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第十章

10-30イザンカ王国

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 10-30イザンカ王国


 「お姉さま、何故あたしなんかを助けてくれたんですか?」


 「何を言っているですわ、イオマ! あなたがさらわれたと聞いていてもたってもいられなくて私は‥‥‥」

 荷台で町に戻りながらイオマはうつむいてそう言う。
 あたしはただイオマが心配でここまで来てしまった。

 しかしイオマはあたしから離れていった。
 身を引いて‥‥‥


 ぱしっ!


 そんなイオマの頬をコクがいきなりひっぱたいた!

 「え? コクちゃん??」

 「何を言っているのですイオマ! 主様にふられたくらいであなたの気持ちは離れていくのですか? あなたの主様への思いはその程度だったのですか!? あなたがいなくなって、そしてさらわれたと聞いたときの主様の取り乱し様を知っているのですか!? たとえ振り向いてもらえなくても、あなたの恋人になれなくても主様はこんなにあなたを心配していたんですよ!!」

 コクは涙目で肩を上下して怒っている。
   
 「主様は、主様は‥‥‥」

 「コクちゃん‥‥‥」

 しかしコクはそのままイオマに抱き着いて泣いている。
 やっぱりコクもイオマがいきなり居無くなったんがこたえていたんだろうか?

 「お姉さま、助けていただいてありがとうございました。あのままなら私は聖騎士団の慰み者になっていました」

 コクの背中に手を当てなでながらイオマは話し始める。

 「もう、お姉さまは卑怯です。こんなことされたらあたしはやっぱりお姉さまを忘れられなくなってしまう。やっぱり好きです。大好きですお姉さま! たとえお姉さまに愛してもらえなくても、振り向いてもらえなくてもやっぱりお姉さまがいい、あたしもお姉さまから離れたくないっ!」

 そう言ってぼろぼろと泣き始めてしまうイオマ。
 あたしはどうしていいのか分からなくなっておろおろとする。


 「いいんじゃない? イオマが飽きるまであたしたちと一緒に居れば! 大丈夫、イオマの一人や二人いたって問題無いから!」


 いや、別の意味で問題ありまくりなんですけど。


 それでもシェルのそのあっけらかんとした物言いに今は助けられる。

 イオマは泣きながらあたしを見る。
 あたしは微笑んで相槌を打つ。

 「お帰りイオマ」

 「ただいまお姉さま」

 そして涙を流しながらイオマも微笑んだのだった。
  

 * * * * *


 「あなたもしかしてエルハイミさん?」

 ユエバの町に戻ってあたしたちはとらわれていた女性たちも解放する。
 そしてその中にあたしの顔をまじまじと見て驚いている一人の女性がいるのだけど‥‥‥


 どちらさまでしたっけ?


 あたしが小首をかしげていると、彼女はあたしの頭からつま先を見てもう一度こういう。

 「やっぱり、ガレントのエルハイミさんね! 私です、イザンカチームにいたフィルモです」


 イザンカチーム?
 フィルモ??


 あたしは遠い記憶を呼び起こす。
 イザンカチームって事は学園にいた頃、更にそのチームの呼び名なら大魔導士杯の頃‥‥‥


 あっ!


 あたしはその女性をもう一度見る。
 そう、イザンカチーム紅一点のフィルモ=アシターその人だ!

 「イザンカのフィルモ=アシタ―さん!?」

 「そうよ、フィルモよ、思い出してくれたのね」

 彼女はにっこりとほほ笑んだ。
 あの時は彼女も十五歳くらい、あれから十年近く経っている。
 今の彼女は淑女然たる雰囲気で、女性の魅力が大爆発している。
 当時の少女らしさは微塵も無く、貴婦人と言う言葉がぴったりだ。 

 しかし、学園当時の人にこんな所で出会うなんて。


 「お姉さま、私と言うものがありながらもう他の人に手を出すんですか?」

 毛布にくるまったイオマがジト目でこっちを見ている。

 「あら、イオマもエルハイミさんを知っていたの?」

 「知っているも何もお姉さまは私の運命の人です。こうして身を引いた私を助けに来てくれたんですから」

 フィルモさんは今度はジト目であたしを見る。

 「相変わらずの様ね。あなたの噂は色々聞いているわ。全く、学園にいた頃から変わっていないのね。これで何人目の女の子なの?」

 「なんですかそれはですわ! 何人目も何も私はティアナ一筋ですわ!!」

 「まあ、今の貴女の容姿なら男でも女でもいちころでしょうけど、ほどほどにね」

 フィルモさんはそう言って椅子に腰かけた。


 「でもありがとう、助かったわ。まさかあんなところで聖騎士団に捕まるとは思ってもみなかった。しかしジマの国の大使は守り切れなかった‥‥‥ その後どうなったかユエバの町には情報は入ってないのロックワード?」

 そう言ってフィルモさんはロックワードさんを見る。 

 「よく無事でいたもんだ、フィルモ。大使たちは冒険者たちの働きで何とか逃げ切れた。ジニオたちは?」

 「王都に戻ったわ。しかし、ユエバの町がまさか聖騎士団に襲われるとはね‥‥‥」

 フィルモさんはそう言ってため息をつく。


 一体何がどうなっているのだろう?


 「フィルモさん、イザンカはどうなってしまったのですの? 兄王子と弟王子が争っているとは聞いていましたが聖騎士団まで現れるなんて」

 「あら、知らなかったの? 今イザンカは内乱で兄王子派と弟王子派で争っているんだけど半年くらい前からジュリ教が正式に弟王子側について数の不利を覆しているのよ」

 なんと、ジュリ教が正式に弟王子派に加担したのか!?

 「しかし、ジュリ教はジュメルと結びついていると噂されていますわ。それを知っての上ですの?」

 「勿論、それが嫌で兄王派に鞍替えしたのもいるけど、あの魔怪人や強力な聖騎士団が増援に来るのだもの、状況は兄王子派が不利になっているわ」

 フィルモさんはそう言って悔しそうに机をたたく。
 しかし、そうなると兄王子派は弟王子派に押されいずれはこのイザンカ王国はジュメルの手に落ちてしまう。

 「し、師匠には、ボヘーミャには連絡は? 連合に連絡はしたのですの?」

 「勿論それは考えたわ。でも、イザンカは連合に参加しなかった。そして国として外交が止まってしまっているから諸外国も兄王子派か弟王子派かどちらと話をつけるべきか悩んでいた。そんな中ジマの国が解放され、しかも『育乳の魔女』が加担したって噂を聞いたから兄王子派は派遣されるという大使と接触しようとしたのよ。でもそれを邪魔されてね‥‥‥」

 「ちょっとマテですわ、その『育乳の魔女』って何なんですの!?」

 フィルモさんはあたしを指さして言う。

 「エルハイミさん、あなたに決まっているでしょう? 学園にいた時から常識外れの魔力を持ち、女の子たちを手籠めにして、ハーレムを作っていたって話じゃない?」

 「どこからそんな話が出たのですの!? ハーレムなんか作っていませんわ!!」

 「お、お姉さまって‥‥‥」

 どういう事よ?
 イオマそんな事は無いからね!
 大体にしてそなんな昔からあたしは一体どういう目で見られてたのよ!?

 「まあ、あなたの周りには昔から可愛い子や有能な女性が多かったからじゃない? それより、エルハイミさん、手を貸してもらえない?」

 「はいっ?」

 フィルモさんはずいっとあたしに近づき話始める。

 「今兄王子派はジュリ教の支援を受けた弟王子派に押されているわ。しかしどう考えても弟王子派にこの国を預けることは出来ない。あんな聖騎士団みたいな連中をこの国に入れたらそれこそおかしくなってしまう。だからこの戦い兄王子派に勝ってもらわなければならないのよ。それには聖騎士団を押さえられる戦力がいる。『育乳の魔女』がここイザンカでも兄王子派に協力するとなればみんなが兄王子派についてくれるわ」

 フィルモさんは一気にそう言ってあたしの手を取る。

 「勿論お礼はするわよ、どう、あたしたちにつかない?」

 ジュメルを放っておくというのは確かに問題だけど、それよりなによりあたしはまずはティアナに連絡を取りたい。
 
 「で、でも私はまずはティアナに連絡をしたいのですわ‥‥‥」

 「それなら兄王子派の元に行けば風のメッセンジャーを使わせてもらえるわよ?」

 なんと、風のメッセンジャーが有るの!?
 
 「それは本当ですの?」

 「ええ、お礼もするしメッセンジャーだって使わせてもらえるように話をつけるわ! どう?」

 「お願いしますわ!」
 
 「じゃあ商談成立ね!」

 思わず二つ返事で答えるあたし。
 これでティアナとやっと連絡が取れる。

 「エルハイミ、風のメッセンジャーもちゃんと使えないんじゃなかったの?」

 「あっ!?」

 ティアナと連絡が取れる事に舞い上がっていたあたしは肝心な事を忘れていた。
 シェルに言われた一言で忘れていた問題を思い出す。

 「女に二言は無いわよね? エルハイミさん」

 「あうっ」


 思わず絶句するあたしだった。
 
 
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