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第三章

3-2入居

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3-2入居


 入学試験は当然のようにすんなりと合格をもらって、いよいよ学園に入居となる。
 
 まずは講堂で引き続きゾックナスさんから説明を受ける。
 
 この学園は大きく四科構成で成り立っている。
 
 初等科は年齢の若い者、魔術初級者が主で初級魔術を使え将来の見込みのあるものを中心にした所である。
 
 中等科は主に中級魔法までを習い、魔術師としての知識を中心に政治学や各国の情勢、しきたりや歴史を学んでいく。
 これは魔術師として膨大な知識を必要とされる宮廷魔術師などは特に重要な事でもある。
 その為学生のほとんどがここにあたるので一番人数が多い。 

 高等科は中級魔術を基本に応用や秘術に近い魔術を習う。ここまで来ると才能や能力が無いとなかなか難しくなってくる。
 この科を卒業した者はどの国に行っても即宮廷魔術師として採用されるだろう。
 
 そして研究科。
 この研究科は魔術の奥義を極めようとするものがいるところで、十数人しかいない。
 ほとんどが教授で奥義の探求と同時に学園の講師も行っている。
 ギブ&テイクではないが、研究費や生活費は馬鹿にならない。
 なので奥義を極めんとするものはその支援を学園から受けると同時に次世代の魔術師の育成に助力しなければならない。
 手っ取り早い方法が講師の責務を受けることだ。
 場合によっては優秀な生徒を助手代わりに使える場合もある。

 まあ、この辺の説明は前々から聞いていたが本題はここから。

 そう、「戒めの腕輪」である。

 学園に所属する者は魔術暴走や事故を未然に防ぐためにこの「戒めの腕輪」を随時着用する義務がある。
 この腕輪は魔術妨害の効果が有って、学園の結界内で魔術をほとんど使う事が出来なくなる。
 しかも安全の為学園の権力者以外には勝手に外せない仕様となっている。

 「良いですか、殿下。いくら王家の方とは言えこの学園にも守らなければならない決まりがある。殿下といえどもこの『戒めの腕輪』は学園内にいる間は必ずつけていただきますぞ」

 ゾックナスさんはそう言って腕輪を掲げた。

 「ええ、承知しておりましてよ。郷に入らば郷に従えとも言われますもの」

 そう言ってティアナは左腕をゾックナスさんに差し出した。

 「よろしい、では失礼」

 そう言ってゾックナスさんは順々に腕輪を俺たちにつけていく。

 「これで学園内にいる間は魔術を使う事が出来なくなる。実技の授業時は腕輪の効力が無くなるエリアで行う。その他のエリアでは魔術を使わないように」

 そう言ってゾックナスさんはその他の簡単な規定を説明してから各詳細はこの生徒手帳を見るようにと小さな小冊子をよこしてきた。


 おお、なんか生前の世界と似てるな、この生徒手帳。


 「この生徒手帳は身分証明にもなるので、随時携帯すること。紛失した場合は即座に職員室まで来ること。よろしいかな?」

 全員を見渡してから最後にサージ君にもカード状のものを渡す。

 「君は殿下の付き人と聞いている。君にも腕輪をつけてもらったが、殿下と行動を共にするにもこの付き人の身分証明カードは随時携帯するように。でないと入出できない部屋もあるので注意すること」


 そう言ってからゾックナスさんは全員を宿舎へと案内した。


 男子宿舎と女子宿舎は同じ区画にあるものの、建物は当然別棟。
 しっかりと距離がとられていて間に食堂を兼ねた建物が存在している。
 ゾックナスさんはまずその食堂に俺たちを引き連れていく。

 そして男子寮、女子寮の管理人に俺たちを引き合わせる。
 一人は四十代半ばの筋肉隆々のナイスガイだ、生前の俺を思い出す。
 一人はジーナさんよりはちょっと若いかな?
 ふわふわのエプロンをまとったおっとり系の美人さんだ、なんとなくママンを思い出す。


 「男子寮の管理人ジンと女子寮の管理人シルフィーだ。ここからは彼ら彼女らが案内をしてくれる。明日は朝食後より中等科への編入と紹介を行うのでこの食堂に集合してもらう。よろしいですな?」

 主にティアナに向かって予定を言ったゾックナスさんはティアナからの了承の答えをもらって満足そうに退出していった。


 「さて、改めて自己紹介する。私は男子寮管理人のジン=マハールだ。よろしくな騎士殿」

 そう言ってロクドナルさんに手を差し出す。

 「こちらこそ、よろしく願います。ロクドナル=ボナーと申します」

 ジンさんとロクドナルさんはがっしりと太い筋肉質の腕同士を握手させた。


 「私は女子寮管理人のシルフィー=ブルードと申しますわ。殿下、それに淑女の皆さんよろしく」

 スカートの裾をつまんでシルフィーさんは挨拶してきた。

 「ティアナ=ルド・シーナ・ガレントです。よろしくお願いしますわ」

 「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンと申しますわ。よろしくお願いいたしますわ」

 「アンナ=ドーズです。どうぞよろしくお願いいたします」 

 俺やティアナ、アンナさんも同じくシルフィーさんに挨拶をする。

 「さて、それではもうじき昼食なので昼食後に案内する部屋へ荷物を運び入れてもらおう。但し、殿下たちの部屋は最上階にある貴族用の部屋なので運び入れには使用人や付き人は指示あるまで勝手に入らないようにしていただきたい。女性寮には原則女性以外の入出はご法度となるのでね」

 「あの、僕はどうすればいいのでしょうか?」

 付き人のサージ君は説明をするジンさんに質問する。

 「付き人だね? ゾックナス教頭に付き人の身分証明書のカードを渡されているね? 君はそれを掲示すれば殿下の隣にある使用人部屋で寝泊まり出来るよ」


 そう言えばサージ君男の子だもんね。
 おお、女子寮という秘密の花園に足を踏み入れると言う役得か!?

 実際はそんなに良いもんじゃないけどね。


 「わかりました、ティアナ殿下何かあればお申し付けください」

 「そうしますと、私たちはどのようにいたしますの?」

 俺とアンナさんはまだどうなるか聞いていない。

 「それは私からご説明いたしますわ。まずエルハイミさんとアンナさんは殿下と同じ階になります。廊下を挟んで反対側にある部屋となりますので、お三方ともにすぐ近くの部屋となります」

 シルフィーさんの説明で大まかなことはわかった。
 俺たちの部屋は一人一部屋になっていて、使用人部屋は無いそうだ。
 もともと使用人はティアナ付きで、俺はまだ小さいとの事でティアナの使用人が一緒に面倒見てくれるらしい。
 
 そう言った説明の後に昼食の為、食堂の一番端にあるテラスに案内された。
 基本学生は自分で食事をとりに行って、各々の好みの場所で食事をとるのだが流石に貴族や王族ともなるとそうもいかない。
 付き人や使用人が先に準備をして食事をとるのが通常らしい。
 現に昼時の為か、テラス近くの一等席には使用人風のスタッフが自分の主用の食事を準備していいる。

 「殿下たちにはこの場所を使ってもらうとしよう。サージ君、今後食事の折にはここに殿下たちの食事の準備をしてくれ。他の場所は使わないようにしてくれ、いろいろと問題になるからね」

 そう言ってジンさんは厨房の方へ指をさした。
 
 「食事はあちらの料理長に言えば準備したものが出されるので、サージ君は覚えておくように」

 既に手配済みなのか、食堂のスタッフが料理を持ってきてくれる。
 サージ君は何やらスタッフに話しかけている。
 するとスタッフは多めのスプーンと小さな受け皿を沢山持ってきた。

 「ティアナ殿下、食事に万が一があるといけませんので殿下のお食事は毎回私が毒見をさせていただきます」

 そう言って運ばれてきた料理をすべて少しずつ取り分けた。
 そして失礼と言ってそれを順に口に運ぶ。
 しばらくして問題が無かったようなのでティアナたちに着席してもらう。

 「納得したみたいだね、それでは食事が終わったころにまた来るよ、殿下、お食事をお楽しみください」

 ジンさんたちはそう言って退席していった。
 残された俺たちは順に着席していき、食事の準備を始める。



 食事はまあまあの味わいだった。
 基本学生向けの大量生産だ、味より量と言う子もいるだろう。
 毎日食べても飽きなければ問題はない。

 サージ君は食後のお茶を準備してくれている。

 ちょうどお茶を入れ終わったころ、ジンさんたちがやってきた。

 「うん、ちょうどいい頃だったかな? お茶を飲んだら早速荷物を運んでもらおう」


 そう言って俺たちがお茶を飲み終わったころシルフィーさんも来て一同宿舎へ移動する。
 
 ロクドナルさんは男子寮なのでここでお別れ。
 ジンさんと一緒に自分の荷物を持って宿舎へ行った。
 と言っても、ロクドナルさんは荷物がボストンバック一つと身軽だ。


 問題はティアナ率いる女性陣。

 俺もなんだかんだ言ってボストンバック五個になっている。
 アンナさんも私物が多く、ボストンバックで十個ほど。
 ティアナに限っては馬車三台分に近い量だ。
 それら荷物を荷運びをする使用人たち。
 しっかりサージ君も混じっているところが哀愁を感じる。

 うん、サージ君、今度秘伝のチョコレートあげるからね。

 俺の荷物は一番早く部屋に運び終わった。
 もともと衣服がほとんどで、後は衛生用品と数冊の本とジーナさんにもらった魔法の書位である。
 家具はこちらで準備しておいてもらったものばかりなのでベットやタンス、筆記机やソファーにテーブルなんかも十分に豪華なものが準備されている。
 流石に国家予算で準備してもらったもの、立派なものばかりだ。
 
 さて、それでは生前からの儀式を‥‥‥

 おれは早速ベットに目掛けダイビングする。

 おおっ!
 思ったよりふかふかだ!
 やっぱり新しい部屋やホテルに入ったらまずはベットの確認でしょう!
 生前も出張時はしっかりとビジネスホテルのベットはこの方法で確認させてもらったからね。
 眠りは重要なのだよ、諸君。

 十分にベットの状態を確認した俺は身だしなみを整えてから隣のアンナさんの部屋に向かった。

 「アンナさん、どうですか? 手伝いましょうかしら?」

 アンナさんは主に魔術書や魔道具を机や棚に並べているところだった。
 
 「エルハイミちゃん、もうかたずけ終わったのかしら? 早いわね」

 話しかけながらもその手の動きは止まらない。

 「ええ、荷物と言っても着替えと衛生用品くらいですから。それより、アンナさん大丈夫ですかしら?」

 アンナさんは今にも崩れそうな書類や本を積み上げふらふらと机に向かう。
 と、案の定つまづき転びそうになる。
 手にした書類や本も飛散するが、俺はとっさに念動力の魔法を使う。
 角に頭をぶつけたら致命傷になりそうな分厚い本やあまたの書類が空中で停止する。
 ほっと胸をなでおろし俺はそれを空中で束ねて筆記机の上に置く。

 と、アンナさんがこちらを指さしてパクパクしてる。
 どうしたんだろう?

 「え、エルハイミちゃん、今魔術使ったわよね?」

 「はい、危なくアンナさんが本の角で頭を強打して致命傷になりそうだったので‥‥‥」

 「腕輪してるわよね??」


 ん?
 そう言えば・・・
 あれ?
 俺腕輪してるよな??


 「さっき私も念動魔法で重いものを動かそうとしたけど、魔術妨害のおかげで上手く呪文が唱えられなかったのよ?」


 まさか‥‥‥
 おれはすぐに無詠唱で光の玉を生成する。
 それはいつも通りすぐに指先に光の球がともる。


 ‥‥‥あれ?
 魔法使えるじゃん!?


 「あ、アンナさん、どういう事でしょうかしら??」

 ポカーンとしている俺、まじまじとその様子を見るアンナさん。
 しばし無言の二人。

 「もしかして、詠唱を妨害するのが『戒めの腕輪』の効力なのでしょうか?」

 沈黙を破ったアンナさんは自分の考えをまとめた。
 そしておもむろに光の魔法を詠唱しようとする。
 と、途端に発音される呪文が上手く発音できないようだ。
 そして、二度ほど試したアンナさんはおとなしく呪文詠唱をあきらめた。

 「どうやら呪文詠唱妨害が原因のようですね、エルハイミちゃんもう一度先ほどの光の魔法やって見せてもらえますか?」

 俺はうなずきすぐさま呪文を発動させる。
 するとさっきと同じく光球が出現する。

 「やっぱり、無詠唱ができる魔術師には効果が無いみたいね。エルハイミちゃん、このことは他の人には内緒にしましょう。それとティアナ殿下にもこの事を伝えておきましょう」

 アンナさんはそう言って自分の荷物の片付けもそのままに急いでティアナの部屋へ俺と一緒に向かった。



 「失礼します、ティアナ殿下、重要なお話がございます」

 そう言って向かったティアナの部屋はまさに混沌!

 荷物を運び入れながら片づけるのでサージ君含め使用人が右往左往している。
 ティアナは腕を組んでいながらその風景を眺めているが、ものすごく暇そうである。

 アンナさんの声にこちらに気付いたみたいでサージ君たちにそのまま続けるように言ってこちらに来た。
 
 「アンナ殿、何か?」

 「ティアナ殿下に重要なお話がございます。もしよろしければ私の部屋にお越し願えますか?」

 ティアナは軽くうなずいてから廊下反対のアンナさんの部屋に行こうとする。
 が、アンナさんの部屋の入口付近にはお店を広げた状態のアンナさんの私物が散乱している。
 うっ、とかアンナさんの小声が聞こえて来たので仕方なしに助け舟を出す。

 「アンナさん、ティアナ、私の部屋でお話しません事?」

 そう言ってティアナとアンナさんの手を取る。
 
 「ごめんなさい、エルハイミちゃんお願いするわ。」

 そしてそのまま二人を部屋へ案内する。
 
 とりあえずソファーに座りながら話を始める。

 「ティアナ殿下、『戒めの腕輪』をつけたまま魔法を使う事を試されましたか?」

 ティアナはそのことを聞き不思議そうな顔をした。

 「アンナ、何を言ってるの? この腕輪があると学園内では魔法が使えないんじゃないの?」

 「ええ、詠唱する魔法はことごとく妨害されます。殿下、無詠唱で明かりの魔法を使っていただけますか?」

 いぶかしそうなティアナであったが指先に明かりの魔法をともして自分が自分の指先を見て驚いている。

 
 あ、なんか面白い、えっ、えっ?とか言いながら指先とこちらを交互に見比べてる。


 「殿下、無詠唱魔法を使える者には腕輪の効果が無いようです。これはエルハイミちゃんも同じで大きな問題となります。どうか他言無用でお願いします。万が一の時の切り札になりますゆえ」

 お、アンナさんがまじめな真剣モードだ。
 確かに何かあったらこれはすごく有利な話になる。
 学園内は安全とは言え絶対ではない。
 隠し玉としては大きなアドバンテージになる。

 「わかったわ、アンナ。この事は私たちだけの秘密ね」

 「御意」

 そうかしこまったアンナさんに俺は では、と言ってとっておきを取り出す。

 「実は秘伝のスイーツが有るのですわ。ちょうどここには私たちだけ、引っ越し祝いと行きません事?」

 そう、うちの料理人が丹精込めて作った秘伝のチョコレートが有るのだよ!
 実家の料理人はなかなかの腕前であったが特にお菓子作りは一級品で、ティアナが滞在していたころのマカロンは彼女が作ったもの。
 美味しいものばかり食っていたはずのティアナも実家のお菓子だけは格別だって言ってたもんな。
 二人の黄色い歓声が上がる。

 そして三人でこの秘伝のチョコレートをキャッキャ、うふふっ♪しながら堪能したのであった。


 ‥‥‥あ、サージ君の分無くなっちゃった。
   
 
 
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