【本編完結】朝起きたら悪役令息になっていた俺についての話。

しゅ

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晃雅side




つまらない社交の場。
もう数回目だが、基本次男以降の子供は主催者への挨拶だけだ。あとは暇、としか言えない。



煩い女共はザッハトルテやらあの人かっこいいやらキャーキャー騒いでいる。


あぁ.......。しんどい。



流石に気分が悪くなってきたので端の席がある方に移動してきた。こちらはそんなに人も多くない。



涼しい風が吹いている。やっと息が吐けた気がした。
そんなとき。


「んむっ!ん~~~~!!♡」


近くから何やら可愛らしい感じの声が聞こえた。高めの声だが、女共のように煩くない。近づいて見ると、俺より歳下......いや、社交は12歳くらいからだ。同い歳だろう。華奢で女みたいな男が嬉しそうにケーキを食っていた。


「さいこう........♡」


今までで1番美味いものを食べたかのような顔をしている。


「.......そんなに美味いのか?」


.........思わず声をかけてしまった。そんなに美味いのか?という素直な疑問と、なんだか惹き付けられる奴だったから。


ビクッ!

「え、えと、美味しいよ?甘いのが苦手だったらそんなにかもしれないけど......」

「そうか。」


まぁ、そうだろうな。しかし.......。


「..........あーん。」

「...........え?」

「あーん。」


なんとなく、食わせてもらいたくなった。........自分もこの感情には動揺している。


「あ、あーん?」


まぁ、まさか食わせてくれるとも思わなかったけどな。


パクリ。

「モグモグ............甘いな。」


そうとしか言えない。モンブランは甘い。俺は元々辛党だからな。そして、食べさせてもらっておいてなんだが、と思った。これじゃない感。


.........なんだ?

そう思っていると、



「僕の最後のひとくち.......」


小さな声で悲しい声が聞こえた。まずい。そんなつもりではなかった。慌てている自分にも驚きながら、ハッ、と女共がザッハトルテに騒いでいたのを思い出す。


「..........こっちのザッハトルテも絶品だそうだ。周りの女共が騒いでいた。ほら。口を開けろ。」


あの時は、必死だったんだ。いきなり知らない奴に手ずからケーキを食べさせるなど、普段はしない。


「えっ、んむっ!」


半ば強引に、だったが、ザッハトルテを口に入れることに成功した。もぐもぐと咀嚼し、だんだん顔が明るくなって............。


「んぃひい♡」
 

その顔を見た瞬間、『俺がしたかったのはこれか』と感じた。

それからはずっと、皿の中のザッハトルテが無くなるまで口に放り込み続けた。............こいつは顔に感情が出やすいな。『甘い』とか、『もっと』とかすぐに察せれる。こんな人気の少ないとこにいて、何かあったらどうするつもりだったんだ。親共は?こいつは次男以降だろ?兄貴はどうしたんだ。



「ん、ゴクンッ。おなかいっぱい!」

「....そうか。」



そんなことを考えているうちに餌付けの時間が終わって。..........もっと、世話を焼きたい。こいつ1人じゃ駄目だ。俺が、ついていないと。


「今更なんだけど、僕は悠陽。君は?」

「俺は晃雅こうが比賀 晃雅ひが こうがだ。」

「こうが!よろしくね。」


ここにいる時点で名家だろうが、に驚かないとはな。........いや、単に気づいていないだけか。


「あぁ。......はるひ、名字は?」

「久住宮だよ。」


久住宮。確か次男をひたすらに可愛がり、隠しているんだったか。1度我儘で手が付けられないみたいな噂が流れたが、噂は噂だったということだな。

「久住宮家の秘蔵っ子、か。なるほどな。(ボソッ)」


確かに、隠したくなる。いや、隠さなければ危険だ。こいつは無意識だ。無意識に可愛さを振りまいている。........きっと、自分の容姿が可愛いことにも気づいていない。



「ん?」


キョトン、と首をかしげて上目遣い。........ほらな。危険だ。


「何でもない。な。」

「うん!!」




こんなに他人に『心配』という感情が湧いたのは初めてだ。こいつ......悠陽は、俺に色々なものを見せてくれるかもしれない。いや、俺が悠陽に色々なものを見せてやる。




こいつは、俺のものだ。




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