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第二十章

20-27魔王の過去

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 20-27魔王の過去


 それはこの場に現れてはいけないはずのモノだった。


 ばきばきばきっ!!


 屋敷を崩壊させながらいきなり階下からそれは立ち上がる。
 そしてそれの肩にイオマは飛び乗る。


 「なんでっ!? エルハイミっ!」

 「お母様! あ、あれはっ!」

 「くっ! 主よ大丈夫か!?」

 「黒龍様っ!」

 「畜生でいやがります!」

 ここにいるみんなはこの位でどうにかなる様な者はいない。
 それにこの建物には非戦闘要員はいない。
 メイドの子達やその母親などは離れに住んでいる。

 だから実質死者などは出ないだろう、今は。


 「魔人‥‥‥」


 「うふふふふっ! お姉さまの周りの連中を黙らせるにはこのくらいは必要ですよね!?」

 イオマはそう言って屋敷を破壊した魔人の肩に乗って声高々に言う。


 「死にたくなければ下がりなさい! さあ、お姉さま続きをしましょう!」


 そう言って魔人であたしを鷲掴みにしようとする。
 勿論あたしは転移してそんな攻撃は避けるけど、被害が少ない中庭に移動する。



 「やっぱりここへ来ますよねぇ、お姉さまならっ!」


 転移したその瞬間魔人の手があたしを襲う。
 あたしは空間を固定してその攻撃を止めてすぐに移動する。


 がんっ!


 「うふふふふふっ、お姉さまぁ、私を愛してくださいよぉ、そして私にいけない事されちゃってくださいよぉ。きっと気持ちよくしてあげますからぁ」

 そう言って鞭を舐める。


 いや、イオマ、キャラが崩壊していない!?
 完全に「女王様」モードだよっ!?


 「イオマっ! 正気に戻りなさいですわ!」

 「うふふふふっ、私は正気ですよ? もともと私の中に有った願望や欲望を素直に表現しているだけなんですから」


 はぁっ!?
 そんなイオマって危ない欲望が有ったの!?


 「それは『魔王』の魂のせいでは無いのですの!?」

 「違いますよぉ~、私はもともと可愛いお姉さまをいじめたくていじめたくてたまらなかったんですから。もともとはお姉さまにいじめられると気持ちよくなっちゃっていましたけど成長してお姉さまより見た目がお姉さんになっちゃってから可愛いままのお姉さまをいじめてくていじめたくて‥‥‥ もうそんなこと考えちゃうだけでたまらないんですよぉ~。過去の『魔王』だった私は関係ありませんよ?」

 イオマはそう言ってもう一度鞭を舐める。


 「この変態がぁっ!」


 そう言っていつの間にか近くにまでやって来たシェルが大地の精霊に干渉して【地槍】アーススパイクを発動させる。
 それは一度に魔人を囲むかのように沢山出現して鋭いその切っ先を魔人に突き刺す!

 ばきっ!

 「えっ!?」

 だがシェルの攻撃はイオマの張った【絶対防壁】ではじかれる。

 「邪魔しないでって言ってるじゃないですか、シェルさん。全くエルフって人は昔っから人の邪魔ばかりして‥‥‥ 以前のあたしの恋人も横取りしたり、あたしが年老いていくと直ぐにあたしの恋人を誘惑したり‥‥‥ 全く、何時の時代のエルフも歳をとらないからってあたしの邪魔ばかり! シェルさん、友達のよしみです。下がりなさい。でなければあなたの命も無いですよ?」

 「そんなことしたら『命の木』を一緒にしているエルハイミもただでは済まないわよ! いい加減に目を覚ましなさい、イオマっ!!」

 それでもシェルはあたしとイオマの間に立ちふさがり声をあげて叫ぶ。


 ばさっばさっ。
 ぼんっ!


 「全く、シェルの言う通りです。イオマ、あなたこそ大人しくしなさい」

 幼竜の姿のコクが空から降りて来て人の姿に戻りながらあたしの横に降り立つ。


 ばさっばさっ。
 ボンっ!!


 「何よ何よ、なんなのよっ! 人が気持ちよく寝ていればいきなり何が現れたってのよ!? 魔人? あれ? なんでイオマがあんな格好して魔人の肩にいるのよ!?」

 どうやらセキも目が覚めてこちらにやって来たようだ。


 「ふう、竜族まで‥‥‥ ディメルモ様はドラゴンニュートのあの子だけかわいがってあたしには何もしてくれなかった‥‥‥忌々しいですね」


 そう言ってイオマは虚空に魔方陣を大量に発生させる。

 「死なない程度に痛めつけないとやっぱり気が収まりません。コクちゃんやセキちゃん、シェルさんには恨みは無いのですが過去の私の八つ当たりに付き合ってもらいますよ?」

 いうがその魔法陣からグリフォンやワイバーン、ミノタウロスやヒュドラなどおおよそ通常の者では太刀打ちできない高レベルのモンスターを大量に呼び出した。

 「やれっ!」

 呼び出された魔獣幻獣はコクやセキ、そしてシェルに襲いかかる。


 「やめなさいですわ、イオマっ!!」

 「いいえ、過去の私は迫害を受けた。ディメルモ様には愛されず竜族ばかり。そしてせっかく見つけた恋人もエルフ共に連れ去られてしまう。それも一度や二度ではない。特にあたしが過去愛した男どもはあたしが歳をとると直ぐに手のひらを返したかのようにエルフの女に寝返った。一緒に死ぬまでいようって誓ったのに!」

 魔人が動き出しあたしを捕まえようとする。
 あたしは転移を繰り返しその攻撃を避ける。

 「それは過去の『魔王』の記憶ですわ! イオマ、意識をしっかり持ちなさいですわ! 過去のそれとイオマは別ですわ!!」

 「だったら愛してください! 私が死ぬまででいい! ティアナさんみたいに私を愛してください!!」

 イオマはそう叫びながらそれでも魔人にあたしを捕まえさせようとする。
 あたしは仕方なく魔人を葬り去る事にする。

 「イオマ、いい加減にしなさいですわっ!!」

 あたしは仕方なく力を込め右手を魔人に向ける。


 「【四十八式滅魔光波】!!」



 魔人をも一撃で滅する魔光波をあたしは魔人に向けて放つのだった。
 
 
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