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第十章

10-24リッチ

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 10-24リッチ
 

 亡者の王リッチは王の椅子からゆらりと立ち上がった。


 『我が召喚せし悪魔を倒すとは。人間にしておくにはもったいない逸材だな。よかろう、お前たちも我が下僕となるがいい!』

 そう言ったリッチから莫大な魔力が放たれた!


 「くっ、リッチ風情がなんて魔力でいやがります!?」

 クロエさんは刺さった黒い羽根を抜きながら治りにくいのを承知で回復魔法をかける。
 そしてショーゴさんに話しかける。

 「ショーゴ、動けやがりますか? 一瞬でいい、あいつの気を引きやがれです」

 「かろうじて動けるが期待してくれるなよ。一発だけ撃てる」

 ショーゴさんは肩の筒に魔力を込める。

 「ならばこちらも手伝おう」

 そう言いながらクロさんも黒い羽根を抜きながら回復魔法を自分にかける。
 しかし誰が見たってもうこの三人はぼろぼろだ。
 クロさんだって立っているのがやっとじゃないの?


 「援護する!」


 そう言ってシェルは矢を三本構え同時に放つ。
 それを合図にショーゴさんは最後の魔光弾を発射してその魔光弾の影にクロエさんは飛び込みながらドラゴン百裂掌を打ち込んだ!

 『無駄だ』

 そう言ってリッチは結界を張りシェルの矢とショーゴさんの魔光弾を弾く。
 しかしショーゴさんの魔光弾のすぐ後に飛び込んだクロエさんはそのままドラゴン百裂掌を打ち込む。


 ががががががぁっ!!


 「くううぉおぉぉぉっ!!」

 咆哮をあげながらクロエさんは更に掌を打ち込む。

 
 びきっ!
 びきびきっ!


 全身全霊の力を振り絞りクロエさんのドラゴン百裂掌がリッチの結界にひびを入れた!


 ばきぃんっ!!


 そしてとうとうその結界は割れ、最後の一掌がリッチに届いた。
 その一手は確実にリッチの左胸を貫く!


 「取ったでいやがります!!」

 『無駄と言った』


 しかしリッチは動じることなく胸に突き刺さったクロエさんの腕をつかむ。

 『流石はドラゴンニュートと言うべきか? しかし不死のこの体、いくら心臓を握りつぶしたところで意味がないぞ?』

 そう言って眼球の無いその赤い目を光らせる。

 『黒龍は逃がしたがお前たちは我が下僕となるがいい。 【生気吸収】ドレイン!』

 リッチはクロエさんの腕をつかんだまま呪文を唱えた。

 
 「がはぁぁあああああああぁぁぁっ!」


 クロエさんは腕をつかまれたままビクンビクンと痙攣する。
 見ればつかまれた腕から生気が吸われ始めている!!


 「ドラゴンクロ―!!」


 ざしゅっ!


 しかしその腕をクロさんのドラゴンクロ―が切り落とす。
 
 「がはっ!」

 ようやくリッチから解放されたクロエさんはしかしよろよろと後退してその場に倒れる。

 「クロエっ!」

 コクが叫ぶも全く反応しないクロエさん。
 それをかばうようにクロさんがまたリッチに迫る。

 『お前もドラゴンニュートだったな。面白い、その爪で我を切り刻んでみるか?』

 そう言ってリッチは切り落とされた腕共々両腕を広げる。
 ぼろぼろのかつては魔術師だった衣服がはだけミイラのような胸元が見える。

 クロさんはためらわずそこにドラゴンクロ―を叩き込む!


 ざしゅっ
 ざざしゅっ!!


 乾いた干物でも切るかのような音がしてリッチがバラバラに切り刻まれた!?


 やったのか!?


 しかしあたしがそう思った瞬間リッチの笑い声が聞こえ、バラバラだったその体がクロさんの前で元通りのミイラの様に戻る。
 
 「馬鹿な!? 完全に切り刻んだはず!」

 『言ったはずだ、我が身は不死身。例え塵になろうとも死ぬ事は無い。さあ気が済んだか? 絶望のまま我が配下に下るがいい! 【生気吸収乱舞】ドレインバーストロンド!!』

 リッチの呪文が完成してその力が放たれる。
 まるでねずみ花火の様にリッチの手から放たれたそれはクロさんやクロエさん、ショーゴさんやあたしたちに襲いかかてくる。


 「【絶対防壁】!」


 あたしは慌ててみんなに防壁魔法をかけるがなんとこの花火防壁を素通りしてあたしたちに迫ってきた!

 そしてあたしたちにその花火は当たるとぴんと張った糸のようなものがリッチの手のひらにつながっていた。


 『終わりだ、【生気吸収】ドレイン!』


 その呪文が発動してとたんにかだらの力が抜ける!

 「うわぁぁああぁぁぁぁぁ」

 「きゃぁぁぁああぁあぁぁぁ」

 「くはぁぁぁあぁぁっ!」

 「くうううぅぅぅっ!!」

 シェルが、イオマが、コクが、そしてあたしが一斉にリッチのその呪文で生気を抜かれていく。

 「あ、主よ! ぐあぁああぁあぁぁっ!」

 「黒龍様っ! くっ!!」

 「ちくしょうでいやがりますぅぅぅぅっ!!」

 そしてショーゴさんもクロさんもクロエさんまでもが抗う事無く同じように生気を抜かれていく。


 『ふはははははっ! これはいい、そこのちび、黒龍だったか!? 逃がしたと思ったがこれで欲しい素材がそろった! これで我が望み叶う!!』

 そう言いながら懐から一本の杖を引き出した。


 あたしはその杖を見て驚く。
 そう、あの杖は紛れもない「女神の杖」だった。


 『我が望み叶えばこの杖は返してやろう、約束だカルラ受け取るがいい!』

 そう言ってリッチはその杖を王座の後ろに投げる。
 そしてその杖をパシッと音を鳴らして受け取る人物が歩み出た。

 「もう良いのですか? まあ私たちはあなたの協力が得られてイザンカが完全に落とせればそれでいいのですが」

 あたしはその人物を見て思わず固まる。
 初めて見る顔だけど彼が着ている衣服はあの衣服と全く同じだった。
 そう、ヨハネス神父が着ていたジュリ教の神父の衣服だった。

 「連絡は来ています。そこのお嬢さんにヨハネスがだいぶお世話になったそうです。丁重にジュリ様の元に送ってやってくださいね?」

 にこりと冷たい微笑みをするその男はヨハネス神父とは真逆にその内心の悪意をそのまま顔に出していた。
 
 『ふん、まあいいだろう。この娘は我が伴侶として使ってやる。その美しさ死して永遠にしてやるぞ。喜ぶがいい。ふははははっ!』

 既に勝ち誇っているリッチ。


 冗談じゃないわよ!
 誰があんたなんかの伴侶になるってのよっ!!
 あたしにはティアナと言う大事な人がいるんだからね!


 あたしはそう思いあたしとリッチをつなげる糸を握り返す。

 「冗談じゃありませんわ! 私はティアナのモノ、貴方なんかに私は上げられませんわ!!」

 あたしはそう言って同調をして魂と肉体を確固としてつなげる。
 そして魂の奥にある分からない何かにその力をつなげる。


 とたんにあたしの中に大きな力が流れ込む。


 『な、なんだ? 貴様、何をした!?』

 うろたえるリッチ。
 しかし今のあたしにはこれに頼るしか手がない。


 「お願いですわ! 私の魂に繋がるモノ! 力を貸してですわ!!」


 それは何か分からないモノ。
 女神たちを超越するモノ。
 いや、始祖の巨人すら超えるモノらしい。

 そんな訳の分からないものにあたしはかける。
 すると魂の奥底から今までに感じた事の無い何かが流れ込んでくる。


 「くはっ!」

 
 「主様!」
 
 「お姉さま、め、眼が!?」 
  
 「え、エルハイミぃっ!?」

 「主よ!?」

 「なんと? 主様!?」

 「なんなんでいやがります!? 主様っ!?」

 コクやイオマ、シェルやショーゴさんクロさんクロエさんが叫ぶ中あたしは眼の色が金色に輝きながらその意志に支配される。
 体がすごく軽く感じ、ぼうっと光り輝き始める。

 
 糸でつながっているリッチは既にあたしの手の中だった。


 『お、お前は一体何者なんだ!?』

 今ならはっきりと感じられる。
 亡者の王リッチは恐怖している。


 あれ?
 あたしは何をしていたんだっけ?
 この世界はどの世界だっけ??


 あたしの意志とやってきたそれの意志が混ざり合う。
 いや、やってきたそれはほんのわずか、髪の毛の毛先程も無いものだけどその気になればこんな世界なんて消し飛ばせる。

  
 「あ、主様が第六感を超え第七感さえも超えている‥‥‥ それは女神様の領域すら超えている!! あ、主様あなた様は一体何者なのですか!!」


 コクがあたしにたわいない質問をしている。

 ああ、コクって小さいなぁ。
 まるで埃のように小さい。


 『や、やめろぉっ! やめてくれぇええぇぇぇっ!!』


 ん?
 なんか騒がしいのがいるわね?
 うっとうしいから消しちゃおっと。


 あたしはリッチを軽くにらんで消し去る。

 『るごぶぅぅるるるるぅぅぅぅ‥‥‥』

 ああ、こいつ精神世界に本体があるのか、じゃあそっちも消すか。
 あたしは重なり合っている精神世界のリッチ本体も消し去る。

 『ひぎゃぁ、うごぉごるぶぅぅぅぅ‥‥‥』
 
 変な悲鳴をあげながらリッチが消えていった。

 あたしはコクたちを見る。
 そう言えばケガしていたっけ、治してあげなきゃ。

 軽く手を振るとコクたちのケガが治り万全の状態にまで回復してやる。
 ああ、ショーゴさんは腕なかったっけ。
 じゃあオリハルコンの義手でも作ってあげようか?

 あたしはもう一度手を振ってショーゴさんの義手を再生する。


 「な、何という事だ!? あなたは一体何者なんだ!!!?」


 おや?
 そう言えばジュメルの神父もいたな‥‥‥
 面倒だからこいつも消し去ろうかな?

 っと、駄目だ。
 この娘の体がもたない。
 そこそこ面白い世界だな、今後も見てみるか?
 おっと、早く離れてやらないとこの娘が崩壊してしまう。
 せっかく面白かったのに残念だ。
 今回はここまでにしようか。
 さて帰る前にこの娘も治してやるか‥‥‥


 あたしはそう思い自分の体を完璧にしてやって離れて行く事にした。
 そうだね、この子がもっと成長して力を付けたらもう少しちょっかい出してみるのも面白いかも。


 気に入った、この世界。
 そのうちまた遊びに来よう。


 あたしはそう思い後ろ髪を引かれながらこの娘から離れていくことにした。


 * * *


 はっ!?
 
 あたしは突然気が付いた。
 何だっけ?
 
 なんかあたしじゃないあたしがいたような‥‥‥
 
 でも何をしたのかしっかり覚えている。
 あたしはぱちくりと瞬きをして床に降り立つ。
 
 どうやら今まで勝手に宙に浮いていたようだ。


 そして周りを見ると呆然そしてあたしを見ているみんながいた。

 「主様?」

 「えっと、コク、私何が起こっていたのですの??」

 コクが恐る恐るあたしに抱き着いてくる。

 「うわぁーんっ! 主様ぁー!! 良かったぁ、元に戻ってぇーっ!!」

 泣きついてくるコク。
 あたしはきょとんとしてシェルを見る。

 「エルハイミ、あんた本当に何者よ? もうすでに人じゃないわよ?? あんなに簡単にリッチを消し去りあたしたちまで簡単に治療どころか、よく休んだってくらい体の調子がいいわよ!?」

 「お姉さま? お姉さまですよね??」

 シェルは複雑な顔をしてイオマはおずおずとあたしの手を握る。

 「主よ、一体何をした? この義手もどういう事だ?」

 「主様、やはりあなたは黒龍様の主様としてふさわしい方だったか。このクロ、今後黒龍様と主様にずっと忠誠を誓いますぞ!」

 「主様がとんでもないやつだって事は分かりましたでいやがります。でも黒龍様には手ぇ出させないでいやがります! 出すなら私のお尻に出すでいやがりますっ!!」

 えーっと、まだ状況が理解でき切れていないあたし。
 でもどうやらリッチは片付けたみたい。
 
 ‥‥‥

 はっ!?
 そう言えばあの神父、確かカルラって呼ばれてたっけ?
 どこ行ったのよあの神父!

 「あの神父、ジュメルの神父は何処ですの!?」

 「とっくに逃げたわよ。エルハイミがあたしたちを治してくれたりしている間にね」

 シェルはそう言ってポーチから水筒を取り出しごくごくとその中身を飲み始めている。
   
 「ぷはっ! それよりエルハイミがリッチを倒してくれたお陰で結界もミグロの呪いも消えたみたいよ? そこら中に風の精霊が飛び始めているわ」

 シェルはそう言って窓の外を見る。
 
 「主しゃまぁ~ 本当に元の主様ですよね??」

 コクがまだ泣き止んでいないのであたしはコクを抱き上げ抱きしめる。
 
 「ええ、私ですわ、エルハイミですわよ!」



 そのままコクが泣き止むのをしばし待つあたしだった。 
 
  
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