上 下
457 / 610
第十六章

16-12帝都エリモア

しおりを挟む
 16-12帝都エリモア


 あたしたちは帝都エリモアに向う為に拠点に戻っていた。

 
 「そうですか、まさか『女神の杖』が偽物だったとは」

 バルドさんはそう言って窓の外の様子をうかがっている。
 流石に教会を襲撃したので今朝はあわただしく衛兵たちが町を巡回している。

 あたしは椅子に座ったままシコちゃんを腰につける時に使っていたホルダーを眺めていた。


 「エルハイミ、しっかりしてよ! せっかくシコちゃんが身を挺してあんたをかばったのに! 何が何でも『女神の杖』を取り戻さなきゃシコちゃんに顔向けできなくなるわ!」


 シェルはそう言ってあたしからそのホルダーを取り上げる。

 「シェル?」

 「エルハイミらしくない! シコちゃんだってそんなの望んでいない!」

 そう言ってシェルは机にそのホルダーを置いて変装用の衣服を身に着ける。
 あたしはそんなシェルをぼ~っと眺めていた。


 「エルハイミ、行きましょう。ビスマスのあの言葉、既にイパネマにより『女神の杖』は帝都エリモアに運び込まれたのでしょう。このままでは本当に『狂気の巨人』が復活してしまう」

 ティアナはそう言ってあたしに外套を渡して来る。
 既にここヘミュンの町は肌寒くなっていた。
 町には外套を羽織る人も多くなっているようで窓の外には時折そう言った姿が見取れた。

 あたしは力なくよろよろと立ち上がっるのだった。


 * * *

 
 「流石に厳しいですね。ダリルたちには馬車を準備させていますがヘミュンの町から出るには検問が厳しすぎる」

 バルドさんは戻ってきてそう言う。

 
 「お母様、急ぐのであればまた竜の姿になりますが?」

 「それはやめた方がいいでしょう。帝都には城壁に魔獣避けの結界が張ってあります。黒龍様たち程の存在、すぐにでも気づかれましょう。それに今の帝都は‥‥‥」

 バルドさんはそこまで言って首を振る。

 「確認できただけで十二体の巨人が待機しています。更に巨人の卵もあるようです。そして魔怪人や融合魔怪人、キメラ部隊などの戦力が集まっています。いくらティアナ様たちとは言え正面からは‥‥‥」


 流石にホリゾン帝国が帝都エリモア。


 ジュメルを引き入れた皇帝ゾルビオンのせいで事実上ホリゾン帝国はジュメルの傀儡になっている。

 しかし住民全部がジュメルに加担している訳では無い。
 だから住民たちをを巻き込むような奇襲をかける訳にも行かない。


 「精霊魔法で姿を隠して入り込めないの?」

 「魔獣除けと同時に外部からの侵入にも対処しています。魔法で入り込もうとしても反応してばれてしまいますでしょう。なので伝書鳩を飛ばしていますがエリモアには街中に流れる川から侵入しましょう」

 バルドさんにそう言われあたしたちはまずはこのヘミュンの町を出る方法を考える。


 「バルド様、準備は出来ていますがいかがいたしましょう?」


 馬車を準備していてくれたダリルさんは毛皮を沢山荷台に乗せていた。
 本来はこの毛皮に紛れて馬車で帝都に行くつもりだったのだけどこれだけ検問が厳しいとそうもいかない。

 「今までであればこの時期に帝都では毛皮の需要が増えるので簡単に検問も突破できたのですが」

 申し訳なさそうに言うバルドさん。

 「でもこの街を出るのなら魔法は使っても大丈夫なのでしょう? 馬車と一緒に門まで行って開いたらこっそりとあたしたちだけ先に出ましょう」

 シェルは既に準備を整えぱっと見この界隈にいる人と同じような姿になっている。
 ティアナも準備出来たようで外套に身を包んでいた。

 「バルド、私たちはシェルの魔法で姿を消します。ダリルたちには通常通り毛皮の運搬をさせてください。門が開けばその隙に」

 「わかりました。ではダリル、ロム。頼んだぞ」

 「はい、バルド様」

 そう言って馬車はこのヘミュンの街から帝都エリモアに向けて出発したのだった。


 * * * * *


 「なんだ、簡単に出れたじゃない。緊張して損した」

 シェルのおかげであたしたちはすんなり門を出れた。

 しかし流石にダリルさんたちの馬車は事細やかに調べられなかなか門から出れなかったけど最終的には問題無く外に出れた。


 今はあたしたちは馬車に乗っている。

 あたしは何気なく自分の腰を触る。
 そしてシコちゃんがいない事に気付く。

 あのホルダーはヘミュンの拠点に置いて来た。
 もう二度と使う事が無いだろうから。


 「エルハイミ?」


 ティアナがあたしを見て驚いている。
 そして優しく抱き寄せてくれた。

 気付けば今頃涙がこぼれている。

 シコちゃんがいなくなったことが今更ながらに応えてきたようだ。


 「エルハイミ、私はそれでもシコちゃんに感謝しています。シコちゃんの犠牲が無ければエルハイミを失っていたかもしれない」

 「ティアナ‥‥‥」

 あたしは涙を拭きながらティアナに寄りかかる。



 「エルハイミ!」


 シェルがあたしを呼ぶ。
 

 何よ、せっかくティアナに慰めてもらっているのに!!
 最近のシェルはあたしがティアナといちゃいちゃすると直ぐ文句言ってくるようになってきたのよね!

 
 あたしがそう膨れているとシェルは真剣な顔で話してきた。

 「今エルフのネットワークで連絡が入ったわ。 帝都エリモアにいるエルフからの情報だと皇帝ゾルビオンが国民に対して重大な話をするそうよ!」

 「なんですってですわ!?」

 「シェル、詳しくは分からないのですか?」

 「うーん、一旦ファイナス長老がまとめないと細かくは分からないわよ。誰だか知らないけどエリモアにいるエルフはそれほど沢山の情報を流してくれていないもの」

      
 ホリゾン帝国に動きがあった。


 あたしとティアナは顔を見合わせるのだった。
   


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

処理中です...