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―― どんぐり(ちっぱい)の背比べ♡ ――
しおりを挟むここは異世界、剣と魔法が有る世界。
北の大地ノージム大陸最大の国、ホリゾン公国の首都エリモアのとある安酒場である。
「大体にしてね、このノージムはもともと寒い地域だから食べ物が乏しいし、体熱上げる為にいっつもカロリー使うんだよ!!」
だんっ!
銀色の短髪に真っ白な肌、皮の鎧を着込んで勝気な美少女のノーシー十七歳は一気にあおったジョッキをテーブルにたたきつけた。
「まあ、そうなんだけどね~。でも貴族様なんかは違うんだよねぇ~」
ホワンとした感じの栗色の髪の毛を少しカールさせ、魔導士姿のおっとり系の美少女、モール十八歳は同じくジョッキをテーブルに置きながらそう言う。
「とは言え、この国の女はもともと小さい傾向だから、仕方ないよ‥‥‥」
バンダナを頭に巻き付け、青の長い髪を三つ編みにして首に巻き付けるようにしている小柄な可愛らしい少女、リナー十六歳は自分の商売道具であるシーフ(盗賊)の道具を磨いている。
「はぁ、女神様のご加護が欲しいですね‥‥‥」
最後に言葉を発したのは金髪で濃い緑色の目をした神官服に身を包んだマリーヌ十八歳。
美しく信仰深くいつも皆をやさしく迎えるその所業は陰では「聖女」と呼ばれている。
四人の少女たちは言いたい事を言ってから杯をテーブルに置き一斉にため息をつく。
「「「「はぁあぁぁぁぁぁ~‥‥‥」」」」
彼女たちはこのエリモアでも結構有名な冒険者パーティー、「白銀の平原」と言われている。
実際は彼女たち自身は「白銀の風」と名乗っているのだが誰もそう呼ぼうとはしない。
そして女性だけの珍しいパーティーだと言うのに他の男の冒険者からあまり声を掛けてもらえない。
「ちっくしょう、『はぜる女狐』たちめ‥‥‥」
「うらやましいぃ~」
「はぁ‥‥‥」
「で、でも、女神様はきっと私たちにも祝福をしてくれるわ!!」
彼女たちはそう言いながら相手の胸を見る。
そして自分の胸も。
ここホリゾン公国は昔から極寒の地と言う事も有り食料があまり豊富ではない。
結果、栄養事情があまり良く無く国民の女性たちはスレンダーな体系の娘が多い。
まあ、それでも貴族の中にはその地位により豊満な物をお持ちの方もいるが、この国ではおおよそ平均的には現代日本でいう「A」という言葉で言い表せるだろう。
「あいつら一体どうやってこの二年であんなになったんだ?」
「ああ、『はぜる女狐』のあれね?」
「噂ではここ数年で出来たウェージム大陸から来た『銭湯』とか言うのに行き始めたから女子力がアップしたって聞いた‥‥‥」
「え、え? じょ、女子力アップですか!?」
リナーのその言葉に全員が注目する。
西の大陸ウェージム大陸は世界最大の大陸で、肥大な土地が有り農業も酪農も盛んな場所だ。
おかげで栄養豊かなこの大陸は女性も豊かな物をお持ちな方が多い。
「ウェージム大陸か‥‥‥ なるほど、あそこの物なら有り得るな。で、その『銭湯』って何なんだい?」
ノーシーは追加注文したお酒が届きそれを飲みながらリナーに聞く。
するとリナーは上目遣いで顎に指を当て思い出すかのようにぽつりぽつりと言い始める。
「確か、湯浴みをする場所だって聞いた。それ以外にも美容に関する施設もあって、マッサージとかもするみたい‥‥‥ 噂では『育乳の女神様』式マッサージだとか‥‥‥」
「『育乳の女神』様ですって!?」
「それ本当なの? 伝説ではあの女神様って、もと人間の時代から周りの女の子どころか機械人形、果ては東の国の王様の胸まで大きくしたっていう伝説の「育乳の魔女」よね!?」
リナーのその言葉にマリーヌもモールも飛びつく。
「これは本当かもしれないな、『はぜる女狐』たち女性だけのパーティーが全員寿引退したのはあのでかくなった胸のお陰だよな? なあ、今からその『銭湯』ってのに行って見ないか?」
ノーシーのその言葉に他の三人は顔を見合わせてから大きくうなずくのだった。
* * * * *
「は、裸になるのか?」
「決まりらしいわね、仕方ない」
「ううぅ、何か女どうしでも恥ずかしい‥‥‥」
「しかし湯浴みと言っても本当にあの大きな湯船に入れるなんて贅沢ですね?」
銭湯に行くと男湯、女湯と言うモノに分かれた入り口を入るとすぐそばに高い台が有ってそこにおばちゃんが座っていた。
他の客はそこで代金を支払って脱衣場に進んでいるのでノーシーたちもまずは代金を支払う。
「おや? 嬢ちゃんたちは初顔だね? 体を洗う香油や髪の毛を洗う薬草水、体を拭くタオルは持っているかい?」
「え、そんなのが必要なんですか?」
マリーヌがそう聞き返す。
するとそのおばちゃんは笑って袋を取り出す。
「それら全部入ったセットのこれなら今なら銅貨五枚だよ? どうするね、脱衣場の床を水でびちゃびちゃにされると困るんだけどね?」
四人は顔を見合わせてから頷き全員がそのセットを購入する。
そして脱衣場に行き冒頭の言葉である。
「湯浴みっていうから湯気の中にタオル巻いて入るあれかと思った」
「まあ、それでもお湯に入れるなんて贅沢ですからこれはこれで良いかもしれませんね。銀貨一枚ってちょっと高いかと思いましたけどこれなら納得です」
ノーシーとマリーヌはそう言いながら服を脱ぐが、胸当てを脱ごうとしてピタッと止まる。
そしてお互いの胸を見る。
どちらと無く乾いた笑いをするも、先に全部脱いだリナーに言われる。
「どうせ似たようなものなのだから見られたって同じ‥‥‥」
リナーを見るとモールと一緒に既に素っ裸でいる。
そして二人とも平原を思わせる凹凸の少なさ。
ノーシーとマリーヌはお互いにため息を吐いてから胸当てを外して同じく素っ裸になって浴室へと向かうのだった。
* * *
そこは湯煙が立ち込める温かい場所だった。
四人は並んでその様子を見るが、何故か濃い湯気が立ち込め重要な場所は絶対に見えない。
いや、先端だけは隠しているとかお尻の丸い影は分かるようにはなっている様だ。
だがその胸元の平原は四人とも似たか寄ったかで「揺れる」事は決してない様だ。
いくら湯気が薄くなっても動いても変わりは無いようだった。
「凄いね、本当に湯船にあんなにお湯が張ってある。あ、あの人あそこでお湯をあんなにバシャバシャとかけている? なんて贅沢な!!」
モールはそう言い手桶が置かれているお湯がどんどん流れ出る小さな湯溜めを見る。
するとその上には何やら書かれた石板が有る。
「なになに、『湯船に入る前に必ず五回はかけ湯をしてください。みんなでマナーを守り楽しい湯浴みをお楽しみください』だって? へぇ、このお湯ってそう言うお湯なんだ」
いいながら、モールは手桶でお湯をかぶり始める。
ざばぁ~。
モールの体にかけられたお湯はするりと胸下を流れ落ちる。
先端に水滴すら残らずするりと‥‥‥
ちなみにどんなにかけ湯をしても何故か湯気が大事な部分はしっかりと邪魔をしていて我々には見る事は出来ない。
それは他の三人、ノーシーもリナーもマリーヌも同じだった。
そしてかけ湯をしてから四人はとうとう湯船に入ろうとする。
しかしここにも同じく石板に「タオルは入れるな」とか「遊泳禁止」とか「他のお客様に迷惑な行為は禁止」とかいろいろ書かれている。
まあ、常識の範疇であれば問題は無い事ばかりだが。
ざばぁ~
「はぁああぁぁぁぁぁぁ~、なにこれ気持ちいぃ~」
「ほんと、お湯につかるのってこんなに気持ちいいんだ~」
「うん、気持ちいぃ‥‥‥」
「なんという贅沢。女神様感謝いたします」
四人はゆったりと湯船につかる。
北の大地では湯船に体を浸すと言う習慣自体が無く、せいぜいシャワーのように体を洗うくらいだ。
しかも燃料がもったいないので使えるお湯も限られている。
「しっかし、この『銭湯』ってのは凄いな、銀貨一枚でもたまには来たくなるねぇ」
ノーシーがそう言うとモールはじっとノーシーを見つめている。
そしてふとノーシーの胸を突く。
「うわっ! 何するんだ!?」
「い、いえね、なんかノーシーのおっぱいがお湯に浮いているように見えて‥‥‥」
「えっ!?」
「まさかもう女神様のご利益が!? で、でもまだマッサージも何もしていないのに?」
リナーもマリーヌも驚きノーシーの胸を見る。
ぱっと見はみんな同じくらいの大きさにしか見えない。
「ま、まあこの中ではあたしが一番かな?」
「ぐっ! まさかノーシーに抜け駆けされるとは!」
「うぅ~、でも確かになんかお湯の中で浮いているように見えるかも‥‥‥」
「そんな、年下に負けるなんて! ああ、女神様私にもお慈悲を!」
しかし最初にそれに気づいたモールは魔導士らしくよくよくそれを観察してふっと笑う。
「違うわね、それは胸筋が鍛えられた結果ね? 浮いているように見えたのは腕を動かした時に胸の筋肉が動いてそう見えただけね。だから乳房自体はそれ程では無いのよ!」
「な、なるほど、ノーシーは剣士、筋肉が一番つくもんね!」
「ああ、そうう事ですか。やはり年下には負けられませんものね」
「くっ!、そう言うモールだって胸がでかくなったんじゃなくて太ったから胸が少し大きく見えるだけだろ!」
ノーシーが反撃に出る。
「なっ!」
「そう言えばモールは『頭を使うと糖分が必要』とか言って甘いものたくさん食べてた‥‥‥」
「ああ、そう言えば私のおやつも勝手に食べてましたよね?」
「な、何よ! そう言うリナーだって体が小さいからってその比率で言えば自分の胸はちょうどいいとか言ってるけど結局は小さいって事じゃない!」
モールも反撃に出た。
「はぅっ!」
リナーは「どすっ!」と見えない言葉の槍が胸に突き刺さるのを感じた。
そして震えながらマリーヌを見て言う。
「そ、それを言うならマリーヌは背も大きいからって胸も大きいわけじゃなく、逆にその背丈で言えばそれだけの大きさって事‥‥‥ 比率で言えば私と同じ‥‥‥」
「ぐっ! か、神よっ!!」
マリーヌは自分の胸を押さえ思わずうめく。
そして四人でしばし睨み合い同時に大きなため息を吐く。
「「「「はぁああぁぁぁぁぁぁ~」」」」
「やめやめ、こんな所で争っても意味がない」
「ま、まあこんな事しているより『はぜる女狐』たちの秘密を探した方が建設的ね」
「同感‥‥‥」
「でもここが『育乳の女神様』式マッサージとかが有ると言うのならば‥‥‥」
最後にマリーナが言ったその言葉にみんな ぴくんっ! とする。
そして魔術師であるモールは言う。
「伝説通りなら確実に効果が有りそうね。女神様は元人間の魔導士。でもその人間の時代にも数々の伝説を残している、そう『育乳の魔女』として!」
おおぉ~!
「育乳の女神」、そして「育乳の魔女」などと呼ばれた現在の女神に由来する物、もうそれだけでもそのマッサージとやらを受ける必需性は十分にあった。
「か、体も温まったからあたしはそのマッサージとやらを受けに行くよ!」
「なっ、ノーシー年下の癖に抜け駆けはずるい! 私もっ!!」
「一番年下の私が一番可能性が残っている‥‥‥」
「女神様を信仰する気持ちはだれにも負けません! きっと私にも女神様は御慈悲を授けてくれるはず!!
ざばざばざばぁ~!
四人は一斉に湯船から出て水滴を奇麗につるりとその胸元から流し落とす。
水滴が引っかかる程の凹凸が無いからだ。
そして浴室の向こうにある扉に急いで駆け込む。
「ほらそこの娘たち! 浴室は走っちゃだめだよ!!」
交代で浴室の整理をしているおばちゃんに怒られびくんとしていそいそと四人は歩きでその扉に急ぐ。
「ぐふふふふっ! これであたしだって!」
「そうよ、せめて揺れるくらいには!!」
「まだ成長期。十分希望が持てる‥‥‥」
「女神様、私にも愛の手を!!」
こうして四人は「育乳の女神式マッサージルーム」という場所に意気揚々と駆け込むのだった。
* * * * *
「んはぁっ! ら、らめぇえええええぇぇぇぇぇっ!!」
「はうぅ、わ、私もう、もうぅぅううううぅぅぅっ!!」
「くぅん、だ、ダメぇ‥‥‥そ、そんな事ぉ‥‥‥ あ、ぁあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「はうんっ! こ、こんなぁっ! ああ、女神様ぁ、お許しをぉっ、はうぅうううううぅぅぅんっ!!」
びくんびくんびくんっ × 四!!
何やらマッサージを受けて四人とも身体的心拍数が上がり体温も呼吸も上がっているようであった。
一体どんなマッサージかはご想像にお任せするが、マッサージ師は全て女性であることはお伝えしよう。
四人は脚をプルプルしながら赤い顔で上気した表情のままふらふらとマッサージルームから出てきた。
「くうぅう、まさか『育乳の女神式マッサージ』がこんなにすごいとは‥‥‥」
「え、ええ、不覚にも//////」
「凄かった‥‥‥初めて‥‥‥////」
「はぁはぁ、こ、こんな事‥‥‥ ああ、女神様、淫らな私をお許しください!!」
本当にどんなマッサージか気になるが、そんな事よりノーシーは自分の胸を見下ろす。
「まだ少しジンジンするけど、なんか少し大きくなったような気がするな?」
「なっ! わ、私だってそうよ!!」
「一番効果あるのは成長期の私‥‥‥」
「女神様の御慈悲のマッサージ、私にだってご利益が有ります!!」
そう言って四人はまた睨み合う。
そして私の方が、いやあたしの方がといがみ合いを始める。
湯気が邪魔でその効果とやらが良く見えないが、できれば確認させてもらいたいものだ。
「おや? あんたらマッサージを受けたのかい? あれ好いだろ? あたしもこの年であれには世話になったからねぇ」
かけられた声の方を見れば番頭にいたおばちゃんだった。
どうやら仕事も終わり交代の為ひとっ風呂浴びに来たようだ。
ぼよん
「お、おかみ‥‥‥ そ、それは‥‥‥」
ノーシーは多分四人が思った事を代表で聞く。
するとおかみは自分の胸を見てカラカラと笑いながら言う。
「ああ、あたしゃ着痩せするからね。でもあのマッサージのお陰でこの通りさね」
そこまで聞いた四人は顔を見合わせもう一度「育乳の女神式マッサージ」の部屋に我先と向かうのだった。
「まいど~、でも危ないから走らないでおくれね~」
女将のニヤリとする笑いにキャーキャー騒ぐ少女たちの声が賑やかにこだまする。
ここホリゾン公国が首都エリモアの銭湯はしばらく彼女たちによって賑やかになる事だろう。
―― おしまい ――
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