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第九章

9-28死者の軍団

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 9-28死者の軍団


 あたしたちはイージム大陸最大の地下迷宮よりいよいよ地上へと出る事となった。


 今までコクが使っていた転移魔法の出口には亡者の王リッチが張った結界により地上には出れないようになっている。
 そこでもう一つのルートである各層の出入り口に仕掛けられたゲートを通って地上に出るのである。


 「主様、申し訳ありませんが各階の登り口だけは歩く事となってしまいます」

 「コク、それは構いませんわ」


 あたしたちはそう言って各階のゲートを次々に通っていよいよ最後の出口にまで来る。

 そしていよいよ地上へとたどり着く。


 「うっはぁー―! やっと地上に出れたぁ!!」
 
 「あ、まだ太陽があんな上に? お姉さま、今はお昼くらいですね?」


 久々に見る太陽はさんさんと眩しく、地上の空気は清々しかったはずだ‥‥‥


 何この異臭?
 何か卵が腐ったような臭い‥‥‥


 「主よ、下がってくれこいつらを一気に片付ける」

 見るとショーゴさんが異形の兜に変身してアサルトモードになっている。
 そしてシェルも火の融合魔晶石を弓に装着している。
 あたしは視線を空から手前に持ってくる。

 「お姉さま、こいつ等って‥‥‥」

 「ええ、間違いないですわ、ゾンビの大軍ですわっ!」

 「全く、久しぶりに地上に出てみればまたこいつ等ですか? 主様私が焼き払います。お下がりください」

 あたしたちが構えるより早くコクが前に出て大きく息を吸い、その可愛らしい口から大量の炎を吐き出す!
 哀れゾンビたちは一瞬にして焼き尽くされ跡形もない消し炭になった。


 「す、すごいコクちゃん!!」

 
 イオマはコクの吐くドラゴンブレスに驚いている。
 コクはゾンビを焼く払うとあたしの方に向き直って嬉しそうに尻尾を振っている。

 「よくやってくれました、コク。流石ですわ」

 「主様、お役に立てて何よりです!」

 さらに尻尾を振って喜んでいる。
 仕方ないので頭をなでてやると胸の中に抱き着いてきた。

 「主様ぁ~」

 「まったく、コクは甘えん坊さんですわ」

 「えへへへへ~」


 可愛いのよね、どうしても。

 
 「ううっ、お姉さまぁ~、コクちゃんうらやましすぎる!」

 イオマが指くわえて涙目になっている。  
 
 「しかし、いきなりゾンビの大軍とはな」

 ショーゴさんはそう言って周りを見る。
 そう言えばこの出入り口ってどこらへんなのだろうか?

 「ショーゴさん、イオマ、この出入り口はどのあたりですの?」
 
 「ジマの国のすぐ近く、イザンカ王国だ。」


 イザンカ王国と言えば最古の都市と言われている所。
 魔法王ガーベルが初めて作った国家でその歴史はとても古い。
 優秀な魔法使いたちを産出することでも有名だ。


 「そう言えばあたしたちがこの迷宮に鉱石を取りに来た時にはゾンビなんていなかったのに‥‥‥」

 イオマも思い出したかのように言う。
 まさか亡者の軍団がイザンカにまで押し寄せて来ているのか?

 あたしはそんな事を考えた。
 しかし、まずはシェルに頼んでファイナス市長にあたしたちの無事を伝えねばならない。

 「シェル、ファイナス市長に私たちの無事を伝えてくださいですわ。そしてティアナに私たちの事も伝えてもらえるようにお願いしてですわ」

 「それがね、さっきから風の精霊を探しているのだけど全然いないのよ」

 既にシェルは目をつむって精神集中して風の精霊を探していたようだ。
 しかし風の精霊が全然いないとはどういう事だろう?


 「主様、どうもここもリッチの結界に入っているようです。それもかなり強力な結界です」


 コクも目をつむりいろいろを感じ取っているようだ。
 しかしこんなに広大な所を結界で覆えるのだろうか?

 あたしは同調をして感知魔法を発動させる。
 するととんでもない事が感じ取れた。


 「な、なんですのこれ!? 死霊、魑魅魍魎、不浄な者の反応だらけでは無いですの!」


 あたしが感じたそれは周り中にアンデットモンスターの反応ばかりだった。
 更にそれらがこの空間に渦巻いていてどうやらこの結界内に封じ込まれているようだ。


 「お姉さま、とにかくユエバの町に行きましょう。ここからそう遠くはありません、あたしたちが冒険者登録した町です」

 イオマは杖を握りながらそう言ってくる。
 確かに一旦町に行って体制を整えたいし情報も欲しい。

 「わかりましたわ、イオマそのユエバという町まで連れていってくださいですわ」

 「はい、お姉さま」

 そう言ってイオマはユエバの町にあたしたちを導く。


 * * *


 歩き出してしばらく、道のようなものが見えたころだった、あたしが念の為に発動しておいた感知魔法がそれを真っ先に見つける。

 「イオマ、止まってくださいですわ」

 「お姉さま?」

 「主様、お気づきですか? 結界です」

 コクはそう言って近くにあった小石を拾い上げ目の前に続く道に投げた。
 すると小石は「ばちっ!」と音を立てて見えない壁にぶつかり転げ落ちる。

 「結界ですね、それもかなり強力なものです」

 コクはそう言ってあたしに振り向く。

 今のを見てもかなり強力なのは分かる。
 そうするとこの結界のせいで風の精霊も出入りできないのか?

 「これも亡者の王リッチの仕業ですの?」

 「主様、多分そうです」

 コクは悔しそうな顔をしている。
 
 「本来の私であればこの程度の結界は破れるのですが今の幼い体の私では無理です。すみません主様」
 
 「仕方ありませんわ。しかしこれほど強力な結界、私の【解除魔法】でも無理そうですわね」

 あたしは一応【解除魔法】を使ってみるモノのやはり解除がかかった部分がすぐに補強されてまた閉ざされてしまう。
 いくらあたしの魔力が大きくてもこういった魔法は発動体や術者自体をどうにかしないとそうそう簡単には破れないのだ。

 「しかし参ったな、そうするとここからは出れないと言う事か?」

 ショーゴさんは腕を組んでため息をつく。
 
 「他に方法は無いの?」

 シェルはもう一度結界に石を投げるがコクの時と同じだった。
 

 「ここまで強力な結界を作り上げ外界と隔てるとはいったい何を考えているのでしょうかしらですわ」


 あたしが思案しているといきなり知らない声がかかってきた。

 「それは結界内の人間を全てアンデットに変えその勢力で近隣諸国を滅ぼすためさ」


 「誰?」
 
 シェルは弓を向け、ショーゴさんも身構える。
 コクはあたしの前に出てその声のした方を睨む。


 見ると冒険者風の男女五人がそこにいた。


 「あなたたちはですわ?」

 「大量のゾンビ共が焼かれたから何事かと思って来てみたが、俺らは冒険者でミグロと言う。見たところあんたらは冒険者‥‥‥ とはちょっと違うようだな?」

 ミグロと名乗ったその男性はあたしたちを見ながらショーゴさんを見て驚く。


 「まさかショーゴ殿か、カナンテと共に始末されたと聞いていたが?」

 「ミグロ‥‥‥ いや、ミナンテ様か!? 生きておられたのか!!」
 

 どうやら知り合い?
 ショーゴさんもミグロとか言う人の顔をまじまじと見てから驚く。


 「生き恥を晒しております。ミナンテ様よくぞご無事で」

 「十数年ぶりか、生き恥晒すは俺も同じだ、カナンテはどうした?」

 「残念ながら……」

 「そうか‥‥‥」


 うーん、どうもショーゴさん関連の人でいろいろとあるみたいね?


 「まあいい、それより付いて来てくれ俺たちのアジトに行こう。 もうじき亡者の騎士が様子を見に来るだろう、あれだけのゾンビが一瞬で焼き払われたのだから」

 そう言ってミグロ、ミナンテと言う人はあたしたちにアジトに付いて来いと言う。
 ショーゴさんは黙ってその後に続き始めた。

 状況も分からないしショーゴさんの関係者だ。


 あたしたちは彼らについて行く事にしたのだった。
 
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