54 / 61
第2章
呼んでいる声がする(第2章)その14 荒野のイエローハウス
しおりを挟む猫男がイエローハウスからいなくなる、それは瑠子にとって寝耳に水の話であった。
漠然とこのままずっと、こんな生活が続く気がしていたのだ。
猫男が、いなくなると心の中でその言葉を繰り返した。
どうしてよ、猫男が、あいつがいなくなるくらいでおかしいよ。そう自分に言い聞かせながら坂を上った。すぐ目前に迫って来た瑠子の住むイエローハウスが見えた。いつもならやっと見えて来たそのアパートを心楽しく見上げたものであったが今日は、まるで荒野に建てられた建物の様に物寂し気に感じた。今まではこんな風に感じた事は無かったのにと思った。
そして、なぜだか、走馬灯の様に今までの猫男とのやりとりが浮かんできた。
「あたしは死ぬのか?」
そんな事を考えながら、いつのまにか部屋に辿り着いていた。
「もうやめよう、考えるのは、ただの隣人なのだからそう思って部屋の窓を開けた。そこからいつもの様に暗い海がうっすらと見えた。
走馬灯の様に猫男との日々がその暗い海と一緒に脳裏に浮かんだ。どの位そうして
窓の外を見ていたかわからないが、はっとした。猫男はまだ、あの海岸にいるのだろうか。そう思った時、猫達のご飯の事が気になった。
心配になった瑠子はドアを開けて坂を駆け下りた。
坂の途中の街頭の所にやってくると、猫男が猫達にごはんをあげているのが見えた。
それを遠くから見て瑠子は思いだした。あの様な彼の姿を遠くから見た事がある事を。
街頭に照らされて猫男の姿がシルエットになっているあの姿、そんな事を考えながら
それを少しの間見つめていた。
そして気疲れないうちにまた元来た道を走って引き返した
そうしながらもういなくなるんだ、猫男はこの住処からいなくなるんだという思いがまた、巡って来て辺りの暗闇と同じに自分の心が暗く感じた。
もう一人のあたしが、イエローハウスは有るんだし猫男がいなくなったからってどうって事はないと自分に言い聞かすのだが、そう言い聞かせてみても何かが無くなってしまったような思いを瑠子は癒せなかった。
自分の部屋で動けずに座っていると、30分位して、階段を上ってくる足音が聞こえて来て、ドアの開け閉めの音で消えた。
猫男が部屋に入る音に違い無かった。この聞き馴れた足音を聞くのもあと何回なのだろうかなどと考えてしまった。
翌朝は、妙に明るく晴れていた。しかし、瑠子の心はどんよりと曇りの様な気持ちであった。
駅ビルマーマレードで、そんな瑠子の変化に気づいた佐季は心配そうに瑠子に尋ねた。
「どうしたの、何かあった?」
「いえ、まあ、あったといえばあった様な。」
「あったの?」
「たいした事ではないんですけれど、猫男が大学を卒業して北海道で就職するそうです。」
「それは。」
そう言った佐季は少しの間黙った。
そして隣の商品の入っている箱から、双子の人形を手に取りながら言った
「寂しくなるわね。」
とぽつんと言った
「そんな事無いですよ。」
と慌てて瑠子は言った
「ただ、あまりに急だったんで。」
すると、佐紀は、慰める様に瑠子の肩をたたいた。
いつもなら、そのような態度に佐紀が何か勘違いしていると憤慨したのかもしれない
けれど、今日は違かった。
つづく
読んでいただいてありがとうございました
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる