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第十二章

12-14ソラリマズ陛下

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 12-14ソラリマズ陛下


 あたしたちは今謁見の間で水上都市スィーフの国王、ソラリマズ陛下の前にいた。


 「お初にお目にかかりますわ。ガレントより参りましたエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンと申しますわ」


 あたしは膝をつき首を頭を下げソラリマズ陛下のもとにひざまずいた。

 「面をあげられよ、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン殿。よく我がスィーフへ来られた。我が国は貴女を歓迎しますぞ」

 あたしはソラリマズ陛下にそう言われ顔をあげる。
 そして陛下を見ると陛下があたしの顔を見て何やら驚いている様だ。

 「なんと可憐な‥‥‥ い、いや、失礼。 それでエルハイミ殿は『女神の杖』なる物をお探しと聞くが?」

 「はい、現在我が連合軍が敵対している秘密結社ジュメルが各国で必死になって探しているものですわ」


 ざわざわっ


 「静まれ! してエルハイミ殿、ジュメルはその『女神の杖』を探して何をしようとしているのだ?」

 「恐れながらこの件に関しては非常に重要な問題故、後程内密にお話をいたしますわ」


 あたしはわざと周りを見てから陛下にまた頭を下げる。
 その様子を見ていたソラリマズ陛下は「うむ、分かった」だけ言いそれ以上はこの件について聞いては来なかった。


 その後あたしはしばしこのスィーフに滞在をしていろいろと調査をしたい旨とその協力をお願いするとソラリマズ陛下は快くそれらを承諾してくれた。

 あたしはお礼を言ってからその場を後にした。


 * * *



 「エルハイミさん、この後陛下が『女神の杖』について詳しくお聞きしたいそうです。よろしいですか?」


 ネミルさんは謁見の間から退席したあたしたちを捕まえてそう言う。

 ここまでは予定通り。

 まずはソラリマズ陛下の気を引き城内でも内密なほど重要な話が有りそして誰それと聞かれてはまずいと言う印象を与える事には成功した。

 「ええ、勿論ですわ。ネミルさんも同席いただけますねですわ?」

 「勿論同席させてもらいますよ、エルハイミさん」

 そう言って彼女はニコリと笑う。
 その笑顔にはここまでが段取り通りうまく行った事を喜んでいる感じがする。

 ネミルさんは別室で待っていたコクたちと合流後にあたしたちについて来るように言って小さな部屋に案内する。


 「よくぞ来られた、エルハイミ殿」

 そこには既にソラリマズ陛下とその側近の者数名がいた。
 あたしは軽く挨拶をしてから勧められた円卓に腰を下ろす。
 
 「して早速だが『女神の杖』とは一体何なのだ? エルハイミ殿もそれを探していると言う事だが」

 「はい、それに関しましては順にお話をしますわ」

 あたしはそう言って重要な所をかいつまんで話し始めた。


 * * *
 
 
 「なんという事だ、それではジュメルの目的はあの伝説の『狂気の巨人』の復活と言う事か!?」

 ソラリマズ陛下はそう言ってその後の言葉を失った。
 伝説通りであれば人類に対抗する術はない。
 しかもコクたち黒龍ですら倒す事が出来なかった化け物。
 もしそれを完全に倒すとするならば巨人の力の源である憎しみと悲しみの感情を持ち、その負のエネルギーを与え続ける人類を滅亡させなければならない。


 「ですので何が何でも『狂気の巨人』の復活阻止はしなければなりませんわ」


 あたしのその言葉に一同は深いため息と頷きをする。
 
 「しかし、我がスィーフにその様な杖が有るのだろうか?」
 
 「約二年前にジュリ教がこちらに神殿を作り活動を活発化していた理由がそれですわ」

 あたしは思いつく事をでっちあげるがあながち的外れではないかもしれない。
 事実あたしはリザードマンたちが案内してくれた古代遺跡で『女神の杖』を手に入れている。

 このスィーフ近郊にある古代遺跡をくまなく探索するにはしっかりとした活動拠点が必要だったのだろう。
 しかし当時の連合軍とアンナさんのおかげでジュリ教は神殿を放棄して撤退していった。

 
 「事情は分かった、我がスィーフは全面協力をしますぞ、エルハイミ殿」

 ソラリマズ陛下はそう言ってあたしを見る。
 あたしはピンクのバックにお花ときらきらフォーカスを準備して最上級の笑顔で答える。

 「ありがとうございますですわ、ソラリマズ陛下」

 するとソラリマズ陛下は顔を赤くして鼻の下を伸ばした。

 
 ふっ、どうよ。
 あたしもまんざら捨てたものじゃないでしょう?

 
 「陛下、エルハイミさんのこの情報はとても重要にございます。この件は外部には内密にしなければなりません。やむを得ない事情で今は城に外部の者もおりますゆえ、エルハイミさんの行動に関しましても私が預かりをしようと思いますがよろしいでしょうか?」

 ネミルさんは宮廷魔術師然たる物言いいでソラリマズ陛下に進言する。

 「む? そ、そうか? エルハイミ殿にはこれほど重要な任務がおありだ、私も極力手伝いたいと思っておるのだがな?」


 おお?
 ソラリマズ陛下に動きがある?


 実はネミルさんはあたしの容姿を使ってソラリマズ陛下の気を引いてメル教から離反をさせようと考えていた。
 確かにあたしの胸ではあのメル教の教祖には勝てないがネミルさんの話ではそれ以外ではあたしはソラリマズ陛下のどストライクらしい。
 
 あたしはまさかここまでうまくいくとは思っていなかったがネミルさんの予想通りに事が動き始めた。

 「ソラリマズ陛下、お気持ちありがたく受け取らせていただきますわ。何かありましたら私からもお願いに参りますのでどうぞよろしくお願いしますわ」

 あたしはサービス視線でソラリマズ陛下を上目遣いで見る。

 
 うっひゃぁあーっ! とでも聞こえそうな位にソラリマズ陛下は反応した。

 
 「も、勿論ですぞ、エルハイミ殿! そ、そうだこの後一緒に食事などいかがかな? スィーフ近郊の古代遺跡や神殿らしきものの情報等も知りたいだろう?」

 「よろしいのですの? 陛下はお忙しいのでは?」

 「なに、食事位十分に時間が取れる。ネミルよ色々と準備せよ!」

 ネミルさんはわずかに苦笑して「御意」とか言っている。
 あたしはこうしてソラリマズ陛下と一緒に食事をする羽目になったのだった。


 * * * * * 

 
 「なによあれ、エルハイミってばサービスしすぎよ!」


 与えられた部屋にあたしたちは一旦戻りこれからについて話を始める。

 「シェル、そう言ものではありませんわ。これもメル教とジュメルの関係を暴く為ですわ」

 「でもお姉さま女の武器使いまくりですよ? お姉さまにあんな笑顔されて頼られたらどんな男でもすぐに言うこと聞いちゃいますよ?」

 「流石主様、雄の扱いになれていられる!」

 「まあ、主様は見境ありませんでいやがりますからねぇ」


 こらこら、これはネミルさんの作戦なんだってば!


 イオマは分かっているもののだいぶ不満のようだし、コクはコクで何か勘違いしていない?
 確かに生前あたしは男だったからどういう風にしたら男心をくすぐるかは知っているけど。
 あたしは女の子が好きであってこんな状態でも無けりゃわざわざ男になんか愛想ふりまかないわよ!


 「まあまあ皆さん、そう言わないで。エルハイミさんのおかげで陛下の気持ちもメル教から距離をおけそうですし、そうすればそのジュメルのボーンズ神父とやらに取り込まれる機会も減るでしょう? すでにエルハイミさんの事はそれとなくメル教に伝えさせました。これで牽制を始められます」

 ネミルさんはそう言ってこれからの事を話し始める。

 「イリナたちにいろいろと調べさせてはいますがなかなか尻尾は掴めないでしょう。騎士団の方はエルハイミさんたちが滞在していると言う事で城内警備も厳重にする事となりました。なのでとりあえずはメル教の勝手な動きは制限できます」

 そう言ってネミルさんはあたしを見る。

 「なのでエルハイミさん、もっと陛下の気を引きつけてくださいね。そうすれば焦ったメル教に動きが出ると思います」


 ううっ、あたしが頑張らないといけないの?
 しかし一国の城内で騒ぎを起こすわけにはいかない。



 あたしは渋々それを引き受け陛下のお誘いの食事に行く準備をするのだった。
 
  
 
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