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第十二章

12-12スィーフ燃ゆる

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 12-12スィーフ燃ゆる


 「主様、そのボーンズとか言う神父が動いたようです」


 あれから一週間が過ぎていた。
 あたしたちはイリナさんの所に厄介になりながらメル教の動向を探っていた。

 メル教の動向を探るにあたってコクがベルトバッツさんたちを使って情報収集してくれたおかげであたしたちはこの一週間特に何もせずにどんどんと情報が入って来ていた。

 その間あたしはイリナさんに頼んで風のメッセンジャーを使わせてもらっていた。

 学園都市ボヘーミャの師匠には連絡が取れたけど、連合軍のティアナには最前線に出ていて風のメッセンジャーが使えないらしい。
 ちょっと残念だったけどそれは仕方がないのでスィーフの事はあたしたちに任せてボヘーミャで再会をしようと言う託だけ入れた。


 「しっかし、ローグの民ってのはおとぎ話かと思っていたら実在してここまで優秀だったとはね。全くをもって恐ろしいよ」


 イリナさんはそう言って豪快に笑っているけど、次のコクの一言に青ざめる。


 「それほど恐れる事はありません、たとえあなたが秘密の乙女日記をつけていたとしても」

 「なっ! なんでそれを!?」


 コクはその年齢に合わない微笑をしてから「私は黒龍ですから」とだけ言った。


 こらこら、コク、あまりイリナさんをいじめるんじゃありません。
 あたしは少しあきれながら出されたお茶を飲んでいる。

 さて、ボーンズ神父とやらが動いたそうだけど。


 「コク、ボーンズ神父にどんな動きが有ったのですの?」

 「はい、主様。ベルトバッシュよ、報告を」


 すると向こう御扉がノックされてベルトバッツさんが入ってくる。

 「はっ、ご報告させていただくでござります。 と、その前に、姉御、これなら驚かれずに済みますでござるな?」

 「は? はぁ、そうですわね」


 なに?
 もしかして律義にノックして扉から入ってきたのはあたしに配慮して?
 コクを見ると満足そうにお茶を飲んでいる。

 ‥‥‥ベルトバッツさん、お疲れ様です。


 「ボーンズなる神父は小生意気にダークエルフを数人連れて常に気配を消しながら移動をしているでござる。不可視の魔法なども使っており、我等でも奴等を見つけるのにてこずったでござる。しかしメル教祖と接触するために昨日の晩に使いのダークエルフを教団にひそかに派遣していたでござる」


 ダークエルフが同行か、そうするとどうやら確実に十二使徒の一人っぽいわね?


 「そして三日後にメル教の教団事務所に来るとのことでござる」


 「三日後ですの?」


 あたしは気になって聞いてみた。

 「はい、かなり用心深い奴のようで可能な限り表には出てこないつもりでござる。今回の件も二重、三重に用意しているようで可能な限りメル教との接触を秘密裏に行うつもりでござるよ」

 「ふん、そうすると尻尾を掴んでメル教とジュメルとの関係を暴露するのは簡単では無いって事だね?」

 イリナさんは腕組みしながら考えている。

 そこまで用心深いのか?

 いや、イリナさんの話だとソラリマズ陛下がメル教に興味を持っていると言う事は既にメル教側に伝わっているらしい。

 となると、これを好機としてソラリマズ陛下を取り込む為に本腰で動きジュメルのボーンズ神父出てきたのか。
 だからかなり慎重に動いて表沙汰には絶対にならない様にしているってわけか?

 「イリナさん、ソラリマズ陛下以外にメル教に寛容な上層部っていますの?」

 「ソラリマズ陛下の側近は完全に陛下のやる事には肯定的だよ。むしろ今やっかまれているのはあたしら宮廷魔術師と騎士団連中だね。この国の騎士団長は今は女性が務めているからね」


 うーん、女性陣がメインとなる宮廷魔術師と女性が団長の騎士団か。
 そうなるとメル教に対しては注意をするのは当たり前か。

 
 「わかりましたわ。それではイリナさん、三日後に備えてこちらも準備をしましょうですわ」

 「ああ、勿論そのつもりだ。それでだな、宮廷魔術師はあたしたちの方で対処する。それと騎士団長もあたしから話をする。問題はメル教とジュメルのボーンズ神父とやらを同時にとっ捕まえてその事実を公のもとにさらさなきゃならないって事だよ。そうすれば国王陛下も目が覚めるだろうさ。だからエルハイミ、あんたにはぜひその膨大な魔力であたしたちに協力してもらってあいつらをとっ捕まえて欲しいんだ!」

 ジュメルのボーンズ神父がメル教のメル教祖と結託している事実が明るみに出ればメル教の信仰者募集どころではなくなる。


 「ええ、勿論お手伝いさせてもらいますわ!」


 あたしは快諾する。
 証拠であるジュメルとメル教の重要人物をとらえられればスィーフでの奴らの企みは失敗に終わる。
 それに十二使徒をとらえられれば「女神の杖」を集めている真の目的も聞きだせるだろう。

 そうすれば連合軍にとっても、ティアナや師匠にとってもジュメルを滅ぼすカギになる。

 あたしたちはイリナさんたちと詳しい段取りを話し始めるのだった。


 * * * * *


 「しっかし、こんな所までジュメルとはねぇ」

 シェルはあたしと一緒にメル教の教団事務所が有ると言う所の近くまで来ていた。
 下見をしておくのとこちらもダークエルフたちの動きを探るためだ。


 「それでどうですのシェル、何か見えまして?」


 目の良いシェルに教団の付近の様子を見てもらう。
 しかしシェルは嫌そうな顔をしている。

 「見る限りダークエルフや精霊のゆがみは無いみたいだけど、なんなのよあの信者共! ずっとあの変な服みんなで着て時たま練習か何か変な踊りしているわよ?」

 どうやら信者の人たちは常に事務所の付近を警戒している様だ。
 
 まあ、イリナさんたちの爆破や宣教の妨害があれば総本山の教団事務所がある建物は厳重な警戒が敷かれるか。
 あたしも同調して感知魔法を使ってみるけど今の所は特に変わり映えは無いみたい。


 あたしたちはショーゴさんやイオマたちと合流して情報の交換をするためにイリナさんたちのいる詰め所に戻った。

 
 * * * * *
 
 
 「宮廷魔術師たちや騎士団の方は押さえた。あとは証拠となるジュメルの神父とメル教の教祖メルをとらえれば好いだけだ」

 イリナさんはそう言って果実酒を飲み干した。
 他のみんなも簡単な食事をしながら最後の打ち合わせをする。

 明日がちょうどその三日目だ。
 既に話し合ってどう言う配備とかどう言う段取りだとかは決まっている。
 なので今日はその前準備でしっかり食べて休んでおかなければならない。
 だから食事をしながらの打ち合わせだったのだ。

 おおむね最後の確認が終わった頃、ミネルバさんが血相を変えてここに入ってきた。



 「大変っ! 街が、メル教の事務所が燃えてるわっ!!!!」




 その驚きの連絡にあたしたちはみんな椅子から立ち上がったのだった。
   
 
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