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第二章

2-15王都出発その1

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2-15王都出発その1
 

 なんやかんやで王都についた。

 早速謁見の間で国王に挨拶をする。
 既に謁見の間にはティアナ含め今回の護衛兼ご学友の三人の姿もある。

 俺は三人に挨拶を交わしていく。

 「お初にお目にかかりますわ、ハミルトン家が長女、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンと申します。どうぞよろしくお願いいたしますわ」

 「アンナ=ドーズと申します。エルハイミ殿、こちらこそよろしくお願いいたしますわ」
 
 ややおっとりした感じの美人のお姉さん、アンナさんが宮廷式の挨拶をしてくる。
 

 「ロクドナル=ボナーと申します。レディー、噂はかねがね聞いておりますよ」
 
 そう言って俺の手を取ってキスをしてくるこの青年は騎士団長の息子だ。


 「エルハイミ様、サージ=ディープと申します。皆様のお手伝いをするよう仰せつかっております。どうぞごひいきに」

 最後にティアナよりちょっと年上のお兄さん的なサージ君。流石ヨハンさんの息子、若いのに隙が無い。


 「ティアナ、そしてエルハイミよ、そなたたちに神の加護あれ! 出発は明後日とする、今宵は宴を催すので十分に英気を養うがよかろう。若き魔導士たちに幸あれ!」

 国王エドワードの宣言にて出発は明後日となった。

 今晩は猫かぶりのティアナと三人のご学友と親睦を深めなければならない。
 まあ、久々に宮廷の珍しい食事もできるからいいか。

 俺とパパンは国王たちに挨拶をしてから退席した。




 さて、宴が始まったわけだが今回は以前より小規模なのでうっとうしい連中はほぼいない。
 俺に取り入ろうとか売り込もうとか言うのがいないだけでもこうも違うものなのか。


 俺は宴が始まってから早速猫かぶりのティアナに会いに行った。
 
 「ティアナ殿下、ご機嫌麗しゅう。お変わりありません事?」

 「あら、エルハイミ殿、ご機嫌麗しゅう。ええ、元気にやっていますわ。私もあれからだいぶ火炎系の魔術を取得いたしましてよ」

 にっこりとティアナは笑う。その顔にはどや顔が張り付いている。こりゃあ火炎系の中級くらいは取得したな?

 「流石ティアナ殿下ですわ、今度ぜひ見せていただけないでしょうかしら?」

 淑女を装いながら軽く手を口に当ておほほと笑いながら聞いてみる。

 「ええ、勿論よろしくてよ、是非エルハイミ殿にも見ていただきたい魔法がありますの!」

 ちょっと興奮気味だなティアナ、なんかすごい魔術覚えたのかな?

 そんな談話をしていると魔法使いの杖を持った女性が近づいてきた。

 「ティアナ殿下、エルハイミ殿、こちらにおられましたか」

 見るとアンナさんがにっこりとほほ笑んできた。
 俺とティアナは軽く挨拶をしてグラスをアンナさんにも渡して三人で杯を交わし軽く飲み物を喉に流し込む。

 「エルハイミ殿はティアナ殿下同様に無詠唱で魔法を使えるとか、お二人とも一体どのようにして無詠唱魔法ができるようになったのかかねがね気になっておりましたの」

 流石宮廷魔術師の孫、魔道にかかわることは最優先で気になるのだろう。
 ストレートに一番疑問に思っていたことを聞いてきた。

 「アンナ殿、その件につきましては後でゆっくりとお話ししましょう」

 俺が口を開く前にティアナが答えた。
 まあ、口で言ってもなかなか理解できないだろうし、宴の場でそうそう魔法を使うわけにもいかないもんな。

 「ティアナ殿下、失礼いたしました。つい無詠唱魔法を扱えるお二人が近くにいたもので興奮してしまいましたわ」

 アンナさんはティアナに向かって頭を下げ謝罪した。

 「いえ、アンナ殿かまいません。それより今宵は宴を楽しみましょう、折角の珍しい料理もありますし」

 そう言って中央にある料理を指さす。
 すると爽快な笑い声とともに一人の青年が近づいてきた。

 「ティアナ殿下、エルハイミ殿、アンナ殿こちらにおられましたか。いやはや、今宵の宴はかくも豪勢ですな。獅子牛の丸焼きまでありますぞ!」

 既に自分の皿に山盛りに肉を確保しているロクドナルさんが旨そうに肉にかぶりついている。


 あ、あれは確かに旨そうだな、あとでもらってこよう。


 「ロクドナル殿は相変わらず豪快であらさられる。宴を堪能しているご様子で何よりですわ」

 一瞬眉にしわを寄せたティアナだが、すぐに平静を装いグラスを傾ける。
 そんなティアナを気にした風もなく、ロクドナルさんはモリモリと肉を食っている。

 「まあ、そう邪険にしてくださいますな、ティアナ殿下。今後ご学友と言う事で御身はこの私めが必ずお守りいたしますゆえ」

 爽快ともいえる笑顔でこの青年は肉を食い続ける。
 ティアナは軽いため息をついて以降もよろしくお願いしますわと言って料理を取りに行くので失礼と言って俺の手を引っ張っていった。
 
 「よろしいのですの? 殿下?」

 「ええ、かまいません。ロクドナル殿とは昔からの付き合いですので」

 うーん、幼馴染か何かか。
 確かに少し暑っ苦しい感じあるもんなぁ~
 ま、いいや、それより俺もあの肉食いたいもんな。
 俺はティアナに連れ添って料理を堪能しに行った。




 翌日、宴も終わり少々遅めの朝食をパパンと取っているとなんとアンナさんが訪ねてきた。
 アンナさんはパパンに挨拶してから俺にいろいろと話しかけてきた。

 「エルハイミ殿、昨日は殿下の面前で失礼いたしましたわ。もっといろいろとお話をしたかったのに悪い雰囲気にしてしまって」

 「いえ、そのようなことはございませんわ、アンナ様」

 「ふふ、アンナでかまいませんわ。その代わり私もエルハイミちゃんって呼ばせてもらってよろしい?」

 「もちろんかまいませんわ、でもそうするとせめて年長者への敬意を込めてアンナさんと呼ばせていただけますかしら?」

 「ふふ、エルハイミちゃんはしっかり者さんですね。ありがとう、そう呼んでもらってかまいませんわ。ところで、出発前の忙しい時にごめんなさい。やはり私どうしても無詠唱について気になって気になって」


 やっぱりそうか。
 流石にティアナにはあれこれ聞けないだろうからな。
 留学すればしたでティアナの護衛が待っているし、なかなかすぐには時間が取れないだろう。
 そうすると合い間の今のタイミングは悪くない。


 「そうですわね、私が無詠唱を使えるようになったきっかけは呪文を覚えようとして頭の中で何度も何度も反復して呪文を唱えたときでしたわ」

 「頭の中で?」

 「ええ、声には出さず頭の中でだけ呪文を反復しましたのよ。そうしたら手のひらに魔力が流れる感覚が有って水球が現れましたのよ」

 「つまり、詠唱は声を出さないで頭の中でしたと言う事かしら?」

 「そうなりますわね。もっとも、今も頭の中で詠唱しても何も起こりませんわ、こう、魔力を流すイメージでしないと」

 そう言って俺は空いてたカップに水球を出現させ入れた。
 目の前で無詠唱を見たアンナさんは目を輝かせそれを見入る。

 「まあ、本当に無詠唱で魔術が!」

 「私見ですが、力ある言葉は声に出さずとも頭の中で詠唱しても具現化するのではと思っておりますわ。もちろん、意識の集中と魔力の集約も必要となると思いますわ」

 「そんな、声に出さずとも女神様の奇跡の御業が発動すると言う事ですか‥‥‥」


 ん?
 なんなんだろう、この違和感?

 
 「呪文とは女神様が人間にもたらした神の御業の秘密の一部。それが言霊となり魔力を糧に奇跡を起こすはず。しかしその言霊に頼らずとも意識の中で呪文詠唱をして魔力を集約すると奇跡が起こる‥‥‥ もしこの仮定が事実とすれば大発見ですわ!」


 ‥‥‥えーと、つまり宗教的に女神様崇拝してたんで誰もその原理について思考したことが無かったって事か?
 うあー、納得。家の書庫で見た『魔法原理解析』がやたらと宗教っぽい感じだったのはこれが原因か!?


 「すみません、アンナさん。女神様を軽んじているわけではございませんわ。ただ、魔術の練習をする中で女神様の御心を感じたので頭の中で女神様の奇跡を詠唱したのですわ」

 一応保険をかけておく。
 信仰心は時に人の心を誤解に導くこともあるからな。

 「ふふ、エルハイミちゃんが女神様を軽んじているなんて思っていませんわ。ただ、力あるお言葉は言霊でもなく扱えるという事実はきっとエルハイミちゃんが女神様を深く信仰している証でしょう」


 お、上手く勘違いしてくれたみたいだ、良かった。


 「しかし、そうすると私にもそう言った無詠唱ができる可能性が出てきましたね。これは一層の研究対象としていろいろ試さねばなりませんね」


 あ、なんかぶつぶつとはじまった。
 おっとりした感じでも自分の興味のあることはとことんのめりこむタイプだな。
   

 「あの、アンナさん?」

 「あ、ごめんなさいエルハイミちゃん。私、考え事始めると自分の世界に入っちゃう悪い癖が有るのよ。ごめんなさいね。でも、エルハイミちゃんと話せてよかった。何かいろいろと分かったような気もするわ。忙しい中ありがとうね。それじゃ、私、用事が出来たのでおいとまさせていただきますわ。また明日」

 そう言ってアンナさんはそそくさと退席していった。


 俺は少々あっけにとられているパパンと顔を見合わせた。


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