呼んでいる声がする

呼んでいる声がする(その30)マザー

　静かな凍える夜のイエローハウスに続く坂を猫男と歩きながら

今日は朝から晩まで海岸にいたねと思った。

「何かあったらこんな俺だけれどさ、言ってよ。」

　ふいに猫男が言った。

「あ、ありがとう。」

そうは言ったが、内心、あなたもねと思った。

　そして各自が自分達の部屋のドアを開けお互いにとって濃い一日が終わった。。

 その夜瑠子は夢を見た。なぜか蓮花をひっぱって海岸を走っている夢だった。

夢の中まで海岸かと瑠子は目が覚めて笑った。

　次の日はますます寒かった。そして朝から夜まで別々の人と海岸に入りびたりの

様な気がしてとても疲れたなと思った。

 昼休みになると佐季店長の誘いで近くのカフェにランチを食べに行った

昨日の猫男の涙の事を話すと佐季店長は言った。

「ええ、猫男君泣いちゃったの？瑠子ちゃん、そんなシュチュエーションで何か無かったの？」

「何かて何ですか？」

「だって、夜の海でさ。」

「何もありません。」

瑠子はむきになって言った。

「でも、猫ちゃんも世話してるんでしょ、一緒に。」

「いえ、あれは、成り行きで。」
　
瑠子がそう言うと佐季店長はため息をついた。

「男が女の前で泣く、これはねただ事では無いわよ。」

そうちゃかす様に言うと急に真面目な顔で言った。

「猫男君、彼女いるの？」

「わかりません、女の子といたりするんですけど。」

「もう、いいわよ、いようがいまいが。この際、それで、瑠子ちゃんどうなのよ、彼の事。」

「あたしは、何とも思っていません。」

「このところ猫男君の話多いわよ。」

「そんな事ありません。」

「まあ、いいわ。」

と佐季は意味有り気に笑った。

あたしは、あんな猫男なんて何とも思ってないのに、佐季店長ったら

いつも何を勘違いしてるのかなと瑠子は憤慨した。

午後になってマーマレードが少し忙しくなって来た時

女性のお客さんがかわいいベアーの縫いぐるみを持って言った

「これ下さい。」

女性は、ランドセルを背負った私学の服を来た女の子と一緒で

それは、瑠子の叶えられなかった光景であった

接客を終えて二人を見送りながら思い返した。

小学生の頃には母親が妹を連れて出て行ってしまった事を。

もしまた生まれ変わったならば、普通の家族の子として生まれたいと瑠子は思った

母親と買い物がしてみたかった、そう思ったら猫男の様に自分まで涙が出そうになった

猫男は、昨夜、部屋に帰ってまた泣いたのかもしれないと思った。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく


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