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しおりを挟む次に俺が気がついたのは、ふかふかのベッドの上でした。
夢かと思いたかったが、慣れ親しんだ自室のベッドではない。キングサイズとはこのくらいなのだろうか?というようなサイズの、豪華なベッドに寝かせられていた。
「ここは.......一体.......」
どこなんだ。と、言い切る前に部屋のドアが開いた。
「あぁ、気がついたか。迎えにいくのが遅くなってしまって済まなかった。来て早々あんな目に合わせてしまって.........。」
「え、あ、え、だ、誰ッ!?」
そう。知らない男が親しげに話しかけてきたのである。白い、腰当たりまである髪に、三角のピクピク動く耳、ふわふわの尻尾まで付いた、とんでもないイケメンが俺の目の前にいるのである。
寝起きに見るには眩しすぎないか....?
思わず呆然と見上げた俺を見て、
「誰.......あぁ、そういえばこの姿は見せていなかったか。ほれ。」
ほれ。と言ったと同時に、くるんっと後ろ向きに回ったかと思えば、目の前には先程の神獣様(?)...........。
え?
「............にん..??? ......わん....???」
果たして、神獣様は人間になれるということなのか。それとも元は人間で、神獣の姿になれるということなのだろうか。
........これは完全なる現実逃避。
姿が変わるなど、おとぎ話だから。
「ふふ。人型になれる。が正しいかな?神獣、だしね?」
ほぉ、なるほど!
.................いや、よく俺が疑問に思ったことを察せたな。自慢じゃないが、パニックに陥った時の俺の日本語は意味不明なはずなのだが。
「うーん。顔にかいてあるかな。素直で可愛いね、俊。」
そう言われて、 思わず某RPGゲームを思い出す。もしかしたら彼(?)には俺のステータスでも見えているのかもしれない。俺は森に来て以降、自分の名前を呟いてすらいないし。
「君の名前は神から聞いたよ。なんていったって、君は神から与えられた我の番だからね。」
何も喋ってないのに伝わる不思議。
まぁ、それは後で聞くとして.......
「あ、あの......その、何度も言ってる『番』って、なんですか......?」
「ん?あぁ、『番』とは、唯一の伴侶にして半身。簡単に言えば、運命だよ。」
「うん、めい?」
「そう。........俊はあちらの世界で好いた人ができたことはあったかい?」
............ない。
俺は生まれてこの方、人に恋愛感情を抱いたことがない。中の上、くらいの顔面偏差値だからか、告白されたことくらいはある。ただ、何かが違くて........。埋めたい何かは埋められない、そんな気がして、恋人すら作っていなかった。
「.......ないだろう?」
コクリと頷く。
すると、神獣様は満足そうな顔をして、
「そうだろうな!俊には我という圧倒的な存在との運命が決まっていたのだから!そこら辺にいるような人間ではその穴は埋まるまいて。」
得意気.......?いや、嬉しそう.........?背中に隠せなくなった尻尾がブンブン揺れているのが見える。
「え、と、じゃあ.....(?)改めまして、俺の名前は橋本 俊です。神獣様のお名前は....?」
「ふふ!うん。礼儀正しくありがとう、俊。神獣の名前は、番によってつけられる。だから今はないよ。さぁ、我に名前をつけておくれ?」
..........え、ま、まじ?
責任重大過ぎないか?
っていうか、俺、マジでその『番』ってやつなの?
「責任など何も無い。俊は我をどのように呼びたい?どのように呼んで、甘えてくれる?」
どのように........?
『甘える』という単語を聞かなかったことにして、改めて目の前にいるイケメンを観察する。
白銀のサラサラな髪。アイスブルーの瞳。..........そういえば、最近見た漫画の主人公の親友が、シルって呼ばれてる氷魔法の使い手で、かっこよかったんだよな.......。
「...........『シルバー』。俺は神獣様を、シル様って、呼びたい、です。」
「ほぉ。........いい名だ。俺の名前は『シルバー』。......ただ、様はいらんな。シルでいい。」
「...........シル?」
「なんだ?我が愛しの番よ。」
その瞬間、俺の中の何かが埋まっていく感覚を覚えた。今まで何となく、でもはっきりと感じていた焦燥感、寂しさの全て。
不思議な感覚。なんだかあったかくて........くすぐったい。
俺は、その感覚を誤魔化すように、疑問に思っていた事を口にした。
「し、シル...!俺がなんでここに来たかわかりますか.......?俺、会社のエレベーターに乗ったはずだったんですけど.......。」
「あぁ.......。うん.....まぁ、それも運命だったということで........。」
「???え、え?どういうこと.......。」
「ゴホンッ ........とりあえず、俊は元いた場所には戻れん。何より、我がいるここから離れたいとも思わんだろう........?」
...........なんだかとても流されたけれど、その質問には肯定します。よくわからないけど、これもまた感覚的に。
「そうだろうな!!俊は我のそばで、ゆっくりと好きなことをして生きるが良い。ほれ、先程の見回りから果物が供えられていたぞ。よく熟れた立派なピールだ。」
そう言って、出してきた果物は、桃の姿をしていた。シルはスルスルとピールをむき、そっと俺に食べさせてくれた。
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