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第五章

5-24ノルウェンの古代遺跡その二

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 5-24ノルウェンの古代遺跡その二

 ふみゅ、そろそろ起きなきゃかな?
 小腹がすいてきたので朝になったのかな?


 あたしたちは今ノルウェンの古代遺跡迷宮の中にいる。
 迷宮と言ってももともと古代の研究施設だったらしいのでものすごく複雑なものではない。
 それでも盗難避けや防衛のためにいろいろと工夫をされたそれは迷宮とあまり変わらない。

 さてと、あたしはくるまっていた毛布から這い出て身支度を始める。
 隣に眠っていたアンナさんも起きたようで、同じく身支度を始める。

 「おはようございます、アンナさん」
 
 「おはよう、エルハイミちゃん」

 「主よ、お目覚めか?」

 ほとんど寝てないはずのショーゴさんがこちらに声をかけてくれる。

 「ええと、おはようございますですわ。見張りご苦労様、何か変わったことありましたかしら?」

 「いや、特には無かった」

 彼はそう答え、出入り口の方をもう一度見る。
 と、マース教授も起き上がってきた。
 マース教授も起き上がると同時に身支度を始める。
 
 「おはようございます、マース教授、すぐご飯の支度しますわね」
 
 「おはよう諸君、すまんねエルハイミ君」
 
 マース教授に挨拶してあたしはちゃっちゃと簡単に食事を準備してみんなに渡す。

 「ありがとうエルハイミちゃん、ほんとお料理とか上手で手際良いわよね」

 「それほどではありませんわ、単に師匠に毎日鍛えられましたからですわ。でもおかげで家事を自分でしないと落ち着かなくなってしまって」

 「ほんと、エルハイミちゃんをお嫁さんに欲しいくらいです」

 勘弁してくださいと思いながら乾いた笑いをする。 
 そんな会話を交わしながら食事を済ませ、本日の探索に入る。


 * * * * *

 
 しかし、初めて迷宮で夜を明かしたけどやっぱり緊張していたせいかよく眠れなかった。
 冒険者ってみんなこんなのかなぁ。


 そんなこと思いながら歩いていると前方のショーゴさんが何かいると警告を発した。

 またゾンビか?

 みんなが身構える中、やはりゾンビが出てきた。
 昨日のゾンビより腐敗が進んでいて骨とかまで見えている。

 慌てずアンナさんが【浄化天昇魔法】を使ってゾンビを撃退する。

 「またゾンビが出るとはな。しかし探索が終わっているという割には出現率が高いな?」

 「昨日のゾンビもそうでしたがこの遺跡は魔結晶石の研究所ですよね? 何故アンデットがこうもたやすく発生するのでしょう?」

 確かにほぼほぼ安全が確保されたようなこの遺跡だけど、ちょっとアンデットの出現率が高いよね?

 あたしたちはそんなことを疑問に思いながらマース教授の指示で次へと向かう。
 


 どのくらい進んだろうか?
 多分マース教授の話ではここが最深部だそうだ。

 今までにもスケルトンやゾンビが何回か遭遇していよいよおかしいと思ったあたしたちはこれまでの部屋や怪しい通路とか念入りに見て回った。
 しかし今の所これと言っておかしな所は無いし、この最深部で地図上は最後の部屋になる。

 「さて、ここで最後だが最初の目録と鍵以外今の所収穫は無いな。ここで何か見つけられれば良いのだが」

 そう言って最後の部屋に入る。
 結構大きな部屋で壁の一番奥はレンガでなく岩盤がむき出しになっている。
 
 マース教授は【感知】魔法を唱え始め、アンナさんも心眼を開く。
 あたしも一応同調をして【感知】魔法を発動させる。

 そして部屋を見渡すけど特には何も‥‥‥

 ん?岩盤の方になんか魔力の漏れがある?

 「エルハイミちゃん!」

 「はい、アンナさん!」

 「うむ、あそこだな」
 
 あたしたちはそこにみんな気付いた。 
 岩盤が少し崩れたその隙間からわずかに魔力が漏れているのをみんな見つけたけど、ものすごく黒っぽい魔力だ。
 これってもしかして?

 「どうやらあれが原因のようだな」

 「マース教授、私が念動で岩を動かしてみますわ!」

 そう言ってあたしは崩れてる岩を左右にどかす。
 すると崩れた岩盤は更に崩れ、向こう側にぽっかりと穴が開く。

 「やはりまだ何か有ったか!」

 「でも、なんで今まで見つからなかったのですかしら?」

 「何かの衝撃で今までふさがっていた岩盤が風化もあって一気に崩れだしたようですね。もともと土系の魔法で先の通路を塞いでいたようですが」

 アンナさんが言いながらその先を見る。
 
 「魔力の漏れはその先、さらに下から来ているようです」

 ショーゴさんが先に様子を見ながら入っていく。
 周りは岩肌なのに足元だけ石畳になっている。
 その先に進んでいくと二体の悪魔をかたどった像がある。

 そしてその像の間の床にはひびが入った扉がある。

 「あそこから黒い魔力は漏れ出てます」

 うーん、これって左右の二体がお約束なパターン?
 それとも扉を開く鍵?

 確実に何かありそうなそれは魔力感知では特に問題はなさそうだ。
 あたしはアンナさんを見る。

 「どうですかしら、アンナさん?」

 「そうですね、扉と像は連動しているようですね。多分あの首を両方一度に扉に向ければいいのでしょうが、同時でないとトラップが作動するみたいです。上から何か落ちてくるようですね?」

 アンナさんがいて助かった。
 あたちたちではそこまで細かくは見切れない。
 本来はレンジャーとかシーフの技能を持った人が必要だけど、神眼持ちのアンナさんならそれ以上の事が出来るので彼女の言う事を聞いていれば安泰だ。

 「では像の首を一度に扉側に向けるぞ、ショーゴ君手伝ってくれ」

 「わかった」

 そう言って男性陣二人が一、二の三で同時に像の首を扉に向ける。
 するとゴトゴト音がして扉がせりあがってきた。

 とたんに真っ黒な魔力があふれ出す。

 「なんだこの禍々しい魔力は!?」

 あたしも今まで見たことが無いほど黒々とした魔力はどんどんあふれ出してくる。

 「主よ、先に進むか?」

 「そうですわね、このままじゃいけませんもの、行きましょうですわ」

 マース教授もアンナさんも無言で首を縦に振り、その扉の下に続く階段を下りていく。


 階段を降り切るとそこはちょっとした長さの通路で、一番奥に扉がある。

 「廊下には‥‥‥ 問題は無いようですが扉は封印されてます。ひびが入っていてそこからの真っ黒な魔力があふれ出していますね」

 アンナさんがそう言ってショーゴさんより先に扉の前まで行く。

 「流石に中までは見えませんがかなり強力な封印ですね。解除します。【解除魔法】!」

 アンナさんが呪文を唱え【解除魔法】を発動させる。
 
 かなり強力なはずだった封印もアンナさんの前では簡単に解除されてしまった。
 封印された扉は内側に重々しい響きを立てながら開いた。

 と、魔法のせいかその奥の大部屋は何かの祭壇のようになっていて薄暗く光っていた。
 
 一体何なんだろう?
 そう思ってみんなが部屋に入ったその時だ!
 扉が勢いよく締まり閉じ込められる!

 そして不気味な唸り声が響く!?

 「グロロロオオオオオオオオオオオオっ!」

 何かが祭壇の前に起き上がった!

 「気を付けてください! 普通のゴーレムではありません!! 禍々しい魔力を感じます!」

 あたしたちの前に立ちふさがるは身の丈四メートル近くある悪魔を模したゴーレムが立ちふさがっていた!

 「主よ、下がっていてくれ! 俺が相手する!!」

 そう言うとショーゴさんは服を脱ぎ始め全裸になる!
 アンナさんが条件反射で顔を真っ赤にして横を向くが彼はそんなことお構いなしに仁王立ちにゴーレムの前に立ちふさがる。

 そして右側の頬近くに両手の拳を握りしめ力む。

 「むんっ! 戦闘形態、転身! とおっ!」

 掛け声と共に飛び上がる彼は一瞬にして異形の兜の戦士に変身する!
 彼はそのままゴーレムに正拳を叩き込むが、ゴーレムは数歩たたらを踏んでよろけるが何とか踏みとどまる。

 そしてショーゴさんに鋭い爪が生えた手をたたき込むがショーゴさんはそれを片手ではじきもう一度跳躍して正拳を叩き込む。
 流石に今回は警戒していたのか、ゴーレムはその正拳を腕でガードして反対の手でショーゴさんを叩き潰そうとする。
 意外と動きが速い!?
 あわやその太い腕につぶされると思ったショーゴさんは両腕でその攻撃を受け止めていた!

 ああ! あたしの鏡面仕上げにまたまた傷がっ!!
 なんか心配はしていないけど鏡面磨きの義手は気になるあたし!

 「ふっこの程度か!? ならばこちらも少し本気を出してやろう!」

 そう言って振り下ろされた腕をはじき連続の正拳や蹴りの連打をする!
 たまらずよろめくゴーレム。
 見た目ではたやすくあしらっているけど、あのゴーレム多分通常のアイミじゃきついレベル。
 ショーゴさんを治したときにあたしたちはかなりの部位を強化、バージョンアップさせていた。
 今のショーゴさんならもしかしたらティアナと同調した本気のアイミに匹敵するかもしれない。

 よろめくゴーレムだがその眼が光り胸が血管が浮き出るかの如く光る!

 「気を付けて、何かしてきます!」

 アンナさんの叫びが終わると同時にゴーレムの口が開き真っ黒な煙のようなものが吐き出された。
 それは三体ほどの死神のようなゴーストになった。

 「恐怖をつかさどる精霊、シェードです! 物理攻撃が効かず精神を攻撃してきます! 気を付けてください!」

 アンナさんがそう言うが既にシェードはショーゴさんにとりついている。
 はがそうとしても物理的には触れないから精神抵抗しか今は手段が無い。

 必死にもがき苦しんでいるショーゴさんにゴーレムは太い腕を振るい殴り飛ばす!

 ショーゴさんは勢いそのままに壁に激突してしまう。
 やばい!
 あたしはとっさに光の魔法をシェードにぶつけるが効かない!?

 「精霊魔法です、光の精霊をぶつけない限り効果はありません! しまった、私の【浄化昇天】もシェードには効かない!!」

 「アンナ君 【状態回復魔法】だ! レジストの力を上げるんだ!」

 マース教授はそう言ってアンナさんに指示をしてから自分も何やら呪文を唱える。
 あたしはゴーレムに【束縛】バインド魔法をかけるが、馬力が違い過ぎる!
 元のあたしの体重が軽すぎてあたしが引きずられてしまう。

 「【状態回復魔法】!」

 アンナさんがショーゴさんに魔法がかかると、同時にマース教授の呪文が完成する!

 「【聖典後光】ホーリーライト!!」

 マース教授の放つ光にシェードたちは悲鳴を上げて散らばっていく!
 
 あたしは【束縛魔法】の呪文を解いてショーゴさんにコマンド魔力を飛ばす!
 
 「ショーゴさん、魔力を送ります義手の力を開放しますわ!! 【爆炎拳】起動!!」

 あたしの魔力を受けたショーゴさんの左の義手が輝き、その力を開放する。
 双備型魔晶石核から一気に大量の魔力も追加して送り込まれ、ショーゴさんの手のひらに真っ赤な魔晶石が現れそして輝き始める。
 左の拳の爪が伸び、下腕の排気ダクトが開きブーストされた圧縮魔力が炎となって吹き出す。

 「うぉぉぉおおおおっ! 俺のこの手が真っ赤に燃える! 貴様を倒せと輝き叫ぶぞぉ!!」

 「いけえぇぇぇっ!!」

 あたしの掛け声と共に走り出したショーゴさんが降り落ちる太い腕をかわしゴーレムの胸に届く!

 「【爆炎拳】!!」

 ドガッ!
 びきっ!
 ばぁああぁぁんっ!!!!
 
 当たった瞬間に中国拳法の発勁のようにそこから力がはじけ爆発するかのようにゴーレムの胸が溶解してはじける!

 その威力はそれだけに止まらずゴーレムの体全体にひびを入れていく!!

 ショーゴさんは貫いた腕を引き抜きその場を飛び去る。
 ほどなくゴーレムは膝から崩れ落ちその場に倒れ動かなくなった。


 ぶしゅうぅぅぅぅ‥‥‥

 
 ショーゴさんの腕から冷却の排気が出る。

 「あ、主よこれは一体?」

 「腕が無くなってしまったので義手を取り付けたとき、私のコマンドでだけ起動する魔晶石を埋め込んでおいたのですわ。ちょっとしたお守りとしてですわ!」

 そう言ってにっこりとほほ笑むあたしにショーゴさんは再び膝をつき頭を下げる。

 「命を救ってもらっただけではなく、このような強力な力まで! 主よ今一度誓う! 我が命尽きるまで御身を必ずお守りする剣となり盾となる事を!!」

 「ショーゴさん、やめてください。でもショーゴさんのおかげでみんな助かりましたわ。多分あのゴーレム、アイミの本気モード並みに強かったはずですもの」

 そう言ってショーゴさんの手を取り立ち上がらせるあたし。

 「主殿‥‥‥」

 と、ここでショーゴさんの変身が解けて真っ裸に戻る。

 「しょ、ショーゴさん! 破廉恥です!! それにエルハイミちゃんは私たちのモノです!!」

 アンナさんがあたしとショーゴさんの間に割り入ってあたしを抱きしめ向こうに連れ去る。
 
 うあぁっ!
 アンナさんそんなに強く抱きしめられたらアンナさんの胸で呼吸できなくなるっ!!
 
 じたばたもがくあたしをしっかり抱きしめ「がるるるるるぅぅぅ」と声が聞こえそうな感じでショーゴさんを威嚇するアンナさん。

 「とりあえずショーゴ君、服を着たまえ、話はそれからだな」

 冷静なマース教授に言われショーゴさんは慌てて服を着るのだった。


 * * * * * *


 「他には罠は無いようです」

 アンナさんが祭壇に浮かんでいる杖を見る。
 どうやらこの杖からあの黒い魔力が漏れ出しているようだ。

 杖の大きさは五十センチくらいで真っ黒な色で先端に大きな魔晶石がついている。
 そしてその魔晶石には何かが埋め込まれているようでどうもそれが原因のようだ。

 「危険ではあるがこれはいったん持ち帰って研究するべきだな。これだけの魔力が漏れ出るからには相当なモノだろう」

 そう言ってマース教授は恐る恐るその杖を手に取る。
 しかし特に何も起こらずその杖はマース教授の手に収まった。
 と、途端に黒い魔力は漏れ出すのを停止して大人しくなった。

 「どういう事でしょうか? あれだけ漏れ出ていた魔力が止まった?」

 怪訝そうな顔をするアンナさん。

 「主よ、あれはなんだ?」

 ショーゴさんは祭壇の後ろの方に有る金庫の様な物に気付く。
 それはかなり小さなものではあったが、確かに最初の金庫に似たつくりをしていた。
 あたしはポーチから慌てて鍵を出す。
 マース教授とアンナさんを見るとアンナさんは首を縦に振る。
 どうやら罠の類は無いようだ。
 あたしはそのカギを金庫の鍵穴に差し込む。
 すると金庫は簡単にかちゃりと音を鳴らし開いてしまった。
 扉を開けて中を見ると魔晶石が一つと魔導書の様な物が一冊ある。

 それを丁寧に引っ張り出し、マース教授とアンナさんに渡す。
 マース教授はさっそくその魔導書を開き読み始める。

 「そうか! これが魔結晶石か!」
 
 一緒に引っ張り出した魔晶石を見る。
 埃がついていたが手で拭うと確かにダイヤモンドのような美しい輝きが有った。

 そして魔導書を読んでいたマース教授は驚きを隠せない表情をする。
 
 「そ、そういう事か、古代魔法王国が何故魔結晶石などと言う特別な魔晶石を欲していたのか分かった!! 魔結晶石は狂気の巨人を封じ込めるためのクリスタルの素だったのか!!!!」

 衝撃の事実!
 伝説の話が実に現実に目の前にあるという事だ。
 それってものすごい発見なんじゃないの!?
 更に読み進むマース教授だが更に驚きの新事実が発覚!

 「こ、この『暗黒の杖』と呼ばれるクリスタルの中には女神ディメルモ様の肉片が埋め込まれているだと!?」

 ちょっと待て、それって本当っ!?

 神話だよ、神話!
 女神様って一部省いて神話の世界のお話だよ!?
 それの肉片だって!?

 ここにいるみんなが驚きまくっている。
 暗黒神と呼ばれる女神ディメルモ様はあまり良い印象が無いのが世間一般だが、悲しみをつかさどり、夜の世界を収める偉大な女神様でもある。
 夜には夜の秩序があり、休息の時であり、そして安らぎの時でもある。
 夜がなくなった世界はどんどん気温が上がり、休むことを知らない生活は多大な影響を人類に与えるだろう。
 そんな女神ディメルモ様の体の一部だって?

 興奮やまないあたしたちは他にも何かないか隅々までこの部屋を探索したがこれ以外は特に何も無かった。
 
 一緒に有った魔結晶石は万が一の予備品だったらしいが、これで一つ魔結晶石が手に入ったことになる。
 
 

 いろいろあったけど、あたしたちは当初の目的以上の収穫を得てこの遺跡を後にするのだった。
  
 
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