呼んでいる声がする

音羽有紀

文字の大きさ
上 下
35 / 61

呼んでいる声がする(その35)やまももの木

しおりを挟む
 北風が吹く真っ白な景色の中を1キロほど歩いただろうか。

道から外れた畑に近い場所で蓮花は足を止めた。

「ここです。きっと。」

「ん?」

大きな木がそびえ立っている

「この木、やまももの木です。調べたんです。」

「えっ?」

「このやまももの木が夢に出てくるの。」

「夢に?」

「夢の中での大好きな人がこの木の側で爆撃されて亡くなったんです

「大好きな人?」

「夢の中で変なんだけれどいつも一緒だった。」

「彼って、夢の中の?」

「そう、毎日夢に出るの。始めは楽しく過ごしてるんだけれど空から爆弾が降って来て。昨日は夢の中でこの駅の名前雪草駅が夢の中に出て来たの。そしてその夢の中で真っすぐに伸びる

道を歩いて行くとこの木に辿り着いたの。でもまさか本当にこの木があるなんて。」

と言ったきり蓮花は暫く木を見上げていた。

蓮花は空を見上げた

「爆弾って、戦争で?」

「そう。」

「そうなんだ、不思議な夢だね。本当に夢の中の木があるなんて。不思議じゃない?」

「駅の名前まで出て来たから。」

「雪草駅ね。」

「付き合せちゃってごめんなさい。」

「いいの。雪も止んでいるしさ、あ、お腹空いちゃった。レモンパン食べる?」

「うん。」

やまももの木を見ながらレモンパンを食べた。雪の中のやまももの木はなんて幻想的なのだろうか。 

 蓮花は、本当に不思議な人だなと思った。

「夢の中で実際に駅名が出て来るなんて、すごいね。」

「あたしも、調べてびっくりしちゃったんです。本当にこの雪草駅が

有ったなんて。」

「電話の相手はもちろん本当の彼氏よね。

まさか、夢の中って事無いよね。」

「あの、それは、現実の彼氏からなの。」

「そうだよね。」

そう言ってから二人で笑った。

「いつも家にかかって来るのでしょ。蓮花ちゃんの方から掛けないの?」

「掛ても出ないの。それに掛て来ないでって言うの。わずわらしいみたい。」

「何それ?」

 瑠子は蓮花の家に掛かって来る電話に出る為に血相か変えて帰る蓮花の姿を瑠子は思いだして怒りが湧いてきたが、冷静に聞いた。

「何時会っているの?」

「彼は会社の近くにアパートを借りているのだけれど、

日曜日には彼の実家に帰って来るから、その時に会うんです。だから日曜日だけなの。」

「アパートは遠いの?」

「1時間位、会社までもまだ遠いの、でも実家から通うよりマシだからって。」

「そう、でも1時間位なら土曜日だって会えるよね。」

「けど、ダメみたいなの。」

「ふーん、」

瑠子は蓮花が可哀そうになった。

「他の日は?」

淋し気に蓮花は首を振った。

それってなんか、変だなと瑠子は、言いたかったけれど口には出さなかった。

しかし、瑠子はもっと立ち入った事を聞いてしまった

その彼の事、好きなの?」

蓮花は戸惑った表情をした。



                         つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

人間工房

沼津平成
ライト文芸
人間をつくることができる工房があるらしい。ちょっと覗いてみよう。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...