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第十三章

13-23魔法王

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 13-23魔法王


 「お嬢さん、大丈夫かい?」

 
 そのおっさんは片手にエルフの見た目幼女で巨乳の美少女を抱きかかえながら重そうな剣を地面に突き立て倒れたあたしに白い歯を光らせながら手を差し伸べた。


 あたしは恐る恐るその差し出された手を取る。
 すると思いの外力強く引き起こされそのままメル長老と一緒にこのおっさんの胸に抱かれる。

 「なんか知らんがいい女だな、お嬢さん今晩どうだい?」

 「へっですわ?」

 
 『いい加減にしなさい、ガーベル! あんた自分の娘にまで手を出すつもり?』


 あたしは状況が理解でき切れないまま瞼をぱちくりしている。


 「げぇっ!? そ、その声はシコっ!? どこだ? どこにいる!!」

 『あんたが抱きしめているその金髪碧眼の美少女の腰よ! 今まで何処ほっつき歩いていたのよ!?』


 「ガーベル様じゃぁぁあああぁぁぁっ!!」

 おっさんが何か言おうとする前にまたメル長老がキスしてその口をふさぐ。

 「むぐぅぅぅうううぅっ、 ぷはっ! おいこらメル、いきなり舌入れるんじゃねぇっよ!」

 「ガーベル様じゃぁぁああああぁぁぁ!!!!」

 「わかったわかった、落ち着けよメル。おっと、そうだロメ、ナミ、カナルお前らも」

 そう言って無詠唱で念動魔法を使って残りの最古の長老の眼鏡も外す。
 


 えーと、このおっさんって魔法王ガーベルその人?




 「エルハイミから離れろっ!」

 
 復活したティアナがいきなり槍を突き刺しながらこのおっさんに全力で突撃してきた。
 その威力は踏み込んだ地面を爆煙ではじかせ音速に近いスピードで槍を突き出して来る。

 しかしそんなティアナの槍をこのおっさんは難無く片手の指ではさみ止める。


 「あっぶねぇなぁ! 何だこの女ぁ? いきなり殺りに来たぞ? シコ誰だよこいつは?」

 『あんたね、その子もあんたの娘、子孫よ!』

 そう言われるとこのおっさんは心底嫌そうな顔をして身動きできなくなっているティアナをぴんと弾く。
 弾かれたティアナはまたまた吹き飛ばされていく!?


 うそっ!
 あの力を使ったティアナを指先だけではじいた!?


 そしてあたしは解放され、このおっさんはメル長老だけ抱きしめたまま寄って来る他の最古の長老たちに抱き着かれる。


 「おおうっ、ガーベル様じゃぁ!」

 「凛々しいお姿、全く変わっておらぬのじゃ!」
 
 「ガーベル様、メル様の後でいいから抱いて欲しいのじゃ!!」


 嬉しそうにしている最古の長老たちだったが、次の瞬間襲いかかって来るダークエルフたちに気付き一瞬にして精霊魔法で葬り去った。


 「まったく、よくもやってくれたのじゃ!」

 「ダークエルフ風情が寝込みを襲ってくるとはな!」

 「村の者も緊張が足らんようじゃな、ダークエルフごときを易々と入れる様ではな」


 
 ええっ!?
 一瞬なのっ!?


 「流石に最古の長老たちです。しかしよかった、ご無事で。」


 「むう、ファイナスよ。早う残りのもんを片付けよ。それとソルガ! 何じゃあれは!? ダークエルフ如きを易々と村に入れるとは! 後で折檻じゃ!!」

 「ええっ! そんな、ロメ様ぁっ!」

 あたしはソルガさんの情けない顔を初めて見た。
 しかしその横で震えるシェルを見つける。

 「ううっ、ソルガ兄さん、ロメ長老の折檻って相当なモノって聞いてるわよ?」

 「ロメ様はその道のプロともいわれていますからね。ソルガ、骨は拾ってやります」

 「ファイナス長老までっ!?」

 なんか絶望で白くなっているソルガさん。




 「くっ! エルハイミっ!」


 ティアナは甲冑を青い光の粒子に分解しながら元の姿に戻ってあたしのもとまでやって来る。


 「エルハイミ! ケガは無い!? どこも問題は無いの!?」

 「ティアナ、あなたの方こそ大丈夫なのですの?」


 あたしを抱きしめるティアナは両手であたしの顔を押さえ真剣なまなざしであたしの安否を確認している。
 でもあたしだってティアナが心配だ。
 あの力を使ってしまうなんて。



 「おいおい、俺の娘って言うがずいぶんと美人ぞろいじゃねーか! 赤髪の子もすっげー美人じゃねーか! シコ、誰の子たちだ?」

 『あんたね、この子たちはガレントの正統な血筋、ライムとあなたの子供の系譜よ!』

 それを聞いたこのおっさんはものすごく嫌そうな顔をする。



 そんなあたしたちのもとへ刀を収めた師匠がやって来た。

 「エルハイミ、この方は?」

 「師匠、この人は私たちのご先祖様、魔法王ガーベルですわ」



 ざわっ!



 周りにいる人たちが一斉にガーベルその人に注目する。

 「あれが伝説に出てきた魔法王ガーベル‥‥‥」

 「そんな、お姉さまが魔法王の直系の子孫だったなんて‥‥‥」
    
 ショーゴさんやイオマが驚いている。
 
 
 そんな中マリアがあたしの肩に留まってもみあげの髪の毛を引っ張る。

 「ねぇ、エルハイミ、あれ‥‥‥」

 マリアに言われた方を見るとコクと今しがた戻って来たクロさん、クロエさんがティアナに倒されたベルトバッツさんの亡骸を見ている。


 「ベルトバッツよ、大儀であった。安らかに眠れ」

 そうだ、あの魔怪人にされたベルトバッツさん!
 あたしはその場を離れコクの横に行く。


 「コク‥‥‥」

 「お母様、ベルトバッツは良く尽くしてくれました。こんな最後になってしまいましたが‥‥‥」



 「なんだい? そいつはお前さんたちの知り合いだったのか?」

 あたしたちがベルトバッツさんの亡骸に手を合わせようとしていたらご先祖様がやって来た。


 「ふーん、こいつは【大樹の皇帝】を使った劣化版じゃねーか。あいつらこんなもん研究していたのか? おや、まだ魂が霧散してねーな。そうだっと」

 ご先祖様は何やら懐からごそごそと人形を取り出す。
 それはポージングデザインなんかで使うような特に飾り気のない木で出来た人形だった。


 「お前らの知り合いなんだろ? 肉体を戻すのはムリだがこいつの魂をゴーレムに入れる事は出来るぞ? どうする、こいつを助けるか?」


 なっ!?
 そんな簡単に言うけど出来んの!?


 「出来ますの? お願いしますわ!」

 「おう、任せとけ。娘の頼みなら張り切ってやっか! シコ手伝え!」

 そう言ってご先祖様はあたしに手を出す。

 『相変わらず気分屋ね。まあいいわ、エルハイミあたしをガーベルに渡して』

 あたしはさっそくシコちゃんをご先祖様に渡す。

 「シコってこんなにちっちゃかったっけ? まいいや、始めんぞ!」

 『全く、で何すればいいの?』

 「こいつを媒介にして、そうだな、ウッドゴーレムが良い。ちょうどこの辺には質のいい木材が転がっているからな!」

 そう言いながらご先祖様は魔力を練る。


 「「「!?」」」


 あたしと師匠、それにティアナは一斉に反応をする。
 なんて大きな魔力!
 そしてなんと濃度の高い術式!

 シコちゃんが繰り出す様々な魔法もすごいがご先祖様が扱っているそれは桁違いだった。


 「よし、空間閉鎖に成功、霧散する魂は確保できた。これから核となるこの人形に魂を入れるぞ! シコ同時にゴーレム生成! いくぞ!!」


 その手際の良さや錬成の高さは横で見ているあたしたちを魅了する。

 ベルトバッツさんの魂は魔怪人の遺体から丸い光となって出てきて小さな人形に吸い込まれていった。
 そしてご先祖様に握られていた木の人形は空中に浮かびあがり力なく垂れていた手足が動き始める。


 『核は出来たみたいね、行くわよ【ウッドゴーレム】!』


 シコちゃんがこの人形を核にウッドゴーレムの生成を始める。
 すると近くにあった樹木の破片や枝が寄り集まってきてガタイの大きな木製ゴーレムが出来上がった。

 「よし、仕上げだ」

 そう言ってご先祖様はそのゴーレムに手を当てると光りだし表面の形状が木目調だけどまさしくベルトバッツさんその人になった!


 「うっし、これで出来上がりだ。おいお前さん、俺の声が聞こえるか?」


 「ううっでござる‥‥‥ はっ? 拙者は今まで何を?」

 「ベルトバッツよ!」

 「「「長よ!」」」


 ベルトバッツさんはコクの姿を見るとすぐにその場に跪きひかえる。


 「黒龍様、申し訳ございませんでござる。黒龍様の命を完遂出来ませんでござった。この責任、我が命にて償いますでござる!」

 「やめい、ベルトバッツよ! 我はその様な事を望んではおらぬ!! 魔法王ガーベルよ礼を言う。我が配下の命このような姿なれど失わずに済んだ」


 「ああん? 何だこの嬢ちゃんは? そっちの金髪の娘の娘か? それに黒龍て言ってなかったか?」

 ご先祖様は相変わらずエルフの長老たちに抱き着かれながら顎に手をやりコクを見る。


 「ご先祖様、ありがとうございますですわ」

 「いいって、いいって。それよりよ、これはどう言う事か説明してくれ、久しぶりに墓参りに来たらユグリアが燃えていて変な巨人はいるわ、キメラまがいのもうじゃうじゃいるわで何が何だかよくわからん」


 そう言ってご先祖様はその場にどかりと座った。

 あたしはティアナと顔を見合わせてから今までの事を話し始めた。


 * * *


 「ふーん、そうすると今の時代は安定していたがそのジュメルとか言うのにひっかきまわされてんのか? それにあの『女神の杖』を探しているってのか? そうすると『狂気の巨人』復活させる気か? ばっかじゃねーの? あんなの復活したら今度こそこの世界は終わるぞ?」


 『で、ガーベルあんたは何やってたのよ、この数千年!?』


 シコちゃんにそう言われ胡坐かいて美女と美少女のエルフに寄り添われているご先祖様は目線を泳がす。


 「あー、なんだ、セミリアがなぁ‥‥‥」


 『セミリアって、冥界の女神セミリア様? あんたセミリア様に会えてんだ?』

 「まあ、その、すげえ美人で手え出して俺の女にしたんだが、当初の目的のライムを返してもらいたいって言ったらすっげー怒ってな。俺はまた人間界に飛ばされ、ライムはどうなったか分かんねーんだわ」

 はっはっはっはっはっと乾いた笑いをするご先祖様。


 いや、ちょっと待ってよ。
 ご先祖様のわがままで古代魔法王国崩壊しちゃったのよ?
 そこまでしてライム様を探しに行ったのにその先で女神様に手ぇ出して自分の女にしちゃったですってぇ?
 更に昔の女を思い出し話したら怒られて人間界にすっ飛ばされたァ?


 あたしとティアナはジト目でご先祖様を見る。



 『で、それって何時の話しよ?』

 「つい最近だな。こっちの世界に戻って驚いたが俺の国無くなってたしずいぶんと様変わりしちまったよなぁ」

 頬を指でポリポリと掻きつつ思い出すかのように上目遣いですっとぼけた事を言う。


 「ガーベル様じゃぁぁああぁぁっ!」


 「あ、あのメル様?」

 「捨てておけい、ファイナスよ。数千年ぶりに会えたガーベル様じゃ、メル様も感極まっておるのじゃ」

 最古の長老たちは流石に落ち着いているがその眼は肉食獣に変わっていた。

 
 あたしたちはため息をついてファイナス市長を見る。
 するとファイナス市長は語りだした。

 「とにかく先ほど確認しましたがジュメルの神父とダークエルフは完全に始末出来たようですね。念のために『身代わりの首飾り』が無いか確認はしましたが持ってはいなかったようです。遺体は万が一が有るので拘束したのち剣で板に串刺しにしておきました。街の被害も大きいもののあの後ほとんどの魔怪人は息絶えていました。どう言う事でしょう?」


 「ああ、それなら命を糧に使い切ったからだろう? 【大樹の皇帝】の劣化版で強力なキメラになった代償に魔力と命を使い切ってしまったんだろう。だからあの研究は無駄だと言ったのにな」


 ご先祖様はそんな事を言って顎をさすりながら目を閉じる。



 『で、ガーベルあんたここには何しに来たのよ?』

 「ああ、とりあえず話が分かりそうなのってエルフくらいだろ? ユグリアが残っているならメルたちも元気だろうからついでに子供の墓参り含めてここへ来たってわけよ」

 『よかったわね、ライムがここに居なくて。ライムは復活してあんたが探しに来ないって怒ってたわよ?』

 「なにっ!? ねえさんが、ライムが復活しているって!? どう言う事だよ、シコ!」

 『どう言う事も何もかくがくしかじかで~』

 なんかシコちゃんと長々と話し始めてしまった。



 あたしはそんなご先祖様にあきれてティアナと顔を合わせるのだった。  
 
 
 
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