上 下
273 / 610
第十章

10-15必殺の一刺し

しおりを挟む
 10-15必殺の一刺し


 あたしたちは次なる詰め所へと来ていた。
 

 「しっかし、どういう訳かここの悪魔って変なのばかりね? リッチって召喚する悪魔間違えてるんじゃないの?」

 シェルが軽口をたたく。
 確かに変なのが多いけどかなり強い連中のはず。
 実際に何度もピンチになってるわけだし、ここから先も注意しながらいかなきゃね。

 「シェル、油断は禁物ですわ。確かに変なのも多いですけどやはり強い連中ですわ」

 「そうですね、主様。私が思っていたより悪魔どもって強いですね。とくに精神的にきついのは今後もごめんです」

 コクがかわいらしく口をとがらせながら言う。

 「主よ、扉を開けるぞ」

 そう言ってショーゴさんは次なる詰め所の扉を開ける。


 『来たか。連絡が有った通りだと全員残っているのか?』


 見れば詰所の中央に裸チョッキのダボついたズボン、所々にアクセサリーを付けたアラビア的な服装の両肩に大きな鋏を持ち、尻尾がサソリの尾になった悪魔がたたずんでいた。


 「連絡が有っただと?」

 『ああ、前の連中が音沙汰無くなったのでな様子を見に行かせた使い魔たちからそう連絡があった』


 サソリ尾の悪魔はそう言ってショーゴさんを見る。
 そして肩から生えている大きな鋏をバチンとひと鳴らしする。

 『ここから先へは通さんぞ。人間風情と言えどここまで来たのだ、相応の歓迎をしてやる!』

 そう言っていきなりこっちへ突っ込んで来た!

 あたしは慌てて【絶対防壁】を展開しようとする。
 しかしあたしの前にはショーゴさんが既に異形の兜の戦士に変身してあのオリハルコンの鎧を身にまとい立ちふさがっていた。


 がきぃぃいいぃぃんっ!


 ショーゴさんはサソリ尾の悪魔が振り下ろした大きな鋏をなぎなたソードと短刀で防ぐ。
 そこへクロエさんが躍り出てスカートを翻しながら魔力のこもった蹴りを見舞う。
 しかしサソリ尾の悪魔は冷静にそれをサソリの尾で捌く。

 その隙にあたしたちはこの場を離れ各々がこのサソリ尾の悪魔に攻撃をかける!

 シェルは矢を放ちイオマは頑張って十本くらいの【炎の矢】を撃ち出す。
 クロさんはコクをかばいながら隙を見ているがあたしも既に準備が出来ている。

 クロエさんとショーゴさんが一旦距離を取った所へシェルの矢とイオマの【炎の矢】がサソリ尾の悪魔に突き刺さる。

 が、刺さったかと見えたそれは残像で既にサソリ尾の悪魔はあたしたちの横に動いていた。
 あたしは予想していたことなので慌てずそこへ【地槍】の魔法を発動させると同時に【氷の矢】を放つ。

 『こんなものかっ!?』

 サソリ尾の悪魔は【地槍】で出来た大地の槍を大鋏で防ぎ、飛んでくる【氷の矢】を避ける。
 そこへ魔力を練っていたクロエさんが技を放つ!

 「食らいやがれです! ドラゴン百裂掌!!」

 クロエさんの無数の掌が放たれまるで流星群の様にその光る輝線が尾を引く。
 その数々の光の尾は全てサソリ尾の悪魔に吸い込まれていく!


 がががががががぁがぁぁぁぁっっ!!


 大きな連打の音がしたが見ればサソリ尾の悪魔は平然と立っている。

 『つまらん、この程度だったか? ‥‥‥ぐはっ!?』

 一瞬何事も無かったようなサソリ尾の悪魔だが次の瞬間には胸を押さえる。
 見れば胸にクロエさんの手形がのめり込む様に食い込んでいてそこを爪でむしり取ったかのように傷ついている。


 『そうか、他は全てまやかしでこの一撃が本命か。悪くないが俺には効かんぞ!』

 そう言ってむんっと気合を入れると傷口が盛り上がって元通りに戻る。
 
 「そんな馬鹿な!? 心臓まで傷つけてやったはずでいやがります!」

 しかしサソリ尾の悪魔は肩で笑っている。
 
 『確かに我々悪魔でさえ心臓を攻撃されればただでは済まない。だが貴様如きの掌、俺には通用せん!!』

 びしっと人差し指を刺されクロエさんは悔しそうにする。
 しかし、あたしの見た目では先ほどの技は完全に決まっていてその傷だって心臓に届くほどのはず。
 一体どういう事だろう?


 『心臓の一刺しとはこうやるのだ、受けよ我が最大奥義【カッパーニードル】!』


 そう言ってサソリ尾の悪魔は左手を掲げるとその人差し指の爪が紅黒く輝き濁った光を放ったと思ったらクロエさんの胸に刺さった!


 「いかん! 黒龍様お力を!」

 「はいっ! クロエ!!」


 胸を貫かれたクロエさんはその場でひざを折り倒れそうになるがコクがすかさず両手を広げると淡い光に包まれコクの手のひらへと消えていった。


 「くはっ!」

 コクがその可愛らしい口から吐血する。

 「コクっですわっ!」

 あたしは慌てて駆け寄りコクに【回復魔法】をかけようとするがコクはそれを手で制する。

 「だ、大丈夫です主様。ギリギリ間に合いました。クロエは一旦私と融合して破壊された心臓を再生させます。しばらく時間がかかりますのでクロエはもう参戦できません」

 コクにそう言われあたしは驚く。
 クロさんもクロエさんも、もともとはコクの分身。
 それが破壊され死にそうになった瞬間に自分に取り込みそのダメージを最小限に抑えたのか?
 しかも破壊された心臓の再生をしているって?

 『そうか、あの女は黒龍、貴様の分身だったか。そうするとまだ分身がいるのか? 面倒だ、大元のお前から始末してやる!』

 そう言ってサソリ尾の悪魔は再び構える。

 『【カッパーニードル】!』

 再び人差し指の爪が紅黒く輝き濁った光を放った!

 
 がきぃんぃっ!!


 甲高い音がしてそれはコクを貫くと思われたがとっさに割って入ったショーゴさんに食い止められる!
 見ればショーゴさんのあの新しい鎧にその爪は止められていた。

 『なにっ!? 俺の技を受け止めるとはその鎧、まさかオリハルコンか!?』

 慌ててサソリ尾の悪魔はショーゴさんから離れるがショーゴさんの方が一瞬早かった!

 
 ザシュっ!


 なぎなたブレードの一閃を受けサソリ尾の左腕が切り落とされた!
  
 「ドラゴンクロ―!!」

 クロさんがその後を追うようにあの技を繰り出す!
 それは防御に回った大鋏を切り刻んだ!

 『なにっ!? 俺の大鋏が切られだと!?』

 「我が爪は全てを切り裂く竜の爪! 覚悟!!」

 サソリ尾は『くっ!』と短く叫びながら後退するがそれをクロさんが追いかける。
 大きく飛び退けたそこへクロさんが肉薄する!


 『ふっ、かかったなドラゴンニュート!』


 クロさんが次の一撃を入れる瞬間何かが大量にクロさんの上に落ちてきた!?

 「ぐおっ!?」

 見ればそれは小さなサソリの大軍だった。
 
 「ぐあぁぁぁぁっ!」

 そのサソリたちはクロさんに毒針を突き立てる。
 さすがのクロさんも無数の毒針に一度には対応できずその毒牙を受けてしまう。

 「クロっ!」

 コクは慌ててクロエさんの時と同じようにクロさんを吸収融合する。


 「くはっ!!」


 「コク!」

 さすがに分身二体を一度に融合してその負担をコクが受けたのでコク自身かなりのダメージになってしまったようだ。
 コクはまた吐血してしまう。

 「見ていられませんわ、魔法で治療をですわ!」

 「待ってください、主様。二人の再生を先にしないと今度は分離できなくなってしまいます。私は大丈夫ですから主様はあいつを!」

 見れば小さなサソリたちを吸収してサソリ尾の悪魔は切られた腕と大鋏を再生していた。


 『油断は無かった、認めてやろうお前たちは強い。しかしそれもここまでだ!』


 あたしの前にショーゴさんが立つ。
 
 「ならば次は俺が相手だ!」

 しかしあたしは準備していた魔法をここで開放する。

 「ショーゴさん待ってくださいですわ! 【氷の矢】! 【氷結魔法】!!」

 あたしが放った数百の【氷の矢】がサソリ尾に迫る!
 しかしサソリ尾は笑ってそれら全部を大鋏で撃ち落とし破壊する。


 『無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁっ!!』


 勿論【氷の矢】程度でどうにかできるとは思っていない。
 しかし最初に打ち出した氷の矢はサソリ尾のちょうど後ろの壁に刺さったまま。
 あたしの【氷結魔法】でその力を一気に解放する!!


 びきびきびきびきっ!!


 壁から伝わった氷でサソリ尾の足元がいきなり凍り付けその動きを止める!

 『なにっ!? いつの間に!!』

 しかしもう遅い。
 氷は膝までサソリ尾の悪魔をとらえ動きを封じる。

 『くっ、こんなもの!』

 とサソリ尾の悪魔が大鋏を振り上げた時だった。

 『な、なんだ? か、体の動きが‥‥‥』

 氷の矢がことごとく大鋏で粉砕されてもその破片と冷気は【凍結魔法】で増幅されていた。


 「やはりそうでしたわね。サソリは寒くなると動きが悪くなりますわ。強い生命力で死ぬ事は無くてもその動き自体は悪くなるのですわ!」


 あたしはそう言って【拘束魔法】で魔法のロープをサソリ尾に巻き付ける。
 そしてシェルに指示をする。

 「シェル今ですわ! あのサソリ尾のお尻を狙って矢を放ってくださいですわ! サソリの心臓は尻尾の付け根、お尻の辺ですわ!!」

 「え? いいの?? 分かった!!」

 シェルはすかさず矢を放つ!
 
 それは魔法の矢のように大きく曲がりサソリ尾の悪魔のお尻に命中する。


 ぶすっ


 『ア”あ”あああああああっっっ!!!!』


 へっ?
 なんか変な悲鳴が‥‥‥


 『そ、そこはだめなんだぁっ!!』

 何か叫んでいる所にシェルが続けて矢を命中させる!


 ずぶっ! 


 『ア”ア”アァぁぁあぁぁっ!!』 

 
 更に変な叫び声をあげて白目で泡吹き始めた!?
 なに、なにっどういう事よ!?
   
 「とどめっ!」


 ひゅんっ!
 どすっ!!


 『ぐがあ”あ”ぁぁぁあああああぁぁっっ!!』


 最後にやっぱり変な断末魔を叫びながらサソリ尾の悪魔は動かなくなった。
 何処からともなく「チーン」と音がしてなんとなく魂抜けたような感じで口から吐かれていた物は泡から煙へと変わっていた。

 あたしは魔法の拘束を解くとサソリ尾の悪魔は前のめりに倒れる。
 そしてその勢いでサソリの尾が背中にのしかかる。

 するとお尻が見えて矢が三本刺さっているがぁ‥‥‥


 「シェ、シェル、ま、まさかですわ!?」

 「え? だってエルハイミがやれって言うからそこが弱点だと思って」

 何かショーゴさんがお尻を手で押さえている。

 
 えーと‥‥‥


 「お姉さま、あんな強敵にまで容赦ないなんて! 私にもしてくださいよぉ~」


 い、いや、あたしにはそんな趣味は無い。
 無いったら無いっ!


 「流石主様です。クロエが見たらきっとうらやましがります」

 「コ、コクなんで知っているのですの!?」

 あたしは思わずコクを見る。
 こんなの本当はコクに見せたく無かったのに何が有ったか理解しているみたい。

 「え、えっとぉ、コクにはそう言った趣味は理解できませんがクロエを融合したときにその記憶とかも見れましたからあの変態悪魔の時に何があったかも知ってしまいました。知識では知っていましたが流石に再生された今の私には衝撃ですね」

 そう言ってコクは顔を赤くする。

 
 いやいやいやっ!
 だめ、コクにはまだ早すぎる!
 だめよ、そんなこと覚えちゃ!!
 あたしはそんな風に育てた覚えは無いわよ!


 慌ててあたしはコクの元へ行って言い聞かせる。

 「コクにはまだまだ早いですわ! いいですの、こう言った事は大人になれば自然とわかりますからコクはそんなこと考えてはいけませんわ!」


 「いや、教育上一番問題なのはエルハイミ自身の存在なんじゃないの?」

 「お姉さまいろいろと容赦ないですからねぇ~」

 「主よ、俺にはそんな趣味は絶対にないからな!」

 シェルもイオマもショーゴさんまでもそんな事を言ってくる!?
 あ、あたしを一体何だと思っているのよ!!

 「わ、私だってノーマルですわぁあぁぁっっ!!」



 思わず叫ばすにはいられないあたしだった。  
 
     
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

処理中です...