呼んでいる声がする

音羽有紀

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呼んでいる声がする(その35)やまももの木

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 北風が吹く真っ白な景色の中を1キロほど歩いただろうか。

道から外れた畑に近い場所で蓮花は足を止めた。

「ここです。きっと。」

「ん?」

大きな木がそびえ立っている

「この木、やまももの木です。調べたんです。」

「えっ?」

「このやまももの木が夢に出てくるの。」

「夢に?」

「夢の中での大好きな人がこの木の側で爆撃されて亡くなったんです

「大好きな人?」

「夢の中で変なんだけれどいつも一緒だった。」

「彼って、夢の中の?」

「そう、毎日夢に出るの。始めは楽しく過ごしてるんだけれど空から爆弾が降って来て。昨日は夢の中でこの駅の名前雪草駅が夢の中に出て来たの。そしてその夢の中で真っすぐに伸びる

道を歩いて行くとこの木に辿り着いたの。でもまさか本当にこの木があるなんて。」

と言ったきり蓮花は暫く木を見上げていた。

蓮花は空を見上げた

「爆弾って、戦争で?」

「そう。」

「そうなんだ、不思議な夢だね。本当に夢の中の木があるなんて。不思議じゃない?」

「駅の名前まで出て来たから。」

「雪草駅ね。」

「付き合せちゃってごめんなさい。」

「いいの。雪も止んでいるしさ、あ、お腹空いちゃった。レモンパン食べる?」

「うん。」

やまももの木を見ながらレモンパンを食べた。雪の中のやまももの木はなんて幻想的なのだろうか。 

 蓮花は、本当に不思議な人だなと思った。

「夢の中で実際に駅名が出て来るなんて、すごいね。」

「あたしも、調べてびっくりしちゃったんです。本当にこの雪草駅が

有ったなんて。」

「電話の相手はもちろん本当の彼氏よね。

まさか、夢の中って事無いよね。」

「あの、それは、現実の彼氏からなの。」

「そうだよね。」

そう言ってから二人で笑った。

「いつも家にかかって来るのでしょ。蓮花ちゃんの方から掛けないの?」

「掛ても出ないの。それに掛て来ないでって言うの。わずわらしいみたい。」

「何それ?」

 瑠子は蓮花の家に掛かって来る電話に出る為に血相か変えて帰る蓮花の姿を瑠子は思いだして怒りが湧いてきたが、冷静に聞いた。

「何時会っているの?」

「彼は会社の近くにアパートを借りているのだけれど、

日曜日には彼の実家に帰って来るから、その時に会うんです。だから日曜日だけなの。」

「アパートは遠いの?」

「1時間位、会社までもまだ遠いの、でも実家から通うよりマシだからって。」

「そう、でも1時間位なら土曜日だって会えるよね。」

「けど、ダメみたいなの。」

「ふーん、」

瑠子は蓮花が可哀そうになった。

「他の日は?」

淋し気に蓮花は首を振った。

それってなんか、変だなと瑠子は、言いたかったけれど口には出さなかった。

しかし、瑠子はもっと立ち入った事を聞いてしまった

その彼の事、好きなの?」

蓮花は戸惑った表情をした。



                         つづく
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