呼んでいる声がする

音羽有紀

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第2章

呼んでいる声がする第2章(その7) 夜の海

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「真面目って意味ですか」

「えっ?」

猫男は困惑した様であった

「ああ、いいんです。今のは忘れて下さい。前世の夢は他に見るのですか?」

「何か尋問みたいだな。それだけだよ。」

冗談めかして猫男は言った

そう言ってから猫男は、瑠子の方をまじまじと見てから言った。

「俺達、夢も一緒なんだね。」

その時、瑠子としては不覚にも猫男の目をじっと見つめてしまった。

それは、真摯な目だった。

 どきっとした瑠子は、慌てて正面のまたもや吸い込まれる様な暗い

海を見つめた。

それから猫男は急に顔つきが険しくなって言った。

「俺、もうあの人とは会わない事に決めたら。」

「お母さん?」

「いや、あの人は母親でも何でもないよ。ああ、本当に俺捕らわれてたよ。もうあんなやつのことなんか気にしないから。」

と、笑って言ったが、瑠子にはそれが強がっている

様に感じた。

瑠子はといえば家族の事はとうに諦めていた。海岸は両岸の灯りがっすらと灯っているだけで、そして道路の街灯で映し出される暗い海と、波音が聞こえるだけであった。

「無理しない方がいいよ。」

瑠子にしては、優しく言った。

「してないよ。」

猫男は、こちらを振り返って吹っ切る様に言った。

瑠子も自分自身の過去が思いだされた。過去の辛い出来事が海のいたるところで見えた様な気がした。

そして、それが波となって寄せてきては何ともいえない感覚にさせられた。

少し離れた所に腰をおろしている猫男は、いきなり大きな声で言った。

「もうあんなやつに振り回されない。」

いきなりの大きな声に驚いた瑠子は、びくっとした。

それに気づいた猫男は、すまなそうに言った。

「ごめん。瑠子ちゃんは大丈夫なの?」

「何の事ですか」

「ほら、瑠子ちゃんも複雑そうだから。」

「わたしは大丈夫です。」

本当は全然大丈夫なんかでは無かったが瑠子は強がった。

暫くの沈黙の後、猫男は言った。

「そうか。」

「あたし帰ります。」

瑠子はすくっと立ち上がった。

「俺はまだ海を見ているよ。」

それで瑠子は

「じゃあ。」

そう言って帰ろうとした

すると後ろから気配がした

「ごめん、女の子の一人歩きは危険だよね。一緒に帰ろう。」

親切だなと思った。そういわれれば今日は一人出歩くのは危険な感じがした

「ありがとう。」

「いいよ、まあ、同じアパートだしね。」

とおどけて言った。

「そうですよね。」

瑠子も笑った。

「あーお腹空いた。まりもで買おうかな。」

「あたしコンビニで買いました。」

「あ、駅前の?」

 まりもに入って行くと店主がいた

「おや、お揃いで。」

猫の秀子ちゃんが丸椅子にちょこんと座っていた。

店主は、言った

「君らのアパートは、いつも変わった人が入居していたね

けれど何年かすると、引っ越して行ってしまうんだ。

まるで一時の安息所の様にね」

そう言って何かを思い出すように遠くを見つめた。

「変わった人?」

猫男が聞き返した。

「あ、いや個性的な人って意味。ここにも買いに来たよ。」

店主はしみじみ言った。                    つづく



読んでいただいてありがとうございます
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