上 下
214 / 610
第八章

8-16冒険者

しおりを挟む

 8-16冒険者


 アテンザ様のお祝いをしたあたしたちは翌日にはティナの町に向かっていた。


 「しかし流石の姉さまも子供が出来たら大人しくなるかな?」

 「どうでしょう、子供は可愛いでしょうけどティアナの事も溺愛してましたわ」
 
 あたしはそう言ってティアナを見る。
 うげぇと嫌な表情をしているティアナ。

 「そう言えば姉上は昔からティアナの事ばかり可愛がっていたな。私なぞ『男子たるもの常に強くありなさい!』などと言われて指南役にガレント三十六式を叩き込まれたものだ」

 エスティマ様は、はっはっはっはっはっと笑いながらそれもいい思い出だとか言っている。
 勿論ちゃんとあたしの横に座っているけどね。


 あたしは馬車の外を見る。
 もう少しでティナの町に着くだろう。

 
 と、前の方に数人の人が歩いている。
 あたしは何となくそれを見ると、どうやら冒険者のようだ。


 「あら、冒険者のようですわね? ティナの町に来るのかしら?」


 見ると冒険者のパーティーのような組み合わせだ。
 戦士風に魔導士風、神官っぽい人もいる。

 「そう言えば最近は冒険者がティナの町に集まっていたな。傭兵として雇ってもらいたがったり貿易ギルドの護衛できたりしているようだ」

 エスティマ様も窓の外を見ながらそう言う。
 人の往来は歓迎だけど、検問も十分に強化しないとやばいわね?

 「ティアナ、ガレント側からの検問はどうなってますの?」

 「それならゾナーが抜かりなくやっているわ。今はガレント側しか行き来出来ないからかなり厳重にしているみたい。一応戦時中だしね」

 ゾナーが気を配っているのなら任せても大丈夫か?
 そう思っているとパーティーの中にエルフっぽい人が混ざっていた。


 「あれ? もしかしてファム? おーいファムぅ~!!」


 つられて外を見ていたシェルが窓を開けて大声でそのエルフを呼ぶ。

 「シェル? シェルなの!?」

 冒険者の一行に混ざっていたそのエルフはこちらを振り向き驚いている。
 馬車もいったん止まってシェルはするりと降りる。
 そしてエルフの女性に抱き着く。

 「やっぱりファムだ! ひさしぶり~!! 元気だった??」

 「な、なんでシェルがここにいるのよ!? あなたまだ成人もしていないのによく村を出れたわね??」

 見るとシェルと同じような金髪に青に近い緑色の瞳のファムさんと呼ばれるエルフは驚きのあまり大きく目を開いていた。

 「うん、いろいろとあってね。今はティナの町に住んでいるの」

 「え? あの新興の町に?あたしたちもこれから行こうとしてたのだけど、まさかシェルがいるとはね?」

 なんか話が弾んでる。
 するとティアナは馬車を降り冒険者たちに挨拶をする。

 「ごきげんよう。私はティアナ=ルド・シーナ・ガレント、ティナの町の領主をしています。皆さんはティナの町に?」

 ティアナの登場に他の冒険者も慌てて返礼の挨拶をする。
 
 「これはこれは領主様に直接会えるとは驚きです。俺‥‥‥いや、私たちは『風の剣』と言う冒険者です。私がライ、こっちの戦士がドボル、魔法使いのマーガレットとファーナ神官のレコナ、そして精霊使いのファムです」

 一応みんなティアナに頭を下げて挨拶をする。
 あたしたちも馬車を降りて簡単に挨拶をしてからもうじき見えてくるティナの町に移動しようと言う事になり移動を始める。

 シェルはファムさんと一緒に話しながら町に行くと言う事であたしたちは先に行く事となった。
 
 「シェル、せっかくだから砦に来てもらいなさい。お食事でもしながら色々とお話が聞きたいわ。冒険者の話は役に立つからね」

 ティアナのご招待にライさんたち「風の剣」は大喜びだ。
 こりゃあ検問もしないで町に入れるかな?

 『シェル、あなたの知り合いを疑うわけではありませんが他の人とのけじめもありますわ。皆さんにはちゃんと検問を受けてもらってくださいですわ』

 あたしは念話でシェルにくぎを刺す。

 『わかってるって、一応ティナの町も戦時中だからね、ファムたちにはちゃんとそう言うから安心して!』

 こう言う時念話って便利だなぁ。
 他の人には聞こえないからね。
 後はこれで距離がもっと遠くまで使えればいいのだけど、前に試したときにせいぜい一キロ以内が最大範囲だものね。


 * * * * *


 「そうですか、今は休戦状態ですか」

 ライさんはそう言ってうまそうに料理を食べる。
 今は「風の剣」の人たちを砦に迎え入れゾナー含め会食をしている。
 
 「それで他の所はどうなんだ?」
 
 ゾナーはお気に入りの魚の燻製を食べながら酒を飲んでいる。

 「大きなところは皆さんが知っての通りですよ。最近国同士で伝書鳩より早い連絡方法、なんだっけ? ああ、そうそう風のメッセンジャーとかのおかげで情報屋が要らなくなる程ですからね。ただ、下町を中心に酒場では変な噂が流れていますよ。やれガレントが世界征服を始めたとか、やれジュリ教以外もどんどん迫害が始まるとか」

 それを聞いたゾナーは「ふむ」と唸った。

 「情報戦が始まったか。国同士は連合のおかげで噂で簡単には揺さぶれないと知って下町から民衆を陽動し始めたか。エスティマ様、こう言った事は放置すると新たな火種になる。王城へ進言した方が良いですぞ?」

 「ふむ、噂だけではないか? そこまで注意する必要があるのか?」

 「ガルザイルでジュリ教が焼かれたという噂は既に尾ひれがついてます。民衆は意外と噂に流れやすいもの、今から情報戦に加担していないと痛い目を見ますぞ」

 ゾナーに言われエスティマ様は分かったとだけ言ったが本当にわかっているのかな?
 
 「ティアナ、私たちからも王城へは進言いたしましょう。長期戦になった今は水面下の動きにも注意した方が良いですわ」

 「そ、そうだな、私から連絡を入れる、ティアナ、私に任せておけ!!」

 あたしのその言葉にエスティマ様は打って変わって態度を変える。
 そして流石はエルハイミ殿だとか持ち上げるがあたしはあきれ顔で魚の燻製をかじる。
 あ、みりん漬けみたいになっているので甘くておいしい!
 ジルの作る燻製類は本当に美味しい。
 
 もしゃもしゃ食べてるとファムさんがシェルに話を聞いている。

 「そうか、道理でファイナス長老が情報を集めていたわけだ。あたしたちも西のミハイン王国で古代遺跡にそれらしい連中が現れたってのは聞いたけど、そいつらがジュメルかもしれないわね? あとでファイナス長老に報告しておかないと。それと、ありがとう、エルハイミさん。『命の木』を守ってくれて。道理であの時体調不良になったわけだ。他の外にいるエルフたちも原因不明な病気に驚いていたのよ」

 そう言ってファムさんはあたしに向き直ってお礼を言ってくる。

 「いえ、そんなやめてくださいですわ。結果的に何とかなっただけでシェルがいなかったら私も危なかったのですわ」

 頭を下げるファムさんにあたしは慌てる。
 あの時は無我夢中だった。
 でもこうしてエルフの人たちや師匠が元気になったのだ、あたしはそのことがなんだかうれしかった。

 「それで皆さんはこれからどうするおつもりで?」

 「はい、殿下。実は最近ガルザイルで貴婦人たちに人気がある商品をこのティナの町で生産していると聞きましてその品の買い付けに来たんです。ティナの町は戦争中だって聞いてるので商人たちがこちらに来るのをためらっているらしいので。殿下の話だとティナの町は連戦連勝、安全そうだしいい稼ぎになりそうですからね!」

 どうも商品自体は男性陣には知らされていないらしい。
 内容を知っていないライさんたちはどんな商品だろうとか言っている。
 内容を知っているマーガレットさんやレコナさんは少し赤い顔している。

 「そうですか。しかしその商品は現在はこの町の公共事業として行っているので決まったルートでしかお出しできないのです。勿論、町が発展して個人業が栄えれば貿易ギルド経由で流通が始まりますが今はコルニャの街と契約していてそこ以外への販売が出来ないのです。残念ですが仕入れるのならコルニャの街に行くしかありません」

 ティアナがそう言うとライさんたちはがっくりと肩を落とした。
 
 「そうだったんですか、道理でなかなか市場に出てこないはずだ。しかし、何とかならんですかね?」

 「ごめんなさい、これはティナの町の産業の柱となるもの、約束をコルニャと違える事は出来ないのです」

 「そうですか‥‥‥」

 なおもあきらめがつかず残念そうにしているライさん。
 しかしここでシェルが内容をばらす。

 「そんなに欲しいの? 彼女にでもあげるつもり? でもあれって一度穿くと癖になるのよね~。とっても気持ちいいし! そういえばファムは昔は村で絹糸の担当だったじゃない? あの糸で作った下着がすごく良いのよ!」

 その言葉にここにいる「風の剣」の男性一同は驚く。

 「あぁっ!? し、下着ぃっ!!!?」

 ライさんやっぱり知らないよね??
 思わず声を上げてしまったライさん。
 事情を知っていたようなマーガレットさんやレコナさんは更に赤い顔している。 

 「シェル、あの布で下着なんか作ったの?? 確かにさらさらして肌着には良いけど下着って‥‥‥」

 「それがすごく良いのよ、さらさらで蒸れないし、軽いし気持ちいいのよ!!」

 「き、気持ちいいって、シェル貴女‥‥‥////」

 なぜか全員赤面。
 そんな中ライさんは震えながら言うのであった。

 「ティ、ティナの町は大人の町だったのか‥‥‥?」


 「「「違う(ですわ)っ!!!!」」」
 
 思わずあたしとティアナ、シェルの声が重なる!
 
 「ライさん、お願いだから変な噂を広めないでくださいですわぁぁっ!!!!」



 発案者であるあたしは心からの叫びをするのであった。 
    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...