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第十四章
14-22ロザリナ
しおりを挟む14-22ロザリナ
お茶を配られあたしたちロザリナさんの話を聞く事となった。
「まずはどうぞ、この辺のハーブティーです。お口にあうかしら?」
すすめられたお茶をまずは一口飲んでみる。
すると口の中に一気に広がる清々しい香りとほんのり甘い味。
これはなかなかのものだと思う。
「これはまた芳醇な香りとほんのりした甘さが良いですね?」
「そうでしょう? 私のお気に入りです」
そう言ってロザリナさんはもう一口お茶を飲む。
そしてお皿とカップを静かにテーブルの上に置いた。
「さて、既にティアナ殿下もエルハイミさんもジュメルが関わっている事はお気づきなので要点だけお話します。最近ここサフェリナとボヘーミャの貿易航路の船が襲われています。既に三隻もの船が行方不明です。うち一隻はその残骸が確認されています」
既に被害は大きいと言う訳か。
しかし話ではマジックアイテムを狙っているかのような口調だったけど?
「狙われているのは全て運搬船だけです。通常航路の客船は被害が有りません。それと三隻ともボヘーミャからの荷を積んだものが襲われています」
ロザリナさんは宣言通り要点だけを話す。
「市場には略奪されたマジックアイテムが流通していました。二隻目以降はうちの雇った冒険者たちで対策を取っていましたが生還者の話ではどうやら奇襲には『魔怪人』や黒づくめの者たちがいたそうです。それと大型のクラーケンを使役していたそうです」
「略奪目的は資金源の確保ですか?」
「それだけでは無いと思いますがどうやらあちらもその『海底神殿』の情報を入手したようでね。航路上にその『海底神殿』が有るようです。運搬船の航路は微妙に通常の客船とは違います。運搬船は一旦ミロソ島に寄ってからサフェリナに来るコースですので」
ティアナの質問にロザリナさんはそう答える。
そしてまたお茶を一口飲む。
「サフェリナからの船は襲われませんの?」
「ええ、多分こちらからは商品価値の低い物しかボヘーミャに運んでいないからでしょう。唯一有るとすれば『エルフの魔法の袋』くらいです」
あたしは自分の腰についているポーチを見た。
『エルフの魔法の袋』は冒険者や商人の間では有名で必需品とされている。
この袋はその外観の何倍もの荷物をしまう事が出来、更に入れた時のまま食品などの鮮度を保てる優れものだ。
数自体は少ないがエルフの村の外界からの数少ない収入源でもある。
「拠点は不明ですがこちらに略奪の品が流通している所を見るとサフェリナの近郊だと思います。それとこれは推測ですがティアナ殿下たちの行動はジュメルに情報が流れていると思われます」
まあそうだろうね。
ジュメルの組織力は一国のそれを凌駕するモノが有る。
当然十二使徒にはダークエルフたちもついているし、まだまだ各国には協力者がいるだろう。
そう言った所からあたしたちの行動は流れているだろう。
「そもそも『海底神殿』はティアナ殿下たちが情報を得た後からジュメルも動き出していました。我々もあの航路の底にそんなものが有るとは思いもしませんでした」
ロザリナさんはそう言っておかわりのお茶を入れる様使用人に言う。
アインシュ商会。
流石と言える情報収集能力。
これってうちのガレント並みの情報機関を抱えているのじゃないだろうか?
「では私たちの役目としてはその『海底神殿』に向かえば必然とアインシュ商会に影響を与えるジュメルがやって来ると?」
ティアナはおかわりのお茶を飲みながら静かにそう言う。
「お話が早くて助かります、殿下」
ロザリナさんもお茶を飲みながらそう答える。
全く、全て予定通りか。
「ではこちらも準備に取り掛かります。エルハイミどのくらいで出来そうですか?」
「そうですわね、船の規模と取り付け後の試験をするので二、三日で準備はできますわ」
あたしは潜水艇の作成とそれを運用する船の改造、そのテストを考えて答えた。
するとロザリナさんは巻物を取り出す。
「今回すぐに用意できる船はこれらです。簡単な見取り図もついています。積載容量などもありますがどの船が必要になるでしょうか? それと必要であれば複数の船を準備しますが?」
あたしは巻物を受け取り開いてみる。
そこには三隻の船の見取り図が書いてありそれぞれの積載容量やその他細かい内容が記載されていた。
一つは大型船。
これは積載容量が十分に有る分移動速度が遅く戦闘などには完全に向かないもの。
二つ目は中型船。
積載容量にはやや難があるが移動速度最優先の商船。
但軽量化を優先しているので強度などが心配だ。
三つめは完全なバトルシップ。
先端には体当たり用の衝角が取り付けられていたり魔法攻撃が出来るように魔術師の配備が出来る場所が備え付けられたりと物々しい装備が目立つ。
これも中型船同様速度を優先する為積載量が厳しい。
「これを見る限り大型船が必要になりますわ。これより作成する『潜水艇』は鉄の塊ですもの。その重量や海への浸水、引き上げには専用の運搬器具が必要になりますわ。それと空気の供給システムも」
あたしはジュメルが襲ってくるのはあたしたちが「海底神殿」から「女神の杖」を回収した後だと思っている。
もしジュメルに「海底神殿」に行くだけの能力が有れば既にそんなまどろっこしい事はしないで回収を始めているだろう。
もしかして商船を襲っていた目的はあたしたちをおびき寄せ「女神の杖」を回収させるのが目的だったかもしれない。
「わかりました。大型船を用意しましょう。複数隻必要ですか?」
「いえ、一隻で十分ですわ」
あたしのその答えにロザリナさんは「わかりました」と言って立ち上がる。
そして船の所へと案内する為に一緒に移動を始めるのであった。
* * * * *
「ここはアインシュ商会の保有する造船場です。新造の大型船がちょうど一隻あります。皆さんにはこの船を自由に使っていただいて構いませんのでよろしくお願いします。それと造船場の近くのこのホテルを使ってください。既に手配はしてあります。また何かあれば遠慮なく私に話をしてください」
ロザリナさんに連れられてやって来た場所は港から少し離れた場所だった。
大きな建物ですぐ横は海。
職人たちが右往左往して整備しているのは新造の大型運搬船だった。
この世界でもかなりの大型になるのではないだろうか?
カーフェリー並みに大きいし荷物の積み下ろしを考えてか後ろが跳ね上げ橋の様になっていてそのまま荷下ろしが出来るようになっている。
今回の『潜水艇』運用にはもってこいの構造だった。
あたしたちはここの責任者の人と顔合わせをする。
「どうも、ここの主任をやっていますオリバーと申します。ロザリナ様、この方たちが連合軍の?」
ロザリナさんは無言でうなずく。
「こんにちわ、お世話になります連合軍将軍ティアナ=ルド・シーナガレントです」
「こんにちわですわ。妻のエルハイミですわ」
あたしたちは挨拶をしながらオリバーさんと握手をする。
「オリバー、こちらのエルハイミさんの指示でこの大型船を改造しなさい。いよいよあの海賊どもに鉄槌を下す時です」
あっ、なんか今ロザリナさんから怒りの炎が?
やっぱり結構な損失だったんだろうな。
目が本気だ。
そんなロザリナさんはあたしに顔を向けゆらりとやって来る。
「エルハイミさん、徹底的にお願いします。奴らを完膚なきまでに叩き潰してやってください、大魔導士杯の時の様に!」
ぐっとこぶしを握り締め意気込んであたしに詰め寄る。
「ロ、ロザリナさん?」
「ふふふふっ、このアインシュ商会に手を出したことを後悔させてやります。横流しの流通はもう少しで足が掴めますし、そちらのルートも完膚なきまでに叩き潰してやりましょう!」
よほど悔しかったのだろう、ここにきてロザリナさんの闘志が燃え上がる。
あたしは頬に一筋の汗を流しながらティアナと顔を見合わせるのであった。
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