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第十五章

15-2素体

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 15-2素体


 「よく来てくれましたアンナ。」

 
 ティアナはそう言ってアンナさんを迎えた。
 
 「殿下、お久しぶりです。先日はボヘーミャにいらしていたようですがお会いできませんでしたね? 師匠からは色々と聞きました」

 そう言ってアンナさんはルイズちゃんの背中をポンポンと軽くたたいている。
 どうやらまだ寝ている様だ。

 「新型魔晶石核が出来上がったと聞きましたが?」

 「はい、しかし問題も出てしまいました。この新型魔晶石核、『連結型魔晶石核』とでも呼びましょうか? これを扱えるのは適合者だけとなってしまいました」

 そう言ってアンナさんはイオマに先程の連結型魔晶石核を取り出させる。
 ティアナはそれを見てあたしと同じく驚く。

 「これは! なんという存在感‥‥‥」

 「殿下もやはり適合者ですね。連結型魔晶石核は親和性が高いか、高レベルの魔導士でなければ扱う事がでいないのです」

 ティアナはアンナさんを見て首をかしげる。

 「と言う事は?」

 「『ガーディアン計画』に有った『鋼鉄の鎧騎士』はこの連結型魔晶石核を原動力に動きます。理論上ではアイミにも引けを取らない出力を出せるはずです。しかしそれを操作する者が適合者でなければ動かす事が出来ないと言う事になります」



 ―― ガーディアン計画 ――
 
 国境などの重要拠点防衛の為に鋼鉄の鎧をまとう大型のマシンドールを想定していた計画。
 しかしその操作や複雑な動きを外から同調では事足りなく直接選ばれた者がこの鋼鉄の鎧を着こみ矢面に立つという物。

 大きさは六メートル前後の巨人族並の巨体を持ち、動力源を新型の魔晶石核で担う。

 この構想は通常の軍隊はもちろん、ジュメルの融合型魔怪人や巨人をも想定してのモノ。
 「鋼鉄の鎧騎士」を一体配備するだけでアイミレベルの防衛力を保有できる事になる。

 
 しかしそれには膨大な経費と労力がかかる。
 そこに来て今回の適合者問題。


 「動力源となる連結型魔晶石核は出来ました。次は素体の作成ですがどうでしょう? 部材は手に入りそうでしょうか?」

 「それに関してはアンナ殿、かなり無理な注文だぞ? ミスリル合金はもとより、魔力親和性の高い竜骨、魔晶石、魔石の類に最高級の鉄とは。いくら本国の支援が有っても足りないほどだぞ?」


 ゾナーは資料を引っ張り出す。
 そして「鋼鉄の鎧騎士」の素体づくりに難色を示す。


 「わかってはいます。しかし素体にそれだけの強度、魔力伝達、魔力親和性を持たせる必要が有るのです。そうすればあの巨人でさえ圧倒が出来るはずなのです」

 アンナさんはぐっと力む。

 魔道を研究するものとして、そして自国を守る為にアンナさんはその持てる知識と力をすべて投入してきている。

 
 「とは言え、エスティマ様もあれだけ動いてアテンザ様も協力してくれている。だがこれだけの物をそろえるのは至難の業だ」

 ゾナーはそう言って資料をあたしに手渡して来る。
 見れば先ほどゾナーが言ったもの以外にも魔獣の角や外骨格等も書かれている。


 「アンナさん、こんなにも必要なのですの?」

 「はいエルハイミちゃん。これでも最小限に抑えているのですよ」


 うーん、これって全部揃えたら軽く国家予算以上になっちゃうんじゃない?
 概略の物を市場価格であたしは算出してみるけどとんでもない数値になる。

 しかもミスリル合金って‥‥‥


 現状ミスリル合金の精製技術はボヘーミャの専売特許になっている。
 勿論あたしは素材さえあれば作れるけど普通はかなり困難でその生産性や魔術師の確保を考えるとコスト高になって市場にまで流すのは難しい。
 しかし学園都市ボヘーミャにはそう言った知識や研究対象などで細々と素材の生産がおこなわれている。
 それがたまに市場に出回るのだ。

 もっとも、宮廷魔術師クラスで無いと取り扱えない希少金属なので出回る量自体が少ない。


 「ティアナ、素材の確保に私たちも協力しましょうですわ。このままでは何時まで経っても素材が集まりませんわ」

 「そうですね。ホリゾンの次なる動きも気になりますしね。ゾナー素材確保は私たちも協力しましょう」


 それを聞いたゾナーの表情が明るくなる。

 「主たちが動いてくれるのならば助かる。これでエスティマ様の愚痴に付き合うのも減るな」

 そう笑いながら言う。


 この二人意外と馬が合うのかな?



 「鉄か‥‥‥」

 ジルがなんかつぶやいているな?
 あたしは気になって聞いてみる。

 「ジル、鉄で何か有るのですの?」

 「いやね、最近見つけた西の山間から採掘した鉄鉱石がかなり良いモノだってドワーフたちが言っていたんだ。あそこはちょっと離れるけど豪雪地帯からぎりぎり外れるしノルウェンに近い事も有って魔晶石も出るらしい。最近のティナの町にとっても重要な採掘場になりつつあるんだ」

 そう言って腰のポーチから小さなキラキラした石を取り出した。


 「シェ、シェルねーちゃんにあげようと思っていたやつなんだけど、ファムさんに聞いたら魔晶石と鉱石が混ざった珍しい物だって」

 「へ? あたしにくれるつもりだったの?」


 ちょっと顔を赤くしたジルはそう言ってその石を渡してきた。
 
 「あ、ありがとう。うわー、奇麗」

 シェルはそれを指でつまみ光にかざす。


 「こ、これと同じようなのも結構出てきているらしいよ。エルハイミねーちゃん、これも使えるんじゃないかな?」

 シェルはそれをあたしに貸してくれる。
 あたしはそれを同調して見ようとする前に驚く声がした。


 「な、何と言う事ですか! それは紛れもなく魔鉱石!?」


 アンナさんがものすごく驚いている様だ。


 魔鉱石って何?


 「アンナさん、魔鉱石とは一体何なんですの?」

 「古文書に有ったドワーフのみ扱えるという『狂気の巨人』をとらえた鎖の原材料です」


 えーと、「狂気の巨人」をとらえた鎖ねぇ~。

 ‥‥‥
 ‥‥‥‥‥‥

 ちょっとマテ?

 それってデミグラス王の言っていた失われた技術のやつ!?


 「アンナさん、それってもう失われた技術ってデミグラス王が言ってましたわ」

 「多分そうなのでしょうが、これは魔力との親和性がとても高い金属のはずです。エルハイミちゃんの【創作魔法】ならもしや‥‥‥」


 アンナさんはそう言って何かぶつぶつ始まった。


 うーん、自分の世界に入り始めたか?


 「お姉さま、それだけすごい金属なら骨格に使えるかもしれません。本来の魔力伝達も一緒に出来れば反応速度も上がります! この金属をもっと手に入れられないでしょうか?」

 イオマはそう言ってあたしとジルを見る。
 あたしは何となくジルを見るとため息をついた。


 「ゾナー様、これで決まりだね。エルハイミねーちゃんたちを連れて採掘場へ行ってくるよ。実際に行って見ないと採掘状況も分からないしね。数日で戻っては来れると思うけど」

 「わかった、ジル。そうすると馬車はムリだな。主よ良いのか?」

 「かまいません。では明日にでも早速出発しましょう。これで素体が作れるかもしれませんからね」



 こうしてジルの案内であたしたちはその採掘場に行く事となったのだった。

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