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第六章

6-8命の木

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6-8命の木

 気が付くとそこは真っ白な世界だった。

 
 えーと確か、シコちゃんに「命の木」の世界に飛ばされたはず。
 一応天地が有るようで足元には地面のような感覚はある。
 しかし永遠と続くような真っ白な世界。
 周りの空気と言うか何かがあたしを圧迫している。
 まるで異物を排除したいかのように。


 これがこの精神世界とかの圧力と言うやつか?


 ふと気付けばあたしは全裸であった?
 うーん、精神世界だとこうなるのかな?
 着るものもないし仕方ない。


 と、あたしに呼びかけてくる気配がある。

 「聞こえる? えーと、確かエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンだっけ? あたしはシェル。あたしの場所がわかる?」

 「シェルさん? どこですの、真っ白以外何もないですわ!」

 あたしは周りをきょろきょろと見回すけど何もない。

 「落ち着いて、あなたの精神がこの世界に追い付いていないの。目を閉じてゆっくりと深呼吸をしてから目だけでなく体全体であたしの声を探してみて」

 あたしはシェルさんの言葉に従い目を閉じ大きく深呼吸する。
 そして感覚を研ぎ澄ましもう一度ゆっくりと目を見開きながら体全体でシェルさんの声を探す。

 すると先ほどは見えなかった半透明な木々があたしの周りにいっぱいあるのに気付いた。
 
 「どうやら見えるようにはなったみたいね。じゃあ次はあたしの声をたどってあたしの『命の木』を探して」

 「シェルさんの『命の木』を探すのですの? マーヤさんじゃなく??」

 「あたしは今こっちの世界の姿になっているの。つまり『命の木』になっている。今のままじゃ動けないからあなたにまず来てもらいたいのよ」

 あたしはさっそくシェルさんの声を頼りに彼女の「命の木」を探す。

 この林には大きな幹のモノからまだほっそりした幹まで様々な木が有る。
 あたしはシェルさんの声を探す。


 「こっち、こっち! そう、あなたの右側よ!」

 あたしは声のする幹にたどり着いた。
 見ればまだ若々しいその木はやっと五、六メートルに達する細い木であった。

 「これがシェルさん?」

 「そうよ、よく来てくれたわ。さて、ここからが問題なのだけどエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン貴女の協力が必要だわ」

 少し声が緊張しているようだ。
 何を協力すればいいのだろう?

 「シェルさん、エルハイミで構いませんわ。それで何をすればいいのですの?」

 「マーヤの木を探しに行くにはあたしもエルフの姿にならなければならないの。でもこの世界での姿は木の姿になってしまう。だからあなたの魂と私の魂を融合してあなたに「時の指輪」を託すわ。そうすればあたしもこの世界でエルフの姿になれる。あなたの魂を介してかりそめの姿になれるの。いいかしら?」
 
 「『時の指輪』ですの? 私は構いませんけど?」

 「そう‥‥‥ うん、マーヤの為、あたしの初めてをあなたに捧げるわ!!」

 「はいっ?」


 何それっ!?
 は、初めてって何の始めてよ!!!?


 「わ、私だってこういうのは初めてなんだから緊張するわ。でもあちらの世界では無いから肉体的にはまだいいか。それじゃエルハイミ、始めるから私に抱き着いて!」


 だ、抱き着く!?
 あたし裸だよ!?
 うう、でも相手は木だし大丈夫か?

 
 あたしは言われたままにシェルさんの木に抱き着いた。

 「だめだめ、もっと強く体を密着させて! 手だけで絡み付くのじゃなく腕全体で、体全体でくっついて! そう、足もしっかり絡み付けて!」


 ひえぇぇぇぇぇっ!!
 そんなにくっついたらいろんなところまで当たっちゃうじゃない!!!!


 ちょっと恥ずかしさがこみあげて来たけど早く終わらすためにあたしは体全体をシェルさんの木にくっつけ、腕も足も絡み付けた。


 なんか、ちょっとこの格好卑猥くない??


 「うん、いい感じ。じゃ始めるわよ。心を落ち着かせてあたしがあなたの中に入るけど拒まないでね。痛くはしないから、ゆっくりと入れるから心配しないで」


 な、何を入れる気よっ!
 それに痛くしないって何よっ!?

 
 思わず腰が引けてしまう。

 「こらこら、ちゃんとくっついていてよ、始めるわ」

 そう言ったシェルさんにあたしの肌の触れているところ全部が温かくなっていく。

 そして何とも言えない感じがしてくる。
 しいて言えば温泉に浸かるような、緩やかな温かさ。
 それはあたしの触れた肌全部から染み込んでくるような感じで入ってくる。

 
 ゆっくりゆっくりと‥‥‥



 「うん、もう少し。エルハイミもっとリラックスしてあたしに体を預けて。もっと開いて」


 は、入ってくる‥‥‥

 
 初めての感触にあたしは戸惑うけど、シェルさんに言われ可能な限り力を抜く。
 シェルさんは少しずつ少しずつあたしの奥に奥に入ってくる。

 痛みは無い。

 最初の緊張もほどけてきてシェルさんはとうとうあたしの一番奥に入ってきた!


 「届いた!エルハイミの一番奥に! これがあなたの魂ね!!」


 その瞬間シェルさんはあたしの中ではじける!
 熱い熱いシェルさんの魂があたしの中にはじけ出てあたしの魂と混じる!!

 「!」


 その瞬間何とも言えない気持ちよさがあたしの背筋を震わせる!?

 ―― ティアナごめんっ! ――

 あたしはなぜかそんなことを一瞬思った。



 しかし、何これ!?
 混ざっている?
 シェルさんの肌の感触も匂いもすべてわかる!?


 あたしがシェルさんでシェルさんがあたし??



 「す、すごい! これがエルハイミの魂!? だ、だめっ! 強すぎる!! あたしが飲み込まれちゃうっ!!!!」


 そう、分かる。
 徐々にシェルさんがあたしの中に消えていく。
 徐々に‥‥‥


 「‥‥‥はっ!! シェ、シェルさん!!」


 あたしは気持ちよさから我に戻る。 


 今のあたしにははっきりわかる。

 あたしの魂の方が強すぎてシェルさんの魂があたしの中にかき消されてしまう!!
 このままじゃシェルさんがいなくなっちゃう!!
 
 あたしは意識を集中してシェルさんを集める。

 あたしの魂を上位にシェルさんの魂を下におろす感じでそこに溜める。
 そしてあらかた集めたシェルさんの魂とあたしの魂を細い紐で結びつける。

 そして‥‥‥

 「シェ、シェルさん!?」

 「ううっ、エルハイミ?」

 見るとあたしの目の前に全裸のエルフ姿のシェルさんがいた。
 あたしは絡み付いた腕や足を慌てて引きはがす。

 「ど、どうにか魂の完全融合は避けられたみたいですわ。あのままではシェルさんの魂が私の魂に飲み込まれかき消されてしまう所でしたわ」

 「うう、ありがとう。まさかあなたの魂がここまで強かったなんて‥‥‥ ところで、この首輪と鎖ってなに?」


 見るとシェルさんの首には首輪とそれに連なる鎖がついている。
 そしてその鎖の先はなんとあたしの右腕に連なっている?
 あたしは慌てて鎖が付いた右手を見ると、手首のあたりでその鎖はあたしの腕の中に消えている?

 「なななな、なんですのこれ!?」

 「まさか魂の隷属!? あたしの魂の方がエルハイミより弱いから関連付けが隷属になったぁ!!!?」


 魂の隷属ってなにっ!?


 あたしは呆然と自分の手首とシェルさんの首輪を交互に見つめる。

 「これって外せないのですの?」

 「‥‥‥この世界であなたの魂と関係を持つ結果がこれか。駄目ね、これは魔法なんかよりずっと強い結びつき。死ぬまで切り離せないわ。これじゃ『時の指輪』なんていらなくなっちゃうわね」


 と、近くの「命の木」が震えた。
 そして半透明なそれが薄暗い色に染まり始めた!?

 「やばいっ! 時間が無くなってきたわ!! 早くマーヤの『命の木』を探さなきゃ! エルハイミとにかく今はマーヤの木を探すのが先よ!!」

 「え、ええっ! わかりましたわ!!」



 あたしは返事をしながらシェルさんと一緒にマーヤさんの木を探しに行くのだった。

  
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