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第二章

2-13きょうだい

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2-13きょうだい


 あれから半年近くが経った。

 留学の準備は着々と進み、あとひと月後には留学となる。
 その間、ジーナさんのシゴキはいつにもましてハードとなったが、ボヘーミャの留学は魔術師にとっては非常に有意義であり、ジーナさんの教えきれないあまたの魔法が学べるチャンスは有効に使うべきだと言われた。

 「では、エルハイミ様ここまでで終わりです。現在の私の教えられる魔術はほとんど教えました。もちろん魔術だけ出来てもいけませんが、他に学ぶことはあちらに行って徐々に学べばよろしいでしょう」

 ぱたんと魔術書を閉じてメガネのずれを直す。

 「正直、エルハイミ様は優秀な教え子でありました。作法はもちろんですが私がボヘーミャで学んだ魔術のほとんどを吸収されてしまった。そのお年で中級魔術全般を使えるのは脅威ですよ。私もそのような方にご指導させていただけてとても光栄でした。あちらでもしっかりおやりなさい。それと、これをあなたへ」

 そう言ってジーナさんは俺にスティックを渡してきた。
 
 「あなたは無詠唱の魔法が使えるので、増幅器である魔法の杖は不要かもしれません。しかし中級魔術が使える立派な魔術師です。ささやかながらこの魔法の杖を餞別としてお渡しします。これは私が冒険者の時代に『空から落ちた王宮』のダンジョンで見つけたかなり強力なマジックアイテムです」


 へっ?
 ジーナさんって冒険者やってたの!?
 しかも「空から落ちた王宮」のダンジョンに潜ったって!?


 「ジーナ、そのような大切なものをいただくわけにはいきませんわ」

 「いえ、受け取ってください。魔術師は必ず自分の杖を持つものです。そしてその杖はエルハイミ様ならきっと使いこなせるでしょう。正直、私にはその杖は扱いきれませんでした」

 ジーナさんは軽く苦笑しながら言った。
 そこまで言われると受け取らないわけにはいかない。

 「わかりましたわ、ありがたく頂戴いたしますわ。ジーナ、今までいろいろとありがとう」


 俺は深々と頭を下げる。

 実際ジーナさんにはいろいろ教えられた。
 教育係以上のいろいろなことも教えてもらった。

 そんな思いが巡って俺はジーナさんに抱き着いて泣いてしまった。
 俺はこういうのに涙もろい、いい年したおっさんだけど今は少女だ、。
 ジーナさんは泣きついている俺の頭をやさしくなでる。

 「エルハイミ様、あなたはまだまだ成長できます。あなたは非常に賢い。魔術はあなたの人生の手助けになります。どうぞあちらでも頑張ってください。そうすればまた会える日も来るでしょう」


 そう言って泣いてる俺を引きはがし、そっとハンカチで涙をぬぐってくれた。

 「さあ、せっかくのかわいい顔が台無しになってしまいます。淑女たるもの、常に整然となさい」

 そう言ったジーナさんの目じりにもほんの僅かに光るものがあった。



 翌日ジーナさんは別の仕事があると言う事で屋敷を出ていった。
 俺はあの杖を握りしめずっと彼女の姿が見えなくなるまで見送った。




 そんな事が有った二日後、いきなりママンが産気づいた。
 
 それはそれは屋敷中大騒ぎだ。
 助産婦経験のあるメイドを中心にやれお湯を持って来いだの、やれシーツを持って来いだのうろうろするパパンは邪魔だから男連中は向こうの部屋で待ってろだのそれこそ蜂の巣をつつく勢いだ。
 そんな大騒ぎが約半日過ぎた頃、向こうの部屋から赤ん坊の泣き声がした。

 控室で待っているパパンをはじめ爺様や俺も浮足立つ。
 いよいよ生まれたか!
 と思ったら泣き声が二つになった。

 
 ん?
 泣き声が二つって‥‥‥
 えーっ!?
 もしかして双子!?


 俺たちは顔を見合わせてからママンの所へ急ぐ。
 
 まだ額に汗を浮かべたママンが嬉しそうに横たわっている。
 そして助産婦経験のある年配のメイドがパパンに生まれたばかりの子供を見せる。

 「おめでとうございます、ご主人様。元気な双子の男の子です」

 それを聞いたパパンと爺様は大喜びだ。

 パパンはママンのそばに行き労いの言葉をかけながら額にキスをした。
 爺様は早速双子の顔を覗き込んでいてうれしそうにしている。

 俺も双子の弟を見せてもらう。
 可愛らしいそれは、父親譲りの赤茶色の髪の色をしていた。
 
 うあー、かわいい。
 前世でも弟がいたが、今回は双子だ。
 しかもハミルトン家の跡取りだからこの子たちもきっと英才教育で育っていくだろう。
 


 二人の赤子はすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていた。

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