それに何処にいるかまだ見つかっていないんだ、探すのだってレンジャーでもいなければそうそう上手く行かないよ?」

 それでもこのお兄さん、ハインさんは姉さんの手を取ってそう言う。


 「もう結構ですってば! 大体にして地竜なんかうちのソウマでも退治できますって!!」


 いや、姉さん、それって無理じゃ無いの?
 僕ヒドラにだって苦戦しているってのにそれより強いらしい地竜なんて僕に倒せるわけないじゃん!?


 「ソウマ? 誰だいそれは? 聞いた事も無い名前だね?」

 「ソウマは私の可愛い弟です!」

 そう言って姉さんはハインさんの手から抜け出し僕に抱き着く。
 勿論姉さんの大きな胸に顔が埋まるから息苦しいのなんの。


 「そうねぇ、ソウマに私が手を貸せば地竜くらい倒せるんじゃない?」

 シェルさんもそう言ってにやにやとしている。

 僕は内心悲鳴を上げている。
 だって地竜って炎を吐くんでしょ?
 僕まだ耐火魔術習ってないよ?



 「それが君の弟君か‥‥‥まだ子供じゃないか?」

 「それでもソウマはあなたよりずっと強いわよ!」

 「むっ? 俺より強い? その少年が??」


 ゆら~り~。



 あっ! 
 このパターン、村でいじめられる寸前と同じだ!!
 
 僕は姉さんとハインさんを交互に見る。
 やばいよ、やばいよ、ハインさん怒ってるよ!


 「良いだろう! ソウマ君だったな、この俺と勝負だ!!」


 そう言ってびしっと僕を指さす。


 あちゃぁ~、やっぱりこうなっちゃった。
 内心がっかりする僕を姉さんは嬉しそうに背中を押してハインさんの前に出す。

 
 「ふっ、弱い者いじめは性に合わないんだが、仕方ない」

 ハンさんはそう言ってこちらを見る。


 「ソウマ、やっちゃいなさい! ソウマに勝てたら食事でも何でも付き合ってあげるわよ!」


 姉さんはそう啖呵を切るとハインさんは「ひゅぅっ!」と口笛を吹く。


 「今の言葉しかと聞いたぞ! さあソウマ君には悪いが一気にケリをつける!」


 そう言っていきなり僕に殴りかかって来た!?


 うわっ!?
 またぶっ飛ばされるぅっ!!


 「ソウマ目をつぶらない! 相手をちゃんと見る!」

 防御の為腕を上げようとして目をつぶろうとした僕に姉さんが𠮟責をする。
 言われて僕は慌てて目をつぶる事無くハインさんを見る。


 え?
 ハインさんの動きが見える?
 やっぱり勇者様認定されただけあって手加減してくれている?


 僕はその拳を半歩踏み込んで弾き手掌を叩き込む。

 上手くカウンターのように僕の手の平がハインさんの胸に入る。
 よし、これで間合いを取れる!


 「ぐぼっ!」


 どんっ!


 僕の掌を受けたハインさんはそのカウンターの力を相殺する為に後方に大きく飛ぶ。
 流石勇者様!
 あれだけ見事に決まったのに力の分散をするなんてすごいや!



 ハインさんは思い切り下がったためにギルドの壁際に‥‥‥


 どがん、ばきっ!


 あ、流石に勇者様だけあって凄い跳躍過ぎたのか壁に激突して大きな穴が開いちゃった。
 大丈夫だろうか?


 「きゃーっ!」

 「ハ、ハインっ!?」

 「ちょと、ハインっ!」


 お姉さんたちも大慌てでそこへ飛んでいく。
 ああ、ギルドの壁に大穴が。
 まさかこれって僕が怒られるの?


 「ふん、ほら見なさいソウマの方が強いじゃない! ねー、ソウマぁっ!」

 そう言ってまたまた姉さんは抱き着いてくる。
 アドバイスをくれたのはうれしいけど姉さんの大きな胸で窒息しそうだよ!


 「あら、打ち所が悪かったみたいね? 気絶しちゃった様ね? 勇者認定してもらってもまだまだだわね~」

 シェルさんを見るとそう言いながらケタケタ笑っている。


 はぁ、ハインさん大丈夫かなぁ?



 心配する僕を他所に姉さんとシェルさんは僕を連れて地竜討伐へと出発するのだった。
 
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