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第八章
8-16冒険者
しおりを挟む8-16冒険者
アテンザ様のお祝いをしたあたしたちは翌日にはティナの町に向かっていた。
「しかし流石の姉さまも子供が出来たら大人しくなるかな?」
「どうでしょう、子供は可愛いでしょうけどティアナの事も溺愛してましたわ」
あたしはそう言ってティアナを見る。
うげぇと嫌な表情をしているティアナ。
「そう言えば姉上は昔からティアナの事ばかり可愛がっていたな。私なぞ『男子たるもの常に強くありなさい!』などと言われて指南役にガレント三十六式を叩き込まれたものだ」
エスティマ様は、はっはっはっはっはっと笑いながらそれもいい思い出だとか言っている。
勿論ちゃんとあたしの横に座っているけどね。
あたしは馬車の外を見る。
もう少しでティナの町に着くだろう。
と、前の方に数人の人が歩いている。
あたしは何となくそれを見ると、どうやら冒険者のようだ。
「あら、冒険者のようですわね? ティナの町に来るのかしら?」
見ると冒険者のパーティーのような組み合わせだ。
戦士風に魔導士風、神官っぽい人もいる。
「そう言えば最近は冒険者がティナの町に集まっていたな。傭兵として雇ってもらいたがったり貿易ギルドの護衛できたりしているようだ」
エスティマ様も窓の外を見ながらそう言う。
人の往来は歓迎だけど、検問も十分に強化しないとやばいわね?
「ティアナ、ガレント側からの検問はどうなってますの?」
「それならゾナーが抜かりなくやっているわ。今はガレント側しか行き来出来ないからかなり厳重にしているみたい。一応戦時中だしね」
ゾナーが気を配っているのなら任せても大丈夫か?
そう思っているとパーティーの中にエルフっぽい人が混ざっていた。
「あれ? もしかしてファム? おーいファムぅ~!!」
つられて外を見ていたシェルが窓を開けて大声でそのエルフを呼ぶ。
「シェル? シェルなの!?」
冒険者の一行に混ざっていたそのエルフはこちらを振り向き驚いている。
馬車もいったん止まってシェルはするりと降りる。
そしてエルフの女性に抱き着く。
「やっぱりファムだ! ひさしぶり~!! 元気だった??」
「な、なんでシェルがここにいるのよ!? あなたまだ成人もしていないのによく村を出れたわね??」
見るとシェルと同じような金髪に青に近い緑色の瞳のファムさんと呼ばれるエルフは驚きのあまり大きく目を開いていた。
「うん、いろいろとあってね。今はティナの町に住んでいるの」
「え? あの新興の町に?あたしたちもこれから行こうとしてたのだけど、まさかシェルがいるとはね?」
なんか話が弾んでる。
するとティアナは馬車を降り冒険者たちに挨拶をする。
「ごきげんよう。私はティアナ=ルド・シーナ・ガレント、ティナの町の領主をしています。皆さんはティナの町に?」
ティアナの登場に他の冒険者も慌てて返礼の挨拶をする。
「これはこれは領主様に直接会えるとは驚きです。俺‥‥‥いや、私たちは『風の剣』と言う冒険者です。私がライ、こっちの戦士がドボル、魔法使いのマーガレットとファーナ神官のレコナ、そして精霊使いのファムです」
一応みんなティアナに頭を下げて挨拶をする。
あたしたちも馬車を降りて簡単に挨拶をしてからもうじき見えてくるティナの町に移動しようと言う事になり移動を始める。
シェルはファムさんと一緒に話しながら町に行くと言う事であたしたちは先に行く事となった。
「シェル、せっかくだから砦に来てもらいなさい。お食事でもしながら色々とお話が聞きたいわ。冒険者の話は役に立つからね」
ティアナのご招待にライさんたち「風の剣」は大喜びだ。
こりゃあ検問もしないで町に入れるかな?
『シェル、あなたの知り合いを疑うわけではありませんが他の人とのけじめもありますわ。皆さんにはちゃんと検問を受けてもらってくださいですわ』
あたしは念話でシェルにくぎを刺す。
『わかってるって、一応ティナの町も戦時中だからね、ファムたちにはちゃんとそう言うから安心して!』
こう言う時念話って便利だなぁ。
他の人には聞こえないからね。
後はこれで距離がもっと遠くまで使えればいいのだけど、前に試したときにせいぜい一キロ以内が最大範囲だものね。
* * * * *
「そうですか、今は休戦状態ですか」
ライさんはそう言ってうまそうに料理を食べる。
今は「風の剣」の人たちを砦に迎え入れゾナー含め会食をしている。
「それで他の所はどうなんだ?」
ゾナーはお気に入りの魚の燻製を食べながら酒を飲んでいる。
「大きなところは皆さんが知っての通りですよ。最近国同士で伝書鳩より早い連絡方法、なんだっけ? ああ、そうそう風のメッセンジャーとかのおかげで情報屋が要らなくなる程ですからね。ただ、下町を中心に酒場では変な噂が流れていますよ。やれガレントが世界征服を始めたとか、やれジュリ教以外もどんどん迫害が始まるとか」
それを聞いたゾナーは「ふむ」と唸った。
「情報戦が始まったか。国同士は連合のおかげで噂で簡単には揺さぶれないと知って下町から民衆を陽動し始めたか。エスティマ様、こう言った事は放置すると新たな火種になる。王城へ進言した方が良いですぞ?」
「ふむ、噂だけではないか? そこまで注意する必要があるのか?」
「ガルザイルでジュリ教が焼かれたという噂は既に尾ひれがついてます。民衆は意外と噂に流れやすいもの、今から情報戦に加担していないと痛い目を見ますぞ」
ゾナーに言われエスティマ様は分かったとだけ言ったが本当にわかっているのかな?
「ティアナ、私たちからも王城へは進言いたしましょう。長期戦になった今は水面下の動きにも注意した方が良いですわ」
「そ、そうだな、私から連絡を入れる、ティアナ、私に任せておけ!!」
あたしのその言葉にエスティマ様は打って変わって態度を変える。
そして流石はエルハイミ殿だとか持ち上げるがあたしはあきれ顔で魚の燻製をかじる。
あ、みりん漬けみたいになっているので甘くておいしい!
ジルの作る燻製類は本当に美味しい。
もしゃもしゃ食べてるとファムさんがシェルに話を聞いている。
「そうか、道理でファイナス長老が情報を集めていたわけだ。あたしたちも西のミハイン王国で古代遺跡にそれらしい連中が現れたってのは聞いたけど、そいつらがジュメルかもしれないわね? あとでファイナス長老に報告しておかないと。それと、ありがとう、エルハイミさん。『命の木』を守ってくれて。道理であの時体調不良になったわけだ。他の外にいるエルフたちも原因不明な病気に驚いていたのよ」
そう言ってファムさんはあたしに向き直ってお礼を言ってくる。
「いえ、そんなやめてくださいですわ。結果的に何とかなっただけでシェルがいなかったら私も危なかったのですわ」
頭を下げるファムさんにあたしは慌てる。
あの時は無我夢中だった。
でもこうしてエルフの人たちや師匠が元気になったのだ、あたしはそのことがなんだかうれしかった。
「それで皆さんはこれからどうするおつもりで?」
「はい、殿下。実は最近ガルザイルで貴婦人たちに人気がある商品をこのティナの町で生産していると聞きましてその品の買い付けに来たんです。ティナの町は戦争中だって聞いてるので商人たちがこちらに来るのをためらっているらしいので。殿下の話だとティナの町は連戦連勝、安全そうだしいい稼ぎになりそうですからね!」
どうも商品自体は男性陣には知らされていないらしい。
内容を知っていないライさんたちはどんな商品だろうとか言っている。
内容を知っているマーガレットさんやレコナさんは少し赤い顔している。
「そうですか。しかしその商品は現在はこの町の公共事業として行っているので決まったルートでしかお出しできないのです。勿論、町が発展して個人業が栄えれば貿易ギルド経由で流通が始まりますが今はコルニャの街と契約していてそこ以外への販売が出来ないのです。残念ですが仕入れるのならコルニャの街に行くしかありません」
ティアナがそう言うとライさんたちはがっくりと肩を落とした。
「そうだったんですか、道理でなかなか市場に出てこないはずだ。しかし、何とかならんですかね?」
「ごめんなさい、これはティナの町の産業の柱となるもの、約束をコルニャと違える事は出来ないのです」
「そうですか‥‥‥」
なおもあきらめがつかず残念そうにしているライさん。
しかしここでシェルが内容をばらす。
「そんなに欲しいの? 彼女にでもあげるつもり? でもあれって一度穿くと癖になるのよね~。とっても気持ちいいし! そういえばファムは昔は村で絹糸の担当だったじゃない? あの糸で作った下着がすごく良いのよ!」
その言葉にここにいる「風の剣」の男性一同は驚く。
「あぁっ!? し、下着ぃっ!!!?」
ライさんやっぱり知らないよね??
思わず声を上げてしまったライさん。
事情を知っていたようなマーガレットさんやレコナさんは更に赤い顔している。
「シェル、あの布で下着なんか作ったの?? 確かにさらさらして肌着には良いけど下着って‥‥‥」
「それがすごく良いのよ、さらさらで蒸れないし、軽いし気持ちいいのよ!!」
「き、気持ちいいって、シェル貴女‥‥‥////」
なぜか全員赤面。
そんな中ライさんは震えながら言うのであった。
「ティ、ティナの町は大人の町だったのか‥‥‥?」
「「「違う(ですわ)っ!!!!」」」
思わずあたしとティアナ、シェルの声が重なる!
「ライさん、お願いだから変な噂を広めないでくださいですわぁぁっ!!!!」
発案者であるあたしは心からの叫びをするのであった。
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