上 下
11 / 610
第二章

2-5魔法対決

しおりを挟む
2-5魔法対決


 宴はまさに盛り上がりの最高潮であった。


 いつもより豪華な食事、皆を楽しませるために呼んだ道化師や舞子たち。
 とりあえずはここまでは普通に宴を楽しんでいる。
 

 ‥‥‥あの、ティアナ殿下なんでずっと俺の横にくっついてるの?

 隙あらばさらに俺に取り入ろうとする少年少女をその雰囲気だけではねのけ、大人たちの訪来もうまくかわして俺を連れまわす。
 まあ、面倒なことが少なくなるので助かるが。


 「ねえ、エルハイミ。あなた魔術の才能があるって聞いたけど本当?」

 「ティアナ、私のできる魔術なんて大したものは無いですわ。そんなにすごい事が出来る訳じゃ無いですわ。」
 
 一応謙遜しておくが、やっぱ気になるんだね~

 「そんなはずないわ! だってあなたは中級以上の水性魔法が使えるって聞いたもの!」

 うあー、あの水浸しの件が知れ渡ってるのか。
 まあ、いいや。

 「ジーナにいろいろ教えていただいてるので、広く浅くですけどね」

 そう言ってにこりと微笑む。
 ティアナ殿下は納得のいかない顔をして俺の手を引っ張ってバルコニーに連れ出した。

 「ねぇねぇ、ここで水性魔法、そうね水生成魔法をここでやって見せてよ!」

 何を思ったかティアナ殿下、いきなり魔法を見せろと。

 「ええと、こんな感じで良いのでよろしいのかしら?」

 そう言って俺は無詠唱で右の指先に水の玉を作り出した。

 「え? もうできたの!? いつ呪文を唱えたのよ!?」

 そりゃぁ、いきなり人差し指の前にぷくぷくと水球ができれば誰でも驚くだろう。
 まあ、無詠唱でこういうことできるのよ~アピールなんだけどね。

 「ええと、簡単な呪文は頭の中で唱えて魔力を集中すると出来るみたいですわ」

 「ウソ! 女神さまの言葉使わないでそんなことできるはずない! 何か他の方法があるんでしょう?」

 俺は苦笑をしてからこう言った。

 「では、ティアナ、貴女(あなた)が私の言う通りに水の生成魔法をやってみません事?」

 ティアナはうぅ~っと唸ってから、「分かったわ」と言った。

 「それでは目を閉じて手のひらに水生成魔法をするときのイメージをいたしますわ。まずは口に呪文を出さずに頭の中でだけ呪文を唱えてみてくださいまし。そして手のひらに水球を作るイメージをしてくださいましな。」

 ティアナは言われた通りに目を閉じ黙り込む。
 頭の中で呪文を唱え、手のひらに水の玉を出すイメージをする。
 
 すると、手のひらに血液が流れて集まっていくような感じがして、それを水の玉だとイメージする。
 それはティアナが魔法を使うときと同じような感覚であった。
 そしておそるおそる目を開けると、ティアナの手のひらの上に水球が浮かんでいた。

 「うあ! 本当にできた! なにこれ! すごい!」

 純粋に大喜びしている。

 「エルハイミ、あたしにもできた!もしかして他の魔法も同じにできるの!?」

 彼女は大はしゃぎでもう一度、今度は指先に水生成魔法を発動させる。
 
 「そうですね、ティアナ、私も簡単なものならできましたわ。多分もっと練習をすればいろいろできると思いますわ」

 にこやかにそう言って、俺は今度は明かりの呪文を指先に出す。
 一瞬にしてその明かりを消したが、ティアナはそれを見て自分も同じようにやってみる。

 しかし、今度は上手く行かず、もう一度目をつむり集中する。
 すると先ほどの水生成魔法と同じく指先に光の玉が出現する。

 「やった! できた!」

 「お上手ですわ。ティアナ」

 上機嫌のティアナ。
 これで魔術の才能は非常に高いお姫様の出来上がりである。

 無詠唱で俺だけ魔法を使ったらこの後の孫娘対決、魔法編でティアナ殿下が恥をかく。
 上手く俺の方がちょっとだけ魔法が上手いくらいにしておかないと後が面倒そうだ。


 そんな訳で即席の秘密レッスン終了。

 
 「ティアナよ、どこじゃ?」

 お忍びの国王陛下から孫娘を探す声が響き渡る。
 見ると酔っ払って既にほほが赤くなった陛下とうちの爺様が怪しい笑いをしている。

 「エルハイミよ、こんなところにおったか、おおティアナ殿も一緒か」

 爺様と陛下はこちらに怪しい笑みを浮かべたまま寄ってくる。
 しかしその目は互いに火花を散らしている。


 うえー、やっぱり魔法対決やらなきゃか。
 おれは笑顔を張り付かせたまま頬に一筋の汗を流した。


 めんどくせぇ~。


 「ちょうどいい所におったの、聞けばティアナ殿は随分と魔法にたけておるそうではないか。是非ともそのお手並みを拝見させてもらえんじゃろうか?」

 うあー、ストレートに来たよ、うちの爺様。

 「あら、大叔父様そんなに私の魔法が見たい? いいわ見せてあげる。光よ!」

 そう言ってティアナはいきなり手のひらに光の玉を出現させた。


 会場が一気にどよめく。


 「な、詠唱短縮じゃと!?」

 うちの爺様が驚く。

 「ティアナ、いつの間に!?」

 もちろん陛下も驚く。

 「まだあるわよ、ほら!」

 次いでティアナは指先に水球を生み出す。
 ちょっと教えただけで安定して直ぐに出来るようになるとは、かなりセンスがいいんじゃないか?
 更に今度は無詠唱だったこともあり会場がさらにどよめく。

 「む、無詠唱で魔法を使った!?」
 
 「あんなにお小さいのに!?」

 「すごいぞ! これは宮廷魔術師に匹敵するんじゃないか!?」

 ところどころで大騒ぎが始まる。
 無詠唱魔法ってそこまですごかったのか?
 
 「な、なんという事じゃ、ティアナ殿は無詠唱魔術まで使えるというのか!?」

 うちの爺様が驚愕の声を上げる。
 横にいる陛下もあごに手を当てながら見入ってる。 
 
 「うむ、儂も知らんかったが、ティアナよおぬしいつの間に無詠唱魔術まで使えるようになったのじゃ?」

 「ふふっ、内緒ですよ、お爺様!」

 上機嫌のティアナ殿下。
 まあ、これだけ周りを驚かせればそうなるだろう。

 「うーむ、これはすごいの、これでは流石にエルハイミもかなわんかのぉ‥‥‥」

 少しがっかり気味の爺様に俺はこっそり声をかける。

 「おじい様、あれができればいいのですの?」

 爺様はこちらを見て、怪訝そうな顔をした。

 「エルハイミよ、流石に無詠唱魔法はお前でも無理じゃよ。百万人に一人と言われる才能がないと出来んのじゃよ」

 そう言って爺様は溜息をついた。

 「あら、こうでよろしいのですわよね?」

 そう言って俺は手のひらに光の玉を二個同時に出現させる。
 それを見た会場はまたまた大騒ぎになった。
 
 「なぁ、なんじゃと!? エルハイミ! おぬしも無詠唱魔法が使えたのか!?」

 爺様びっくりして開いた口が閉じないよ。
 陛下も驚きのあまり杯落としちゃった。

 「何と言うことじゃ、無詠唱魔法が使えるものが二人もいるのか!?」


 あれ?
 陛下、なんか驚き越して考えこんじゃったよ?
 なんかやばいことしたかな?


 「うむ、これは由々しき事態じゃ。イーガルよすまんが儂は先に戻らせてもらうぞ」

 「わかった。エドワードよ、ティアナ殿はどうする?」

 「すまぬがこちらで面倒見てやってくれ、いずれまた会う事となるじゃろう。ティアナよ、しばらくイーガルの所で待っていてくれ。後で迎えを出す」

 そう言って陛下は俺の手を取り口づけをした。

 「エルハイミよ、すまぬが今日はこれで戻ることとする。また近いうちに会う事となるじゃろう。それまで元気でな」

 陛下はその後すぐに退出していった。
 なんだろね、急に?

 「エルハイミ! やったわ! しばらくここにいられそう! ねね、さっきの続き教えてね!」


 ざわめく会場の中でティアナ殿下だけは元気に嬉しそうだった。
 俺はなんとな~く嫌な予感がしてた。



 はあ、この後どうなるのだろう?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

処理中です...