呼んでいる声がする

音羽有紀

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呼んでいる声がする(その29)猫男の涙

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「俺、今日7年ぶりに、あの人に会いにいったんだ。」

「あの人?」

「母親。」

瑠子は頷いた。

「なんかニコニコしちゃってたけど、新しい旦那さんの気配が部屋のあちこちでしてね。」

それは、瑠子には痛い程わかった。

なぜなら、本当の母親は出て行ったきりで新しい母が来て一緒に住んでいたのだから。

「すぐ、帰って来たけれど、あの人に何を期待していたのかなって。」

彼はそういういうと黙った。

海の上の月はますます上の方に移動した気がした。

猫男は、もう月を見ていなかった、ただ、海の向こうの方の一点を見つめている、

 やはり、こういう時は留萌さんの様な人がいて欲しい、そしてなんか気の利いた事を

言って欲しいと瑠子は、思った。

 波の満ち引きは優しく聞こえてくる

猫男に瑠子は優しく言った

「あたしもね、出て行ったんだ、母親、そして継母と暮らしてたよ。」

彼は驚いた様に瑠子を見つめてから

「そうか。」

と言うと、

「瑠子ちゃんも大変だったんだね。」

静かに言った。

暗くてよく表情がわからないが声がいつもと違うので泣いていたかもしれない瑠子は思った。

「ごめん、取り乱しちゃって。」

「いえいえ。」

すると猫男は立ち上がった。

「帰ろうか。」

と言った。

なんとか元気づけようと瑠子は少し明るめに言った

「鳥取砂丘に行ければいいね。」

夕凪書店で猫男がこの場所に行きたいと入っていた事を思い出したのだ。

同時にこれは今日の昼間、蓮花に言った会話と似ているではないか、世界と国内の差だけだったと思った。

猫男は驚いた様にこちらを見た

「あ、ああ。」

もう一度海の上の月を見た

「綺麗だな。」

「ほんと。」

それから二人は海岸から出ていつもの帰り道の坂を上った

猫にご飯を上げて帰った

「俺も猫達と一緒だ。」

と、彼は言った。

わかっているじゃない、猫男だもんねと瑠子は心の中で思った。

つづく





いつも読んでいただいてありがとうございます。
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