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第十三章

13-21ボーンズの眼鏡

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 13-21ボーンズの眼鏡

 
 「エルハイミさん、貴女たちにはこのメガネをかけてもらいます」



 そう言ってボーンズ神父は懐から眼鏡を出す。
 それは女性物の眼鏡で淵の黒いものだった。


 「大人しくこのメガネをかけてください、こんな風にね」


 ボーンズ神父はそう言ってメル長老に眼鏡をかける。

 「んーっ! んーっ!!」

 メル長老はものすごく嫌がっていたが眼鏡をかけたとたんに大人しくなる。
 そしてボーンズ神父が指をパチンと鳴らすとメル長老を拘束していた猿ぐつわや荒縄が外れる。

 「いい子ですねぇ。さあ、エルハイミさん、貴女たちもこのメガネをかけてください。そうすればこのメル長老は解放しますよ、はーっはっはっはっはっはっ!」


 「メル様!」

 「ファイナス市長、ダメです。メル長老の瞳には生気が宿っていません。多分あの眼鏡による精神制御を受けているのでしょう」

 ファイナス市長がメル長老のもとに行こうとするのを師匠は止める。

 その様子を見ていたボーンズ神父は嫌そうな顔をしながら言う。

 「うーん、貴女が魔法戦士で英雄のユカ・コバヤシですか? 邪魔ですね、消えてもらいましょう! さあ、メル長老、あの者を殺ってしまいなさい!」

 ボーンズ神父がそう言うとメル長老は直ぐに風の上級精霊を呼び出した。
 そして手を師匠にかざすと突風が吹き師匠は刀で何かを弾いているものの、体中に見えない刃物で切り付けられたような切り傷が出来る。


 「師匠!」
 
 「師匠ですわっ!」


 あたしとティアナは慌てて師匠のもとへ駆けつけようとする。

 「来てはいけません! ティアナ、エルハイミ! ここは一旦下がりなさい!!」

 師匠はそう言って流れる血もそのままに刀を地面に突き立てる。
 とたんに地面が盛り上がって【地槍】がメル長老とボーンズ神父に伸びる。

 しかしメル長老が手をかざすと今度は大地の上級精霊が現れ地槍をメル長老の目の前でピタッと止める。
 とそのわずかな合間に師匠は光の魔法を光量最大に持続時間を短く目くらましの光を放つ!


 「うわっ! 眩しいぃっ!」
 
 「くっ!」


 その光をモロに食らったボーンズ神父とダークエルフのベスが短い悲鳴を上げる。 


 「ティアナ、エルハイミ、今のうちです、一旦引きます! ファイナス市長も!」
 
 そう言って迷っているファイナス市長を引っ張り師匠はこの場をいったん離れる。
 あたしやティアナ、他のみんなもそれに続き一旦この場を離れた。



 * * *


 「ユカ、メル様が‥‥‥」

 「ファイナス市長、しっかりしてください。あなたが指示を出さなければ他の者も混乱をしてしまう。ティアナ、エルハイミ、ジュメルの神父の狙いはあなたたちです。私たちが陽動を行います。貴女たちはその隙にメル長老のあの眼鏡を何としても外すのです。そうすれば精神支配からメル長老も解き放たれるでしょう」


 あたしたちは一旦建物の影に逃げ込んで光による目つぶしを受けたボーンズ神父たちから距離を取った。
 そして師匠の指示に従う為に作戦を立てる。

 「そう言われましても一体どうすればメル長老の眼鏡をはずせますの?」
 
 あたしは師匠に回復魔法をかけながら聞く。

 「メル長老は強力な上級精霊魔法を使います。それを眼鏡だけを外させるとは至難の業‥‥‥ 師匠、一体どうすれば?」

 ティアナも相手がメル長老では下手に手が出せない。
 しかも眼鏡だけをピンポイントで外すなんて。

 あたしたちは良い手段が思いつかず悩んでいるとソルガさんがシェルを見る。

 「シェル、お前がメル様の眼鏡を射抜け」

 ソルガさんはそう言ってソルガさんの矢をシェルに渡す。

 「ええっ!? む、無理だよソルガ兄さん!!」

 「しかしお前の持つその弓ならあの風の中でも矢を眼鏡に当てる事が出来るだろう?」

 ソルガさんはシェルの弓を見る。
 ミスリル製のその弓は強く軽くそしてしなやかに出来ていてバランスも良くシェルが使うとまるで魔法の矢のように標的を射抜く。
 しかし渡された矢を持ったシェルの手は震えていた。

 
 「お母様、私も手伝いましょう。ベルトバッツよ、参れ!」

 「はっ! 黒龍様お呼びで?」

 ベルトバッツさんはすぐにコクの側に飛び出てその前に跪く。

 「この者たちが陽動をする。その間に貴様はあの太古のエルフの眼鏡を取り払え! よいな、傷一つ付けてはならんぞ! 私はあの者とまだ飲み比べで勝利していないのだからな!」

 「御意にござります、黒龍様!」

 「コク、ですわ‥‥‥」 

 コクもなんだかんだ言ってメル長老との因縁は有るものの今はあたしたちの意を介して手伝ってくれる。


 「エルハイミ私もアイミを呼び寄せます。万が一には‥‥‥」

 「ティアナ! それはだめですわ!! お願いですわ、あの力だけは使わないでくださいですわ!」
 
 「しかし、目の前にジュメルの十二使徒がいるのですよ! しかもあなたを狙っている!!」

 目に憎しみの炎を宿しティアナは拳を握る。 
 あたしは直ぐにティアナの顔を両手で押さえ口づけをした。

 「エルハイミ‥‥‥」

 「ティアナ、落ち着いてくださいですわ。ベルトバッツさんが手伝ってくれますわ。きっとうまく行きますわ。だからティアナはあの力だけは使わないでくださいですわ」

 ゆっくり唇から離れながらあたしはそう言う。


 「くうぅぅっ! 見せつけちゃって! ティアナ、とにかくエルハイミの言う事聞いて!」
 
 震える手で矢を持っていたシェルはあたしたちを見てふくれる。

 「そうですよ、ティアナさん。お姉さまの言う通りにしていればうまく行きますよ!」

 「赤お母様、我が配下ローグの民の働きとくとご覧にあれ」

 シェルやイオマ、コクに言われティアナも落ち着きを取り戻したようだ。
 唇を噛んでそれ以上は何も言わなくなった。
 それを見ていた師匠はあたしたちに声をかける。



 「それでは行きます、ショーゴ殿、ソルガも援護を!」


 そう言って師匠はまた操られたメル長老の前に飛び出る。
 すると操られたメル長老は直ぐに師匠に上級精霊を使って風の攻撃をまた行った!

 師匠は見えない風の刃を刀ではじきながら前に進む。

 
 「このっ!」


 ソルガさんがボーンズ神父を矢で狙うがその矢は横にいたダークエルフのベスにあっさりと弾かれる。


 「また貴様か! 何度も我が夫を狙うとは許せん! お前たちやりなさい!!」

 
 ベスがそう指示すると何処からともなくダークエルフたちが五人も現れソルガさんにナイフを投げつけたりショートソードで切りつけたりする。

 しかしその投げられたナイフはショーゴさんのなぎなたソードであっさりと叩き落され切り込んできたダークエルフと切り結ぶ。



 「召喚獣!」 

 イオマが召喚獣を呼ぶ。
 ベスの近くに一瞬にして魔法陣が浮かび上がりそこからロックキャタピラ―の小っこいのが現れベスに向かって毒の液を吐きつける。
 しかしそれはあっさりかわされロックキャタピラ―にナイフが突き刺さり青い光に分解されて消えてしまった。
 だがそのわずかな時間に隙が出来た!

 ベルトバッツさんたちが超人的な動きでメル長老に殺到する。
 驚くベスだがもう間に合わない!

 あたしたちの計画が成功したと思ったその時だった。



 「ふう、危ないですねぇ、まだこんな隠し玉持っていましたか! 流石エルハイミさんたちだ! しかしこちらだってまだまだあるんですよ、隠し玉が!」


 ボーンズ神父がそう言った途端ベルトバッツさんたちローグの民が別の方向から疾風の風の刃の攻撃を受ける。


 「ぐはっ!?」

 「どう言う事でござる!?」

 「ぐっ!」


 ベルトバッツさんたちを弾き飛ばしたそれはメル長老と同じ魔法。
 そしてその魔法を行使した人物たちが歩み出てきた。


 「そ、そんな! ロメ様、ナミ様、カナル様まで‥‥‥」


 『エルハイミ、まずいわよ最古の長老全部が敵の手に落ちているわ!』

 ファイナス市長が驚きそしてシコちゃんまでもが警告を発してくる。  
 見れば眼鏡をかけたエルフの村の最古の長老たちが全員ジュメルの手に落ちていたのだった!



 「くっ! まだまだでござるぅ!!」


 「やめよベルトバッツ! 戻れ!!」

 ベルトバッツさんは全身に切り傷を負いながらもコクの命令を執行しようとメル長老にとびかかる。


 「ふっ、愚かなやりなさい!」

 ボーンズ神父のその一声に最古の長老たちが精霊魔法を発動させる。




 大地の槍が、疾風の刃が、そして水の槍がベルトバッツさんを襲うのだった。
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